【令和7年3月12日(知財高裁 令和6年(行ケ)第10090号)】

【キーワード】

商標法4条1項6号、著名性

 

【事案の概要】

 原告は、以下の商標について、指定商品を第9類及び第16類(手続補正後の指定商品)として商標登録出願を行った。

 商標:ぽんちゃん(標準文字)
 指定商品・役務:

第9類 アニメーションを内容とする記録済み媒体及び動画ファイル、インターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル、インターネットを利用して受信し及び保存することができる音楽ファイル、コンピュータソフトウェア用アプリケーション(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの)、コンピュータ用ゲームソフトウェア(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの)、コンピュータ用プログラム(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの)、サングラス、携帯情報端末用ケース、携帯電話用のダウンロード可能なエモティコン(絵文字)、携帯電話用のダウンロード可能な画像、業務用テレビゲーム機用プログラム、電子出版物、3D眼鏡

第16類 パスポートホルダー、ブックエンド、プラスチック製ごみ収集用袋、写真、出版物、包装紙、印刷物、文房具、書籍、紙、紙製の旗、紙製のよだれ掛け又は胸当て、紙類、鉛筆削り(電気式又は非電気式)

 特許庁は、本願について、群馬県館林市が観光事業に使用している著名なマスコットキャラクターである「ぽんちゃん」(以下のキャラクター)を認識させるものであって、「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なもの」と同一又は類似の商標と認められ、商標法4条1項6号に該当するとして、拒絶査定を行った。

 原告は、当該査定について、拒絶査定不服審判(不服2023-2913号)を提起したが、当該審判においても請求は成り立たないとの審決(以下「本件審決」という。)がなされたため、その取消しを求めて、本件訴訟を提起した。

 

【争点】

 ・商標法4条1項7号該当性

 

【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)

第1~第4(省略)
第5 当裁判所の判断
1 認定事実(省略)
2 取消事由1(商標法4条1項6号該当性判断の誤り)について
(1) 商標法4条1項6号について
 商標法4条1項6号は、商標登録を受けることができない商標として、「国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標」を規定する。その趣旨は、同号に掲げる団体の公益性に鑑み、その権威、信用を尊重するとともに、出所の混同を防いで取引者、需要者の利益を保護することにあると解される。このような趣旨に照らすと、同号にいう「著名なもの」というために、必ずしも、日本全国において広く知られていることを要するものとまでは解されない。すなわち、同号に掲げる団体や事業の地域性を考慮して、著名性の認定に当たり、地理的範囲を限定して考慮する余地があるといえる。
 他方、同号に掲げる団体や事業を表示する標章は極めて多数にわたるために、同号は、対象となる標章を「著名なもの」と限定しているのであって、商標法上の他の規定(例えば、商標法4条1項8号)と完全に整合的に解すべき必要まではないが、少なくとも「著名」の字義に反するような解釈をすることは相当でない。このことは、著名性の地理的範囲についても同様であって、公益事業等を示す標章として特定の地域でのみ知られている標章と同一又は類似する商標の登録を禁止するとなると、本来であれば一般的に認められるべきはずの、商標権を取得して全国的に当該商標を使用する権利を過度に制約することになりかねない。
 以上によると、商標法4条1項6号にいう「著名なもの」というためには、同号に掲げる団体や事業の地域性に照らし、必ずしも日本全国にわたって広く認識されている必要はないが、なお相応の規模の地理的範囲において広く認識されていることを要するものと解するのが相当である。
(2) 検討
ア (省略)
イ (ア)・(イ) (省略)
(ウ) 以上の事情を総合すると、引用キャラクター及びその愛称である「ぽんちゃん」(引用標章)は、館林市民にはなじみのあるキャラクターとして広く認識されていると認められ得るものの、館林市外への露出は散発的かつ限定的であり、群馬県の総人口約197万人に対して館林市の人口が8万人弱にとどまること(平成28年4月1日現在:乙1の甲116)からしても、群馬県及びその周辺において広く認識されていると認めるには至らない。
 そうすると、引用標章は、館林市及び館林市観光協会による観光振興事業の地域性を考慮しても、相応の規模の地理的範囲において広く認識されているということはできないから、商標法4条1項6号にいう「著名なもの」に当たらない。
(3) (省略)
(4) 小括
 以上によると、引用標章は、「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なもの」に当たらないから、本願商標は、商標法4条1項6号に該当する商標には当たらない。これと異なる本件審決の判断は誤りであり、取消事由1には理由がある。
(・・以下、省略・・)

 

【検討】

 本件では、舘林市及び舘林市観光協会が推し進めるキャラクターについて、商標法4条1項6号に定める著名性が否定され、本願が同号に該当するとした本件審決が取り消された。判決では、同号における「著名」とは、「相応の規模の地理的範囲において広く認識されている」か否かという基準で判断されることを示しており、当該基準は従前と同様のものである。
 そのうえで、キャラクター「ぽんちゃん」について、舘林市において広く認識されていることは認めているものの、それのみでは、「相応の規模の地理的範囲において広く認識されている」とはいえないことを示した。
 ただ、判決では「群馬県及びその周辺において広く認識されていると認めるには至らない」と判示しているため、「群馬県及びその周辺」で認識されている場合は、同号の「著名なもの」に該当する可能性があったものと考えられる。
 本号該当性を主張する場合、一都道府県及びその周辺の地域を一つの基準として主張を行うことがありうるものと考える。

以上
弁護士 市橋景子