【令和7年6月26日(知財高裁 令和7年(ネ)第10005号)】

 

【ポイント】

 競合他社によるSNS上の投稿が、不正競争防止法2条1項21号記載の行為に該当すると判断した事案

 

【キーワード】

不正競争防止法2条1項21号
虚偽の事実
SNS
Instagram

 

第1 事案

 被告会社(反訴原告、被控訴人会社)が、原告(反訴被告、控訴人)が反訴被告代表者名義のInstagramに、被告製品の販売等が原告の特許権を侵害する旨の投稿 (本件投稿)を行ったことが、競争関係にある被告会社の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、または流布する行為であって、不正競争防止法2条1項21号の不正競争行為に該当すると主張して、原告に対して差止めおよび損害賠償を請求した事案(反訴)の控訴審である。
 以下では、不正競争防止法2条1項21号規定の行為の該当性について述べる。
 なお、本訴(控訴審)では、被告製品の販売等が原告の特許権を侵害しないと判断された。また、第1審は、東京地裁令和6年10月23日(令和5年(ワ)70272号/令和5年(ワ)70460号)である。

 

第2 当該争点に関する判旨(裁判所の判断)(*下線等は筆者)

4 争点6(不競法2条1項21号該当性等)について
 (1) 原判決「事実及び理由」の第4の5(35頁~)の説示のとおりであるから、これを引用する。
 (2) 控訴人は、本件投稿を見た複数の被控訴人会社の取引先が、被控訴人会社に問合せを行っていたとの原判決の認定について、客観的証拠がない旨主張する。
 しかし、「私は優しいからこの場を借りて最終警告をしてあげます。」という記述で始まる本件投稿は、控訴人代表取締役社長との肩書で行われており、閲覧者として控訴人代表者の趣味の投稿に興味を持っている一般の者ではなく、被控訴人らや、控訴人代表者がInstagramのアカウントを持っていることを知っている同業者に閲覧されることを想定していたものといえ、乙第8号証(本件投稿のスクリーンショット)が同業者から提供されたとの被控訴人Y1の陳述書(乙18)の記載に不自然なところはない。控訴人の主張は採用できない。

【原判決「事実及び理由」の第4の5の引用】
5 争点6(不競法2条1項21号該当性)について
 (1) 争点6-1(本件投稿を行うことが「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」といえるか)について
 前提事実(1)、証拠(乙18、29)及び弁論の全趣旨によれば、原告と被告会社は、親綱支柱用治具の市場において競争関係にあり、本件投稿が行われた当時、同市場に流通している製品は、原告製品と被告製品の二つのみであり、同時期において、被告製品は、原告製品の唯一の競合品であったことが認められる。
 そして、前提事実(1)、証拠(乙8、18、29)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿は、原告名義で行われたものであるところ、本件投稿においては、「先ずはコピー品・バッタもんの特許申請を取り下げなさい」、「次に既に生産したコピー品・バッタもんを全品・1つ残らず回収し全てを破棄しなさい。普段から仲良くさせて頂いているお客様を取り込み・盾にしているからと言って 私や会社が躊躇するような事象ではありません」、「特許法違反は刑事事件に類する犯罪です」、「今日より2週間の猶予を与えます。それでも謝意や動きがないのであれば告訴します」という内容が記載されていた上、刑事告訴、特許権の侵害の罪の法定刑や刑事罰及び均等侵害に関する解説、本件特許権の特許証が添付されていたこと、同特許証においては、その一部が黒塗りになっていたものの、発明の名称(親綱支柱用治具)、出願日及び登録日は黒塗りされておらず、特許権者の住所の一部も分かる状態になっていたことが認められる。
 このような親綱支柱用治具の業界内の状況及び本件投稿の内容に照らすと、原告や被告会社の取引先としては、本件投稿は、被告会社による被告製品の販売等が本件特許権を侵害するとの事実を述べるものであると理解すると認められる。
 そうすると、前記2及び3で説示したとおり被告製品が本件特許権を侵害するものではない以上、本件投稿の内容は、被告会社の「虚偽の事実」であると認めるのが相当である。
 また、前記の本件投稿の内容に加え、証拠(乙8、18、29)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿を見た複数の被告会社の取引先が、被告会社に問合せを行っていたことが認められることからすると、仮に原告が主張するように本件投稿が投稿から約24時間で削除されていたとしても、本件投稿が被告会社の「営業上の信用を害する」ものであることは明らかである
 そして、前提事実(6)アのとおり、本件投稿は、原告代表者のInstagramのアカウントにおいて行われたものであるところ、証拠(乙8、18、29)及び弁論の全趣旨によれば、同アカウントの内容は、不特定又は多数の人物が閲覧可能なものであったと認められるから、本件投稿は、被告会社による被告製品の販売等が本件特許権を侵害するとの事実を「流布する行為」といえる
 以上によれば、本件投稿を行うことは、「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を」「流布する行為」に該当すると認められる
(2) 争点6-2(故意又は過失の有無)について
 ア 前記(1)アのとおり、本件投稿では、均等侵害に関する解説が添付されており、原告は、本件投稿が行われた当時、被告製品について文言侵害が成立しない可能性を認識していたものといえる
 そして、前提事実(6)イのとおり、本件投稿は、原告から被告会社に対する警告書(甲8)の送付前に行われたものであって、被告会社の特許権侵害に関する認識を確認することなくされたものである
 さらに、原告において被告製品が本件発明の技術的範囲に属すると判断したことが、合理的な根拠に基づくものであったと認めるに足りる証拠はない
 このような事情からすれば、原告には不正競争行為について、少なくとも過失があったものと認められる
 イ 原告は、〈1〉原告製品と被告製品は、その形状が類似している上、被告会社は被告製品に関する特許出願を行っているが、その出願の請求項の大部分について、新規性又は進歩性を欠くという理由から、拒絶理由通知を受けていること、〈2〉原告は、本件投稿を行う前に、その顧問弁護士及び顧問弁理士から、被告製品が本件特許権を侵害する旨の見解を得ていたことを、故意又は過失を否定する事情として主張する。
 しかしながら、上記〈1〉について、製品の一部の形状が類似していたり、被告製品の内容を前提にした特許出願の大部分が新規性又は進歩性を欠くという判断がされていたりしたとしても、その事実は、被告製品が本件発明の技術的範囲に属することを直ちに裏付けるものではない。さらに、証拠(甲23)及び弁論の全趣旨によれば、上記の拒絶理由通知は、本件投稿後の令和5年7月10日付けで行われたものであることが認められ、原告は、上記通知を認識した上で本件投稿を行ったわけでもないから、上記通知の存在等が原告の過失を否定する事情になるとはいえない。
 また、上記〈2〉について、そもそも原告が顧問弁護士及び顧問弁理士から受けていた見解の具体的内容は明らかではない上、仮に原告が何らかの見解を得ていたとしても、被告会社の見解を全く確認することなく本件投稿を行ったことを正当化する事情にはならず、このような事情も過失を否定する事情にならないというべきである。
 したがって、原告の上記主張はいずれも採用できない。

