【令和6年11月15日(東京地裁 令和6年(ワ)第70106号)】
【キーワード】
他人物売買、民法第561条、ライセンス
【事案の概要】
本件は、原告Ⅹが、被告Yに対して、原告Ⅹと被告Yとの間で締結されたライセンス契約(本件契約)に基づく実施許諾料(本件許諾料)の支払いを求める事案である。
本件の特殊な点として、ライセンスの対象となった本件特許権1~3は、いずれも、原告Xではない第三者Z(特許権者Z)が保有している特許権であったことが挙げられる。
そして、原告Xは、本件特許権2については、特許権者Zから、専用実施権の設定を受けているものの、本件特許権1及び3については、専用実施権の設定を受けていなかった。
被告Yは、原告Xは、「約定の実施権を創設すべき義務を負う」にもかかわらず、原告Xは、当該義務を履行していないところ、被告Yは、原告Xに対して、当該義務の履行の催告及び本件契約の解除の意思表示を行っているから、本件契約は解除されており、被告Yは、本件許諾料の支払義務を負わない旨を主張している。
【判決(抜粋)】
裁判所(東京地裁民事29部)は、以下のとおり判示し、本件契約の解除により、被告Yは、本件許諾料の支払義務を負わないと判示した。
第4 当裁判所の判断 (強調は筆者による。また、固有名詞は匿名化した。) 2 本件においては、前提事実(2)のとおり、本件契約は、原告が、被告に対し、本件各特許権について通常実施権を許諾することなどを約したものであるが、証拠(乙11、12)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許権1はZ1及びZ2の共有に係るものであり、本件特許権3は、両社とZ3の共有に係るものであることが認められる。そうすると、原告は、被告に対し、本件契約に基づく債務として、上記の共有者から被告のために通常実施権を許諾する権限を取得すべき債務(以下「本件債務」という。)を負っていたものと解される。 3 そして、本件債務は期間の定めのない債務に該当するものと解されるところ、前提事実(4)アのとおり、被告は、令和5年12月20日、原告に対し、書面到達後1週間という期間を定めてその債務の履行を催告するとともに、その履行がない場合は本件契約を解除する旨を記載した「催告兼解除通知書」を送付して、この書面は、同月29日に原告に到達し、上記の催告期間は既に経過している。 4 以上によれば、原告による本件契約に係る債務不履行、被告による相当の期間を定めての履行の催告、その期間内に履行がされなかったこと及び解除の意思表示という、催告による解除の要件(民法541条本文)が充たされているから、本件契約の解除により、被告は本件許諾料の支払義務を負わないというべきである。 |
【筆者コメント】
筆者の知見の限りでは、他人の知的財産権をライセンスした者には、民法559条及び561条に基づいて、ライセンス権限を取得すべき義務が発生するとの旨を真正面から判示した事例は、本件以外に見当たらない[1]。
特許権者ではなく、サブライセンス権限もない者(本件における原告Ⅹ)が、ライセンサーとしての立場でライセンス契約を締結する事例は、実務上極めて珍しいであろうと思われるが、ライセンス契約においても、民法561条の準用があり得る(民法559条)結果、ライセンサーには、ライセンス権限を取得すべき義務が発生することに留意されたい。
[1] 知財高裁平成21年6月4日(平成20年(行ケ)第10260号)及び東京地裁平成21年10月30日(平成18年(ワ)第28251号、平成19年(ワ)第10144号)では、当事者の主張中に、民法561条に関する記載がある。ただし、裁判所は、両事件において、民法561条に関して立ち入ることなく判決を下した(立ち入る必要性のない事件であった。)。
以上
弁護士・弁理士 奈良大地