【令和7年10月8日(知財高裁 令和7年(ネ)第10036号)】
第1 事案の概要
本件は、控訴人が創作した複数のデザイン(原判決別紙著作物目録記載2~5。以下「本件各デザイン」という。)が、被控訴人関ケ原町の地域振興企画「関ケ原検定」において、控訴人の許諾なくポスター、実施概要、賞状、合格カード等として使用されたことが、著作権(複製権又は翻案権等)を侵害するとして争われた事案である。
控訴人は、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償(著作権法114条3項による159万1000円のうち138万1000円)、著作権法112条に基づく差止め・廃棄、商標法36条1項に基づく商標の使用差止め等を求めた。
原審は、本件各デザインのうち2~5につき著作権侵害を認め、関ケ原町に対し差止め及び損害賠償20万円の支払を命じ、その余を棄却したため、控訴人が損害額部分につき控訴した。
当審では、控訴人が新たに「ライセンス契約手順書(甲25)」の内容及び各デザインの創作対価・ライセンス料等を根拠とする高額損害額の算定を補充主張した。
第2 裁判所の判断
本判決は、まず被控訴人Y2らに対する控訴について、控訴人が原審で同人らに対する請求棄却部分を不服としていないことから、「控訴の利益を欠き不適法」として却下した。
次に、関ケ原町に対する控訴について、原判決の判断を基本的に維持しつつ、控訴人の補充主張に対して以下のように判断した。
1 ライセンス契約手順書(甲25)について
裁判所は、同書面が「ライセンス契約を締結するに当たっての手順を定めたものにすぎず、ライセンス契約の内容について定めたものではない」と認定した上で、これを考慮しても著作権法114条3項による損害額20万円の認定を左右しないと判断した。
2 控訴人が提示した創作対価・ライセンス料等の主張について
控訴人は、本件各デザインごとに創作対価、ライセンス使用料、基本使用料、慰謝料、売上損害等を積算し、合計159万1000円のうち138万1000円を相当と主張した。しかし、裁判所はこれらの算定項目について、
「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を定めるについて、その根拠や妥当性が明らかではない」
として採用を否定した。
そして、原審同様、著作権法114条3項に基づく損害額として20万円が相当であるとの判断を維持した。
第3 コメント
本判決は、著作権法114条3項の「受けるべき金銭の額」に関する損害額の認定において、権利者側が提示した創作対価・ライセンス料・慰謝料等の個別積算方式につき、その根拠・妥当性が不明確である限り採用を認めなかった点に意義があるといえる。
また、自治体による地域振興イベントの中でのデザイン利用という文脈においても、著作権侵害の成立自体は認めつつ、損害額は実際の利用状況や市場実態に照らして相当額を慎重に認定している。この点は、権利者による高額損害主張があった場合でも、114条3項の趣旨に適合する客観的基準を求める裁判所の姿勢を示すものといえる。
さらに、ライセンス契約手順書(甲25)についても、契約内容を直接定めるものではないとの形式的性質を踏まえて、損害額認定には影響しないとした判断は、権利者側の交渉過程における文書を損害算定に安易に用いないという点で参考になる。
総じて、著作権侵害訴訟における損害額算定の枠組みを再確認し、権利者・利用者双方に対し、著作物利用の経済的評価について客観的資料の提出と適正な算定方法の必要性を示す判例として評価できる。
弁護士 多良翔理

