【大阪地判令和2年10月6日(令元(ワ)7252号)】

【判旨】
 著作物の利用の承諾及び引用の要件の充足性が否定され、著作権侵害が肯定された。

【キーワード】
同一性保持権侵害、引用

判旨

   ⑵  原告各投稿と本件各記事の関係
・・・
    キ まとめ
  以上より,本件各記事は,いずれも,独自のタイトルを付したり,原告各投稿との区別が不明瞭な形で本件コメント部分を付け加えたり,一部の文章を削除し写真を付け加えたり,行間を広げたり,一部の文字を太くしたものであり,原告各投稿を改変したものと認められる。
    ⑶  争点⑴ウ(原告の承諾)について
    ア 本件各記事の転載の態様について
  前記認定事実のとおり,本件各記事は,原告各投稿につき,独自のタイトルを付け,本件コメント部分を付し(本件記事3を除く。),原告各投稿の全部又は一部をそのまま転載したものである。また,本件記事7の下部には,原告投稿7を,フェイスブック上の「埋め込み投稿」の機能を用いて本件ウェブサイトに転載したことを示す埋め込み表示があり,本件記事1ないし4及び6の下部には,削除表示がある。
    イ フェイスブック上の「埋め込み投稿」の設定について
  被告は,フェイスブックの利用者の一般的な目的が投稿を広めることにあることなどから,他の利用者が「埋め込み投稿」の機能を利用して外部のウェブサイトに投稿を転載することを許容する設定になっている投稿記事については,当該投稿記事が外部に広く転載されることについて,投稿者の黙示の承諾があるとみなすことができると主張する。
  「埋め込み投稿」の機能を利用した場合,外部のウェブサイトには,自動的に,フェイスブックの元の投稿の全部又は一部,アカウント名及びプロフィール写真等が一定の枠内に表示され(埋め込み表示),元の投稿が削除されたり変更されたりした場合には,自動的にその枠内にもその旨が表示される(削除表示)のであるから,同機能は,いわゆるインラインリンクを設定するものであると解することができる。
  この場合,当該ウェブサイトを閲覧する者は,埋め込み表示された投稿がフェイスブックの投稿であって同ウェブサイトの他の部分とは区別されるものであるということを容易に理解することができ,また,埋め込み表示をクリックすることにより,フェイスブック上の元の投稿に移動することもできる。
    ウ 原告の意思について
  これまで検討したところによれば,原告各投稿がなされ,本件各記事が投稿された時点では,原告は,フェイスブック上で,原告各投稿の「埋め込み投稿」を許容する設定にしていたと認められ,本件記事5以外の本件各記事には,その下部に埋め込み表示や削除表示があることから,本件投稿者は,これらの本件各記事の下部枠内に,原告各投稿の埋め込み表示をしていたものと解され,「埋め込み投稿」の利用自体については,原告の承諾があったと考えることもできる。しかしながら,本訴訟において原告が問題としているのは,原告各投稿を埋め込み表示したことではなく,原告各投稿の一部又は全部を本件各記事に転載したことである。
  この点については,原告がフェイスブック上で,「埋め込み投稿」を許容する設定にしていたからといって,原告各投稿の内容をいかなる形で利用することをも承諾していたと解することはできず,「埋め込み投稿」の利用を超える転載については,公表された著作物の引用(著作権法32条1項)の法理により,その適否を判断すべきである。
    ⑷  争点⑴エ(「引用」の成否)について
  他人の著作物を引用して利用することが許されるためには,引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり,かつ,引用の目的との関係で正当な範囲内,すなわち,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要であって(著作権法32条),やむを得ないと認められる場合を除き,改変することは認められない(同法20条)。
  本件各記事において,本件投稿者が付け加えた記述(本件コメント部分)は1ないし3行である一方で,本件転載部分は数行ないし約45行であって,本件各記事の主な部分を占める。また,前記のとおり,本件ウェブサイトの閲覧者にとって,本件コメント部分と本件転載部分との区別は不明瞭であって,全体を一つのまとまりの文章と認識する可能性が高いから,本件投稿者による記述部分が原告各投稿の転載部分に対する批評の一類型であるととらえることはできない。また,原告の氏名や元の投稿を示す記載は,埋め込み表示以外はなく,その埋め込み表示も,前記2⑴イのとおり,本件転載部分について引用であることを明らかにして著作者の氏名や引用元等を明示するものとはいえない。
  以上を総合すると,本件投稿者は,原告各投稿を本件各記事に転載するに当たり,本件投稿者が記載した本件コメント部分との区別を明確にせず,また本件転載部分の出所を明示しないことにより,タイトル,本件コメント部分及び本件転載部分を一つのまとまりとして記載させるようにして,原告各投稿を改変したというべきであり,これを公正な慣行に合致した正当な範囲内での引用(同法32条1項)に当たるということはできないし,このように原告各投稿を利用することについて,原告の承諾があるということもできない。

検討

 本件は、発信者情報開示で、著作権侵害の成否が争われた事件でありFBの「埋め込み投稿」の機能(外部ウェブサイトの転載許容の設定)が設定された記事を、転載し、かつ、記事のタイトルや、若干のコメントを追記して投稿した記事をブログに投稿する行為について、著作権侵害、同一性保持権侵害の成否、利用許諾の成否、引用の成否が争われた事案です。
 本判決では、記事のタイトルや、若干のコメントの追記が、引用元の記事との関係で区分が十分にされていなかったことを理由として、同一性保持権侵害が肯定されています。
 また、本判決は、まず、FBの「埋め込み投稿」の機能が設定された記事であっても、あらゆる利用態様での転載を承諾したとはいえないことから、利用許諾はしておらず、引用の問題で解決すべきと判断した上で、上記理由により明瞭区分性がないことに加え、引用元の記事が45行程度に対し、コメントは1~3行といった主従性、出所の明示がなかったことを理由に引用の成立を否定しています。
 筋としては、著作権侵害、同一性保持権侵害が成立する事案で、結論や理由は妥当な内容であると思いますが、SNSの記事を転載してコメント等をする場合に、雑に行ってしまうとありがちな行為に対し、著作権侵害、同一性保持権侵害が認定されたという点では参考になると思います。なお、本件では、出所の明示や引用部分を「」等付けた場合に、引用元の記事が45行程度に対し、コメントは1~3行という点のみで引用が否定されるかというと、FBの「埋め込み投稿」の機能により拡散が許容されていることや、SNS上の記事の転載という場面において、公正な慣行に合致した正当な範囲内での引用(同法32条1項)といえる余地があると考えられます。

以上
(筆者)弁護士・弁理士 杉尾雄一