【令和6年1月16日(大阪地裁 令和4年(ワ)11394号)】

【事案の概要】

 本件は、原告が、ユーチューブ等に投稿した別紙「原告動画目録」記載の動画(以下、順に「本件動画1」などといい、これらを「本件動画」と総称する。)について、被告がグーグル等に対して本件動画が被告の著作権を侵害する旨の申告をした行為が不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項21号の不正競争に当たると主張して、被告に対し、不競法3条1項に基づき、原告が配信する動画が被告の著作権を侵害する旨を第三者に告げることの差止め(前記第1の1)、同法14条に基づき、グーグル等の動画配信プラットフォーム事業者(以下「プラットフォーマー」という。)に対して本件動画が被告の著作権を侵害しないこと等を通知すること(前記第1の2及び3)を求めるとともに、民法709条に基づき、損害賠償金338万8360円及びうち312万4510円に対する令和4年1月10日(本件動画1ないし9に係る最終の不法行為の日)から、うち26万2350円に対する令和5年1月8日(本件動画10に係る不法行為の日)から各支払済みまで民法所定年3分の割合による遅延損害金の支払(前記第1の4)を求める事案である。

【裁判例抜粋】(下線部は筆者)

主文
1 被告は、別紙「原告動画目録」記載の各動画が被告の著作権を侵害している旨を第三者に告げてはならない。
2 被告は、モイ株式会社に対し、原告が同社の運営する動画配信サービス「ツイキャス」に配信した同目録記載9の動画について被告が行った著作権侵害に基づく削除申請に関し、同動画は被告の著作権を侵害しないこと及び当該申請が被告の過誤によるものでありこれを撤回する旨を通知せよ。
3 被告は、原告に対し、118万8960円及びうち106万7657円に対する令和4年1月10日から、うち12万1303円に対する令和5年1月8日から各支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを5分し、その3を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
6 この判決は、3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 1 被告は、原告が配信する動画(ただし、被告が著作権を有する映像又は音声が含まれていることが明らかなものを除く)が被告の著作権を侵害している旨を第三者に告げてはならない。
 2 被告は、Google LLC(以下「グーグル」という。)に対し、原告が同社の運営する動画配信サービス「YouTube」(以下「ユーチューブ」という。)に配信した別紙「原告動画目録」記載1ないし8及び10の各動画について被告が行った著作権侵害に基づく削除申請に関し、いずれの動画も被告の著作権を侵害しないこと及び当該申請が被告の過誤によるものでありこれを撤回する旨を通知せよ。
 3 主文2項と同旨
 4 被告は、原告に対し、338万8360円及びうち312万4510円に対する令和4年1月10日から、うち26万2350円に対する令和5年1月8日から各支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 1 
(中略)
 2 前提事実(争いのない事実及び弁論の全趣旨から容易に認定することができる事実)
  (1) 当事者
  原告は、ユーチューブ(グーグルが運営する動画配信サービス)及びツイキャス(モイ株式会社が運営する動画配信サービス)において、オリジナル動画を配信し、収益を得ている動画配信者である。
  被告は、インターネット上で、囲碁、将棋の実況中継等の番組を有料で動画配信すること等の事業を営む株式会社である。
  (2) 原告による本件動画の配信
  原告は、本件動画1ないし8及び10につき、別紙「原告動画目録」の各「配信日」欄記載の日に同「タイトル」欄記載の動画をユーチューブに投稿し、その頃、同各動画(以下「本件ユーチューブ動画」という。)は閲覧可能になった。また、原告は、本件動画9につき、同目録の「配信日」欄記載の日に同「タイトル」欄記載の動画をツイキャスに投稿し、その頃、同動画(以下「本件ツイキャス動画」という。)は閲覧可能になった。
  本件動画は、原告が出演し、被告が配信する将棋の実況中継から得た情報を基に、即時に、自ら用意した将棋盤面に各対局者の指し手を表示するなどして、視聴者が、視聴者同士や原告とのチャットでのコミュニケーションを行う内容であるが、本件動画内において、被告が配信する動画の映像、画像、音声等は一切表示等されることはない。
  (3) 被告による著作権侵害に基づく動画の削除申請(以下「本件削除申請」という。)
  被告は、本件ユーチューブ動画について、ユーチューブ上で閲覧可能になった頃、グーグルに対し、所定の方法に従って、著作権侵害による動画の削除通知を提出し、本件ユーチューブ動画は、別紙「原告動画目録」の「配信停止期間」欄記載の各始期日に配信が停止された。これに対し、原告は、所定の手続に従って、異議申立てをしたが、被告は、期限内に回答をせず、本件ユーチューブ動画は、同「配信停止期間」欄記載の各終期日にいずれも配信停止が解除された。
  被告は、本件ツイキャス動画について、ツイキャス上で閲覧可能になった令和2年9月22日、モイ株式会社に対し、所定の方法に従って、著作権侵害による動画の削除通知を提出し、本件ツイキャス動画は、同日、配信が停止され削除された。
 3 争点
  (1) 本件削除申請は「虚偽の事実の告知」に当たるか(争点1)
  (2) 本件削除申請は原告の「営業上の利益」を侵害するか(争点2)
  (3) 損害の発生及びその額(争点3)
  (4) 差止め及び信用回復措置の必要性(争点4)

