【平成30年(行ケ)第10179号(知財高裁R元・7・11)】

【判旨】
 原告が,本件商標につき商標法第50条第1項に基づく商標登録取消審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり,当該訴訟の請求が棄却されたものである。

【キーワード】
商標法第50条第1項,不使用取消し,MUSUBI

手続の概要

 以下,本件の不使用取消しに関する部分のみを引用する。なお,証拠番号については,適宜省略する。
 原告は,平成30年2月16日,本件商標登録につき,第35類に属する別紙21の指定役務に対し,商標法50条1項の規定による取消審判(以下「本件審判」という。)を請求し,この請求は,同年3月19日に登録された。
 特許庁は,上記請求を取消2018-300092号事件として審理をした上,同年11月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同月26日,原告に送達された。

本件商標

(1)登録番号 第5275079号
(2)登録日 平成21年10月23日
(3)商標 「MUSUBI」(標準文字)(以下「本件商標」という。)
(4)指定商品又は指定役務
第16類「印刷物」
第35類「家具・金庫及び宝石箱の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を含む別紙12記載の役務

争点

 争点は,本件商標の使用の有無(商標法第50条第1項)である。

判旨抜粋

1 事実関係
 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
(1)被告の事業について
 被告は,カタログやインターネットウェブサイトを通じて通信販売事業を行っており,衣料品をはじめインテリア,雑貨,コスメ(生活用品)や飲食料品まで多岐にわたるジャンルの商品を販売している(争いがない)。
(2)被告のカタログオーダーギフト業について
 被告のカタログオーダーギフト業は,被告から贈答品の「受取手」に被告が発行するギフトカタログが送付され,ギフトカタログを受け取った「受取手」がその中から好みの商品を選んで被告に注文すると,商品を受け取ることができ,その商品の代金は,「贈り主」から被告に支払われるという贈答の一形態の事業である。
 被告は,平成21年4月にギフトカタログ「MUSUBI」を創刊し,その後,「MUSUBI/And Select/AUTUMN/WINTER」(平成28年発行),「MUSUBI/Grand/CATALOG GIFT」(平成28年発行),「MUSUBI/And Select/AUTUMN/WINTER」(平成29年発行),「MUSUBI/Grand/CATALOG GIFT」(平成29年発行,本件使用カタログ),「MUSUBI/And Select/SPRING/SUMMER」(平成30年発行)などを発行した。これらのギフトカタログには,商品「キーボード」,商品「エアサーキュレーター」,商品「松阪牛バラすき焼き」,商品「布団用掃除機」,商品「キッズハンガーシェルフ」,商品「アルミ鍋&フライパン5点セット」などについて,商品名,申込番号及び商品説明と共に商品の写真が掲載されている。
(3)本件使用カタログについて
ア 被告のギフトカタログ「MUSUBI/Grand/CATALOGGIFT」(平成29年発行,本件使用カタログ)の表紙の中心には,正方形の四角をやや切り取った白色の図形中に,当該図形の外周内側に沿って白の点線を有する金色の帯を配し,当該図形の内側にややデザイン化した「MUSUBI」の文字及び筆記体で表した「Grand」の文字をやや大きく表して配し,その下に紫色の水引細工状の図形及びゴシック体で表した「CATALOG GIFT」の文字がそれぞれ間隔を空けて配してなる標章(別紙3,本件使用カタログ標章)が表示されている。

(別紙3の図表である。筆者が挿入した。)
イ 本件使用カタログの「Z16」頁の最下段右側に掲載された商品名「<ネイキッズ>キッズハンガーシェルフ」,申込番号「BG7-Z1606」は,天然木の本体,合成樹脂化粧繊維板の棚板及び四つのキャスターにより構成され,洋服等を掛け又は棚板の上に小物等を置くことが可能なラック状の商品(本件使用商品1)である。
 被告は,本件使用カタログに掲載された本件使用商品1について,平成29年11月23日に「受取手」から受注し,当該受取手に対し,同月28日に出荷し,同商品は,同年12月2日までに当該受取手に配達が完了した。
ウ 本件使用カタログの「K22」頁の上左側に掲載された商品名「<<ジャンヌ・エコール>アルミ鍋&フライパン5点セット」,申込番号「BG7-K2201」は,片手鍋,両手浅鍋,両手鍋,フライパン(20cm)及びフライパン(24cm)をセットにした商品(本件使用商品2)である。
 被告は,本件使用カタログに掲載された本件使用商品2について,平成29年11月16日に「受取手」から受注し,当該受取手に対し,同月20日に出荷し,同商品は,同月27日までに当該受取手に配達が完了した。