 

第3 検討

 本件は、競合他社によるSNS上の投稿が、不正競争防止法2条1項21号記載の行為に該当すると判断した裁判例である。
 本判決は、まず、不正競争防止法2条1項21号の「虚偽の事実」の要件について、原告と被告会社は、親綱支柱用治具の市場において競争関係にあり、当該市場において、被告製品は、原告製品の唯一の競合品であったことを認定した上で、本件投稿に「次に既に生産したコピー品・バッタもんを全品・1つ残らず回収し全てを破棄しなさい」や「特許法違反は刑事事件に類する犯罪です」等の文言があったことから、本件投稿は、被告製品の販売等が本件特許権を侵害するとの事実を述べるものであると判断し、当該要件を満たすとした。
 また、同号の「営業上の信用を害する」の要件については、本件投稿を見た複数の被告会社の取引先が、被告会社に問合せを行っていたことから、本件投稿が被告会社の「営業上の信用を害する」と判断した。原告は、本件投稿が投稿から約24時間で本件投稿を削除した旨を主張したが、実際に被告会社の取引先から当該問い合わせがあったことから、当該要件を満たすことを認めた。他方で、当該要件に関し、必ずしも現実に信用が低下したことや実害の存在までは必要ないとされているが、原告の主張のとおり本件投稿が約24時間で削除された状況で、被告会社の取引先から本件投稿に関する問い合わせがない場合又はそれを立証できない場合には、当該要件の充足の判断は異なったかもしれない。
 次に、「故意又は過失」の要件については、本判決は、原告は本件投稿が行われた当時、被告製品について文言侵害が成立しない可能性を認識していたこと、本件投稿は、原告から被告会社に対する警告書(甲8)の送付前に行われたものであって、被告会社の特許権侵害に関する認識を確認することなくされたこと、原告において被告製品が本件発明の技術的範囲に属すると判断したことが合理的な根拠に基づくものであったと認めるに足りる証拠がことから、少なくとも過失があると判断した。
 この点について、原告は、顧問弁護士及び顧問弁理士から、被告製品が本件特許権を侵害する旨の見解を得ていたとして故意・過失がない旨を主張したが、本判決は、「仮に原告が何らかの見解を得ていたとしても、被告会社の見解を全く確認することなく本件投稿を行ったことを正当化する事情にはならず、このような事情も過失を否定する事情にならないというべきである。」と述べた。このように、本判決は、被告会社の特許権侵害に関する認識を確認することを重要な要素であると考えている点は参考になる。
 このように、本判決は、詳細に不正競争防止法2条1項21号の判断過程を示しており、実務上参考になる。

 

以上
弁護士 山崎臨在