【大阪高裁令和元年11月7日(令和元年(ネ)第1187号)】

【ポイント】
結婚式(挙式や披露宴)を撮影したビデオに係る映画製作者について判断した裁判例

【キーワード】
著作権法2条1項10号、同条3項、同法10条1項7号、同法29条、映画製作者、映画の著作物

事案

 本件は,原告(個人事業主、控訴人)が,新郎新婦より委託を受けた被告(映像企画制作会社、被控訴人)から結婚式の撮影の依頼を受け、これから結婚式を挙げる新郎新婦と撮影の打ち合わせをし、自己の撮影プランに基づき、結婚式の進行状況に応じて創意工夫をし、結婚式(挙式や披露宴)を撮影したところ、原告は被告らに対し、原告が当該撮影されたビデオ(以下、「原告撮影ビデオ」という。)及び同ビデオが被告により編集されたビデオ(以下、「本件記録ビデオ」という。)の著作権および著作者人格権を有することを前提に、複製・頒布の差止等を請求した事案である。なお、本裁判は、第一審で原告の請求が棄却されたため、原告が控訴したものである。
 主な争点として,原告撮影ビデオ及び本件記録ビデオについて著作権法29条1項の適用があるか否かである。

本件争点に関する判旨(裁判所の判断)(*下線,改行及び注は筆者)

3 争点2(被控訴人は著作権法29条1項により本件ビデオの著作権を取得したか)について
(1)本件記録ビデオについて
 当裁判所も,本件記録ビデオは,映画の著作物であるところ,その製作に発意と責任を有する者は被控訴人であって,被控訴人が「映画製作者」に当たるところ,控訴人は被控訴人に対して本件記録ビデオの製作に参加することを約束したということができるので,著作権法29条1項により本件記録ビデオの著作権は被控訴人に帰属し,控訴人は著作権を有しないと判断する。
(省略)
(2)原告撮影ビデオについて
 前記認定のとおり,控訴人は,被控訴人から委託を受けて原審被告P2らの各挙式及び披露宴のビデオ撮影を行い(認定事実(4)),控訴人はそれを記録した媒体を被控訴人に納品した。控訴人が行った上記ビデオ撮影は,被控訴人からの委託に基づき,本件記録ビデオ制作のためだけに行ったもので,それ以外の用途は予定されておらず,控訴人は,被控訴人による本件記録ビデオの製作に参加することを約束して上記撮影を行ったとみることができる。その後,被控訴人は,原告撮影ビデオを編集して本件記録ビデオを完成させ,DVDに記録したものを新郎新婦に納品するに至っている(認定事実(5))。
 そうすると,本件記録ビデオのみならず,原告撮影ビデオの著作権も,著作権法29条1項により被控訴人に帰属し,控訴人は著作権を有しないものと解するのが相当である
(3)当審における控訴人の主張(1)について
ア 前記(1)のとおり,本件では,婚礼ビデオを適切に製作し,納品する法律上の義務は被控訴人が負っていたこと,製作するビデオの内容を最終的に決定していたのは被控訴人であったこと,被控訴人は撮影料と交通費を控訴人に支払い,それ以外の製作費用も負担し,経済的な収入・支出の主体となっていることからすると,被控訴人が「映画製作者」に当たるというべきである
 (省略)
オ なお,控訴人は,被控訴人は音楽著作権料の支払を怠っているので,「映画製作者」には当たらないとも主張する(前記第2の5(1)エ)。
 しかし,音楽著作権料については,別途,権利者である日本音楽著作権協会等との間で解決されるべき事柄である(なお,日本音楽著作権協会等が被控訴人に対して金員の支払を請求し,訴訟を提起したことを認めるに足りる証拠はない。)。控訴人の上記主張は,前記判断を左右するものではない。

検討

 本件は,これまで類例がなかった、結婚式(挙式及び披露宴)を撮影した結婚式ビデオに関する著作権法29条1項(映画製作者)の適用の有無が争点となった事案である。
 前提として,関連条文を列挙する。
・著作権法2条1項10号
 映画製作者 映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。
・著作権法2条3項
 この法律にいう「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。
・著作権法16条
 映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない。
・著作権法29条1項
 映画の著作物(第十五条第一項、次項又は第三項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。

 まず、本判決は原判決を引用し、本件記録ビデオは、「挙式等が進行する状況に応じた撮影対象の選択や構図等に創作的工夫が施されていると認められるから」、「映画の著作物」に当たるとした。
 次に、本判決は原判決を引用し、著作権29条1項の「映画製作者」について、「「映画製作者」とは,「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」をいい(同法2条1項10号),映画の著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体となる者のことをいうと解される。」と判示した。この解釈は従前の裁判例を踏襲したものであり、著作権29条1項の趣旨が、映画の著作物は、類型的に多くの人間がその創作に関与し、多大な投資を必要とすることが多いため、映画製作者に著作権を原始的取得させる点にあることと整合する。
 そして、「映画製作者」が、実際に結婚式ビデオを撮影した控訴人(原告、個人事業主)ではなく、その依頼をした被控訴人(被告、映像企画制作会社)であると認定した事情としては、被控訴人がビデオの制作業務を統括していたこと、被控訴人が新郎新婦から申し込みを受け完成したビデオを納品したこと、控訴人による撮影の不備があった場合に被控訴人がその責任を負担していること、被控訴人が完成したビデオの編集作業していたこと等を挙げ、「映画の著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体」である旨を認定し、また、被控訴人は控訴人に撮影料や交通費を支払っていること、それ以外の製作費用を負担していることから、「同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体」である旨を認定した。そして、結論として、被控訴人が「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」であるとし、「映画製作者」であると認定した。
 また、原告撮影ビデオについても、上記判旨(「3」の「(2)」)のとおり、被控訴人が「映画製作者」であると認定した。
 上記事情に鑑みると、被控訴人がビデオ制作業務の契約主体であり、その制作費用を負担していることは明らかで、被控訴人が「映画製作者」に当たることは妥当であり、控訴人にビデオの著作権が留保されるのに有利な事情はないように考えられる。そのような中でも控訴人(原告)が本件訴訟に及んだのは、上記判旨(「オ」)に関連し、本件ビデオには、結婚式場で流れていたJASRACの管理する楽曲が録音されていたところ、控訴人はJASRACからの請求を受け、当該楽曲の利用許諾料全部を負担した経緯、つまり、被控訴人が当該利用許諾料を負担していない点があるようである。しかし、本件裁判例は、上記判旨(「オ」)のように、この点だけでは被控訴人が製作費用を負担しておらず、したがって、「映画製作者」ではないとの判断には至っていない。

以上
(文責)弁護士 山崎臨在