第3 争点に関する当事者の主張
(中略)

第4 当裁判所の判断
 1 争点1(本件削除申請は「虚偽の事実の告知」に当たるか)について
  本件動画は被告の著作権を侵害するものではない(この点について被告は争っていない。)にもかかわらず、本件削除申請は、グーグル等に対し、本件動画が被告の著作権を侵害する旨を摘示するものであるから、客観的な真実に反する内容を告知するものとして、「虚偽の事実の告知」に当たると認められる。
  これに対し、被告は、本件動画は被告の営業上の利益その他何らかの権利を侵害する旨を主張するが、本件削除申請が虚偽の事実の告知に当たるかどうかの判断とは無関係である上、本件動画により被告の何らかの権利が侵害された事実も明らかでないから、採用できない。
 2 争点2(本件削除申請は原告の「営業上の利益」を侵害するか)について
  前提事実に加え、証拠(枝番号があるものは各枝番号を含む。以下同じ。甲4~13、15、16)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、ユーチューブ及びツイキャスにおいて、本件動画を配信して収益を得ていたところ、本件削除申請は、グーグル等のプラットフォーマーに対し、本件動画が被告の著作権を侵害する違法なものであることを摘示する内容であり、これによって、原告は、ユーチューブにおいては、別紙「原告動画目録」の「配信停止期間」欄記載の期間、動画の配信が停止されたことが、ツイキャスにおいては、動画配信によって収益を得ることが少なくとも一定期間停止されたことがそれぞれ認められる。そうすると、本件削除申請は、原告が本件動画の配信という営利事業を遂行していく上での信用を害するものとして、原告の「営業上の利益」を侵害したと認められる。
  これに対し、被告は、原告による本件動画の配信は、被告が配信する棋譜情報をフリーライドで利用するという著しく不公正な手段を用いて被告ら棋戦主催者の営業活動上の利益を侵害するものとして不法行為を構成することを指摘して、本件動画の配信に係る営業上の利益は法律上保護される利益に当たらない旨を主張し、これを裏付ける証拠として「王将戦における棋譜利用ガイドライン」(乙2)を提出する。しかし、棋譜は、公式戦対局の指し手進行を再現した「盤面図」及び符号・記号による「指し手順の文字情報」を含むものと認められるところ(乙2)、本件動画で利用された棋譜等の情報は、被告が実況中継した対局における対局者の指し手及び挙動(考慮中かどうか)であって、有償で配信されたものとはいえ、公表された客観的事実であり、原則として自由利用の範疇に属する情報であると解される。同ガイドラインは、棋譜の利用権等を王将戦主催者が独占的に有する旨規定するが、王将戦主催者が、原告を含めた被告の実況中継の閲覧者の関与なく一方的に定めたものであり(乙2)、原告に対して法的拘束力を生じさせるものであるとはいえない。また、前記1のとおり、本件動画は被告の著作権を侵害するものではなく、その他、原告が、被告の配信する棋譜情報を利用することが不法行為を構成することを認めるに足りる事情はない。したがって、被告の前記主張は、その前提を欠き、採用できない。
 3 争点3(損害の発生及びその額)について
  本件削除申請は、被告の故意又は過失に基づくものとして、不法行為を構成し、次の損害が発生したものと認められる。
  (1) 逸失利益に係る損害
  証拠(甲4~12、15、18)及び弁論の全趣旨によれば、ユーチューブにおける、本件動画と同様の内容で、削除申請のない状態で令和3年9月から令和4年2月にかけてアップロードされた3本の動画1本当たりの原告の平均的な収益は4万7845円であること、原告は別紙「配信予定動画目録」記載の各動画を配信予定であったこと、本件ユーチューブ動画の配信により原告が得た収益は、別紙「損害目録」の各「実際の収益」欄記載の金額であることが認められる。一方、前記4万7845円の計算の基礎とされた動画は、原告が選定した3本の動画であるところ、いずれも収益があったとされるのはアップロードの日である(甲4)。本件ユーチューブ動画のうち、本件動画5及び7はアップロードから一定期間経過後に配信が停止されているにもかかわらず、実際の収益額は2579円及び1万5923円とされており、本件ユーチューブ動画の実際の収益と前記4万7845円とには少なくとも3万円以上の相違がある。その余の本件ユーチューブ動画は配信開始日に配信が停止されているものの、配信停止の詳細な時刻は明らかでない。原告のユーチューブでの収益にはスーパーチャットによるものが含まれていること(甲4~12、15)や棋戦の棋譜情報を即時に伝え、視聴者が、視聴者同士や原告とのチャットでのコミュニケーションを行うという本件ユーチューブ動画の内容(前提事実(2))に照らすと、原告は、主として動画のライブ配信開始日に収益をあげているものと認められることから、前記4万7845円の基礎とされた動画は、特に収益が高かったものが選ばれた可能性を排斥することができない。これらの諸事情を考慮すると、本件ユーチューブ動画に係る部分について、本件削除申請がなければ原告が得られたであろう利益は、前記4万7845円と(配信開始日における収益は概ね得られたとみられる)本件動画5及び7の実際の収益額のほぼ平均値に相当する2万2200円に、本件ユーチューブ動画及び配信停止期間に配信が予定されていた動画の本数を合計した数を乗じ、実際の収益額を控除した金額をもって相当と認める。したがって、本件ユーチューブ動画に係る原告の逸失利益は、別紙「損害目録」の各「裁判所認定」欄記載のとおりとなり、その合計は82万1083円となる。
