【令和7年12月1日(知財高裁 令和6年(行ケ)第10056号】
【キーワード】
商標法4条1項11号
【事案の概要】
被告は、「ゴミサー」の標準文字で構成され、指定商品役務を「第7類 生ゴミ処理機、化学機械器具」「第40類 生ゴミ処理機の貸与、化学機械器具の貸与」とする商標について登録出願をしたが、拒絶理由通知書の送付を受けた。その理由は、同じく「ゴミサー」の標準文字で構成され、指定商品を「第7類 生ゴミ処理機、液体肥料製造装置」とする商標で原告が登録を受けているもの(以下「引用商標」といい、これに係る指定商品を「引用指定商品」という。)と同一又は類似であって、その商標登録に係る指定商品(指定役務)と同一又は類似の商品(役務)について使用するものであり、商標法4条1項11号に該当する、というものであった。
その後被告は、上記の出願に係る分割出願として、「ゴミサー」の標準文字で構成され、指定役務を「第40類 生ゴミ処理機の貸与、化学機械器具の貸与」とする商標(以下「本件商標」といい、これに係る指定役務を「本件指定役務」という。)について登録出願をし、商標登録を受けた(登録番号第6414447号)。
原告は、本件商標について商標登録無効審判を請求した。特許庁は、これについて、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をした。本件は、原告が当該審決の取消しを求めて提起した審決取消訴訟である。
【争点】
本件商標が商標法4条1項11号の商標に該当するか。
【判決(一部抜粋)】(下線は筆者が付した。以下同じ。)
第1 請求 省略
第2 事案の概要
1 省略
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由の要旨は以下のとおりである。
⑴ 商標法4条1項11号について
ア 本件商標と引用商標は、外観上同一のものであり、「ゴミサー」の称呼を共通にすることから、これらは、観念において比較することができないとしても、外観及び称呼を共通にするものであるから、両者は、相紛れるおそれのある同一又は類似の商標である。
イ 商品又は役務の類否は、商品又は役務が通常同一営業主により製造・販売又は提供されている等の事情により、その類否を判断する両商標に係る指定商品又は指定役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造・販売又は提供に係る商品又は役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるかにより判断し、その際には、例えば、商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的であるかどうか、商品と役務の用途が一致するかどうか、商品の販売場所と役務の提供場所が一致するかどうか、需要者の範囲が一致するかどうかを総合的に考慮し判断するのが相当である。
「生ゴミ処理機の貸与」と「生ゴミ処理機」の一般的、恒常的な取引の実情において、貸与と商品の販売とは、流通形態を異にするものであり、また、商品の貸与を業とする者は、当該商品の製造・販売業者ではなく、リース又はレンタルする事業者であることが一般的であるといえる。なお、仮に当該商品の製造・販売業者がリース等の業務も行っていたとしても、前記のとおりそれが一般的、恒常的な取引の実情とはいえず、「生ゴミ処理機」の製造、販売する事業者とそれをリース又はレンタルする事業者が必ずしも一致するとはいえない。また、前記商品と役務の用途については、「生ゴミ処理機の貸与」は、他人の求めに応じて物品を貸与することが当該役務の本質であるといえることから、その用途は、「生ゴミ処理機の貸与のため(用)」であるのに対し、「生ゴミ処理機」の用途は、正に生ゴミを処理・分解するための商品そのものであるから、必ずしも用途が一致するとはいえない。
製造・販売する事業者がリース又はレンタルする事業者と同じであるとはいえないことからすると、必ずしも商品の販売場所と役務の提供場所が一致するとはいえない。
なお、前記商品と役務の需要者の範囲については、いずれも「生ゴミ処理機」を使用する者であるから、需要者の範囲は共通する。
ウ 上記イによれば、本件指定役務中の「生ゴミ処理機の貸与」と引用指定商品中の「生ゴミ処理機」については、それらの製造・販売者及び提供者、用途、販売場所及び提供場所が異なり、需要者の範囲において一致する場合があるとしても、一般的、恒常的な取引の実情を勘案して総合的に考慮すると、当該役務と商品とは相違するものである。
