【令和2年(行ケ)第10014号(知財高裁R2・9・23)】

【判旨】
 本件商標に係る特許庁の無効2019-890028号事件について商標法4条1項11号の判断は正当であるとして,請求を棄却した事案である。

【キーワード】
富富富,ふふふ,商標法4条1項11号

事案の概要

 原告は,平成31年4月23日,自らが商標権者である別紙引用商標目録記載の商標(以下「引用商標」という。)と本件商標が類似するなどとして,本件商標の登録を無効とするとの審決を求める審判請求(無効2019-890028号。以下「本件審判請求」という。)をしたところ,特許庁は,令和元年12月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年1月9日頃,原告に送達された。

【本件商標】

【引用商標】

争点

 本件商標が引用商標との関係で商標法4条1項11号に該当するか否か。

判旨抜粋

 証拠番号等は,適宜省略する。

1  商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
2  本件商標と引用商標の類否について
(1) 外観について
 本件商標は,「富富富」の漢字を横書きした構成から成るものであり,引用商標は,「ふふふ」の平仮名を横書きした構成から成るものであって,本件商標と引用商標は,外観において著しく異なっている。
(2) 観念について
      ア 本件商標は,「富」を三つ並べたものであるところ,「富」の文字は,「物 が満ちたりること。豊かにすること。とむこと。とみ。」,「集積した財貨」などを意味する(「広辞苑  第六版」株式会社岩波書店2033頁・2414頁)平易な漢字であるから,本件商標は,「三つのとみ(富)」など,豊かであることや財産(及びそれが複数あること)に関連する漠然とした意味合いを想起させるものであるといえる。また,本件商標が「フフフ」と称呼されるときには,下記イの引用商標と同様の特定の態様の「笑い」という観念を生ずることがあるということができる。
      イ  引用商標を構成する平仮名である「ふふふ」の語は,「口を開かずに軽く笑う声」(甲3の1),「口を閉じ気味にして低く笑うときの笑い声」(甲3の2),「かすかな笑い声」(甲3の3),「含み笑いをする声」(甲3の5)など,特定の笑い声を示し,また,「含み笑いをするときなどの様子」(甲3の4)を示すものと認められる。したがって,引用商標は,上記のような特定の態様の「笑い」という観念を生ずることがあるものといえる。
(3) 称呼について
 本件商標は,「富」の漢字の音読みによると「フフフ」の称呼を,訓読みによると「トミトミトミ」の称呼を生じるといえる。もっとも,「富」の漢字には「フウ」という音読みや「ト」(む)という訓読みもあり(甲13),本件商標の称呼が,必ずしも上記に限定されるものとはいえない。
 他方,引用商標が,「フフフ」の称呼を生ずることは,明らかである。
(4) 検討
 上記(1)~(3)によると,本件商標と引用商標は,外観において著しく異なっており,また,称呼や観念を共通にする場合があるものの,それは,本件商標を「フフフ」と称呼した限られた場合のみである。そして,上記のような差異があるにもかかわらず,本件商標と引用商標が類似しているものと認めるべき取引の実情その他の事情は認められない。
 したがって,本件商標は,引用商標と類似するものとは認められない。
(中略)
4  結論
 以上によると,本件商標が商標法4条1項11号に該当しないとした本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は認められない。

解説

 本件は,商標登録無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。特許庁は,本件商標について,商標法4条1項11号1に該当しないとして不成立審決をおこなったものであり,裁判所は当該判断を肯定した。
 裁判所は,まず,外観について著しく異なっており,次に,称呼についても本件商標は複数の称呼がありうるところ,引用商標については,フフフのみであり,最後に観念に関して本件商標がフフフと称呼される場合に限り,笑いという観念が生じるとした上で,「本件商標と引用商標は,外観において著しく異なっており,また,称呼や観念を共通にする場合があるものの,それは,本件商標を『フフフ』と称呼した限られた場合のみ」であると判断し,原告の請求を退けた。
 原告は,このほかにも「ふふふ」という語が,食品分野においては,おいしさや満足感という観念を生じると主張したが,裁判所は,原告の主張に係る用いられ方も一部あるものの当該語は,一般的に常に肯定的な意味合いを示すものではなく,おいしさや満足感に係る観念が一般的に生じるとまではいうことができないとして,主張を認めなかった。
 本件は,一般的な商標間の類似性の判断を行っており,実務上参考になると思われる。

以上
(筆者)弁護士 宅間仁志


1 第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(中略)
十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの