【令和7年2月27日(大阪高裁 令和6年(ネ)第1431号)】

 

【ポイント】

 映画の脚本作成に携わった脚本家が自ら作成した脚本が変更されたことについて、同一性保持権侵害を主張したが、それが認められなかった事案

 

【キーワード】

著作権法20条
同一性保持権
脚本

 

第1 事案

 本件は、一審原告が一審被告に対して、一審原告が作成した脚本原稿(第10稿)を、一審被告が、一審原告に無断でその内容を改変して第12稿を作成したことについて、第10稿についての著作者人格権(同一性保持権)を侵害したと主張し、一審原告が、一審被告に対し、不法行為に基づく損害賠償等を求めた事案の控訴審である。
 なお、原審は、同一性保持権侵害を認めて、一審原告の請求を一部認めた(大阪地裁令和6年5月30日判決・令和5年(ワ)531号)。

 

第2 当該争点に関する判旨(裁判所の判断)(*下線等は筆者)

2 一審原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害の有無(争点1)について
 (1) 一審被告が第10稿から第11稿への変更を経て作成した第12稿が、一審原告が有する第10稿についての同一性保持権の侵害に該当し得る改変に当たることは、以下のとおり補正するほかは、原判決9頁1行目の「同一性保持権を侵害する行為とは」から同頁18行目末尾までに記載のとおりであるから、これを引用する。
 ア 原判決9頁2行目の「改変を加える」を「意に反して改変を加える」に改める。
 イ 原判決9頁10行目の「第10稿から第12稿に至るまで」を「第10稿から第11稿への変更を経て第12稿に至るまで」に改める。
 ウ 原判決9頁12行目の「後記(2)認定のとおり」を削る。
 (2) そうすると、一審被告が第10稿から第11稿を経て第12稿を作成するに至る過程でした第10稿の変更行為(本件変更)は、これが一審原告の意に反するものであるならば、一審原告が有する第10稿についての同一性保持権を侵害する行為に該当するが、この点につき、一審被告は、一審原告が第10稿を加筆、修正して変更することについて同意していたとして、本件変更をした行為は、同一性保持権を侵害する行為には当たらない旨を主張する。
 そこで、一審被告が第10稿を加筆、修正して変更した第12稿を作成した一連の経緯についてみると、前記前提事実に加え、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。
(省略)
 (3) 以上認定の事実によれば、一審被告は、一審原告も同席する本件打合せ〈1〉の席において、本件映画のプロデューサーであるX5から本件映画の脚本家に加わるよう依頼され、一審原告も一審被告が脚本家として連名となることに同意したこともあって、その依頼を承諾し、第10稿を加筆、修正して第11稿を経て第12稿を作成する作業を行うことになったと認められるが、その関係は、法的には一審被告が脚本家として本件映画のプロデューサーから映画制作のために第10稿の見直し作業の業務委託を受けてこれを履行した関係であるといえる。そして、令和3年8月14日の本件打合せ〈1〉以後にされた第8稿から第10稿に至る変更作業は同日から同月19日までの5日程度で済んでいるのに対し、一審被告による第10稿から第11稿への変更作業はその後2か月にも及ぶ期間を要していることその作業期間中の直接の変更作業を一審被告が単独でしていたこと(原判決別紙認定事実No.22ないし42)や、一審被告がその作業期間中、何らかの創作を伴う変更を加えようとしていることは、一審原告に対する調査依頼等の内容からも理解できたはずのものであること(原判決別紙認定事実No.28から32のやりとりからは、一審被告が創作行為をしていたことは十分うかがわれる。)、そうであるのに、一審原告は、これに異議を述べることなく一審被告の作業に協力していたことが認められるから、以上によれば、一審原告は、一審被告が、第10稿を一審被告としての創作も加えながら加筆、修正をして変更することを容認していたと認めるのが相当である
 その上、一審原告は、第10稿から第11稿へ変更した一審被告の加筆、修正についての不満をX3に伝えながら、X3から、本件打合せ〈2〉を受けて第11稿を加筆、修正する作業を一審被告が担当することを聞かされ、それが第11稿を破棄して第10稿に戻すだけであるという単純な作業でないことは想定できるのに、なお一審被告が単独で第11稿に加筆、修正をして第12稿とする作業をすることを容認していたことも明らかである。
 以上を総合すると、一審原告は、一審被告が、本件映画の脚本制作のため第10稿から第12稿に至る加筆、修正作業をすること自体は同意していたと認めるのが相当である
 (4)ア 一審原告は、令和3年8月14日の本件打合せ〈1〉で一審被告が脚本家に加わったのは、映画のキャスティング、原作者の許諾、資金集め、集客等のためであり、一審被告の作業は、一審原告の脚本の歴史考証やこれに伴うチェック等にとどまると主張し、その旨供述しており、また、一審被告に脚本家として加わることを求めたX5も上記主張の目的が含まれている趣旨を証言している。
 しかしながら、上記X5の証言は、上記内容にとどまらず、一審被告が脚本家としての創作性を発揮して加筆、修正することを期待していたことにも及んでいるし、なにより一審被告としては、脚本家としての自らの名前を、出演を引き受ける俳優のみならず一般の映画鑑賞者に対して表示する以上、脚本家として加筆、修正を加えて納得のいく脚本を完成させようとすることは当然予想されるところであって、そのことは一審原告自身も理解していたものと考えられる。そして、一審被告が脚本家として加わることが決まった本件打合せ〈1〉において、一審被告は脚本家として名前が使われるだけで脚本家としての創作的な活動は不要であるとか、脚本家としての創作を制限するなどの話がされた事実が認められるわけではない上、現に上記のとおり、一審被告が第10稿に創作的部分が加わる加筆、修正をしようとしていたことを一審原告は容認していたとしか理解できないから、脚本家として加わった一審被告がする作業が一審原告の脚本の歴史考証やこれに伴うチェック等にとどまるものに限定されていたようにいう一審原告の上記主張は採用できない。
 イ 次いで、一審原告は、一審被告が第10稿を加筆、修正するとしても、第三者に提供する場合には、事前に一審原告の確認、承諾を得なければならないように主張する。
 確かに、第10稿を見直すことで完成する脚本は、一審原告と一審被告とが脚本家として名を連ねるものとなる以上、加筆、修正の作業を一審被告主体で進めるとしても、映画撮影前のいずれかの段階で一審原告との調整は必要であるところ、X3及びX5の供述によれば、両名とも、一審原告と一審被告の従来からの関係からして、一審被告の加筆、修正の作業中に両名の間で当然そのような調整がなされ、一審被告から提出される脚本原稿は、一審被告と一審原告とで意見が一致したものと考えていた様子がうかがえる。
 しかし、本件打合せ〈1〉において一審被告が本件映画の脚本家として加わることが決まった際にも、また、その後においても、そのような加筆、修正作業の進め方についての細かな話がされた事実は認められず、一審原告の主張によっても、一審原告自身、第8稿から第10稿に至る原稿の見直し作業と同様に、第10稿以降の加筆、修正作業も当然一審原告の確認を経て外部に提供されると考えていたというだけであって、一審原告主張に係る合意がされた事実を認めるに足りる証拠があるわけではない。
 したがって、一審被告が、第10稿から第12稿に至る加筆、修正作業をすること自体が同意されていたと認められる以上、第10稿を加筆、修正した脚本原稿を映画監督であるX3及び映画プロデューサーであるX5ら本件映画制作者側に提供するに当たり、事前に一審原告の確認、承諾を得ていなかったとしても、そのことから遡って、一審被告が一審原告の同意の下に行っていた上記加筆、修正作業が一審原告の意に反するものとなるわけではない。
(省略)
 (5) 小括
 以上によれば、一審原告が作成した第10稿に本件変更を加えて第12稿を作成した一審被告の行為は、一審原告が同意している行為の範囲内で行われたと評価できる以上、その限度において、本件変更は一審原告の意に反する改変ではなく著作者人格権(同一性保持権)侵害には当たらないといえるから、著作者人格権(同一性保持権)侵害を理由とする一審原告の一審被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がないというべきである。

 

第3 検討

 本件は、映画の脚本作成に携わった脚本家が、同様に当該脚本作成に携わった脚本家に対して、自ら作成した脚本が変更されたことについて、同一性保持権侵害を主張したが、同一性保持権侵害が認められなかった裁判例である。
 まず、本判決は、一審原告が作成した第10稿を変更等した一審被告の行為は、同一性保持権を侵害する行為に該当すると判断した。
 そして、当該行為が「意に反して」(著作権法第20条1項)なされたかが争点となったが、本判決は、黙示的な同意があり、「意に反」するものではないので、当該行為は同一性保持権侵害に当たらないと結論付けた。
 具体的には、本判決は、一審被告は脚本家として第10稿の見直し業務を委託されたことや一審被告の変更作業は単独でなされ長期に及んだこと、一審原告はそのような事情を分かっていたはずにもかかわらず、特に異議を述べることなく一審被告の作業に協力していたことが認められることから、一審原告は、一審被告の当該行為について同意していたと判断した。
 このように、本判決は、脚本の変更に明確な同意がない場合における意思解釈をしており、同意の意思解釈の具体的判断過程が実務上参考になる。

 

以上
弁護士 山崎臨在