【令和7年11月13日(知財高裁 令和6年(行ケ)第10099号 特許取消決定取消請求事件)】

 

【事案】

 原告が、発明の名称を「マッサージ機を備えた情報ネットワークシステム」とする発明について特許出願したところ、特許異議の申立てがされたことから、原告は、請求項2及び3を削除すること等を含む本件訂正をした。これに対し、特許庁は、本件訂正を認めた上で、進歩性欠如を理由として、請求項1、4~9に係る特許を取り消し、請求項2、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する旨の本件決定をした。そこで、原告が、本件決定のうち、特許を取り消した部分の取消しを求めた事案である。
 裁判所は、原告の請求を棄却した。

 

【キーワード】

 特許法第29条2項、進歩性、容易の容易

 

【事案の概要】(本判決の一部抜粋)

1  事案の要旨
 本件は、特許異議申立てにつき、訂正を認めた上で、特許を取り消すなどした異議の決定のうち、特許を取り消した部分の取消しを求める訴訟である。争点は、異議の決定における進歩性欠如についての認定判断の誤りの有無である。
2  特許庁における手続の経緯等(争いがない。)
 ⑴  原告は、発明の名称を「マッサージ機を備えた情報ネットワークシステム」とする本件特許に係る特許権者である。
 ⑵  本件特許については、令和5年1月10日に特許異議の申立てがされたところ、特許庁は、これを異議2023-700017号事件として審理し、原告は、令和6年5月31日付け訂正請求書(甲10)を提出し、請求項2及び3を削除すること等を含む本件訂正をした。
 ⑶  特許庁は、令和6年10月17日、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正による訂正後の請求項〔1-9〕に訂正することを認め、請求項1、4~9に係る特許を取り消し、請求項2、3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する旨の本件決定をした。本件決定の謄本は、同月29日原告に送達された。
 ⑷  原告は、令和6年11月21日、本件決定のうち特許を取り消した部分の取消しを求めて訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

 

【本件訂正後の特許請求の範囲の記載】(請求項1である本件訂正1のみを示す。)

(請求項1・本件訂正1)
 被施療者を施療する施療部と前記施療部を制御する制御部と前記制御部を介して前記施療部を操作するために備え付けられた操作器とを有するマッサージ機と、
 前記マッサージ機を管理する事業者により管理される通信サーバと、からなる情報ネットワークシステムであって、
 前記操作器は新着報知部を有し、
 前記制御部は、通信ネットワークを介して通信サーバと接続可能に構成され、
 前記通信サーバは、新しい施療コースに関する情報を発信し、
 前記制御部は、前記通信サーバから他の端末器を介することなく前記情報を直接ダウンロードしてインストールすると前記新着報知部で前記情報が新しく追加され前記情報を受信したことを報知するように構成されており、
 前記通信サーバは、前記通信サーバに前記情報がある場合、前記情報を前記マッサージ機に発信し、
 前記通信サーバは、前記情報及び施療コースに関する更新情報を、前記マッサージ機内に設けられた前記制御部に発信するよう構成され、
 前記通信サーバから発信された前記情報及び前記更新情報を他の端末器を介することなく直接受信した前記制御部は、前記新しい施療コースに関する前記情報及び前記施療コースに関する前記更新情報があることを、前記新しい施療コースのデータ及び前記施療コースの更新データがダウンロードされる前において、前記被施療者が前記マッサージ機に着座した状態で操作できるように前記マッサージ機の外部に位置するよう前記マッサージ機に備え付けられた前記操作器の前記新着報知部で報知し、前記操作器において前記新しい施療コースの導入が決定されると、該新しい施療コースのデータを前記通信サーバからダウンロードして導入するよう構成されているとともに、前記操作器において前記施療コースの更新が決定されると、前記施療コースの更新データを前記通信サーバからダウンロードして導入するよう構成されていることを特徴とする情報ネットワークシステム。

 

【本件決定の理由の要旨】(本判決の一部抜粋)

