【令和7年10月30日(知財高裁 令和7年(ネ)第10039号)】
第1 事案の概要
被控訴人楽天グループ株式会社は、インターネットショッピングモール「楽天市場」を運営し、出店者との間で出店契約(本件契約)を締結していたところ、A名義で出店していた店舗につき、後にその契約上の地位を承継した控訴人合同会社Vegaが、本件商品とされるコスプレ用衣装を販売していた事案である。
被控訴人は、控訴人らが販売する商品につき任意の調査購入を行い、当該衣装に付された「M」「L」の表示が、訴外任天堂株式会社の登録商標と酷似し、同社の商標権を侵害するとの鑑定結果報告書を受領した。このため、被控訴人は、楽天市場出店規約及び違反点数ガイドラインに基づき、控訴人に違反点数を付与するとともに、本件契約を解除し、違約金10万円を徴収した。
これに対し控訴人は、違反点数ガイドライン上のSTEP2に定める「修正対応期間」の付与が、解除権行使を制限する特約であるにもかかわらず、被控訴人はこれを経ることなく一方的に契約解除したから、解除は無効であると主張した。また、本件商品は購入後全てキャンセルされ社会に流通しておらず、商標の「使用」にも当たらないか、仮に違反があるとしても軽微であるとして、継続的契約の法理に照らしても解除には正当な理由がないと主張した。
控訴人は、①本件契約が現在も有効に存続することの確認、②契約解除により楽天市場での販売ができなくなったことに伴う逸失利益等につき債務不履行に基づく損害賠償(期間を区切った主位的請求及び遅延損害金)、③徴収された違約金10万円の不当利得返還及び利息の支払を求めた。原審・静岡地裁浜松支部は控訴人の請求を棄却し、これを不服とする控訴人が控訴したのが本件である。
第2 裁判所の判断
1 解除権行使制限特約の有無(争点1)
知財高裁は、楽天市場出店規約26条1項に基づき契約を解除する場合に、違反点数ガイドライン上の「修正対応期間」を設けることが解除権行使の制限特約として合意されていたとは認められないと判断した。出店規約とガイドラインの文言構造や、ガイドラインが内部的運用基準としての性格を有することなどを踏まえ、解除権の行使自体をガイドラインの全てのステップの履践に条件付ける趣旨に解すべきではないとした原審の論理を是認したものである。
さらに、仮に一般論として修正対応期間を設けることが解除権行使の要件となり得るとしても、本件ではこれを不要とする特段の事情があると判断した。具体的には、控訴人らが販売した本件商品のうち1点は実際に市場に一定期間流通しており、第三者の登録商標と酷似する標章を付された商品であることから、他人の商標権を侵害するおそれが現実化していた点を重視している。そして、「結果的に流通量が少なかったことは法令違反の重大性を考える上で重視すべきでない」として、実際の流通量の多寡は違反の重大性を減殺しないと判示したのであり、この点でも原審の判断を引用・維持した。
2 継続的契約の法理による解除権行使の制限(争点2)
知財高裁は、楽天市場出店契約が継続的契約であることを前提に、解除には「正当な理由」を要するとしつつも、本件では当事者間の信頼関係が破壊されたと認められるから、当該正当理由があると判断した。
まず、控訴人らが販売した本件商品について、本件商標権に係る商標と本件商品に付された標章が酷似していることは明白であり、しかも、本件商標権者である訴外会社が被控訴人に対し、当該商標権侵害を指摘する鑑定結果報告書を提出していることを重視した。裁判所は、この事情から「その商標権侵害の可能性は極めて高いといえる」として、被控訴人の認識・対応が単なる権利者の私的見解を鵜呑みにしたものではないと明確に退けた。
次に、控訴人は、本件商品は購入後に全てキャンセル処理され社会に流通していないから商標の「使用」には当たらないと主張したが、裁判所は、商標法2条3項1号・2号を引用しつつ、商品に標章を付す行為および標章を付した商品をインターネット上の店舗で販売する行為は、いずれも同項所定の「使用」に該当すると解した。そして、控訴人代表者および控訴人が、本件商標権と類似する標章を本件商品に付し、楽天市場上の店舗において販売した事実を前提に、「当該付する行為は商標法2条3項1号に、当該販売行為は同項2号に該当することが明らかである」として、商標権侵害の違法性を肯定した。キャンセル処理の有無や実際の流通量は、「使用」該当性を左右しないとした点が明確である。
さらに、控訴人は、令和2年10月に契約更新がなされたにもかかわらず、その約1か月後に契約が解除されたことは背信的であると主張し、また違約金が最大300万円まで設定可能であるのに本件では10万円の請求にとどまることから、被控訴人自身が違反を重大と考えていなかったと主張した。しかし裁判所は、商標権侵害が「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処され、又は併科される重大な犯罪」であることを指摘し、本件商品の販売行為は重大な違反行為であると評価した。そして、契約更新から短期間で解除に至ったことや違約金額の水準は、その重大性判断を左右しないとし、「本件契約の解除に『正当な理由』があるといえ」と結論付けた。
3 違約金賦課における修正対応依頼の要否(争点3)
違約金の賦課に際し、違反点数ガイドライン上の修正対応依頼を要件と解すべきかについて、裁判所は、本件契約の文言・構造から、違約金を課す上でも修正対応依頼を要件とする旨の合意は認められないと解した。出店規約とガイドラインの規定関係に照らせば、違約金は一定の違反行為と違反点数の付与によって発動し得るものであり、修正対応期間を経ることを要件として読み込むことは相当でないとした原審の判断を維持している。
4 結論
以上のとおり、知財高裁は、解除権行使の制限特約の不成立及び特段の事情の存在、継続的契約としての信頼関係破壊に基づく正当理由の存在、並びに違約金賦課に修正対応依頼を要件とすることの否定等を理由として、本件契約の解除の有効性を認めた。その結果、控訴人の確認請求、損害賠償請求及び不当利得返還請求はいずれも理由がないとして、控訴を棄却し、原判決を維持した。
第3 コメント
本判決は、モール型プラットフォームにおける出店規約と内部ガイドラインの法的効力を峻別し、ガイドラインの存在が直ちに解除権の制限となるわけではないことを明確に示した点で参考になる。また、オンライン販売における商標法2条3項の「使用」概念を明確化し、出品段階で標章を付した商品の販売行為が直ちに使用に該当し得ると整理した点にも意義がある。
さらに、知財侵害に関与した出店者については、継続的契約における信頼関係が容易に破壊され得ると判断し、モール運営者による迅速な対応が正当化されやすいことを示した。プラットフォーム運営実務におけるリスク管理や規約整備のあり方を検討する上で、実務上参考になる裁判例といえる。
弁護士 多良翔理

