【東京地裁令和元年6月18日(平成29年(ワ)31572号)】

【判旨】
 原告会社らが、三角形のピースを敷き詰めるように配置することなどからなる鞄の形態は、原告I社の著名又は周知の商品等表示であり、被告会社による上記形態と同一又は類似の商品の販売は不正競争防止法2条1項1号又は2号所定の不正競争行為に該当するなどと主張して、被告会社に対し、上記商品の製造・販売等の差止め及び商品の廃棄、並びに損害賠償等を求めた事案。裁判所は、原告商品の本件形態1’は、不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に該当し、遅くとも平成27年の時点で、原告I社の出所を示すものとして全国の需要者に広く認識されており、かつ、被告商品の形態は、原告商品と類似し、原告商品との間に出所の混同を生じさせるものであると認定し、原告の請求を一部認容した。

【キーワード】
不正競争防止法2条1項1号、商品形態の保護

事案の概要及び争点

(1)事案の概要
 本件で問題となった原告商品、被告商品の各形態は以下のとおりである(それぞれ複数の商品ラインナップが存在するため、ここでは1つずつのみ取り上げる)。両商品はいずれも、鞄の生地上に硬質な三角形等のピースが多数配置されており、中に入れる荷物に応じて、ピースの形を保ったままで様々な角度に折れ曲がり、立体的で変化のある形状を作り出す点において共通している。一方、ピースの形状や具体的な配置関係については、両商品において違いが見られる。

原告商品 被告商品
 

(2)争点
 本件の争点のうち、不正競争行為に係る争点は以下のとおりである。
 ア 原告商品の形態は商品等表示に該当するか(争点1)
 イ 原告商品の形態は周知ないし著名か(争点2)
 ウ 被告商品の形態は原告商品の形態と類似して混同のおそれがあるか(争点3)

裁判所の判断

 まず、裁判所は、原告商品の形態について、原告の主張する本件特徴①及び②、並びに裁判所の認定した本件特徴③’(「相当多数の」の文言が追加された他は、原告主張の本件特徴③と同一)を備えていると認定した。

※裁判所の認定した原告商品の形態

①中に入れる荷物の形状に応じて,鞄の構成部分であるピースの境界部分が折れ曲がることにより様々な角度がつき,荷物に合わせて鞄の外観が立体的に変形する(本件特徴①)
②上記①の外観を持たせるため,鞄の生地に無地のメッシュ生地又は柔らかい織物生地を使用し(以下「本件特徴②」という。)
③その上にタイルを想起させる一定程度の硬質な質感を有する相当多数の三角形のピースを,タイルの目地のように2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて,敷き詰めるように配置する(本件特徴③’)

 次に、争点1に係る原告商品形態の商品等表示該当性について、従来の裁判例の判断枠組みを踏襲し、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は宣伝広告や販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている(周知性)場合に、商品等表示該当性が認められるとした。

※判決文より抜粋

   ⑵  不正競争防止法2条1項1号は,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止するものであるところ,商品の形態は,通常,商品の出所を表示する目的を有するものではない。しかし,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は宣伝広告や販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている(周知性)場合には,商品の形態自体が,一定の出所を表示するものとして,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当することがあるといえる。

 その上で、原告商品の形態は、従来の女性用の鞄等の形態とは明らかに異なる特徴を有しており、そのことが新聞や雑誌等のメディア掲載からも裏付けられるなどとして、原告商品の形態について特別顕著性を肯定した。