そうすると、両商標の指定商品及び指定役務は、両者に同一又は類似の商標を使用しても、それらの商品及び役務が誤認混同するおそれのない非類似の商品及び役務といわざるを得ない。
(以下省略)
第3 省略
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性に関する判断の誤り)について
⑴ 本件指定役務と引用指定商品の類否について
ア 判断基準
ある商標の指定商品と他の商標の指定役務とが類似のものであるかどうかは、それらの商品及び役務が通常同一営業主により製造、販売又は提供されている等の事情により、それらの商品と役務に同一又は類似の商標を使用する場合には、同一営業主の製造、販売又は提供に係る商品又は役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるか否かによって判断するのが相当である(最高裁昭和33年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁参照)。
イ 商品の販売と貸与に関する取引の実情
各項末尾に記載した証拠及び弁論の全趣旨によれば、建設機械の販売及び貸与に関する取引の実情として、以下の事実が認められる。
(ア) 住友建機販売株式会社のウェブサイトには、同社が製造した建設機械に関し、「お客様サポート」の見出しの下、「SUPPORT 01」の箇所に、「購入サポート」と「レンタル」の両方の記載があり、「レンタル」の箇所には、「取扱拠点」に関する記載及び「レンタル機器補償制度について」の記載が存在する。また、住友建機販売株式会社の目的には、「建設機械、運搬機械の製造、販売、賃貸ならびにその部品の販売修理」が含まれている。(甲66の1・2、67)
(イ) 日立建機株式会社のウェブサイトには、「会社概要」の見出しの下、「事業目的」の箇所に「建設機械・運搬機械及び環境関連製品等の製造・販売・レンタル・アフターサービス」との記載がある。(甲68の1)
(ウ) 太陽建機レンタル株式会社のウェブサイトには、「会社概要」の見出しの下、「事業概要」の箇所に「運搬機械の製造・修理・販売・レンタル並びに輸出入業務」及び「公害防止機械器具、仮設資材のレンタル並びに販売業務」の記載がある。(甲70)
(エ) 日本建機サービス販売株式会社のウェブサイトには、「COMPANY 会社案内」の見出しの下、「会社概要」の箇所の「主な事業内容」の項に「建設機械・仮設資材・仮設ハウス・仮設トイレのレンタルおよび販売、修理」の記載がある。(甲71)
ウ 検討
(ア) 上記イに挙げた事実によれば、建設機械について、その製造業者又はその関連会社が、販売とともに貸与(レンタル)も行っているという取引の実情があると認められる。
(イ) 上記イ(ア)ないし(エ)に掲記した証拠のうち、甲66の1・2、68の1、70及び71は、上記イ(ア)ないし(エ)で認定したウェブサイトの画面を印刷したものであるが、原告の令和7年7月16日付け証拠説明書⑹に記載された上記各証拠の「作成年月日」欄の記載によれば、上記ウェブサイトの画面は令和7年6月27日時点のもの(甲66の1・2、68の1、70)又は同年5月12日時点のもの(甲71)であり、本件商標の登録査定日である令和3年7月2日より後に表示されていた画面を印刷したものである。
しかし、上記イ(ア)ないし(エ)に挙げた会社は、いずれもその設立は、本件商標の登録査定日よりもかなり前であり(甲67、68の1、70、71)、同登録査定日より後にこれらの会社が建設機械の貸与を業務として行うようになったとはうかがわれないから、これらの会社は、同登録査定日の時点においても建設機械の貸与を行っていたと推認されるところである。したがって、本件商標の登録査定がされた時点で、建設機械について、その製造業者又はその関連会社が、販売とともに貸与(レンタル)も行っているという取引の実情があると認めることができる。
(ウ) 商標法施行規則6条及び同規則別表によれば、「土木機械器具」が、商標法施行令2条及び同施行令別表による商品及び役務の区分の第7類「加工機械、原動機(陸上の乗物用のものを除く。)その他の機械」に属する商品とされており、建設機械は第7類に属する商品であると認められる。
