【令和7年7月24日 (知財高裁 令和6年(行ケ)第10025号)】
【キーワード】
商法法3条1項3号
【事案の概要】
原告は、指定役務を第35類[1]や第41類[2]の役務として、「沖縄コレクション」の標準文字からなる商標(以下「本願商標」という。)について商標登録出願をしたが、拒絶査定を受けたため、拒絶査定不服審判を請求した。特許庁は、これについて「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。本件は、原告が当該審決の取消しを求めて提起した審決取消訴訟である。
【争点】
本願商標が商標法3条1項3号の商標に該当するか。
【判決(一部抜粋)】(下線は筆者が付した。以下同じ。)
第1省略
第2 事案の概要
1 省略
2 本件審決の理由の要旨(詳細は別紙「本件審決の理由」のとおり)
本願商標をその指定役務中、ファッションショーに関係する役務に使用した場合、これに接する取引者、需要者に「沖縄で開催される有名デザイナーなど の発表する発表会、ファッションショー」ほどの意味合いを認識させるに止まるから、本願商標は、単に、役務の質(内容)を表示するにすぎず、自他役務 識別標識としての機能を果たし得ないものというべきである。
したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当する。
第3 当事者の主張 省略
第4 当裁判所の判断
1 商標法3条1項3号該当性について
⑴ 判断基準
商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、指定商品又は指定役務との関係で、商品の産地、販売地、品質その他の特徴等、役務の提供の場所、質その他の特徴等を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品・役務識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによる(ワイキキ商標事件最高裁判決参照)。
そうすると、出願に係る商標が、その指定役務について、同号にいう役務の提供の場所、質その他の特徴(以下「役務の特徴」という。)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、当該商標が当該役務との関係で役務の特徴を表示記述するものであり、当該商標が当該役務に使用された場合に、取引者、需要者によって、将来を含め、役務の特徴を表示したものとして一般に認識されるものであれば足りるものと解される。
⑵ 本願商標について
ア 本願商標「沖縄コレクション」を構成する文字中、「沖縄」は「日本最南端の県。沖縄本島をはじめ琉球諸島を管轄。県庁所在地は那覇市。」を意味する語である(乙1・広辞苑第七版)。また、「コレクション」は、英語の「collection」の日本語表記であり、①「趣味として集めること。収集。」、②「収集品。特に美術品・骨董品・書物などの収集品。」のほか、③「有名デザイナーなどの発表する、そのシーズンの一連の新作。また、その発表会。」(乙3・広辞 苑第七版)を意味する語である。英語の「collection」も、「(服飾の)コレクション、新作品(発表会)≪デザイナーが1シーズンに売り出す衣服の全部≫」の意味を有している(乙2・新英和中辞典第7版)。
イ そして、ファッション、アパレル業界においては、パリ、ミラノ、ニュ ーヨーク、ロンドンの世界4都市でそれぞれ開催される「ファッションウィーク」(ある一定期間のうちに多数のブランドがファッションショーや最新のコレクションを発表する期間、又はそのイベントの総称)がその取引者、需要者に広く知られており、これらのイベントは、日本国内では「世界4大コレクション」と呼ばれたり、各都市名を採って「パリコレクション」「ミラノコレクション」などと呼ばれたりするのが一般的となっている(乙4、5)。また、日本国内では、東京ファッション・デザイナー協議会が立ち上げ、2020年春夏コレクションからは「Rakuten Fashion Week TOKYO」の名称で開催されているファッションイベントが「東京コレクション」と呼ばれている(乙5)。
⑶ 本願商標の指定役務に係る取引の実情等
本願商標の指定役務(商標法6条2項)は、商標法施行令2条の規定による商品及び役務の区分に属する商品又は役務として商標法施行規則6条、別表で定める第35類「広告業」及び同第41類「興行の企画・運営又は開催 (映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」(以下単に「興行の開催等」という。)を含むものであり、「広告業」には、「広告のための商品展示会、商品見本市の企画又は運営」が含まれている(同規則別表・第35類「一広告業」(六))。以下、この「広告のための商品展示会、商品見本市」を「商品展示会等」という。)。