※判決文より抜粋

   ⑶  原告商品の形態の特徴(特別顕著性)について
    ア 原告商品は,前記⑴ア(イ)で述べたとおり,わずかな例外を除いて本件形態1´を備え,メッシュ生地又は柔らかな織物生地に,相当多数の硬質な三角形のピースが,2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて敷き詰めるように配置されることにより,中に入れる荷物の形状に応じてピースに覆われた表面が基本的にピースの形を保った状態で様々な角度に折れ曲がり,立体的で変化のある形状を作り出す。一般的な女性用の鞄等の表面は,布製の鞄のように中に入れる荷物に応じてなめらかに形を変えるか,あるいは硬い革製の鞄のように中に入れる荷物に応じてほとんど形が変わらないことからすれば,原告商品の形態は,従来の女性用の鞄等の形態とは明らかに異なる特徴を有していたといえる。このことは,新聞や雑誌といったメディアにおいて「画期的なデザインのバッグ」(前記⑴カ(ウ)),「シンプルなピースが集まって自在に変化するユニークな形」(前記⑴カ(カ)),「三角形のパーツをつなぎ合わせたフューチャーリスティックなデザイン」(前記⑴カ(テ)),「特徴がはっきりしているので販売企業がイッセイミヤケだとすぐ判別でき」る(前記⑴カ(セ))などと,そのデザインの独特さ,斬新さが取り上げられ,平成19年秋にはデザイン性と機能性を併せ持ったアイテムだけを厳選して掲載するニューヨーク近代美術館のデザインショップ・カタログの表紙に採用されたことからも裏付けられ,原告商品の形態は,これに接する需要者に対し,強い印象を与えるものであったといえる。
  したがって,原告商品の本件形態1´は,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していたといえ,特別顕著性が認められる。
  なお,本件形態1´のうちの本件特徴①は,鞄に荷物を入れた場合に現れる形状であるが,鞄を荷物を入れるという通常の用途に従って使用した場合の形状であり,原告商品の販売の際にも中に物を入れた状態で陳列するなどして(後記⑴ウ),そのような使用時の形状が分かるように,あるいは使用時にそのような形状が現れることを強調して販売され,需要者もその形状を認識していたか認識することが容易にできたというものである。これらからすると,本件において,本件特徴①を含む本件形態1´を形態の特別顕著性や周知性,混同の有無を検討するに当たり商品の形態とすることが相当である。

 ここで、被告は、仮に原告商品に特別顕著性が認められるとしても、それは「1種類の直角二等辺三角形のピースを規則的・連続的に配置する」という点のみであって、原告主張にある「三角形のピース」のような抽象化した形態についてまで特別顕著性が認められるべきではないと主張していた。しかし、裁判所は、原告商品が従来の女性用の鞄等の形態とは明らかに異なる特徴を有していたことや、使用時において原告商品の表面にピースの継ぎ目が折れ曲り,鞄の表面に様々な角度に傾いた相当多数の三角形を面とした多様な立体形状が現れる点が強く印象付けられること等を理由に、冒頭に挙げた原告商品の形態①~③について、「それのみで他の同種商品とは異なる顕著な特徴と捉えることが相当」であると認定した。

※判決文より抜粋(下線部は筆者が付与。以下同じ。)

   イ これに対し,被告は,原告商品の形態に特別顕著性が認められるとしても,それは「1種類の直角二等辺三角形のピースを規則的・連続的に配置する」という点のみである旨主張する。
 ここで,原告商品の形態の開発過程において,これを担当したデザイナーらは,二等辺三角形以外の多くのパターンを検討した上で,1種類の二等辺三角形で構成される形態を採用し(前記⑴ア(ウ)),実際に,その後発売された原告商品のおよそ9割においては,ピースは直角二等辺三角形であり,この二等辺三角形のピース4枚が90度の頂点を中心に組み合わさり,正方形を構成するように規則的に配置されていたと認められる(前記⑴ア(イ))。
 しかしながら,前記アのとおり,一般的な女性用の鞄等の表面は,布製の鞄のように中に入れる荷物に応じてなめらかに形を変えるか,あるいは硬い革製の鞄のように中に入れる荷物に応じてほとんど形が変わらないのに対し,原告商品の形態は,中に入れる荷物の形状に応じて相当多数のピースに覆われた表面が基本的にピースの形を保った状態で様々な角度に折れ曲がり,立体的で変化のある形状を作り出すものであり,この点において,従来の女性用の鞄等の形態とは明らかに異なる特徴を有していたといえる。そして,需要者は,本件ブランドの専門店,新聞や雑誌あるいは街頭において,荷物を入れ表面が立体的に変化した状態の原告商品を観察するところ(前記⑴ウないしオ),その状態において,需要者は,従前の鞄との根本的な違いが存在する部分であることからも,原告商品の表面にピースの継ぎ目が折れ曲り,鞄の表面に様々な角度に傾いた相当多数の三角形を面とした多様な立体形状が現れる点が強く印象付けられるといえる。実際に,原告商品を取り上げた雑誌や新聞等において,三角形が二等辺三角形であることや一種類であることなどを挙げる記事がないわけではないものの(前記⑴カ(ソ),(チ),(ト),(ヌ)),大部分の記事は,原告商品の形態につき「三角形が連なった立体的なフォルムを自由自在に作り出している。」,「三角形のピースが寄せ集まって一つとなり,そのピースの動きによって自在に形を変える」など,相当多数の三角形のピースが敷き詰められるように配置されることによって形成される多様な立体形状について述べるものが大部分である(前記⑴カ)。
  そうすると,本件特徴①ないし③´を備えている本件形態1´について,それのみで他の同種商品とは異なる顕著な特徴と捉えることが相当であり,被告の上記主張は採用することができない。
  したがって,被告の上記主張には理由がない。

