知財高裁令和7年4月24日判決(令和6年(ネ)10029号)

【ポイント】

研究ノートにより発明者を認定した事例

【キーワード】

 発明者

 研究ノート

 職務発明

 特許法第35条

第1 事案

 本件は、第一審原告が第一審被告会社及びその代表者である第一審被告(個人)に対し、被告らが出願した発明(下記判旨における「本件発明1-3」。)は、第一審被告(個人)が原告に在籍中に完成させた職務発明であると主張して、原告が当該発明について特許を受ける権利を有することの確認を求める事案の控訴審である。

 主な争点は、誰が本件発明の発明者であるかであり、ひいては、第一審被告(個人)の当該発明の原告における職務発明性である。この争点の判断で重要な証拠となったのが、訴外A教授の研究ノート(下記判旨における「乙第49号証」。)であった。

第2 当該争点に関する判旨(裁判所の判断)(*下線等は筆者)

 (5) 本件発明1-3の発明者について

 ア 発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうところ(特許法2条1項)、発明者といえるためには、当該発明における技術的思想の創作行為に現実に関与したこと、すなわち、技術的思想の創作行為、とりわけ従前の技術的課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与することが必要である。

 イ 前記(1)によれば、本件発明1-3の特徴的部分は、血管内の瘤の破裂を予防するため瘤を塞栓するプッシャワイヤとメッシュ部とを備えた血管プラグにおいて、サイズの異なる複数の血管プラグを用意しなければならず、また、メッシュ部の急激な拡張により瘤を損傷する危険があるという課題があったため、ステントの先端部が、非収納時には、カテーテルの先端部から押し出され、外向きにカールしながら拡張する構成を採用したこと、それにより、ステントが分岐部動脈瘤の大きさに合わせ形状を変化させるため、瘤に対するサイズの自由度が高く、また、ステントがカテーテルの先端部から一定以上突出しないため、急激な拡張により分岐部動脈瘤に損傷を与えないことにある

 そして、乙第49号証の20頁右側には、血管の分岐部における瘤内で、カテーテルから押し出されたWEBの先端が硬いことによる外傷について記載され、また、本件明細書の【図6B】と同様の先端が尖ったWEBが示されているから、本件発明1-3が解決しようとする課題のうち、分岐部血管瘤の損傷のおそれが記載されている。次に、21頁左側には、WEBの先端部が、カテーテルの先端部から押し出され、外向きにカールしながら展開する本件発明1-3の請求項1及び【図3B】ないし【図3D】に対応する図面が示されている。さらに、21頁右側には、「発明した‘web’又はメッシュボール」において、尖りが少なく、サイズの許容度をより得られるという本件発明1-3の効果に相応する記載がみられる

 そうすると、乙第49号証には、本件発明1-3の課題と解決手段が明確に記載されており、本件発明1-3の特徴的部分の完成に現実的に関与したのは、A教授と認めるのが相当である

 ウ 第1審原告は、第1事件被告らにおいて、本件発明1-3の発明者がA教授であると主張することは禁反言により許されない旨主張するが本件は、使用者において従業員を発明者として記載して特許出願をしながら、当該従業員からの職務発明対価請求訴訟の場面において当該従業員が発明者であることを一転して否定するような事案ではないのであって、第1審被告らの主張が当然に禁反言により許されないとはいえない

 また、第1審原告は、第1審被告Y1やA教授の陳述が変遷している旨主張するところ、確かに、第1審被告Y1(原審陳述書が乙10、当審陳述書が乙47)、A教授(原審陳述書が乙19、当審陳述書が乙46)とも、本件発明1-3につき、原審では、A教授がアイデア(発明の種)を与え、それに基づき第1審被告Y1が発明した旨陳述しており、当審とは陳述に変遷があることは間違いのないところであるしかしながら、本件発明1-3は臨床上の知見がなければ課題の発見と解決手段の発見には至らないものであり、上述のとおりA教授が臨床経験豊富であるのに対し、第1審被告Y1にそのようなバックグラウンドがあるとは認められない。また、原審では第1審被告Y1の職務範囲が大きな争点となっていたところであり、第1審被告Y1の原審陳述書である乙第10号証に本件発明1-3の具体的内容が記載されていないことに鑑みれば、乙第10号証や乙第19号証は発明者につき単に評価を誤ったものともいえる。仮に第1審被告Y1及びA教授の原審の陳述に虚偽があるとしても(A教授は第1審被告Y1との個人的関係から同人名義での出願を容認はしていることになる。)、本件PCT出願2の優先権主張の日の前の本件発明1-3の発明の経緯に関する客観的証拠である乙第49号証が存在する状況のもとでは、陳述の変遷は、事実として誰が本件発明1-3の発明者であるかの認定判断に決定的な影響を及ぼすものとはいえない。

 さらに、第1審原告は、第1審被告Y1の業務メモである甲第93号証に、平成27年頃には既に、本件発明1-3の特徴的部分であるステントの先端が外向きに三次元的にカールする形態が示されているから、本件発明1-3の発明者は第1審被告Y1である旨主張するが、当該図面は以下のものであるところ、ここからは、そもそもどのような器具であるのか、何らかの課題がありそれを新たに解決するものであるかを全く読み取ることができず、これは、この図の上部にある文字部分を参酌しても同様である。まして、この図からは、カテーテルの先端のステントが外向きに三次元的にカールするという動きのある構成を読み取ることはできない。第1審原告の主張は採用できない。

(省略)

 (6) そうすると、その余の争点について判断するまでもなく、本件発明1-3の職務発明性が認められない(第1審被告Y1が本件発明1-3の発明者とはいえない)から、その職務発明性について本件発明1-3の職務発明性に従うとされた本件発明1-2についても職務発明とは認められず、請求1-2は理由がないことになる

第3 検討

 本件は、研究ノートにより発明者を認定した事案である。

 前提として、原審(東京地裁令和6年1月22日判決・令和4年(ワ)70139号/令和5年(ワ)70009号)では、本件発明は原告の業務範囲に含まれ、かつ、当時の第一審被告(個人)の職務範囲に属するとして、職務発明性を認め、第一審原告の請求を認めた。そして、原審では、第一被告側が、第一審被告(個人)が発明者であると主張していたこともあり、本件発明の発明者が誰であるかは争点とされていなかった。しかし、控訴審において、第一審被告側は、A教授が本件発明の発明者であると主張した。

 本判決は、まず、発明者について、「発明者といえるためには、当該発明における技術的思想の創作行為に現実に関与したこと、すなわち、技術的思想の創作行為、とりわけ従前の技術的課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与することが必要である。」と従来と同様の内容を提示した。

 そして、本判決は、発明者の認定では、まず、本件発明の課題、解決手段及び特徴的部分を認定し、その後に、A教授の研究ノートに、同様の課題や解決手段が記載されていたので、「本件発明1-3の特徴的部分の完成に現実的に関与したのは、A教授と認めるのが相当である」と判断した。

 次に、上記のように、第一審被告側が、本件発明の発明者について、原審では第一審被告(個人)であると主張していたにもかかわらず、本件控訴審ではA教授であると主張したが、この点について、本判決は、「本件は、使用者において従業員を発明者として記載して特許出願をしながら、当該従業員からの職務発明対価請求訴訟の場面において当該従業員が発明者であることを一転して否定するような事案ではないのであって、第1審被告らの主張が当然に禁反言により許されないとはいえない」と述べた。発明者の認定は評価が伴うものであり、発明者がA教授であることを示すA教授の研究ノートという客観的証拠がある以上、誰が発明者であるか変遷があったとしても、客観的証拠が示す発明者を認定することは妥当であると考えられます。

 また、発明者の「使用者において従業員を発明者として記載して特許出願をしながら、当該従業員からの職務発明対価請求訴訟の場面において当該従業員が発明者であることを一転して否定する」場合は、禁反言により許されえない点を示唆しており、興味深い。

 以上のように、本判決は、発明者の認定における研究ノートの重要性を示唆しており、また、当事者において誰が発明者であるかに関し変遷があった場合の検討が示されているので、参考になる事案である。

以上

弁護士 山崎臨在