  また、証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば、原告がツイキャスでの収益化を開始した令和2年4月18日から本件ツイキャス動画が削除された同年9月22日までのツイキャスでの収益総額は5万2485円であり、その間の1か月当たりの平均収益額は9965円であることが認められる。一方、証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば、原告の問合せに対し、モイ株式会社は、令和3年7月2日、著作権を侵害する配信など、利用規約及び法令に違反する行為が確認されたことから、原告がツイキャスにおいて収益機能を利用できなくなっている旨を回答したことが認められ、原告は、同時点で、ツイキャスにおいて収益機能を利用することができない状態であったことが認められるものの、モイ株式会社の回答内容から、ツイキャスにおいて再度収益機能を利用する方法や原告において再度収益機能を利用することが可能であるか否か等は明らかでなく、他の証拠をみても、かかる事実関係は明らかでない。また、原告が本件ツイキャス動画を削除された後、将来的にもツイキャス上での動画配信を継続するか否かは明らかでない。これらの諸事情を考慮すると、本件ツイキャス動画に係る部分について、本件削除申請がなければ原告が得られたであろう利益は、前記9965円に6か月を乗じた金額をもって相当と認める。したがって、本件ツイキャス動画に係る原告の逸失利益は、5万9790円(9,965円×6)となる。
  (2) 精神的損害
  前記2のとおり、本件削除申請は原告の営業上の信用を低下させ、営業上の利益を侵害するものであり、また、これが繰り返し行われていること等を考慮すると、本件削除申請によって原告は精神的苦痛を被ったものと認められ、かかる精神的苦痛を慰藉する金額は、20万円が相当と認められる。
  (3) 弁護士費用
  本件の不正競争と相当因果関係のある弁護士費用は、前記(1)及び(2)の損害合計108万0873円の約1割に相当する10万8087円(うち本件動画10に係る部分は1万1028円)をもって相当と認める(1円未満四捨五入)。
  (4) 以上から、本件削除申請により原告が被った損害は、前記(1)ないし(3)の合計118万8960円となる。
 4 争点4(差止め及び信用回復措置の必要性)について
  (1) 差止めの必要性
  被告は、本件削除申請を繰り返し行っていることに加え、原告が、本件の訴えを提起し、さらに、被告に対し動画の配信を妨害しないよう通知をした(甲14)にもかかわらず、被告は、その後、本件動画10に対して本件削除申請をしている。このような事実関係に照らすと、被告に対し、本件動画について、被告の著作権を侵害している旨を第三者に告知することの差止めを求める必要性が認められる。一方で、本件動画を除く、その他の原告の動画については、被告の著作権侵害の有無が明らかでないこと等を考慮すると、前記第1の1のとおり、被告が著作権を有する映像又は音声が含まれていることが明らかなものを除く旨の限定を加えたとしても、なお差止めを求める対象が広範に過ぎるといわざるを得ず、差止めを求める必要性を認めるに足りない
  (2) 信用回復措置の必要性
  前記2のとおり、本件削除申請は、原告の営業上の信用を低下させるものであるが、本件ユーチューブ動画については、すでに配信の停止が解除されており、一定程度信用が回復していることが認められる。したがって、本件ユーチューブ動画に関し、前記(1)の差止めに加えて、別途信用回復措置を求める必要性を認めるに足りない
  一方、本件ツイキャス動画については、前記3(1)のとおり、原告が、ツイキャスにおいて、再度収益機能を利用することが可能であるかやその方法等は明らかでないものの、原告は、少なくとも令和3年7月2日の時点で、収益機能を利用することができない状態であったところ、本件全証拠によっても、現時点において、原告が収益機能を利用することが可能であること、その他、原告の営業上の信用が回復したことを認めるに足りる事情はない。したがって、本件ツイキャス動画に関し、前記(1)の差止めに加えて、被告が、モイ株式会社に対し、本件ツイキャス動画が被告の著作権を侵害しないこと等を通知する信用回復措置を求める必要性が認められる。
 5 結論
  以上から、原告の請求は、不競法3条1項に基づき、本件動画が被告の著作権を侵害している旨を第三者に告げる行為の差止めを求める部分、同法14条に基づき、本件ツイキャス動画について信用回復措置をとることを求める部分、民法709条に基づき、損害賠償金118万8960円及びうち本件動画1ないし9に係る106万7657円に対する令和4年1月10日から、うち本件動画10に係る12万1303円に対する令和5年1月8日から各支払済みまでの遅延損害金の支払を求める部分については理由があるから、これを認容し、その余は棄却することとして、主文のとおり判決する。なお、主文第1項及び第2項に対する仮執行宣言は相当ではないからこれを付さないこととする。