4  本件決定の理由の要旨
 ⑴  各文献の記載事項
  ア 甲2の1文献には、甲2の1発明が記載されている。
  イ 甲1文献には別紙「引用発明等」2項⑵記載の、甲3文献には同別紙2項⑶記載の、甲4文献には同別紙2項⑷記載の、甲5文献には同別紙2項⑸記載の、甲6文献には同別紙2項⑹記載の、甲7文献には同別紙2項⑺記載の、各技術的事項が記載されている(以下、それぞれ「甲1技術的事項」、「甲3技術的事項」などという。)。
 そして、これらによれば、以下の周知技術が認められる。
 (ア) 周知技術1(サーバコンピュータとマッサージ装置に他の端末機を介さずに通信を行わせること〔甲1技術的事項①、甲3技術的事項、甲4技術的事項〕)。
 (イ) 周知技術2(システムプログラムを通信サーバからダウンロードして導入すること〔甲5技術的事項〕)。
 (ウ) 周知技術3(サーバが位置情報によらない緊急速報を送信すること〔甲1技術的事項②〕、マッサージ装置等が緊急速報を報知すること〔甲4技術的事項②〕)。
 (エ) 周知技術4(マッサージ装置が緊急速報を受信すると、マッサージ装置を停止し又は初期状態に戻すこと〔甲6技術的事項、甲7技術的事項〕)。
 ⑵  本件訂正発明1、4~9に係る特許は、甲2の1発明、周知技術1~4及び周知の事項に基づき、当業者が容易に発明することができたから、進歩性を欠き取り消されるべきものである(特許法29条2項、113条2号)。
 判断の概要は、次のとおりである。
 ⑶  本件訂正発明1の進歩性
  ア 甲2の1文献は本件特許の出願前に頒布されていた。
  イ 本件訂正発明1と甲2の1発明を対比すると、一致点、相違点は、次のとおりである。
  (一致点)
 被施療者を施療する施療部と前記施療部を制御する制御部と前記制御部を介して前記施療部を操作するために備え付けられた操作器とを有するマッサージ機と
 前記マッサージ機を管理する事業者により管理される通信サーバと、からなる情報ネットワークシステムであって、
 通信ネットワークを介して通信サーバと接続可能に構成され、
 前記通信サーバは、新しい施療コースに関する情報を発信し、
 前記通信サーバから前記情報をダウンロードしてインストールすると新着情報部で前記情報が新しく追加され前記情報を受信したことを報知するように構成され、
 前記通信サーバは、前記通信サーバに前記情報がある場合、前記情報を発信し、
 前記通信サーバは、前記情報を、前記マッサージ機内に設けられた前記制御部に発信するように構成され、
 前記通信サーバから発信された前記情報を受信し、前記新しい施療コースに関する前記情報があることを、前記新しい施療コースのデータがダウンロードされる前において、前記被施療者が前記マッサージ機に着座した状態で操作できるように前記マッサージ機の外部に位置するよう前記マッサージ機に備え付けられた端末装置の前記新着報知部で報知し、前記端末装置において前記新しい施療コースの導入が決定されると、該新しい施療コースのデータを前記通信サーバからダウンロードして導入するよう構成されている情報ネットワークシステム
 (相違点1)
 本件訂正発明1では、「新着情報部を有し」、「前記新しい施療コースの導入が決定される」「前記操作器」を有するのに対して、甲2の1発明では、画像フレーム F1 を有し、選択されたマッサージプログラムと関連する購入取引を実施するのが、端末装置 104 であって、リモートコントローラ 150 でない点
 (相違点2)
 本件訂正発明1は、「前記制御部は、」通信ネットワークを介して通信サーバと接続可能に構成され、「前記制御部は、」前記通信サーバから「他の端末器を介することなく」前記情報を「直接」ダウンロードしてインストールすると新着情報部で前記情報が新しく追加され前記情報を受信したことを報知するように構成され、前記新しい施療コースに関する前記情報があることを、前記新しい施療コースのデータがダウンロードされる前において、前記被施療者が前記マッサージ機に着座した状態で操作できるように前記マッサージ機の外部に位置するよう前記マッサージ機に備え付けられた端末装置の前記新着報知部で報知し、前記端末装置において前記新しい施療コースの導入が決定されると、該新しい施療コースのデータを前記通信サーバからダウンロードして導入するのに対して、甲2の1発明は、ユーザがマッサージプログラムを購入したい場合、端末装置 