 争点2の周知性については、原告商品の販売実績・宣伝広告実績等を元に、遅くとも平成27年の時点において周知であったと認定した。

※判決文より抜粋

 2  争点2(原告商品の形態は周知ないし著名か)について
  前記1のとおり,原告商品の本件形態1´は,遅くとも平成27年の時点で,原告イッセイミヤケの出所を示すものとして全国の需要者に広く認識されていたと認めることができる。

 そして、争点3のうち商品形態の類似については、原告商品と被告商品とはピースの形状や配置等において具体的な形態上の相違はあるものの、それらは両商品を離隔的に観察した場合に判別し得る相違点とまではいうことができないなどとして、両商品形態は全体として類似すると判示した。

※判決文より抜粋

   ⑵  被告商品の形態は前記⑴アのとおりであり,いずれも,本件特徴①及び②に加え,一定程度の硬質な質感を有する相当多数の三角形のピースを,タイルの目地のように2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて,敷き詰めるように配置するとの本件特徴③´を備えると認められる。そうすると,被告商品は,原告商品の顕著な特徴である本件形態1´を有する点において,原告商品と同一の商品等表示を使用するものといえる(なお,少なくとも,本件形態1´が周知になった後において,被告商品に接した需要者は,そのピースの質感や鞄の生地等から,鞄に荷物を入れた状態の本件形態1´を認識するといえる。)。
  一方,前記1⑴ア(イ)のとおり,本件形態1´を備える原告商品のおよそ9割は,ピースは直角二等辺三角形であり,この二等辺三角形のピース4枚が90度の頂点を中心に組み合わさり,正方形を構成するように規則的に配置されているのに対し,被告商品は,特に被告商品1,3ないし8においては複数種類の三角形のピースが不規則に配置され,被告商品2ないし6,8のピースの一部は四角形である点において,相違する。
  しかしながら,前記1⑶イで述べたとおり,需要者は,原告商品の形態を荷物を入れた状態で観察するところ,その状態では,原告商品の表面には凹凸が生じており,原告商品の表面に直角二等辺三角形のピースが規則的に並べられているという点よりも,ピースの継ぎ目が折れ曲り,鞄の表面に,様々な角度に傾いた相当多数の三角形を面とした多様な立体形状が現れる点が,需要者に強い印象を与えるということができる。また,このような表面に凹凸が生じた状態においては,同じ直角二等辺三角形であっても,傾きによって様々な大きさ及び角度の三角形に見えることに加え,継ぎ目が不規則に折れ曲がるため,ピースが規則的に並べられているか否かは需要者に強い印象を与えないといえる。加えて,被告商品2ないし6,8に用いられている四角形のピースは,いずれも正方形ではなく不規則な台形であり,周囲の三角形のピースに調和している上,その数も三角形52枚に対して4枚(被告商品2),三角形151枚に対して17枚(被告商品3),三角形131枚に対して5枚(被告商品4,5,8),三角形74枚に対して13枚(被告商品6)と少なく,注意深く観察しなければピースの一部が四角形であることは分からない。
  そうすると,中に荷物を入れた状態の原告商品と,被告商品の外観は,タイルを想起させる一定程度の硬質な質感を有する相当多数の三角形のピースを,タイルの目地のように2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて,敷き詰めるように配置するという本件特徴③´が需要者に印象付けられるのに対し,被告商品の複数種類の三角形及び四角形が不規則に配置されているとの特徴は,両商品を離隔的に観察した場合に判別し得る相違点とまではいうことができない。前記⑴イのとおり,インターネット上において,被告商品と同様に複数種類の相当多数の三角形のピースが不規則に配置された鞄を原告イッセイミヤケの商品であると誤認する,投稿に不自然な点がうかがわれない一般需要者によるとみられる投稿が複数存在することも,これを裏付けるといえる。
  以上によれば,原告商品の形態と被告商品の形態は,全体として類似するということができる。