【解説】

 本件は、ユーチューブやツイキャスにおいてオリジナル動画を配信し収益を得ている動画配信者である原告が、自らがユーチューブ等に投稿した本件動画に関し、インターネット上で囲碁将棋等の実況中継番組を有料で動画配信する事業を営む被告がグーグル等に対して、本件動画が被告の著作権を侵害する旨の申告をした行為(「本件削除申請」)が、不競法2条1項21号の不正競争に当たると主張して、不競法3条1項に基づく差止め等及び民法709条に基づく損害賠償を求める事案である。
 裁判所は、本件動画が被告の著作権を侵害するものではない(原被告間に争いなし)にもかかわらず、グーグル等に対し、本件動画が被告の著作権を侵害する旨を適示するものであるから、本件削除申請は、客観的な真実に反する告知であるとして、「虚偽の事実の告知」に該当すると判断した。
 また、本件削除申請によりユーチューブとツイキャスにおける動画配信が少なくとも一定期間停止されたことから、本件削除申請は、原告が本件動画の配信という営利事業を遂行する上の信用を害したとして、原告の「営業上の利益」を侵害したと判断された。
 さらに、損害賠償も認められ、本件動画について被告の著作権を侵害している旨を第三者に告知することの差止めも認められ、ツイキャスについては信用回復措置も認められた。
 本件動画が被告の著作権を侵害しない旨については、被告も争わなかったため、本件削除申請が「虚偽の事実の告知」に該当するとの裁判所の判断は妥当であると考える。また、本件削除申請により、本件動画の配信が停止されたことから、原告の「営業上の利益」を侵害するとの裁判所の判断も妥当であると考える。
 不競法2条1項21号の他の要件である、原告と被告との「競争関係」については、いずれも動画配信を業とする者であるため、特に争点にはならなかったと考える。
 別事件(大阪地裁R6_3_18)は、原告と被告の商標が類似していない状態で、被告が調査義務を尽くさなかったために、不競法2条1項21号の「虚偽の事実の告知」が認められた事案であったが、本件は、被告が、本件動画が被告の著作権を侵害しない旨について、そもそも争っていない事案であり、別事件より、さらに「虚偽の事実の告知」が認められることが妥当な案件だったと考えられる。
 本件動画が被告の著作権を侵害すると、被告が解釈していなかった(少なくとも争うに足りる根拠がなかった)にもかかわらず、本件削除申請を行ったことや、そのように根拠が乏しい本件削除申請を繰り返し行った事情は明らかではないが、プラットプラットフォーマーに対する削除申請を行う際には、少なくとも、権利侵害であると主張するに足る根拠を準備し、虚偽の事実の告知とならないように調査すべき注意義務を尽くした、といえるように対応すべきである。このことを示す例として、本件を紹介させていただいた。

以上
弁護士 石橋茂