これらの指定役務に係る商品展示会等の役務の取引者、需要者は、商品展示会等の目的に応じ、その商品や役務に関係する取引業者、販売業者又は一般消費者であり、興行の開催等の役務の需要者もその役務に関係する取引業者や一般消費者であると認められる。
そして、本件審決時における、これらの指定役務に関する取引の実情として、前記⑵イに加え、以下の事実が認められる。
ア 沖縄県内で開催された、デザイナーや服飾関係の業者、団体により開催 されたファッションショー(服飾に係る商品展示会等に当たると認められる。)や、モデルがランウェイを歩くといったファッションショーを模し た企画を含むイベント(興行に当たると認められる。)の名称として、 「沖縄コレクション2023」(乙8)、「沖縄コレクション2010」(乙9)、「OKINAWA COLLECTION (オキナワコレクション)2008」(乙10)の名称が用いられている。
イ 沖縄県以外の地域において開催された、前記ア同様のファッションショーや、ファッションショーを模した企画を含むイベント(商業目的以外と窺われるものを含む。)の名称として、開催地の地域名と「コレクション」を組み合わせた、以下の名称が用いられている。
「KSC 九州コレクション 2024」(乙12)
「九州コレクション2022」(乙13)
「福岡コレクション」(乙16)
「99春夏福岡コレクション」(乙17)
「横浜コレクション2016~SpringSummer~」(乙18)
「ヨコハマコレクション2015」(乙19)
「みんなの四国コレクション」(乙20)
「松山コレクション2024」(乙22)
「HAKODATE COLLECTION(函館コレクション)2023」(乙23)
「いしかわコレクション2023」(石川県金沢市で開催、乙24)
「仙台コレクション2016」(乙26)
「KYOTO COLLECTION(京都コレクション)」(甲10の15)
ウ 前記ア、イの名称の多くが新聞等で報道されているほか(乙8~10、 20 13、16~24、26)、特定の地域で開催されたファッションショー(商業目的以外と窺われるものを含む。)について報道する新聞等において、「Pray for Peace Collection 2024 in 沖縄」について「子供と平和 を願う『沖縄コレクション』」(乙6)、「NDC(日本デザイナークラブ)九州’98-’99秋冬コレクション」について「NDC九州コレクション」(乙14)、「福岡アジアコレクション(FACo)」について 「福岡コレクション」(乙15)、市民文化団体「長崎コレクション」が企画したミニファッションショーについて「長崎コレクション」(乙25)といった略称が用いられている。
エ ファッションショー以外の商品展示会等に係る、以下の事例がある。
(ア) 東京都内で開催された北海道の物産展の名称として「北海道コレクション HOKKAIDO COLLECTION」(甲9の1)
(イ) 横浜市内で開催された北海道幌加内町の物産展の名称として「北海道コレクション」(甲9の2)
(ウ) プラグスマーケット四日市店が店内に設けた、三重県産の飲食品等 を販売するコーナーの名称として「プラグス三重コレクション」(甲9の3)
(エ) 東京都内で開催された滋賀県主催の物産展の名称として「まるごと滋賀コレクション」(甲9の4)
(オ) 神奈川県横須賀市で開催された、「横須賀に関連するアニメ・ゲー ム・マンガ作品、乗り物、郷土研究等オンリー同人誌即売会」の名称として「スカこれ!10~横須賀これくしょん~」(甲10の3)
(カ) 沖縄県内のデパートで開催された、かりゆしウェアや同県の伝統織物などの展示即売会の名称として「OKINAWAコレクション」(乙7)
(キ) 沖縄県南城市の工芸作家が中心となって作品の展示、販売等を行う企画の名称として「OKINAWA Collection クラフトフェア沖縄」(乙11)
オ 「興行」に係る、以下の事例がある。
(ア) 千葉県柏市が主催した「私たちの70年・柏コレクション写真展」 (甲10の2)
(イ) モデル事務所が高松市で共同開催したタレント発掘のための「四国コレクション-四国の若きチカラ発信オーディション」(甲9の5、乙21)
(ウ) 沖縄県北部で開催された芸術祭の企画展示名「ホテル アンテルーム 那覇コレクション」(甲10の7)
⑷ 判断
以上のとおり、本願商標を構成する「コレクション」は、一般に「有名デザイナーなどの発表する、そのシーズンの一連の新作の発表会」を意味するものとして使用されることがある語であって、これと代表的な開催地の地名を結び付けた「パリコレクション」などの語は、その地で開催されるファッションウィークの日本国内における呼び名として、ファッションに関係する役務の取引者、需要者に広く知られていると認められる。
