【令和6年1月26日(大阪高裁 令和5年(ネ)第1384・第1886号)】

【ポイント】
①写真の著作物性、②著作権侵害行為の有無、③ECプラットフォーム上の知的財産権侵害申告フォームを使用して行われた著作権侵害の申告の不正競争防止法2条1項21号の該当性について判断した事案

【キーワード】
不正競争防止法2条1項21号
アマゾン
侵害申告フォーム
虚偽の事実

第1 事案

ECプラットフォームであるアマゾン上でサイトを開設し、商品を販売していた一審被告(控訴人)がアマゾンに対し、一審原告(被控訴人)がアマゾン上で商品を販売するサイトに掲載された商品画像等は、一審被告(控訴人)の上記サイト上に掲載された商品画像等の著作権を侵害していると申告した。そうしたところ、アマゾンは、アマゾン上における、一審原告(被控訴人)の当該商品の出品を一定期間停止した。

そこで、一審原告(被控訴人)は、本件各申告は不正競争防止法2条1項21号に該当するなどして損害賠償等を求めた。

以下では、本事案の争点のうち、①被告画像(被告画像3)の著作物性、②一審原告の商品画像の掲載行為が被告画像(被告画像3)の著作権侵害に該当するか否か、③不正競争防止法2条1項21号の該当性について述べる。

第2 当該争点に関する判旨(裁判所の判断)(*下線等は筆者)

(3) 被告各画像等の著作物性

(省略)

(イ) 被告画像3について

単語帳に係る被告画像3も、インターネットショッピングサイトにおいて販売する商品がどのようなものかを紹介するための写真ではあるが、芸能人を被写体とする写真が印刷された表紙及び裏表紙を金具のリングから取り外し、各写真を表にして平面上に上下に並べ、その右側に一部裏表紙と重なる形で、63枚の単語カードを写真側を表にして金具のリングを要として扇状に広げたものを撮影したものであり、正面から撮影されたものではあるものの、上記単語カードを扇状に広げることによってその重なり合いによる陰影が表現され、また、2枚目以降の単語カードの白い縁取りからわずかに各写真が垣間見えるように広げることによって各単語カードにそれぞれ異なる写真が印刷されていることを表現しており、白い背景によって表紙及び裏表紙の写真等を浮き立たせる効果も生んでいるといえる。このような手法が商品としての単語帳を紹介する際にまま見られるもの(乙62、63)であったとしてもその被写体の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、背景の選択には複数の余地があり、被告画像3の表現自体に撮影者の個性が表れていると認められるしたがって、被告画像3は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」といえ、著作物性が認められるから、その撮影者である一審被告は被告画像3について著作権を有すると認められる。

(4) 原告画像3の掲載が被告画像3についての著作権侵害に当たるか

 ア 上記のとおり、被告サイト上の被告各画像及び商品名のうち、そもそも著作物性が認められるのは被告画像3のみであり、その余については著作物性自体が認められず、一審被告が著作権を有しないから、一審原告がその著作権を侵害した事実はおよそ存在しない。そこで、原告画像3の掲載が被告画像3についての一審被告の著作権侵害に当たるかにつき、以下検討する。

 イ 被告画像3の表現上の本質的特徴は、前記(3)ア(イ)のとおり、本件商品3を撮影する際の被写体の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、背景の選択等を総合した表現に認められるところ、画像テンプレートを利用して作成された原告画像3は、単語帳から取り外した一部の表紙等を並べてその横に単語帳を扇状に広げて置くなどの点で商品の見せ方に関する基本的なアイデアに被告画像3との共通点はあるが、取り外して並べられたのが表紙や裏表紙の写真面か、単語カードの韓国語単語が記載された面か、その枚数、色彩及び配置、金具のリングを要として扇状に広げられた単語帳がその右側に配置されているか左側に配置されているか等の配置、同単語帳の1枚目のカードに印刷された写真内容、同単語帳の単語カードの枚数、色彩、扇状の広がり方及び陰影等で異なっていることが一見して明らかであってその素材の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、色彩の配合、素材と背景のコントラスト等において被告画像3と異なるから、被告画像3の表現上の本質的特徴を直接感得させるものとはいえない。なお、原告画像3で選択された素材のうち、本件商品3の表紙を正面から撮影した画像部分のみは被告画像3と共通するが、その画像自体は、被告画像1、2及び4ないし10について検討したと同様、平面的な上記表紙を忠実に再現したのみで創作性が認められない部分であるから、同画像部分が共通しているからといって、原告画像3が被告画像3と類似しているとは到底認められない。したがって、一審原告が原告画像3を原告サイトに掲載したことが、被告画像3に係る一審被告の著作権を侵害するものとは認められない。

