【知財高裁令和元年5月30日(平成30年(行ケ)第10173号)】

【ポイント】
商標登録が不正目的で使用するものとして無効とされた裁判例

【キーワード】
商標法4条1項19号、同法46条1項
不正の目的 不正目的 不正の目的をもって使用する商標

事案

 原告は、以下の商標(登録第5779610号。(以下、「本件商標」という。)を所有する商標権者である日本法人である。
   商標    KCP(標準文字)
   登録出願日 平成27年2月18日
   設定登録日 平成27年7月17日
   指定商品 第12類「コンクリートポンプ車,コンクリートミキサー車その他の自動車並びにその部品及び附属品,陸上の乗物用の動力機械(その部品を除く。),陸上の乗物用の機械要素,タイヤ又はチューブの修繕用ゴムはり付け片」

 他方、被告は平成14年に韓国で設立されたコンクリートポンプ車の製造、販売等を目的とする会社である。その設立後から、商標「KCP」を付した商品を製造販売し、韓国において高いシェアを占めていた。
 原告は平成24年以降、被告製品を購入し、日本で販売し営業活動をしていた。平成27年2月に被告が本格的に日本市場に進出することになった際に、原告が本件商標を日本で出願・登録した。そして、原告は被告に対し、本件商標の買取りや販売店代理契約の締結等を求めた。
 被告は本件商標の商標無効登録審判を請求し、特許庁は、本件商標は商標法4条1項19号に該当するとして、その登録を無効とする旨の審決をした。本件は、当該審決の取消訴訟である。
 主な争点は、本件商標は商標法4条1項19号に該当するか否かである。

本件争点に関する判旨(裁判所の判断)(*下線、①②③は筆者)

3 本件商標の商標法4条1項19号該当性について
(1)前記1の認定事実によれば,被告は,2002年(平成14年)5月15日の設立以後,被告商標を付した被告製コンクリートポンプ車の販売を継続して行い,平成24年から平成27年までの各年の韓国国内におけるコンクリートポンプ車市場における被告の市場占有率は,30%台から40%台を占め,いずれの年度も第1位であったこと,その間,被告は,被告商標を製品カタログやウェブサイトで使用して広告宣伝を行っていたことからすると,被告商標は,本件商標の登録出願時(登録出願日同年2月18日)及び登録査定時(登録査定日同年6月1日)において,韓国におけるコンクリートポンプ車を取り扱うコンクリート圧送業者等の需要者の間で,被告製コンクリートポンプ車を含む被告商品を表示するものとして広く認識されていたものと認められる(①)
 そして,本件商標は,「KCP」の欧文字3字の標準文字を横書きに書してなり,「ケーシーピー」の称呼が生じ,特定の観念を生じさせるものではないこと,被告商標は,別紙記載の(1)ないし(4)のとおり,本件商標と書体は異なるものの,いずれも「KCP」の欧文字3字を横書きに書してなり,「ケーシーピー」の称呼が生じ,特定の観点を生じさせるものではないことからすると,本件商標と被告商標は,称呼が同一であり,外観が極めて類似するものであって,両商標が本件商標の指定商品であるコンクリートポンプ車に使用された場合には,その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるものと認められるから,本件商標は被告商標に類似する商標であるものと認められる(②)
(2)前記1の認定事実を総合すれば,「GSF Inc.」の名称でコンクリートポンプ車の輸入,販売等を行っていた原告代表者は,日本国内において,原告代表者自らが又は原告が被告からウォンジン産業を通じて仕入れた被告製コンクリートポンプ車の販売及びその営業活動を行う中で,本件商標の登録出願時点までに,被告商標が付された被告製コンクリートポンプ車は,韓国のトップ商品であること,被告商標が被告製コンクリートポンプ車を表示するものとして韓国国内のコンクリート圧送業者の間で広く知られていたことを認識していたが,被告が日本に進出してその営業拠点を作り,事業展開を行うための営業活動に着手したことを知るや,被告商標が商標登録されていないことを奇貨として,被告の日本国内参入を阻止又は困難にするとともに,本件商標を有償で被告に買い取らせ,あるいは原告が日本における被告の販売代理店となる販売代理店契約の締結を強制させるなどの不正の目的をもって,原告による本件商標の商標登録出願をしたものと認められる(③)
(3)以上によれば,本件商標は,被告の業務に係る被告商品を表示するものとして,韓国における需要者の間に広く認識されている被告商標と類似の商標であって,不正の目的をもって使用をするものといえるから,商標法4条1項19号に該当するものと認められる

検討

 本件は、商標法第4条第1項第19号が適用されて商標登録が無効とされた事件の審決取消訴訟であり、同号の規定が認められた、注目に値する判決である。
 前提として、同号は、日本国または外国で周知な商標と同一または類似の商標を不正の目的で使用するものを不登録理由としている。その主な趣旨は、外国で周知な商標を不正の目的をもって無断でなされる出願等を防止する点にある。
 また、同号の要件は、①他人の商標が需要者に広く認識されていること、②他人の当該商標と同一又は類似であること、③不正の目的があることである。また、③不正の目的とは、「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的」をいう(同号)。
 本件において、裁判所は、①について、韓国におけるコンクリートポンプ車の被告のシェア(平成24年から平成27年まで第1位)や被告の宣伝広告の態様から、被告商標が、①需要者に広く認識されていることを認めた。また、②については、本件商標と被告商品の外観が極めて類似すること、称呼が同一であることから、②他人の当該商標と同一又は類似であることを認めた。そして、③について、原告が被告製品の販売をしていたこと、原告が被告製品は韓国のトップ商品であり、広く知られていたことを認識していたこと、被告が日本に進出しようとするやいなや、原告が本件商標を出願し、被告に本件商標の買取りや販売店代理契約の締結を求めたこと等から、③不正の目的があることを認めた。そして、本件商標は、商標法4条1項19号に該当すると結論付けた。
 ここで、②「不正の目的があること」は主観的要件であることから、(a)他人の商標が需要者の間で広く知られていることを知っていたか、(b)周知商標の所有者が日本に進出することを知っていたか、(c)周知商標の所有者に対する要求の内容、(d)その周知商標が特徴的であるか等で判断される。本件において、原告は、もともと被告製品を扱っており、被告商標が周知商標であったことを認識し、被告が日本に進出することを把握していた上で、あえて日本で類似の商標を出願するのであるから、これらの事情は不正目的がある方向に働く。また、その他の上記のような各事情からすれば、不正の目的は認められることは合理的である。
 また、「不正の目的」の類型は以下のようなものがある(特許庁商標審査便覧42.119.03)。
(1)外国で広く認識されている他人の商標と同一又は類似の商標を、我が国で登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせるために先取り的に出願したもの。
(2)外国の権利者の国内参入を阻止したり、国内代理店契約締結を強制する目的で出願したもの。
(3)日本国内で全国的に著名な商標と同一又は類似の商標について、出所の混同のおそれまではなくても、出所表示機能を稀釈化させたり、その名声を毀損させる目的をもって出願したもの。
(4)その他、日本国内又は外国で広く知られている商標と同一又は類似の商標を信義則に反する不正の目的で出願したもの。
 本件は、(2)または(1)の類型に該当すると考えられる。

以上
(筆者)弁護士 山崎臨在