2 判断
(1)前記1によると,被告のカタログオーダーギフト事業においては,「受取手」に被告が発行したギフトカタログが送られ,「受取手」は被告に同ギフトカタログに掲載された各種の商品の中から選んで商品を注文し,被告から商品を受け取り,その商品の代金は,「贈り主」から被告に支払われるのであるから,被告は,「贈り主」との間では,「贈り主」の費用負担で,「受取手」が注文した商品を「受取手」に譲渡することを約し,「受取手」に対しては,「受取手」から注文を受けた商品を引き渡していると認められる。したがって,被告は,ギフトカタログに掲載された商品について,業として,ギフトカタログを利用して,一般の消費者に対し,贈答商品の譲渡を行っているものと認められるから,被告は,小売業者であると認められ,小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供を行っているものと認められる。そして,上記便益の提供には,本件使用カタログが用いられているから,本件使用カタログは,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」と認められる。
(中略)
(3)前記1によると,本件要証期間内である平成29年に発行された被告の本件使用カタログには,本件使用カタログ標章が表示されているところ,その中のややデザイン化した「MUSUBI」の文字(本件使用商標)は,本件商標と社会通念上同一と認められる。そして,前記1によると,本件使用カタログには本件使用商品1及び2が掲載され,被告は,同カタログに掲載された本件使用商品1及び2を,それぞれ同年12月2日又は同年11月27日までに,「受取手」に送付したことが認められるところ,本件使用商品1は商品「家具」の範ちゅうに属する商品であり,本件使用商品2は商品「台所用品」の範ちゅうに属する商品であることが認められる。
 そうすると,被告は,本件要証期間内に日本国内において,本件審判の請求に係る指定役務中「家具・金庫及び宝石箱の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」について,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に当たる本件使用カタログに本件商標と社会通念上同一と認められる本件使用商標を付し,これを用いて小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供という役務を提供したと認めることができる。この行為は,商標法2条3項3号「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為」及び同項4号「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為」に該当するので,被告は,本件要証期間内に,日本国内において,本件審判の請求に係る指定役務について本件商標の使用をしていることを証明したと認められる。

解説

 本件は,商標登録取消審判請求3を不成立とした審決に対する取消訴訟である。
 商標法第50条第1項の使用の有無が問題となった事案である。
 本件において,被告がカタログを用いて,商品を販売する業者であるところ,裁判所は,本件使用カタログにおいて,本件商標を使用していると判断した。
 これに対して,原告は,「贈り主」から「受取手」への贈答の媒介又は代行であり,独立した商取引の対象となっていない旨や,需要者が「贈り主」である旨を主張した。
 しかしながら裁判所は,「被告,「『贈り主』及び『受取手』の間で行われる一連の取引の流れからすると,被告は,『受取手』に対し,『受取手』が被告に注文した商品を『贈り主』の費用負担のもとに譲渡している・・・これは,贈答の媒介又は代行をしているということはできず,また,独立した商取引である」とし,また,「受取手」も需用者であると判断し,原告の主張を排斥した。
 その上で,裁判所は,被告の本件使用商品1及び2の提供により,「商標法2条3項3号『役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為』及び同項4号『役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為』に該当する」
 本件は,事例判断ではあるが,商標の使用において,贈答用のカタログという特殊な事案であり,実務上参考になると思われる。

以上
(文責)弁護士 宅間 仁志


1 衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供(以下略)
2 衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供(以下略)
3(商標登録の取消しの審判)
第五十条 継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
2 前項の審判の請求があつた場合においては、その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。ただし、その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。
3 第一項の審判の請求前三月からその審判の請求の登録の日までの間に、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をした場合であつて、その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知つた後であることを請求人が証明したときは、その登録商標の使用は第一項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。ただし、その登録商標の使用をしたことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。