  以上によれば、一審被告が、本件各申告によってアマゾンに告知した、一審原告が被告サイト上の被告各画像及び商品名についての一審被告の著作権を侵害しているとの本件各申告の内容は、全て虚偽の事実であったということになる。そして、前記第2の2で原判決を補正した上で引用した前提事実(1)によれば、一審原告と一審被告は競争関係にあるといえ、また、上記著作権侵害の事実を申告する行為は一審原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する行為といえるから、本件各申告は、客観的に不競法2条1項21号に該当するということになる。

(5) 一審被告による本件各申告の違法性ないし故意・過失の有無

 ア 本件各申告は、アマゾンがあらかじめ設けている知的財産権侵害を申告するための侵害通知フォームを利用して行われたものであるところ、同フォームにおいては、申告者において、申告した画像や商品が申告者又は権利所有者の権利を侵害する客観的根拠があり、かつ違法であることを確信していること、当該申告に含まれる情報が正しくかつ正確であることを表明・保証することに同意した上で権利侵害申告を行うものとされている。そして、アマゾンに対する権利侵害申告がされた場合には、アマゾンによって申告対象のコンテンツが削除されるなどしてアマゾンサイトへの出品自体が停止され、当該出品者が直接的に経済的損害を被ることがあることが明らかであるから、侵害通知フォームによって著作権についての権利侵害申告をする者には、権利侵害申告をするに当たり、権利侵害の客観的根拠があり、かつ違法であることについて調査検討すべき注意義務を負っていると解すべきである。

 これに対し、一審被告は、著作物かどうかの判断は困難なものであり、これを正確に行ってアマゾンに申告することが求められるとすれば、その権利行使を不必要に委縮させるから、本件において、結果的に被告各画像等に著作物性がないとされた場合であっても、不競法2条1項21号による損害賠償責任の有無を検討するに当たっては、諸般の事情を考慮して違法性や故意・過失の有無を判断すべきであると主張する。しかし、上記のとおり、権利侵害申告をする者に対しては、侵害通知フォーム所定の同意事項の同意を義務付けることで明確に上記注意義務が課せられ、これに反した場合に被申告者に損害が発生することも容易に予見できることであるから、著作権侵害という法的判断を伴う事実を申告する以上、著作物性の判断が困難であるのであれば専門家に問い合わせることも検討されるべきであって、その判断のための調査検討を怠って虚偽の事実の申告となる権利侵害申告をすることが許されるわけではなく、一審被告の上記主張は採用できない。

 イ 以上を前提に検討するに、本件において、一審被告が著作権を有するとして本件各申告をした被告各画像のうち、被告画像3を除く平面的な被写体を忠実に再現しただけの写真といえる被告画像は、前記(3)アのとおり、いずれも著作物性が認められないところ、この種の写真に著作物性が認められないことは過去の裁判例において明らかにされ、これについては一般に異論も見られないところであるから、控訴人が著作物性判断のため著作権について調査検討したのであれば、上記被告画像が著作物といえないことは容易に明らかになったことといえる

 また、被告画像3は、著作物性が肯定されるものの、前記(4)のとおり、原告画像3は被告画像3とは、商品の見せ方というアイデアで共通点があるにすぎず、表現における類似性がないことは明らかであるから、原告画像3をもって、被告画像3について一審被告が有する著作権の侵害物とはいえないところ、このようにアイデアで共通していても表現で異なる場合に著作権侵害をいえないことは、著作物性についてみたと同様、著作権について少しでも調査検討すれば容易に明らかになったことといえる

