【平成30年8月28日判決(大阪地裁 平成28年(ワ)第9753号)】

【判旨】
 原告が商標権を有している「LIGHTING SOLUTION」等の各登録商標について、被告に対し、登録商標と同一または類似の標章を商標として使用しており、原告の商標権の侵害にあたると主張して、差止請求及び損害賠償請求(不当利得返還請求)を行った事案。裁判所は,登録商標「LIGHTING SOLUTION」を理由とする商標権侵害については認めたものの,「LDR」「LDL」「LFR」などの各登録商標に基づく商標権侵害の主張は,商標法第26条への該当性等を理由としてこれを認めなかった。

【キーワード】
商標の類似,商標的使用,商標法第26条

1 事案の概要及び争点

(1)事案の概要
 原告は,製造物の生産・検査・観察用途の照明機器の開発,製造及び販売等を目的とする株式会社であり,被告は,一般電子通信用計測器の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
 原告は,「LIGHTING SOLUTION」という文字からなるロゴ商標(本件商標1)及び「LDR」「LDL」「LFR」等の「L」から始まる3文字のアルファベットからなる一連の商標(本件商標2)について商標権を有していた。
 被告は,「LED」の文字の右側に二段表記で「画像処理用LED照明装置/LIGHTING SOLUTION」と記載された標章(被告標章1)を被告が製造,販売する画像処理用LED照明装置(被告商品)の商品カタログの表紙及び裏表紙に付して使用していた。また,被告は,その製造,販売する被告商品の一部の型式に,「LDR」「LDL」「LFR」等から始まる標章(被告標章2)を使用し,被告商品の案内・宣伝用のカタログ及びウェブサイトに掲載していた。

※本件商標と被告標章の態様(2については「LDR」の例のみ記載した)

本件商標1 被告標章1
 
本件商標2 被告標章2
LDR

LDR-40
LDR-FA34
LDR-130RGB-T
など多数

(2)争点
 本件の争点は以下のとおりである。
 ① 被告標章1は本件商標1と類似するか
 ② 被告標章1は,商標として使用されていないと認められるか
 ③ 被告標章2は本件商標2と類似するか
 ④ 被告標章2は,商標として使用されていないと認められるか
 ⑤ 原告による本件商標1及び2に係る商標権の行使は権利濫用にあたるか
 ⑥ 損害及び不当利得の額(以下,合わせて「損害額」という。)
 本稿では,主に①〜④の点を採り上げる。

2 裁判所の判断

(1)本件商標1及び被告標章1について(争点①②)
 被告は,被告標章1が本件商標1にはない「LED」「画像処理用LED装置」などの文字を含むこと等を根拠に,被告標章1は本件商標1に類似しないと主張した。これに対し,しかし,裁判所は,被告標章1のうち「LED」及び「画像処理用LED装置」の部分は被告商品との関係で識別力がなく,識別力のある「LIGHTING SOLUTION」の部分が本件標章1と共通すること等を根拠に,被告標章1は本件商標1に類似すると判断した(下記参照)。特に,「LIGHTING」あるいは「SOLUTION」という英単語自体は一般的に知られているとしても,両単語を組み合わせることが一般的であるとまではいえず,本件標章1には一定の創作性が認められると認定したところは興味深い。

※裁判例より抜粋(下線部は筆者が付加。以下同じ。)

 2  争点⑴(被告標章1は本件商標1と類似するか)について
    ⑴  外観・呼称・観念の類似
  本件商標1は,「LIGHTING SOLUTION」という文字列が横並びに配置されており,これから生ずる呼称は「ライティングソリューション」である。また,本件商標1に使用されている欧文字はすべて大文字の活字体で,薄い水色に濃い青色の縁取りがある。
  一方,被告標章1は,「LED」という文字の右横の上段に「画像処理用LED照明装置」,下段に「LIGHTING SOLUTION」という文字列が配置されており,これらから生ずる呼称は「エルイーディ ガゾウショリヨウエルイーディショウメイソウチ ライティングソリューション」である。また,被告標章1に使われている欧文字はすべて大文字の黒色の活字体で,文字の下に反転する形で薄い青系統の影の装飾が施されている。
  ここで,被告標章1のうち,「LED」及び「画像処理用LED照明装置」という部分は,製品の種類を表す一般名称であって独自性がなく,本件カタログの内容を記載するものにすぎず,特に特徴のある字体や装飾もないため,出所識別機能があるとはいえない。
  他方,「LIGHTING SOLUTION」の部分については,後述のとおり,ありふれた用語とはいえず,「照明に関する課題の解決方法」との観念を生じさせることから,本件カタログを目にした需要者は,この部分に注目すると考えられる。
  そうすると,本件商標1は,被告標章1の「LIGHTING SOLUTION」の部分と対比すべきところ,両者は,同じ英単語の組み合わせであって,字体,色の系統も同一であるから外観は類似し,呼称も同一であり,一般に知られた「LIGHTING」,「SOLUTION」の英単語から生じる「照明に関する課題の解決方法」との観念を生じさせる点でも同一というべきである。
    ⑵  出所混同のおそれ
  被告は,「LIGHTING SOLUTION」と同一又は極めて類似した表現をコピー又は惹句として使用している照明メーカーが複数あることを理由に,「LIGHTING SOLUTION」はありふれた表現であって,出所識別力は弱く,被告の名称等を併せて表示する以上,被告標章1を使用しても,出所混同のおそれは生じないと主張する。
  しかしながら,「LIGHTING」あるいは「SOLUTION」という英単語の意味内容自体は一般的に知られているところであっても,両単語を組み合わせることが一般的であるとまではいえず,本件標章1には一定の創作性が認められるし,前記照明メーカーは,いずれも一般的な照明器具のメーカーであって,産業上利用されるLED照明装置のメーカーは含まれていない(乙16~25)。
  また,原告が,遅くとも平成14年以降,画像処理用LED照明装置のトップメーカーであることは既に認定したとおりであるし,原告は,平成16年に発行したカタログ(甲24)の表紙及び本文中に,また平成20年から平成25年に作成した広告物(甲11)の表紙右上に,さらに平成28年版カタログ(甲7)の表紙中央部に,いずれも本件商標1と同一又は類似の文字列を使用しており,平成28年版カタログの本文中には「ライティングソリューション」とのカタカナ表記も記載している。
  そうすると,画像処理用LED照明装置を案内する本件カタログに被告標章1を記載した場合,たとえ被告の名称等が併記されており,これを見る需要者が同装置を産業上利用することを予定するものであったとしても,需要者としては,登録された本件商標1との関係で,被告商品が原告に由来する,あるいは原告と被告との間に何らかのつながりがあると誤認する可能性はあるものといわざるを得ない。
    ⑶  指定商品・役務の類似性
  被告標章1が付されたカタログやウェブサイトは,「発光ダイオードを用いた照明器具」である被告商品に関連する物であるから,被告標章1は本件商標1の指定商品について使用されていると認められる。また,被告の「顧客のニーズに合わせて最適な照明環境と,そのための照明装置を提案する」という行為は,後記5⑷アの取引態様及び被告の顧客対応に鑑みれば被告の役務と捉えられるところ,これは「光の当て方に関する技術又は知識の教授」という本件商標1の指定役務と類似すると認められる。
    ⑷  争点⑴の結論
  以上によれば,被告標章1は,本件商標1に類似するというべきである。

 また,被告は,被告標章1が照明に関する顧客の課題を解決するものであることを記述したものにすぎず,商標的使用に該当するものではない(商標法第26条1項)とも主張したが,裁判所は,被告標章1のうち「LIGHTING SOLUTION」の部分に一定の創作性が認められることや,本件商標1が一定の周知性を獲得していることを根拠に,被告の主張を退けた。

