【令和7年10月16日(知財高裁 令和7年(ネ)第10037号)】
第1 事案の概要
原告X1・X2らは、被告Yの氏名・顔写真等を用いて批判的内容を含む動画(本件各動画)をYouTubeに投稿していた。これに対し被告は、YouTube運営者であるグーグルに対し、著作権侵害通知フォーム、プライバシー侵害通知フォーム及び名誉毀損通知フォーム(本件各通知フォーム)を用い、自身の著作権侵害・プライバシー権侵害・名誉毀損があるとする通知(本件各通知)を行った。
原告らは、これらの通知により動画が削除等の措置を受けたとして、本件各通知は虚偽又は制度の濫用に当たり、表現活動・事業活動を不当に妨害する不法行為であると主張し、民法709条に基づく損害賠償を求めた。第1審は請求を棄却し、原告X1・X2が控訴した。
第2 裁判所の判断
知財高裁は、原審と同様に、本件各通知はいずれも原告らに対する不法行為を構成しないと判断した。
まず、YouTubeの利用規約及びDMCA型の手続に照らし、グーグルは著作権侵害通知フォームによる申請内容について一定の審査を行っており、実際に被告の申請が却下された例もあることから、フォームに必要事項が記載されたからといって機械的・無条件に削除しているとはいえないと認定した。また、利用規約上、契約違反や第三者に損害を与える場合には、グーグルが独自の裁量でコンテンツを削除できることも重視した。
そのうえで、権利侵害の疑いがある場合にグーグルへ通知する行為自体は原則として違法とはいえず、著作権以外の権利侵害の疑いがある場面で誤って著作権侵害通知フォームを用いたとしても、それだけで直ちに動画投稿者に対する不法行為とはならないとした。不法行為が成立するのは、主として制度を利用した嫌がらせや競業者排除など、専ら不当な目的による通知が認められるような場合に限られると解した。
本件については、原告らの動画において被告の氏名・顔写真が無断で使用され、強い批判的表現が反復されていた事実が認められることから、被告には一定の権利侵害の疑いを認識し得る相応の事実的基礎があったと評価した。被告はパブリシティ権等を問題としながら著作権侵害通知フォームを用いており、フォームの選択は適切とはいえないものの、その誤りのみをもって過失を肯定することは相当でないとされた。
プライバシー侵害通知フォームについても、利用規約上、法律上のプライバシー権侵害に限定されていないこと、本件動画の一部に被告の氏名が使用されていたことなどから、虚偽の事実に基づく通知とまではいえず、専ら不当な目的も認められないとした。
名誉毀損通知フォームについては、対象動画中に、被告を詐欺と断定する表現や、人格的評価を著しく低下させうる侮辱的文言が含まれていたことを踏まえれば、少なくとも名誉毀損・侮辱を構成し得る内容であり、これを前提とした通知は直ちに不法行為とはいえないとした。
以上を総合し、原告らの請求はいずれも理由がないとして控訴を棄却した。
第3 コメント
本判決は、プラットフォーム上の権利侵害通知が不法行為となるための判断枠組みを具体化した点で、実務上参考になるといえる。とりわけ、通知フォームの選択ミスや法的評価の誤りがあっても、権利侵害の疑いに一定の事実的基礎があり、プラットフォーム側に独自の審査・裁量が存在する場合には、直ちに通知者の不法行為責任を認めるべきではないとした点に、明確なメッセージがある。
他方で、本判決は、大阪高裁令和4年判決のような露骨な制度濫用事案を排除しうる余地も維持しており、専ら不当な目的の有無を中核要件として位置付けている。このため、今後の実務においては、①通知に先立つ事実調査や法的検討の程度、②通知内容の真実性・相当性、③通知後の対応態度(問い合わせへの応答など)、④競業関係や因縁の有無等を総合考慮して、専ら不当な目的が認められるか否かを丁寧に検討することが重要となる。
権利侵害通知制度を萎縮させることなく、表現活動の自由との調整を図るという観点から、本判決の整理は今後のインターネット上の紛争処理において参考になる裁判例であると評価できる。
弁護士 多良翔理

