【令和2年6月4日(知財高裁 令和元年(行ケ)第10085号)】

キーワード:進歩性

 1 事案の概要

 本件は、拒絶査定不服審判の審決取消訴訟である。進歩性について審理不十分として審決が取り消された。

 2 本願の特許請求の範囲

【請求項1】
A 他のコンピュータと通信可能に接続されるコンピュータを,
B それぞれに対して,キャラクタの選択に用いられるポイントおよび複数のパラメータが,キャラクタ毎に個別に設定された複数のキャラクタカードを互いに隣接配置した状態で第1フィールドに表示する第1制御手段と,
C 前記第1フィールドに表示された複数のキャラクタカードのうち,前記ポイントが時間の経過に伴って加算されるポイント総量(1)以下であるキャラクタカードをプレイヤの操作によって選択可能に表示する第2制御手段と,
D 選択されたキャラクタカードを前記第1フィールドから除去して,対応するキャラクタを前記第1フィールドとは異なる第2フィールドに配置する第3制御手段と,
E プレイヤの操作によって選択されたキャラクタカードに設定されたポイントを前記ポイント総量から減算された新たなポイント総量として表示する第4制御手段と,として機能させ,
F 前記第2フィールドへのキャラクタカードの配置に伴い,前記第1フィールドとは異なる第3フィールドに配置されていた追加のキャラクタカードが,前記第1フィールドに補充されるように表示され,
G 前記選択されたキャラクタカードに対応するキャラクタは(3),設定された前記複数のパラメータに基づいて(2),前記第2フィールドにおいて敵キャラクタを攻撃し,
H 前記新たなポイント総量が時間の経過に伴って加算され(1),前記新たなポイント総量以下のポイントが設定された前記第1フィールド内のキャラクタカードをプレイヤの操作によって引き続き選択可能である,
I 対戦ゲーム制御プログラム。

 3 引用発明(オンラインゲーム「CARTE」紹介YouTube動画)

 それぞれに対して,「1●」や「4●」などの「レベル」および「AP1 HP1」や「AP2 HP1」などの「APの値」及び「HPの値」が,CREATURE毎に個別に設定された複数のカードを互いに一部分が重なりながら「第11領域」に表示し,
 「第11領域」に表示された複数のカードをプレイヤの操作によって選択可能に表示し,
 選択されたカードを「第11領域」から,「第11領域」とは異なる「第3領域」または「第4領域」に移動して配置し,
 カードを「第11領域」から「第3領域」または「第4領域」に移動させるときに,「第6領域」の上下の数字表示のうち上の数字である「マナ」の数字が減算され,その減算額は,CREATUREの日本語名の直後に記載される「1●」や「4●」などの「レベル」の値に等しく,「マナ」に関し,例えば「第11領域」の「1レベル」のCREATUREのカードを選択して第3領域に配置することで「1」であったものが,「0」と表示され,「第11領域」の「4レベル」CREATUREのカードを選択して第4領域に配置することで「10」であったものが,「6」と表示され,さらに,「第11領域」の「2レベル」のCREATUREのカードを「第4領域」に配置することで「3」であったものが,「1」と表示されるものであって,
 「第11領域」から,「第7領域」へのカードの配置に伴い,「第11領域」とは異なる「第10領域」に配置されていたカードが,「第11領域」に補充され,
 「第3領域」に配置されるカードのCREATUREが,「(敵)第2領域」に配置されるカードのヒーロー」を攻撃する際,当該攻撃による「(敵)第2領域」のヒーローの「HPの値」の減少量は,「第3領域」に配置されるカードのCREATUREの「APの値」に等しく,
 「マナ」の数字は,ゲーム開始である1ターンを除く3ターン以降,新しいターンが開始される毎に増加し,同一のターン内において,同じ「第11領域」にあるCREATUREのカードを
引き続いて選択可能なオンライン対戦ゲーム。

4 本願発明と引用発明との相違点(一部抜粋)

〈相違点2〉
本願発明は,「複数のキャラクタカードを互いに隣接配置した状態で第1フィールドに表示」しているのに対して,引用発明においては「複数のカードを互いに一部分が重なりながら第11領域に表示」している点。
〈相違点6〉
第3フィールドに配置されていた追加のキャラクタカードが,第1フィールドに補充されるように表示することに関して,本願発明においては「第2フィールドへのキャラクタカードの配置」に伴うものであるのに対して,引用発明においては「第11領域から,第7領域へのカードの配置」に伴うものである点。

 5 争点

・相違点の容易想到性
 相違点2について、審決は、カードを隣接して並べるか、一部重ね合わせて並べるかは設計事項にすぎないと判示した。
 相違点6について、審決は、カードの移動に関し、どのフィールドもしくはどの領域への移動を補充の対象とするかは、ゲーム上の取決めにすぎないと判示した。