 3  争点⑵(被告標章1は,商標として使用されていないと認められるか)について(商標法26条1項6号の抗弁)
  被告は,被告標章1は,本件カタログに掲載された商品が照明に関する顧客の課題を解決するものであることを記述したものにすぎず,本件カタログの題号又は副題として使用されたものであって,被告商品の出所を認識し得る態様により使用されるものではないから,商標として使用するものではないとして,商標法26条1項6号の抗弁を主張する。
  しかしながら,被告標章1のうち「LIGHTING SOLUTION」の部分については,前述のとおり,ありふれたものということはできず,一定の創作性が認められるコピー又は惹句であって,「照明に関する顧客の課題を解決する」との観念を生じさせることから,一定の顧客吸引力,品質保持機能を有すると認められるし,被告標章1の前記部分の記載の態様や内容から,これが本件カタログの内容を記述的に説明するにすぎないということもできない。
  また,前記認定のとおり,本件商標1については,画像処理用LED照明装置のトップメーカーである原告が,一定期間カタログの表紙等に使用しているのであるから,少なくとも当業者の間では,原告の商品を示すものとして,一定の周知性を獲得したものと認められる。
  以上によれば,被告標章1が,およそ出所を表示することのない態様で使用されていると認めることはできず,この点についての被告の主張は採用できない。

(2)本件標章2と被告標章2について(争点③④)
 被告は,各被告標章2については,商品の型式を示すものにすぎず,自他識別機能,出所表示機能を有しないから,商標として使用するものではない旨を主張したのに対し,原告は,被告が先行する原告の商品に依拠して型番名を付しており,これに接した需要者が原告の商品と誤認するおそれがあるから,被告標章2は商標として使用されている旨主張した。
 裁判所は,各被告標章2の使用態様を証拠に基づき細かく認定した上で,下記のとおり判示して原告の主張を退けた。被告標章2はその体裁からして型式名の一部として用いられていると認められること,取引の実情において被告標章2に接するのは被告商品の購入を決めた後であること,アルファベットによる型式名の付け方も同業他社と大差ない方法であること,等が判断のポイントになったと思われる。

   ⑸  被告標章2の識別力
  上記⑴ないし⑷を前提に,被告標章2が自他識別力,出所識別力を有する態様で使用されているかにつき検討する。
    ア 原告は,長年にわたり,本件商標2を,自らの商品のシリーズ名(全部もしくは一部)及び型式の一部として用い,カタログ(甲7)やウェブサイト(甲10),パンフレット(甲11)ではシリーズ名を目立つ位置に表示し,さらにこれと関連付けるように,商品の機能や特長を記載している。また,プレスリリース(甲12),取引先宛の送付書(甲13),納品書や請求書等においても同シリーズ名を使用しているから(甲22),これに接する需要者は,本件商標2について,一定の顧客吸引力,出所表示力があるものとして認識すると解される。
  しかしながら,被告標章2は,このような形では使用されていない。すなわち,被告が現在使用する本件カタログにおいて,被告標章2はそもそも表示されていないし,本件カタログ及びそれ以前のカタログを通覧しても,被告は,被告商品のシリーズの日本語表記(直接照射リング型等)と語頭部分から発光力を示す文字を除いたシリーズ名の欧文字表記(DRシリーズ等)を記載した上で,これに関連付ける形で当該シリーズの特長や利点を記載しているものであって,発光色を示す文字を付加した被告標章2に相当する記載については,製品の仕様の詳細を示す一覧表における型式名の一部として,あるいは製品の仕様及び価格を列挙した価格表における型式名の一部として表示されるにとどまる。
    イ 上述したところによれば,被告標章2は,極めて多数の型式が存する被告商品の中にあって,基本となる型式,発光色,寸法等を間違いなく発注,納品等し得るようにする型式名の一部として用いられていると解するのが相当であって,商品の出所を表示したり,顧客を吸引したりする機能は,基本的に有しないと考えられる。
  また,三色混合シリーズに属する商品については,被告標章2の1-6-1,同1-6-2及び同6(LDR-130RGB-T,LDR-120RGB,LDM-70RS-RGB)が,カタログのインデックスページや詳細ページに直接記載されているが,これは同シリーズにおいては発光色の選択がなく,型式の種類自体が少ないことによるものであり,その長さや体裁から,型式名が記載されているものと理解し得る。
    ウ 原告は,被告標章2に接した需要者は,それが付された商品を原告の商品と誤認するおそれがあり,被告標章2には,自他識別機能,出所識別機能があると主張する。
  しかしながら,前記取引の実情に照らせば,被告商品の購入を検討する者は,カタログでもウェブサイトでも,シリーズ名の日本語表記や欧文字表記を参照しつつ,その機能や仕様について検討するところ,被告商品の特定の商品の購入を決め,発光色として赤色を選択した後に初めて,被告標章2を含む型式名に接するのであるから,この段階に至って商品が原告の物であると認識することは考えにくいし,赤色以外の発光色を選択して「W」「B」「G」等から始まる型式名に接すれば,原告の商品とは認識せず,赤色を選択して「L」から始まる型式名でに接すれば,原告の商品と認識するというのも不合理な考えである。
    エ 原告は,インターネット上の通信販売サイトにおける検索の結果に原告の商品と被告商品とが並んで表示されるため,出所混同のおそれがあると主張し,これを裏付ける証拠を提出する(甲29資料2-1~3)。
  しかし,上記のような取引形態を考慮すれば,産業用LED照明の需要者が,インターネット上の通信販売サイトにおける特定の商品の型式名のみから出所を認識し,直ちに商品を購入するとは考えられない。
    オ 原告は,原告の商品に付した本件商標2と,被告商品に付した被告標章2が多数一致するところ,同業他社との関係ではこのようなことは起こっておらず,被告が,本件商標2の顧客吸引力を利用するために,意図的にまねたとしか考えられないと主張する。
  しかしながら,被告標章2における文字の使用は,Lが赤を表すことは特異であるものの,Rがリング,Dがダイレクト,Lがラインといった,原告や同業他社が採用するのと大差ない方法であるし,原告も被告も多数の商品シリーズ,型式を有しているところ,本訴訟の対象となったのはそのごく一部であって,原告の型式名の大部分を,被告が模倣したというような関係にはない。
  前記認定したとおり,原告が若干先行するとはいえ,LED照明装置が開発された当初から,原告と被告は,相前後するように,順次型式を増やしてきており,被告標章2のうちの最も古いものは,原告が本件商標2を出願する相当以前から,現在まで約20年間にわたって使用されているものであり,被告に,原告が主張するような不正な意図があったと考えることは困難である。
    ⑹  まとめ
  以上検討したところを総合すると,被告標章2は,被告商品の内部でこれを区別するための型式名の一部として用いられており,商品の出所を識別し得る態様では使用されておらず,商標としては使用されていないと認められるから,商標法26条1項6号の抗弁が成立するので,他の争点について検討するまでもなく,本件商標2に基づく原告の請求は,理由がないということになる。

3 検討

 本件は,大きく分けて2つのタイプからなる被告標章について,片方は登録商標との類似性及び商標的使用の該当性の両方が肯定され,他方は商標的使用の該当性が否定されたものである。両被告標章は,その一部に原告の登録商標と同じ文字を含むものであった点では共通していたが,結論が上記のように分かれた点は興味深い。
 商標権侵害の成否を判断するにあたっては,被告標章が登録商標と同じ構成要素を含むものであるか否かという点の他に,他の構成要素の識別力の程度,全体としての体裁から観念できる意味,具体的な取引の実情など,様々な要素が総合考慮して判断がされるところ,本件はそのような具体的判断を示した事案として参考になると思われる。

以上
(文責)弁護士・弁理士 丸山真幸