104 で実行されているアプリケーションプログラム 114 は、購入可能な複数のマッサージプログラム 501 を列挙している、画像フレーム F1 を表示し、選択されたマッサージプログラムと関連する購入取引を実施し、購入済みマッサージプログラムをサーバコンピュータ 103 からダウンロードし、マッサージプログラムの端末装置 104 へのダウンロードが完了すると、アプリケーションプログラム 114 は、ダウンロード済みマッサージプログラムをマッサージ装置106に転送するかをユーザに尋ねる、クエリウィンドウF6を表示し、ユーザが確認すると、アプリケーションプログラム 114 は、マッサージ装置 106 との接続を確立し、続けてダウンロード済みマッサージプログラムをマッサージ装置 106 に転送し得る点
 (相違点3)
 本件訂正発明1は、「新しい施療コースに関する情報」及び「新しい施療コースのデータ」と同様に、「施療コースに関する更新情報」及び「前記施療コースの更新データ」を用い、「前記操作器において前記施療コースの更新が決定されると、前記施療コースの更新データを前記通信サーバからダウンロードして導入するよう構成されている」のに対して、甲2の1発明は、施療コースに関する更新情報について特定されていない点
  ウ 相違点について
 (ア) 相違点1及び相違点2について、甲2の1発明では、マッサージ装置 106 に備えられたリモートコントローラ 150 とは別に端末装置 104 を設け、当該端末装置 104 を介して、情報のダウンロード及び報知を行っているが、端末装置 104 をマッサージ装置 106 の制御部のリモートコントローラ 150 に統合することは単なる機能及び構成の統合にすぎず、当業者が容易になし得ることである。
 そして、当該統合を行えば、リモートコントローラ 150 に画像フレーム F1 を設けることとなり、相違点1に係る構成を備えることになる。
 また、当該統合を行えば、当該マッサージ装置 106 に備えられたリモートコントローラ 150 により情報の受信を報知し、その操作により情報をダウンロードすることになるから、操作端末 104(端末器)を介することなく、当該リモートコントローラ 150 が備えられたマッサージ装置106 のマイクロコントローラ 130(本件訂正発明の「制御部」に相当する。)に情報を直接ダウンロードする相違点2に係る構成を採用することは、サーバコンピュータとマッサージ装置に他の端末機を介さずに通信を行わせる、甲1、3、4の各技術的事項に例示される周知技術1に照らせば、当業者であれば容易に想到できることである。
 (イ) 相違点3(更新情報の特定の有無)について、本件訂正発明1の「新しい施療コースに関する情報」、「施療コースに関する更新情報」は、施療コースに関する更新前の情報と異なる新しい情報の点で同じ技術的意義を有する情報であり、「新しい施療コースのデータ」と「施療コースの更新データ」は、データとしてみれば、施療コースの更新前のデータと異なる新しいデータの点で同じ技術的意義を有する。
 そして、一般に、プログラムにより制御される装置に新たに導入されるプログラムとして、新たなプログラム及び更新プログラムはいずれも周知の手段である。
 そうすると、甲2の1発明において、通信サーバから発信され、端末装置の新着報知部で報知する情報を、新しい施療コースに関する情報に加えて施療コースに関する更新情報も採用し、端末装置において導入決定されると、ダウンロードして導入するデータを、新しい施療コースのデータに加えて施療コースの更新データも採用することは、当業者であれば容易に想到できることである。
 (ウ) そして、本件訂正発明1の奏する効果は、甲2の1発明、周知技術1及び周知の事項から、当業者が容易に想到できるものであり、格別ではない。