  (省略)

 そうすると、一審被告がアマゾンに対して原告サイト上に掲載された原告各画像及び商品名が一審被告の著作権を侵害している旨申告すること(本件各申告)が虚偽の事実の告知に当たることは、一審被告がその申告をするに当たり必要な調査検討をすれば容易に明らかになったといえるにもかかわらず、一審被告がこれについて調査検討した様子はうかがわれず、漫然と本件各申告をしたものと認められるから、一審被告は、権利侵害申告に当たって求められる前記注意義務を怠ったものというべきである

 (省略)

 オ 以上によれば、一審被告による本件各申告が、不競法2条1項21号の不正競争行為に該当する違法な行為であることは明らかであり、それらにつき一審被告には少なくとも過失が認められるというべきである

第3 検討

本件は、①写真の著作物性、②著作権侵害行為の有無、及び③ECプラットフォーム上の知的財産権侵害申告フォームを使用して行われた著作権侵害の申告に関する不正競争防止法2条1項21号の該当性を判断した裁判例である。

まず、上記①について、原審(大阪地判令和5年5月11日・令和3年(ワ)第11472号)は、被告画像3を含む全ての画像の著作物性を否定した。これに対して、本判決は、上記「第2」のとおり、被告画像3について詳細に検討し、「その被写体の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、背景の選択には複数の余地があり、被告画像3の表現自体に撮影者の個性が表れている」として、被告画像3の著作物性を認めた。このように、写真の著作物性について、原審と控訴審で判断が分かれた事案であり、実務上参考になる。

なお、本判決は、その他の被告画像については、「芸能人を被写体とする写真が印刷された平面的な表紙及び裏表紙を、できるだけ忠実に再現するため真正面から撮影した画像」であること等を理由に、著作物性を否定した。

次に、上記②について、本判決は、上記「第2」のとおり、被告画像3と一審原告がサイト上に掲載した画像は、撮影されたカードの面やその枚数、色彩、配置、画像の中で1枚目に映っている写真の内容等が異なることから、当該原告の画像は、被告画像3の表現上の本質的特徴を直接感得させるものとはいえないとして、一審原告がサイトに当該画像を掲載することは、被告画像3の著作権を侵害しないと判断した。

また、上記③について、上記①②の結論を踏まえると、一審原告は著作権侵害行為を行っていないので、一審被告の著作権侵害の事実を申告する行為は、一審原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する行為といえる等として、客観的に不正競争防止法2条1項21号に該当するとした上で、一審被告に過失があったか否かを検討し判断した。具体的には、アマゾンがあらかじめ設けている知的財産権侵害を申告するための侵害通知フォームにおいては、「申告者において、申告した画像や商品が申告者又は権利所有者の権利を侵害する客観的根拠があり、かつ違法であることを確信していること、当該申告に含まれる情報が正しくかつ正確であることを表明・保証することに同意した上で権利侵害申告を行うもの」であることから、権利侵害申告をする者は、権利侵害の客観的根拠があり、かつ違法であることについて調査検討すべき注意義務を負っていると判断した。

そして、本判決は、一審被告は、一審原告がその画像をサイトに掲載した各行為について、著作権侵害にならないことは、それぞれ著作権について少しでも調査検討すれば容易に明らかになったことといえるとして、一審被告は、上記の注意義務を怠ったと判断し、不正競争防止法2条1項21号に該当すると判断した。

このように、本判決は、ECプラットフォーム上の知的財産権侵害申告フォームで申告する際に、安易な申告に注意喚起する結果となっており、申告内容の正確性等を調査結果する注意義務があることを示しており、実務上参考になる。なお、当該注意義務の発生根拠をアマゾンの表明保証事項であることから、ECプラットフォームによって注意義務の有無やその内容が変わってくるかもしれない点は、留意が必要である。

以上
弁護士 山崎臨在