【令和6年2月27日(札幌地判令和3年(ワ)第595号)】

【キーワード】

不正競争、品質誤認表示、信用毀損行為、一般不法行為、ランキング表示、比較広告

 

【事案の概要】

目元用美容クリーム(アイクリーム)「E」を販売するY1は、平成29年12月頃、下記の記載を含む広告(以下「本件ランキング表示」という)を掲載した。

  1. 「モニターが選んだアイクリームランキング※10 1位」
  2. 「目元の悩みに使ってよかったアイクリームランキング※11 1位」
  3. 「目元に優しい化粧品アイクリームランキング※12 1位」

Y1よりWEB広告に付随する業務を受託したY2は、平成30年12月頃、自ら開発したWEBサイトにおいて、下記の記載を含む広告(以下「本件比較広告」という)を掲載した。

  1. 「D」の欄に「1本あたり2,533円+送料(合計:7,599円/1年契約)」「E」の欄に「1本あたり2,327円送料無料(合計:6,980円/縛りなし)」
  2. 「定価ではDと同じだけど…定期ではEがお得」
  3. 「単品購入はDもEも同じ2,980円ですが、定期コースではEがお得です。」
  4. 「1本ずつ届くお試し定期コースでも、Eはいつでも解約OKなので、実質Eの方が単品でもお得ということになりますね。」
  5. 「Dは定期コースを途中解約できない!」

Y1と同じくアイクリーム「D」を販売するXは、本件比較広告が不正競争防止法2条1項21号所定の信用毀損行為に当たり、本件ランキング表示が同項20号所定の品質誤認表示に当たるところ、これらの行為はYらによる共同の不正競争(同項柱書、民法719条)又は共同不法行為(民法709条、719条)に該当し、これによりXの営業上の利益が侵害されたとして、Yらに対し損害賠償を請求した。

 

【判旨[i]


1 本件ランキング表示の品質誤認表示該当性について

裁判所は、「本件ランキング表示は、客観的根拠を欠くものであって、正確性が何ら担保されていないにもかかわらず、Eが多くの消費者から高く評価されていることを表示し、需要者においてEがそのような評価をされる品質を有する商品であると誤認させる可能性があるといえるから、「品質」について「誤認させるような表示」がされていると認められる。」とした。

2 本件比較広告の信用毀損行為該当性について

裁判所は、YらがXと「競争関係」があることを認めた上、「1本ずつ届くお試し定期コースでも、Eはいつでも解約OKなので、実質Eの方が単品でもお得ということになりますね。」「Dは定期コースを途中解約できない!」とする記載について、その記載内容等から「一般の消費者において、Dの「お試し定期コース」においては途中解約ができないという真実と異なる認識を招く」ことを理由に「虚偽の事実」に当たるとした。
 しかし、Xが主張する事情(DとEとの価格差、販売における契約条件の有利不利)が原告の財産上の義務履行に対する信頼を損ねるとはいえないから、「営業上の信用を害する」ものに当たらないとして、本件比較広告の各記載について信用毀損行為の成立を否定した。

3 Yらによる共同の不正競争及び共同不法行為の成否について

(1)本件ランキング表示に係る共同の不正競争の成否について
裁判所は、Y1について「少なくとも過失により不正競争を行った者(同法4条本文)に該当する」とし、Y2について「客観的根拠を欠く本件ランキング表示をインターネット上に公開した」ことを理由として「故意により不正競争を行った者(前同)に該当する」とした。そして、これらの行為が「その性質上、客観的関連共同性を有する」ため、Yらは共同して不正競争を行ったと判断した。

(2)本件比較広告に係る共同不法行為の成否について
裁判所は、本件比較広告のうち前記「①」「④」「⑤」を含む一部について、「自由競争として許容される範囲を逸脱する態様による広告」であることを理由として、一般不法行為としての違法性を有するとした。次に、Y2について「現に本件比較広告を製作してインターネット上に公開した」行為について「少なくとも過失による不法行為に当たる」とし、Y1について、本件の事情から本件比較広告の内容を認識してY2に公開を依頼したと認定し、「広告主として一般消費者に対しEの売買の誘引をする者として、信義則上、その内容に真実と異なる点がないか確認すべき注意義務を負うべきであり、少なくともかかる注意義務を怠った過失による不法行為が認められる」とした。そして、これらの行為が「その性質上、客観的関連共同性を有する」ため、Yらによる共同不法行為が認められると判断した。

 

【若干のコメント】


1 本件ランキング表示について

裁判所が、広告表示主体であるY1による本件ランキング表示について、従来の比較広告や「No.1表示」に関する裁判例[ii]と同様に、品質誤認表示を認めた点では参考となる事例である。

2 本件比較広告について

広告表示主体であるY1の委託先であるY2による本件比較広告について、信用毀損行為の成否が争点とされ、裁判所はこれを認めなったが、Yらによる共同不法行為の成立を認めた点で注目される。
まず、広告表示主体と異なる第三者による広告表示(ステマ行為に近い行為)については、品質誤認表示の成否を論点とする余地もある。しかし、過去の記事において、広告表示主体と異なる第三者によるランキング表示(ステマ行為に近い行為)が品質誤認表示に当たるとした大阪地裁平成31年4月11日(平成29年(ワ)第7764号)を取り上げたが、同事案は、このような行為に対し品質誤認表示を成立させるハードルが高いことを窺わせる事案であった。つまり、被告が広告表示主体を偽った上、製品・サービスの「品質(質)、内容」に関する評価の実態と表示内容の乖離を意図的に生じさせるという特殊事情を踏まえ、品質誤認表示の成立を肯定した事例判断であった。本件比較広告についても、品質誤認表示ではなく信用毀損行為で争うのが直截的であろう。
加えて、不法行為の成立を認めている点については、議論の余地がある。知的財産権侵害と一般不法行為成立との関係が問題になるリーディングケースとなる最判平成23年12月8日(平成21年(受)第602号・第603号、以下「北朝鮮事件」という)は、一般不法行為の成立を認めるためには「著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情」が必要であるとし、それ以降、多くの裁判例は、当該規範に基づき不法行為の成立を否定してきた[iii]。本件は、北朝鮮事件の当該規範との関係(前記「特段の事情」があるのか)を明らかにしないまま、あっさりと一般不法行為の成立を認めた感がある。北朝鮮事件の枠組みの下で不法行為の成立を認めた東京高判令和6年6月19日(令和3年(ネ)第4643号、バンドスコア事件)との関係に照らしても、本件の位置付けは難しく、同種事案の先例としての価値は十分でないといえよう。

 

文責:藤枝 典明


[i] 紙幅の都合上、原告の損害の有無及び額の争点については割愛する。
[ii] 知財高裁平成18年10月18日(平成17年(ネ)10059号、キシリトールガム事件)、大阪地判平成23年12月15日(平成19年(ワ)11489号、15110号、平成22年(ワ)7740号、GOLD Glitter事件)等
[iii] 「著作権法や不正競争防止法が規律の対象とする著作物や周知商品等表示の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではない」等と判断した知財高判平成24年8月8日(判時2165号42頁、釣りゲー事件)、知財高判平成27年11月10日(平成27年(ネ)10049号、スピードラーニング)等