 

【争点】

 本件の争点(原告の主張する本件決定の取消事由)は、以下のとおりである。
(1) 取消事由1(一致点の看過〔本件訂正発明1の「他の端末器」〕)
(2) 取消事由2(一致点の誤認及び相違点の看過〔本件訂正発明1の「マッサージ機に備え付けられた」〕)
(3) 取消事由3(相違点の看過〔本件訂正発明1の「制御部」の報知とダウンロードへの関与〕)
(4) 取消事由4(相違点の看過〔甲2の1発明の「端末装置 104」と「マイクロコントローラ 130」の関係〕)
(5) 取消事由5(一致点の誤認及び相違点の看過〔新着報知部〕)
(6) 取消事由6(相違点についての認定判断の誤り1〔統合の容易性の誤り〕)
(7) 取消事由7(相違点についての認定判断の誤り2〔統合した構成の認定判断の誤り・その1〕)
(8) 取消事由8(相違点についての認定判断の誤り3〔統合した構成の認定判断の誤り・その2〕)

 本稿では、取消事由8(相違点についての認定判断の誤り3〔統合した構成の認定判断の誤り・その2〕)に関し、原告の「容易の容易」の主張に関係する部分について取り上げる。

 

【原告の主張/裁判所の判断】(本判決の一部抜粋、下線は筆者による。)

第1~第2 ・・(省略)・・
第3  取消事由等に係る当事者の主張
 8  取消事由8(相違点についての認定判断の誤り3〔統合した構成の認定判断の誤り・その2〕
  ⑴  原告の主張
 前記の統合をすると、端末装置 104 が有していた情報の報知とダウンロードの機能をリモートコントローラ 150 が備える構成が得られるが、これは、「端末装置 104 の機能が統合されたリモートコントローラ 150」(マッサージ装置 106 のマイクロコントローラ 130 から見ると「他の端末器」に該当する。)が、ダウンロードして、マッサージ装置 106 のマイクロコントローラ130(本件訂正発明1の「制御部」に相当)に転送する構成となり、「制御部に情報を直接ダウンロードする」構成は得られない。
 したがって、統合を行っても、マッサージ装置 106 のマイクロコントローラ 130 は、マッサージプログラムの転送を受けること以外はダウンロードに関与しない。周知技術1の文献には、甲2の1発明の構成を本件訂正発明1の構成に置換することの開示も示唆もない。また、統合して、置換するという2段階の過程が必要となるのは、いわゆる「容易の容易」の判断となり、容易とはいえない。
 本件決定の「制御部のリモートコントローラ 150」との表現も誤認である。甲2の1発明において、リモートコントローラ 150 は、マイクロコントローラ 130 とは別のマイクロコントローラ 154(画面表示を制御する。)を有しており、マイクロコントローラ 130 が表示画面の制御をしているわけではない。当業者が「マイクロコントローラ 130 のリモートコントローラ 150」等と把握する理由はない。よって、「制御部のリモートコントローラ 150」とすることは本件訂正発明1に近づけた理解をしようとするものであり、容易想到性の判断として失当である。
・・(省略)・・

第4  当裁判所の判断
 1  当裁判所は、本件決定における本件訂正発明と甲2の1発明の一致点及び相違点の認定に誤りはなく、各相違点に係る容易想到性を認めた結論にも誤りはないから、原告の請求は理由がないものと判断する。
 その理由は、以下のとおりである。
・・(省略)・・
  ⑸  取消事由8(相違点についての認定判断の誤り3〔統合した構成の認定判断の誤り・その2〕)について
 原告は、甲2の1発明の端末装置 104 とリモートコントローラ 150 を統合しても、リモートコントローラ 150 が、ダウンロードして、マッサージ装置106 のマイクロコントローラ 130 に転送する構成となるから、「マイクロコントローラ 130 に情報を直接ダウンロードする」構成は得られないのであり、周知技術1の文献には、甲2の1発明の構成を本件訂正発明1の構成に置換することの開示も示唆もないなどと主張する。
 しかしながら、前記のとおり、甲2の1発明のマッサージ装置 106 のマイクロコントローラ 130 は、無線通信インターフェース 126 等を有し、外部装置との間での無線によるデータ交換が可能なのであるから、当業者において、周知技術1を適用し、「サーバコンピュータ 103 からの情報をマッサージ装置 106 が直接ダウンロードする構成」において、マイクロコントローラ 130が、無線インターフェース 126 及び送受信機 140 を用いて情報を直接ダウンロードすることを担う構成とすることは、システムを簡素化し、改良する場合における通常の創作能力の発揮であり、このような構成をとった場合にリモートコントローラ 150 に「新着報知部」としての表示機能や、「購入するマッサージプログラム」の入力機能を担わせることは、他に合理的な選択肢が認められない以上、当業者が容易に想到し得たものというべきである。
 原告は、統合して、置換するという2段階の過程が必要となるのは、いわゆる「容易の容易」の判断となり、容易とはいえない旨主張する。しかし、当業者が、システムを簡素化し、改良するため、通常の創作能力を発揮することにより前記構成(端末機を介さない直接ダウンロード構成)に到達した場合において、表示機能等を担わせるための置換を行う必要があることは自明のことであり、そのための合理的な選択肢が限られているときは、当然、当該選択肢を選択することになるはずである。このように考えることは、いわゆる「容易の容易」の判断をするものではないから、同主張は採用することができない。
 よって、原告の取消事由8に係る主張を採用することはできない。