 また、混同のおそれについて、価格差や販売形態の違いを考慮したとしても、原告商品の著名性や需要者の属性に照らし、出所の混同を生じさせるものであると認定し、結論として被告の行為は不正競争行為に該当すると判示した。

※判決文より抜粋

 そして,前記1⑷のとおり,本件形態1´は原告イッセイミヤケの出所を示すものとして需要者に広く認識されていることからすると,被告商品に接した需要者は被告商品の形態が原告イッセイミヤケの出所を表示するものと認識するといえる。なお,本件形態1´が他の同種製品とは異なる顕著な特徴といえること,原告商品と被告商品の需要者がファッションに関心を有する一般消費者であることなどを考慮すると,原告商品と被告商品に価格差があり,また,原告商品は本件ブランドの商品のみを販売する専門店で売られているのに対し(前記1⑴ウ),被告商品が販売されるのがそのような店でないとしても,これらは,原告告商品に接した需要者が被告商品の形態が原告イッセイミヤケの出所を表示するものと認識するといえるという上記判断を左右するものではない。前記⑴イによれば,現に,被告商品と同様の形態を有し,本件ブランドの商品のみを販売する専門店以外で販売された商品の形態を原告イッセイミヤケの出所を表示するものと認識した者がいた。
  したがって,被告商品の形態は,原告商品と出所の混同を生じさせるものであると認められる。
    ⑶  以上によれば,原告商品の本件形態1´は,遅くとも被告商品の販売が開始された平成28年9月頃の時点においては,原告イッセイミヤケの周知の商品等表示になっていたということができるから(前記1⑷),被告による被告商品の販売行為は,不正競争法2条1項1号の不正競争行為に該当する。

むすび

 本件は、不正競争防止法2条1項1号による商品形態の保護に係る実例として、特に下記のような原告商品形態を一定程度抽象化した形態にまで保護を認めた点において、実務上参考になる点が多いと思われる。

※裁判所の認定した原告商品の形態(再掲)

①中に入れる荷物の形状に応じて,鞄の構成部分であるピースの境界部分が折れ曲がることにより様々な角度がつき,荷物に合わせて鞄の外観が立体的に変形する(本件特徴①)
②上記①の外観を持たせるため,鞄の生地に無地のメッシュ生地又は柔らかい織物生地を使用し(以下「本件特徴②」という。)
③その上にタイルを想起させる一定程度の硬質な質感を有する相当多数の三角形のピースを,タイルの目地のように2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて,敷き詰めるように配置する(本件特徴③’)

 商品形態について不正競争防止法2条1項1号による保護が認められると、期間制限のある意匠権や著作権と違い、当該商品形態は商品が売れている限り半永久的に保護される結果となる。個人的には、上記のような抽象化された商品形態(デザイン)にまで、上述した不正競争防止法による強い保護を与えることは、当該デザインを改良・発展させた新たなデザインの創出活動を萎縮させ、かえって市場における健全な競争を阻害する結果になるのではないかと懸念するところである。

以上
(筆者)弁護士・弁理士 丸山真幸