加えて、本願商標の指定役務に係る商品展示会等又は興行の開催等に含まれる、ファッションショーやファッションショーを模した企画を含むイベント(商業目的のもの、商業目的以外のもの)については、開催地の地名に続けて「コレクション」の文字を組み合わせた名称が広く用いられており、新聞等においても、これらのファッションショーやイベントが当該名称とともに報道されている。その他、特定の地域で開催されたファッションショーについて、開催地の地名に続けて「コレクション」の文字を組み合わせた略称が、記事中で用いられている実情が認められる。
このような本願商標の構成文字の語義及び本願の指定役務に関する取引の実情を踏まえると、本願商標「沖縄コレクション」は、その指定役務に含まれるファッションショーや、ファッションショーの要素を伴うイベントの企画、運営、開催について使用された場合、本願商標の指定役務である商品展示会等又は興行の開催等の取引者、需要者に、「沖縄で開催される、ファッ ションショー又はファッションショーを模した企画を含むイベント」という、役務の提供の場所及び役務の質(内容)を表示記述するものと一般に認識されると認められる。
このような本願商標は、ファッションショーや、ファッションショーの要素を伴うイベントの企画、運営、開催に係る役務の取引に際し、役務の特徴(特に提供の場所及び役務の内容)を表すための必要適切な表示として、何 人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、多くの場合自他役務識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることが明らかである。
そうすると、「沖縄コレクション」を標準文字で表した本願商標は、少なくともその指定役務に含まれるファッションショーや、ファッションショー の要素を伴うイベントに係る役務につき、当該役務の特徴を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法3条1項3号に該当する。
2 原告の主張に対する判断
⑴ 原告は、本願商標の指定役務のうち、ファッションショーを取り扱わない役務に係る取引の実情や需要者等の認識をも考慮すべきである旨主張する。
しかし、出願商標の指定商品・役務の中の一部に登録を受けることのできないものがあれば、出願の分割ないし手続補正により当該登録を受けることのできない指定商品・役務が削除されない限り、その出願は全体として登録を受けることができないと解される(東京高裁昭和59年9月26日判決・ 無体集16巻3号66頁参照)。本願商標は、指定役務の少なくとも一部について商標法3条1項3号に該当する以上、全体として登録を受けることが できない。
なお、原告は、ワイキキ商標事件最高裁判決を引用するが、同判決は、複数の商品(せっけん類、歯みがき、化粧品、香料類)を指定商品とする「ワイキキ」の片仮名文字からなる商標について、少なくとも花香水を含む化粧品類についてはワイキキの土産品として生産され、広く現地の販売店において販売されていることが認められる事案において、商標法3条1項3号該当性及び同法4条1項16号該当性を認め、登録無効審判不成立審決を取り消した原判決を結論において維持したものである。ワイキキ商標事件最高裁判決は、指定商品の一部についてのみ商標法3条1項3号該当性が認められるにすぎない場合には出願全部の拒絶査定をすることができない旨の判断を示したものではないから、同判決を根拠に、ファッションショー以外の指定役務について、本願商標の商標法3条1項3号該当性を判断すべきである旨の原告の主張は理由がない。
⑵ この点を措くとしても、原告が指摘する「地名」と「コレクション」を組み合わせた語の使用例(甲9の1~5、甲10の1~15)は、以下に述べるとおり、いずれも前記1⑷の判断を覆すに足りるものではない。
すなわち、そもそも前記1⑶イのファッションショーを模したイベントの名称であるもの(京都コレクション、甲10の15)は、むしろ前記1⑷の判断を裏付けるものである。
前記1⑶オ(イ)のオーディション(四国コレクション、甲9の5)は、モデル分野の審査があるもので、事情によりファッションショーを取りやめたと報じられており(乙21)、当初はファッションショーを模した企画を含むイベントとして計画されていたと認められる。
また、前記1⑶エの、「コレクション」と組み合わせた地域の物産を対象とする商品展示会等の名称に使用されている例(甲9の1~4、甲10の3のほか、乙7、11)のほか、その地域の物産に係る販売用ウェブサイト(江戸川いいものコレクション、甲10の1)、地産品等を紹介する冊子名(大津コレクション、甲10の4)、国際見本市に出展した県の特産品の展示プロジェクト(A×岐阜コレクション、甲10の5)、特産品を紹介するSNSのアカウント名(鹿児島コレクション、甲10の9)、寄付金募集用ウェブサイトの謝礼品の表示(町田コレクション、甲10の13)に「地名」と「コレクション」を組み合わせた語が用いられていることは、本願商標「沖縄コレクション」が特定の地域の物産を対象とする商品展示会等に係る 役務に使用された場合、「沖縄県産の物産の広告のための商品展示会、商品 見本市」という、役務の質(内容)を表示記述するものと一般に認識される と認められることになり、商標法3条1項3号該当性を認めるべき事情となる。