 

【検討】

 本件は、原告(権利者側)が、本件決定の判断は、いわゆる「容易の容易」の考え方によるものであり、特許発明の容易想到性を肯定した本件決定の判断枠組みに誤りがある、と主張したのに対し、裁判所は、「いわゆる「容易の容易」の判断をするものではないから、同主張は採用することができない」として、「容易の容易」には該当しないと判断した点に特徴がある。
 原告(権利者側)は、本件決定の判断について、「統合して、置換するという2段階の過程が必要となるのは、いわゆる「容易の容易」の判断となり、容易とはいえない。」と主張した。この原告の主張は、甲2の1発明は、「サーバコンピュータ103」→「端末装置 104」→「マッサージ装置106」(マイクロコントローラ 130・リモートコントローラ 150)という構成であるところ、①甲2の1発明に、「サーバコンピュータとマッサージ装置に他の端末機を介さずに通信を行わせること」という周知技術1を適用すると、「サーバコンピュータ 103 からの情報をマッサージ装置 106(リモートコントローラ 150)が直接ダウンロードする構成」になり、②さらに、マイクロコントローラ130が直接ダウンロードする構成にする(リモートコントローラ150の機能をマイクロコントローラ130に適用する)ためには、①②の二段階の「容易想到」の変更を経て本件訂正発明1に想到することになるため、いわゆる「容易の容易」に該当し、容易とはいえない、と主張するものであると考えられる。
 これに対して、裁判所は、原告の上記主張を認めなかった。具体的には、「当業者において、周知技術1を適用し、「サーバコンピュータ 103 からの情報をマッサージ装置 106 が直接ダウンロードする構成」において、マイクロコントローラ 130が、無線インターフェース 126 及び送受信機 140 を用いて情報を直接ダウンロードすることを担う構成とすることは、システムを簡素化し、改良する場合における通常の創作能力の発揮であり、このような構成をとった場合にリモートコントローラ 150 に「新着報知部」としての表示機能や、「購入するマッサージプログラム」の入力機能を担わせることは、他に合理的な選択肢が認められない以上、当業者が容易に想到し得たものというべきである。」と判断した。この裁判所の判断は、甲2の1発明に周知技術1を適用すると、「サーバコンピュータ 103 からの情報をマッサージ装置 106(マイクロコントローラ130)が直接ダウンロードする構成」になり、この場合に、表示機能等をリモートコントローラ150に担わせることは自明であるから、「容易の容易」に該当しない、という判断であると考えられる。甲2の1発明において、表示機能等をリモートコントローラ150に担わせることは、「容易想到」の一段階であるようにも思えるが、裁判所は、「表示機能等を担わせるための置換を行う必要があることは自明のことであり、そのための合理的な選択肢が限られているときは、当然、当該選択肢を選択することになるはずである。」として、置換を行う必要があることは自明であるのを理由に、「容易想到」の一段階には該当しない、と判断したものと考えられる。
 本件は、置換を行う必要があるのは自明であることを理由に、「容易の容易」の該当性を否定するものであり、特許の有効性を肯定する立場(特許権者の立場)、特許の有効性を否定する立場(被疑侵害者の立場)から参考になる判決であり、また、「容易の容易」の考え方を理解する上でも参考になる判決である。

 

以上
弁護士・弁理士 溝田尚