 6 裁判所の判断

「5 取消事由2-1(相違点2の容易想到性の判断誤り)について
・・・
(1) 引用発明において,「手持ちのカード」は,カードに描かれた図柄の一部を視認できるように,互いに一部分が重なりながら表示されている(別紙の図B)。
 オンライン対戦カードゲームにおいて,複数のカードを表示する際に,当該複数のカードを表向きにして隣接配置した状態で表示装置に表示させることは,特開2013-34826号公報(乙5)の【0019】及び【図1】,特開2012-210398号公報(乙6)の【0076】及び【図9】にも開示されており,原出願時の周知技術であったと認められる。
 そうすると,画面上に複数のカードを表示させるにあたり,引用発明のように,一部が重なった表示態様で表示させるか,周知の表示態様のように,隣接配置した状態で表示させるかは,ゲーム画面をデザインするにあたり,当業者が任意に選択する事項であるといえる。そして,この選択に当たっては,カードの図柄及び大きさ並びに表示領域の広さ等を適宜工夫することになるが,原出願時においてコンピュータディスプレイ上の高速かつ高精細な画像表示が一般化していたことは顕著な事実であるから,当業者にとって,
そのような工夫をすることに技術的な困難性もなかったといえる。また,引用発明において,隣接配置した状態で表示させる周知の表示態様を採用することによって,当業者の予測を超える効果を奏するものでもない。
 したがって,引用発明及び周知技術に基づいて,相違点2に係る構成を得ることは,当業者が容易に想到し得る事項であるといえる。

6 取消事由2-2(相違点6の容易想到性の判断誤り)について
・・・
(1) 相違点6に係る構成が容易想到であると判断するに当たっての審決の論理構成は,次のとおりである。
①「手持ちのカード」が他のフィールド又は領域への移動に伴いその数を減じたときに「手持ちのカード」を補充するという構成を採用するに当たって,どのフィールド又は領域への移動を補充の契機とするかはゲーム上の取決めにすぎない。
② よって,第7領域への移動をカードの補充の契機とする引用発明の構成を,第3領域(敵ヒーローへの攻撃を行うための領域)への移動を補充の契機とする本願発明の構成に変更することは,ゲーム上の取決めを変更することにすぎない。
③ よって,引用発明の構成を本願発明における構成とすることも,ゲーム上の取決めの変更にすぎず,当業者が容易に想到し得た。
(2) しかしながら,審決の上記論理構成は,次のとおり不相当である。
ア 審決は,引用発明の認定に当たって「カード」の種類に言及していないが,CARTEによれば,第10領域から第11領域へのカードの補充の契機となるのは,「シャードカード」(深緑の地色に白抜きで円形と三日月形が表示されているカード)の第11領域から第7領域への移動及び第7領域から第6領域への移動である(00分39秒~40秒,00分49秒~50秒等)。
 そして,「シャードカード」は,専ら「マナ」(カードのセッティングやスキルの発動に必要不可欠なエネルギー<00分42秒>)を増やすために用いられるカードであり,その移動先はシャードゾーン(第7領域)又はマナゾーン(第6領域)に限られ,敵との直接の攻防のためにアタックゾーン(第3領域)又はディフェンスゾーン(第4領域)に移動させられることはない。これに対し,「クリーチャーカード」は,敵のクリーチャーやヒーローとの攻防に直接用いられるものであって,第11領域から適宜アタックゾーン(第3領域)又はディフェンスゾーン(第4領域)に移動させられ,攻防の能力を表す「APの値」及び「HPの値」を有している。
イ このように,引用発明におけるカードの補充は,本願発明におけるそれとの対比において,補充の契機となるカードの移動先の点において異なるほか,移動されるカードの種類や機能においても異なっており,相違点6は小さな相違ではない。そして,かかる相違点6の存在によって,引用発明と本願発明とではゲームの性格が相当程度に異なってくるといえる。したがって,相違点6に係る構成が「ゲーム上の取決めにすぎない」として,他の公知技術等を用いた論理付けを示さないまま容易想到と判断することは,相当でない。」

 7 コメント

 審決は、「手持ちのカード」が他のフィールド又は領域への移動に伴いその数を減じたときに「手持ちのカード」を補充するという構成を採用するに当たって,どのフィールド又は領域への移動を補充の契機とするかはゲーム上の取決めにすぎない、と判断した。これに対して、判決では、引用発明において、カード補充の契機となるカード移動は、バトルに用いられるカードとは異なるカードの移動である、相違点6については、カード補充の契機となる移動先の違いだけではなく、カードの種類の違いも含むものであり、小さな相違点ではない、相違点6によって、ゲームの性格が変わる、したがって、相違点6を単なるゲーム上の取決めにすぎないとして、他の公知技術を持ってこずに容易想到と判断するのは誤りであると判示した。
 本件のように、一見すると設計事項等で片付けられそうな些末な相違点であっても、発明を深掘りすることで、進歩性を基礎づける相違点として主張できることがある。

以上

弁護士・弁理士 篠田淳郎