引用指定商品「生ゴミ処理機、液体肥料製造装置」も、第7類に属するものであるから、引用指定商品と建設機械は同じ第7類に属する商品である。
(エ) 以上のとおり、引用指定商品と同じ第7類に属する建設機械について、その製造業者又はその関連会社が、販売とともに貸与(レンタル)も行っているという取引の実情がある。これに加え、複写機、プリンター等の出力機器や事務用機器等の商品を取り扱う会社においても、会社の目的に商品の販売と貸与の両方を挙げる会社が複数存在する(甲72~74。なお、被告も、会社の目的に「産業用機械器具の製造、販売及び賃貸」が含まれている[弁論の全趣旨]。)。機械に商標を使用する者がその機械の貸与も行っていることは、通常、特に意外なこととまではいえず、むしろ、予想し得る範疇のことといえる。また、本件指定役務の需要者は生ゴミ処理機を使用する者であり、引用指定商品の需要者も、その多くは、生ゴミ処理機を使用する者であると推認されるから、双方の需要者は多くの部分で共通する。
これらの事情を考慮すれば、本件指定役務と引用指定商品に同一又は類似の商標を使用する場合には、同一営業主の製造、販売又は提供に係る商品又は役務と誤認されるおそれがあると認められる関係があるということができる。したがって、本件指定役務と引用指定商品は類似するものと認められる。
⑵ 本件商標と引用商標との比較
本件商標は、「ゴミサー」の文字を標準文字で表してなる商標であり、引用商標も、「ゴミサー」の文字を標準文字で表してなる商標であるから、本件商標と引用商標は同一である。
⑶ 商標法4条1項11号該当性について
上記⑴及び⑵のとおり、本件商標と引用商標は、商標が同一であり、かつ、本件指定役務と引用指定商品が類似しているから、本件商標は、その登録出願の日前の登録出願に係る他人の登録商標である引用商標と同一であって、その商標登録に係る指定商品に類似する役務について使用するものであり、本件商標は商標法4条1項11号に該当する。本件商標は、同法46条1項1号により無効にすべきこととなる。
⑷ 被告の主張に対する判断
被告は、前記第3の1〔被告の主張〕のとおり、建設機械の業界と「生ゴミ処理機」の業界とでは、製品の特性、価格、主要な需要者層等の取引の実情が全く異なり、取引実態の異なる他の業界の事例は、本件指定役務と引用指定商品との類否判断の参考とならないなどと主張する。
しかし、生ゴミ処理機の業界と建設機械の業界の間に相違点があるとしても、建設機械は、引用指定商品と同じ第7類「加工機械、原動機(陸上の乗物用のものを除く。)その他の機械」に属する商品であることからすれば、建設機械に関する取引の実情を考慮に入れることを不当とすることはできない。また、生ゴミ処理機の業界において、同一の商標がその商品と貸与の役務に使われても、同一営業主のものと誤認されるおそれがないほどに、製造、販売者と貸与者が明確に区別されて需要者に認識されていることを示すといえる証拠もない。
したがって、被告の上記主張は採用することができず、その他、被告の主張する内容を検討しても、上記⑴ないし⑶の認定及び判断は左右されない。
⑸ 取消事由1に関する結論
以上によれば、本件商標が商標法4条1項11号に該当するとは認められないとの本件審決の判断は誤りであり、取消事由1は理由がある。
2 結論
以上のとおり、取消事由1は理由があり、本件審決にはこれを取り消すべき違法がある。
よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。
【若干の解説】
1 総論
商標法4条1項11号は、「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」について、商標登録を受けることができないことを定める。この規定は、先願主義(同一又は類似の商標について、最も先に出願した者に商標権を付与するという考え方。商標法8条)から導かれる帰結を定めるものであり、商品・役務の出所混同を防止することを趣旨とするものである。
本判決は、特許庁が審判段階において行った判断を覆し、本件商標について、引用商標(「ゴミサー」の標準文字で構成され、指定商品を「第7類 生ゴミ処理機、液体肥料製造装置」とする登録商標)の関係で商標法4条1項11号の商標に該当すると判断した点が特徴的である。以下、本判決の判断について整理しつつ、若干の補足を行うこととする。
2 本件の判断
⑴ 商標法4条1項11号における指定商品役務の類否の判断枠組み