これ以外の様々な使用例についても、一定の地域で撮影された写真の展示会(柏コレクション写真展、甲10の2)、一定の地域に存在する観光資源 や生き物の集まり(滋賀コレクション、甲10の6)、一定の地域の展示会場(那覇コレクション、甲10の7)、一定の地域の伝統工芸品を用いた製品の集合(福島コレクション、甲10の8)、一定の地域の風景やニュースを紹介した記事の掲載サイトの標題の名称(静岡コレクション、甲10の10)、一定の地域の情報の発信サイト(三重コレクション、甲10の11)、一定の地域の学生から構成される団体(愛媛コレクション、甲10の12)、一定の地域の写真素材(小樽コレクション、甲10の14)であって、「地名」と「コレクション」の組合せは、各地域と関連する事物の集合を表示記 述するものとしても一般に認識されているものということができ、それ自体、商標法3条1項3号該当性を認めるべき事情となる一方、これらの使用例の存在により前記1⑷の認定判断が否定されることにはならない。
⑶ したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
3 結論
以上のとおり、本願商標は商標法3条1項3号に該当し、本件審決に原告主張の取消事由は認められないから、原告の請求は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
【若干の解説】
1 総論
商標法3条1項3号は、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(いわゆる記述的表示のみからなる商標)につき、商標登録を受けることができないことを定める。これは、このような商標は取引上一般的に使用されることが多いため、自他商品・役務識別力がなく、また取引上何人も使用する必要があるため特定人の独占を認めることが妥当でないことに基づく。
本件では、本願商標について、商標法3条1項3号の商標に該当するとして、結論として商標登録が否定された。以下、本件の判断について整理しつつ、適宜若干の補足を行うこととする。
2 本件の判断
⑴ 裁判所の判断
ア 商標法3条1項3号の趣旨と判断基準
本判決はまず以下のように述べ、商標法3条1項3号の商標が商標登録を受けられないものとされる趣旨を明らかにする。
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商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、指定商品又は指定役務との関係で、商品の産地、販売地、品質その他の特徴等、役務の提供の場所、質その他の特徴等を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品・役務識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによる(ワイキキ商標事件最高裁判決参照)。 |
その上で、裁判所は「指定役務について役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」であるというための判断基準及び考慮要素について以下のとおり述べた。
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そうすると、出願に係る商標が、その指定役務について、同号にいう役務の提供の場所、質その他の特徴(以下「役務の特徴」という。)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、当該商標が当該役務との関係で役務の特徴を表示記述するものであり、当該商標が当該役務に使用された場合に、取引者、需要者によって、将来を含め、役務の特徴を表示したものとして一般に認識されるものであれば足りるものと解される。 |
上記では、判断基準として「当該商標が当該役務との関係で役務の特徴を表示記述するものであり、当該商標が当該役務に使用された場合に、取引者、需要者によって、将来を含め、役務の特徴を表示したものとして一般に認識されるものであれば足りる」ことが明らかにされている。
イ 本願商標の構成及び指定役務に関する取引の事情
裁判所は、上記の判断基準に倣い、まず本願商標の構成について以下のとおり認定した(第5・1・⑵)。
- 「沖縄コレクション」を構成する文字中、「沖縄」は「日本最南端の県。沖縄本島をはじめ琉球諸島を管轄・県庁所在地は那覇市。」を意味する語である。
- 「コレクション」は、英語の「collection」の日本語表記であり、①「趣味として集めること。収集。」、②「収集品。特に美術品・骨董品・書物などの収集品。」のほか、③「有名デザイナーなどの発表する、そのシーズンの一連の新作。また、その発表会。」を意味する語である。
