【平成30年(行ケ)第10176号(知財高裁R1・5・30)】

【判旨】
 原告が,本件商標につき商標登録無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり,当該訴訟の請求が認容されたものである。

【キーワード】
リブーター,商品の機能・用途の表示,商標法第3条第1項第3号

手続の概要

 以下,商標法第3条第1項第3号の判断に係る部分について検討する。

 原告が,平成29年12月27日に,指定商品のうち「再起動器を含む電源制御装置」について本件商標の登録を無効とするとの審決を求めて審判請求(無効2017-890087号。以下「本件審判」という。)をしたところ,特許庁は,平成30年11月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月15日,原告に送達された。

本件商標

1 登録商標 リブーター(標準文字)
2 登録番号 第5590686号
3 出願日  平成25年2月8日
4 査定日  平成25年5月27日
5 登録日  平成25年6月14日
6 指定商品
第9類「配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電気通信機械器具,測定機械器具,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電子応用機械器具及びその部品」

争点

 争点は,商標法第3条第1項第3号該当性である。

判旨抜粋

(1) ・・・「リブート」は,「reboot」という英語を片仮名で表した語であるところ,「reboot」は,再起動するという意味の動詞であり(当裁判所に顕著な事実),また,「リブート」は,コンピュータなどを再起動することを意味する語として,各種の用語辞典(用語事典)に掲載されており,さらに,多くの雑誌やウェブサイト,さらには公開特許公報にも,上記の意味で使用されていることからすると,「リブート」という語は,再起動することを意味する普通名称であると認められる。そして,・・・情報・通信の技術分野では,英語を片仮名で表した言葉が非常に多く存在すること,一般的に,英語の動詞の語尾に「er」,「or」等を付することにより,当該動詞が表す動作を行う装置等を意味する名詞となり,「エディタ」,「エンコーダ」,「カウンタ」,「デコーダ」,「プリンタ」,「プロセッサ」等,動詞を名詞化した語も多数存在することが認められるから,情報・通信の技術分野に属する者は,「リブーター」から,「reboot」の語尾に「er」を付した語である「rebooter」を容易に思い浮かべるものと認められる。
 さらに,・・・コンピュータやルーター等の機器を再起動する装置の需要があり,実際にそのような装置が販売されていることが認められるところ,・・・このような再起動装置を「リブーター」又は「リブータ」と呼ぶ例があることが認められる。これに対し,本件証拠上,「リブーター」の語が,他の意味を有するものとして使用されているという事実は認められない。
 なお,・・・ウェブサイトの記載によると,情報・通信の技術分野においては,英語を片仮名表記した場合は,語尾の長音符号を省く慣例があるものと認められるから,語尾の長音符号を有するか否かで別の語になるということはできず,上記の「リブータ」も「リブーター」も同一の語であるということができる。
 以上からすると,情報・通信の技術分野においては,通常,「rebooter」及びこれを片仮名で表した「リブーター」は,再起動をする装置と理解されるものというべきである。
 したがって,「リブーター」は,再起動装置の品質,用途を普通に用いられる方法で表示する語と認められるから,指定商品が再起動装置又は再起動機能を有する電源制御装置である場合は,本件商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するというべきである。
 一方,再起動機能を有さない電源制御装置が指定商品である場合は,本件商標は,同号の商標には該当しない。
(中略)
(3) したがって,原告の取消事由2の主張は理由がある。

解説

 本件は,商標登録無効審判請求1を不成立とした審決に対する取消訴訟である。
 商標法第3条第1項第3号2が問題となった事案である。
 特許庁は,本件に関して商標法第3条第1項第3号について,以下のように判断した。
「『リブーター』の文字は,全体として,特定の語義を生ずる既成の語とはいえず,造語といえる。そして,上記の各文献において,『リブーター』の文字が,『再起動するもの』・・・,『電源をON・OFFするもの』・・・の意味合いで使用されているとしても,その使用例は僅かに4件である。そのうち,甲4文献においては,具体的な商品が確認できず,甲5文献で使用されている文字は『リブータ』であって,本件商標と同一ではなく,甲7文献における記述は機能の名称を表示したと理解されるものである。
イ 以上からすると,本願商標の出願時及び査定時において,『リブーター』の文字が,商品『電源制御装置』の一般的な名称として,取引者,需要者に認識されていたという事実は認められないから,その指定商品との関係において,普通名称ということができない。
したがって,本件商標は,商標法3条1項1号に該当しない。」
 これに対して,裁判所は,リブート(「reboot」)というリブーターの元になった単語から,当業者が「『リブーター』から,『reboot』の語尾に『er』を付した語である『rebooter』を容易に思い浮かべるものと認められる」と判断し,「情報・通信の技術分野においては,通常,『rebooter』及びこれを片仮名で表した『リブーター』は,再起動をする装置と理解される」と判断した。そして,裁判所は,「再起動装置の品質,用途を普通に用いられる方法で表示する語と認められるから,指定商品が再起動装置又は再起動機能を有する電源制御装置である場合は,本件商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するというべきである」と判断したものである。
 本件は,事例判断ではあるが,指定商品と商標との関係において実務上参考になると思われる。

以上
(文責)弁護士 宅間 仁志


1(商標登録の無効の審判)
第四十六条  商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは,その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において,商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては,指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。
一  その商標登録が第三条,第四条第一項,第七条の二第一項,第八条第一項,第二項若しくは第五項,第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。),第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条 の規定に違反してされたとき。
(下線は,筆者が付した。)
2 第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については,次に掲げる商標を除き,商標登録を受けることができる。
(中略)
三 その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。),生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,態様,提供の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標