本判決は、初めに以下のように述べ、商標法4条1項11号における指定商品役務の類否の判断基準を明らかにした。
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ア 判断基準 |
⑵ 本件指定役務と引用指定商品の類否
続いて本判決は、本件指定役務と引用指定商品の類否に関して、以下のとおり述べた。
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イ 商品の販売と貸与に関する取引の実情 |
ここでは、建設機械を取り扱う企業のウェブサイトにおいて、建設機械の販売と貸与(レンタル)の双方を取り扱っていることを示す記載が見られる事実が認定され、当該事実から、建設機械について、「その製造業者又はその関連会社が、販売とともに貸与(レンタル)も行っているという取引の実情」が認定されている。
その上で、裁判所は以下のとおり判示し、結論として、本件指定役務と引用指定商品との類似を肯定した。
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(ウ) 商標法施行規則6条及び同規則別表によれば、「土木機械器具」が、商標法施行令2条及び同施行令別表による商品及び役務の区分の第7類「加工機械、原動機(陸上の乗物用のものを除く。)その他の機械」に属する商品とされており、建設機械は第7類に属する商品であると認められる。 |
ここでの裁判所の判断は、
・生ゴミ処理機と同じ第7類に属する建設機械について、その製造業者又はその関連会社が、販売とともに貸与(レンタル)も行っているという取引の実情があること
・複写機、プリンター等の出力機器や事務用機器等の商品を取り扱う会社においても、会社の目的に商品の販売と貸与の両方を挙げる会社が複数存在すること
・機械に商標を使用する者がその機械の貸与も行っていることは、通常、特に意外なこととまではいえず、むしろ、予想し得る範疇のことといえること
・本件指定役務と引用指定商品の需要者の多くは、生ゴミ処理機を使用する者であると推認され、双方の需要者は多くの部分で共通すること
という4点から、本件指定役務と引用指定商品との類似を肯定するものである。
以上につき、裁判所は“生ゴミ処理機について、その製造業者又はその関連会社が、販売とともに貸与(レンタル)も行っているという取引の実情”があるとまで認定してはいない点には留意が必要と思われる。逆に言えば、裁判所はこうした生ゴミ処理機に関する取引の実情まで認定せずとも、本件指定役務と引用指定商品の類似を肯定できる、と判断したことになる。
また、裁判所は“建設機械の業界と「生ゴミ処理機」の業界とでは取引の実情が異なるため、建設機械の業界の事例は本件指定役務と引用指定商品の類否判断の参考にならない”という旨の被告の主張を、以下のとおり“建設機械と生ゴミ処理機が同じ第7類に属することから、建設機械に関する取引の実情を考慮することを不当とすることはできない”として端的に斥けている。
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⑷ 被告の主張に対する判断 |
以上のような裁判所の判示からは、商品役務の類似性を肯定する上で、指定商品役務自体(本件では生ゴミ処理機自体)の取引の実情の認定までは必須でないこと、また、指定商品役務の類否判断に関しては、これと同一の類に属する商品役務の取引の実情を考慮しうることが窺える。この点は、他の商標について商標法4条1項11号の該当性を検討する上でも参考となると思われる。
⑶ 結論
以上に加え、裁判所は本件商標と引用商標が同一であることも認定し、結論として、本件商標が商標法4条1項11号の商標に該当すると判断した。
3 所見
以上のとおり、本判決では「第7類 生ゴミ処理機、液体肥料製造装置」という商品と「第40類 生ゴミ処理機の貸与、化学機械器具の貸与」という役務の類似が肯定された。もっとも、本判決の判断は、あくまで生ゴミ処理機に関する判断に留まり、一般に商品自体とその貸与の役務との類似を肯定するものとまでは言えないと思料される。すなわち、商品自体の製造販売とその貸与とについて、当該商品に係る業界の実情によっては、両者の類似が認められない余地も残っていると考えられる。上記のような類否判断において本判決は参考になるものと思われるが、実際の検討においては、検討対象となる商品役務に係る取引の実情を十分に調査することが肝要である。
以上
弁護士 稲垣紀穂