- ファッション、アパレル業界においては、パリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンの4都市で開催される「ファッションウィーク」が取引者、需要者に広く知られており、これらのイベントは、日本国内で「世界4大コレクション」と呼ばれたり、各都市名を採って「パリコレクション」等と呼ばれたりするのが一般的である。
- 日本国内では、「Rakuten Fashion Week TOKYO」が「東京コレクション」と呼ばれている。
続いて、裁判所は、本願商標の指定役務(第35類及び第41類)には、「広告業」「興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)(興行の開催等)が含まれ、かつ「広告業」には「広告のための商品展示会、商品見本市」(商品展示会等)「の企画又は運営」が含まれると認定する。
そして、商品展示会等の役務の取引者、需要者は、商品展示会等の目的に応じ、その商品や役務に関係する取引業者、販売業者又は一般消費者であること、興行の開催等の役務の需要者もその役務に関係する取引業者や一般消費者であることを認定した上で、上記指定役務に関する取引の実情として、以下の事情を認定した。
- 沖縄県内で開催された、デザイナーや服飾関係の業者、団体により開催されたファッションショー(服飾に係る商品展示会等に該当)や、モデルがランウェイを歩くといったファッションショーを模した企画を含むイベント(興行に該当)の名称として、「沖縄コレクション2023」「沖縄コレクション2010」「OKINAWA COLLECTION(オキナワコレクション)2008」の名称が用いられている。
- 沖縄県以外の地域において開催された、上記同様のファッションショー、ファッションショーを模した企画を含むイベント(商業目的以外と窺われるものを含む。)の名称として、開催地の地域名+「コレクション」の名称が用いられる例が複数(12件)存在する。
- 上記の名称の多くが新聞等で報道されているほか、特定地域で開催されたファッションショー(商業目的以外と窺われるものを含む。)について報道する新聞等において、地域名+「コレクション」の名称が同ファッションショーの略称として用いられている。
- ファッションショー以外の商品展示会等についても、地域名+「コレクション」を含む名称が用いられる例が複数(7件)存在する。
- 興行についても、地域名+「コレクション」を含む名称が用いられる例が複数(3件)存在する。
ウ 商標法3条1項3号該当性
本願商標の構成及び指定役務に係る取引の事情に関する以上の認定を踏まえ、裁判所は、以下のとおり判示し、本願商標が「少なくともその指定役務に含まれるファッションショーや、ファッションショーの要素を伴うイベントに係る役務につき、当該役務の特徴を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である」として、商標法3条1項3号の商標に該当すると結論付けた。
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以上のとおり、本願商標を構成する「コレクション」は、一般に「有名デザイナーなどの発表する、そのシーズンの一連の新作の発表会」を意味するものとして使用されることがある語であって、これと代表的な開催地の地名を結び付けた「パリコレクション」などの語は、その地で開催されるファッションウィークの日本国内における呼び名として、ファッションに関係する役務の取引者、需要者に広く知られていると認められる。 加えて、本願商標の指定役務に係る商品展示会等又は興行の開催等に含まれる、ファッションショーやファッションショーを模した企画を含むイベント(商業目的のもの、商業目的以外のもの)については、開催地の地名に続けて「コレクション」の文字を組み合わせた名称が広く用いられており、新聞等においても、これらのファッションショーやイベントが当該名称とともに報道されている。その他、特定の地域で開催されたファッションショーについて、開催地の地名に続けて「コレクション」の文字を組み合わせた略称が、記事中で用いられている実情が認められる。 このような本願商標の構成文字の語義及び本願の指定役務に関する取引の実情を踏まえると、本願商標「沖縄コレクション」は、その指定役務に含まれるファッションショーや、ファッションショーの要素を伴うイベントの企画、運営、開催について使用された場合、本願商標の指定役務である商品展示会等又は興行の開催等の取引者、需要者に、「沖縄で開催される、ファッションショー又はファッションショーを模した企画を含むイベント」という、役務の提供の場所及び役務の質(内容)を表示記述するものと一般に認識されると認められる。 このような本願商標は、ファッションショーや、ファッションショーの要素を伴うイベントの企画、運営、開催に係る役務の取引に際し、役務の特徴(特に提供の場所及び役務の内容)を表すための必要適切な表示として、何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、多くの場合自他役務識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることが明らかである。 そうすると、「沖縄コレクション」を標準文字で表した本願商標は、少なくともその指定役務に含まれるファッションショーや、ファッションショーの要素を伴うイベントに係る役務につき、当該役務の特徴を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法3条1項3号に該当する |
⑵ 原告の主張に関する判示
以降、原告の主張が認められないことについても判断が示される。
このうち、原告が行った「本願商標の指定役務のうち、ファッションショーを取り扱わない役務に係る取引の実情や需要者等の認識をも考慮すべきである」旨の主張について、裁判所は次のとおり判示する。
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しかし、出願商標の指定商品・役務の中の一部に登録を受けることのできないものがあれば、出願の分割ないし手続補正により当該登録を受けることのできない指定商品・役務が削除されない限り、その出願は全体として登録を受けることができないと解される(東京高裁昭和59年9月26日判決・無体集16巻3号66頁参照)。本願商標は、指定役務の少なくとも一部について商標法3条1項3号に該当する以上、全体として登録を受けることができない。 なお、原告は、ワイキキ商標事件最高裁判決を引用するが、同判決は、複数の商品(せっけん類、歯みがき、化粧品、香料類)を指定商品とする「ワイキキ」の片仮名文字からなる商標について、少なくとも花香水を含む化粧品類についてはワイキキの土産品として生産され、広く現地の販売店において販売されていることが認められる事案において、商標法3条1項3号該当性及び同法4条1項16号該当性を認め、登録無効審判不成立審決を取り消した原判決を結論において維持したものである。ワイキキ商標事件最高裁判決は、指定商品の一部についてのみ商標法3条1項3号該当性が認められるにすぎない場合には出願全部の拒絶査定をすることができない旨の判断を示したものではないから、同判決を根拠に、ファッションショー以外の指定役務について、本願商標の商標法3条1項3号該当性を判断すべきである旨の 原告の主張は理由がない。 |
出願商標は、通常その指定商品・役務のいずれについても使用される可能性がある。よって、出願商標の指定商品・役務の一部にでも登録を受けることができないものがある場合、その一部について出願商標が使用される可能性も否定されない以上、その全体について登録を認めるべきではない。そのため、上記で裁判所の述べる内容は、当然の内容と思われる(また、裁判所も示唆するとおり、出願人としては、当該一部の指定商品・役務について削除することで拒絶理由を解消することも可能であり、通常はこうした方法を取るべきである。)。
3 その他
以上、商標法3条1項3号の商標に該当するとして、商標登録が否定された事例に係る判決について述べた。本判決では、商標の構成及び指定商品・役務に関する取引の事情が丁寧に認定された後で商標法3条1項3号の該当性が肯定されており、商標法3条1項3号該当性を判断する上での一般的なケースと言える。また、原告の主張を否定した裁判所の判断も妥当なものと思われる[3]。
以上 弁護士 稲垣紀穂
[1] 「広告業、商品の販売に関する情報の提供、消費者のための商品及 び役務の選択における助言と情報の提供、求人情報の提供、実演者 に関する事業の管理、職業のあっせん、モデルのあっせん、オンラインによるダウンロード可能並びに記録済みの音楽及び映画の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、広告場所の貸与、ファンクラブの企画・運営又は管理」
[2] 「電子出版物の提供、写真の撮影、興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)、インターネットを利用して行う映像の提供、インターネットを利用して行う音楽の提供、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広 告用のものを除く。)、音響用又は映像用のスタジオの提供」
[3] なお、知財高判令和7年7月24日(令和7年(行ケ)第10026号)では、本願商標と出願人及び指定商品・役務を同じくし、「九州コレクション」の標準文字で構成される商標につき、本判決とほぼ同じ理由で、商標法3条1項3号の商標該当性が肯定されている。

