【令和2年11月30日判決 平成30年(ワ)第26166号】

【判旨】
一般の個人顧客に向けた木造戸建て住宅を販売する原告が、建築工事の請負業等を行っている被告に対し、原告の保有する意匠権及び不正競争防止法2条1項1号に基づき、被告の建物の製造販売の中止、損害賠償及び既に売却済みの建物の除去等を求めた事案。裁判所は、意匠権侵害に基づく差し止め及び損害賠償請求の一部を認容しつつ、不正競争防止法に基づく原告の請求は棄却した。

【キーワード】
意匠法、不動産、不正競争防止法2条1項1号、商品形態の保護

1 事案の概要

 原告(株式会社アールシーコア)は、「BESS」のブランド名を用いて、一般の個人顧客に向けた木造戸建て住宅を販売する事業者である。原告の主力製品の1つは、「ワンダーデバイス」というシリーズ名のログハウス調木造住宅で、同シリーズ中の「フランクフェイス」という名称のモデルは、正面の柱と梁(はり)で十字(変形田の字)を構成する特徴的なデザインを有し、需要者間で人気を博していた。原告は、2017年2月10日、上記デザインについて【意匠に係る物品】を「組立家屋」とする部分意匠の意匠登録を受けた。

※原告の登録意匠(部分意匠のため、意匠登録は実線部分)

 被告(株式会社マキタホーム)は、鳥取県鳥取市内に本店を置き、建築工事の請負業、不動産の賃貸及び売買等を行っている会社である。被告が当時販売していた家屋の正面デザインは以下のとおりで、原告の登録意匠に係る形態(十字部分)を左右反転させたような形となっていた。

※被告の販売していた木造住宅(判決別紙参考画像より抜粋)

2 意匠権に関する争点及び裁判所の判断

(1) 「物品」の同一性について

 本件は改正前の意匠法に係る事案であり、原告意匠は「組立家屋」として意匠登録されていた。このため、被告からは、被告が販売等しているのは不動産たる建物であり、意匠法上の「物品」には該当しないから、本件においては物品の類似性が観念し得ず、本件意匠と被告意匠の類似性も認められないとの主張が出された。
 これに対し、裁判所は、意匠法における「物品」の解釈について、「・・・使用される時点においては不動産として取り扱われる物であっても、工業的な量産可能性が認められ、動産的に取り扱われ得る物である限り、『物品』に該当すると解するのが相当である。」と述べた上で、使用される時点では不動産として取り扱われるものでも、それより前の時点において動産的に取り扱うことのできるものであれば、「組立家屋」に該当すると判示した。

※判決文より抜粋(下線部は筆者が付加。以下同じ。)

そして、意匠法7条、意匠法施行規則別表第1の61号は、「組立て家屋」を意匠の物品の区分の1つとして規定しているところ、「物品」に係る上記の解釈に照らせば、組立て後、使用される時点においては不動産として扱われる組立て家屋であっても、それより前の時点において、その構成部分を量産し、運搬して組み立てるなど、動産的に取り扱うことができるものである限り、同号が規定する「組立て家屋」に該当するというべきである。

 そして、本件では、被告が「枠組壁工法」(いわゆる「ツーバイフォー工法」)という工法を採用しており、被告の建物が工場等で量産された木材及び構造用合板を現場に運搬し、組み立てて建築するという工程を経たことが推認されること等を理由に、被告意匠が原告意匠と同一物品の「組立家屋」に該当すると認定した。

本件についてこれをみるに、前記ア(イ)aのとおり、被告は、被告各建物を建築する上で枠組壁工法を採用しているから、前記ア(ア)で認定したところを併せ考えれば、被告各建物について、工場等で量産された木材及び構造用合板を現場に運搬し、同所で組み立てて建築するという工程を経たことが推認される。このことは、前記ア(イ)bのとおり、被告各建物がいずれも3か月程度という短い工期で完成したことや、前記ア(ウ)のとおり、被告各建物がいずれも共通した形状を有していることによっても裏付けられるといえる。
 以上によれば、被告各建物は、その建築工程等に照らし、使用される時点においては不動産として取り扱われるものの、それよりも前の時点においては、工業的に量産された材料を運搬して現場で組み立てるなど、動産的に取り扱うことが可能な建物であるから、「組立て家屋」に該当すると認められる。そして、被告各建物はいずれも被告製品1の構成態様を備えているから、被告製品1についても、同様に、動産的に取り扱うことができる建物と認められる。
 したがって、被告製品1は、いずれも、「組立て家屋」として「物品」に該当するといえる。

(2) 意匠の類否について

 上記(1)で述べたとおり、原告意匠は、正面視において、柱部により形成される縦棒が、家屋の中心からやや左に外れた位置に配置されているのに対し、被告意匠は、柱部が中心から右に外れた位置に形成されているという相違点があったため、被告からは、両意匠は非類似であるとの主張がなされた。
 これに対し、裁判所は、原告意匠の要部が家屋の正面視の形態であると認定した上で、上記の相違点は要部に関するものであるが、美感に決定的な影響を与える差異ではないなどとして、両意匠は類似であると結論づけた。

(ウ) 差異点についての評価
  a 以上を踏まえて検討すると、前記(ア)bでみた両意匠の差異点、すなわち、柱部が形成されている位置が中心からやや左に外れた箇所であるか(本件意匠)、それとも中心からやや右または左に外れた箇所であるか(被告意匠)という相違は、別紙本件意匠目録記載の構成態様A及び構成態様aないしgにより特定された家屋の正面視の形状に含まれることから、要部に関するものであるといえる。
 しかしながら、上記の差異は、柱部の位置が家屋の正面視の中心から、左と右のいずれに外れているかという点に関するものにすぎず、柱部がその中心に位置するものではないという限りにおいては共通の形状となっている
 そして、柱部を家屋の中心からやや外れた箇所に位置することにより、正面視において左右の対称性が欠ける形状となる結果、柱部を家屋の中心に配置する場合と比較して、看者に対し、より斬新さや独創性を感得させる効果を生じさせると考えられるところ、そのような効果は、柱部が中心からみて右寄りに位置するか、左寄りに位置するかによって、違いはないといえる。そうすると、柱部が右寄りに位置するか、左寄りに位置するかという差異点は、要部に関するものではあるが、本件意匠が看者に起こさせる美感に決定的な影響を与える差異であるということはできない

(3) 差し止めの必要性について

 被告は、訴訟前に原告から警告書を受領したことを受け、建物の正面視に位置する柱部(十字の縦棒部分)を撤去する工事を既に完了していた。そこで、被告は、差止め請求を認めるべき必要性はないとの主張を行いたが、裁判所は、製造販売の再開が困難ではないこと等を理由として、未だ意匠権を侵害するおそれはあるとして、原告による差止め請求を認めた1

しかしながら、前記1(1)イ(イ)のとおり、被告製品1は、枠組壁工法により、工場において量産が可能な建材を用いて建築される組立て家屋であるから、いったん製造、販売等を中止したとしても、その再開はさほど困難ではないと推認される。また、被告は、本件において、本件意匠と被告製品1の意匠との類否を争うとともに、本件意匠権は無効であると主張して、本件意匠権の侵害を争っている。そうすると、上記のとおり、被告が、被告各建物の柱部を除却する工事を完了したことを考慮しても、現時点において、被告において再び被告製品1を製造、販売等し、もって本件意匠権を侵害するおそれがあると認められる。

  もっとも、建物の除去請求に関しては、所有権が被告から顧客(家主)に移転していることや、設計変更済みであることを理由に、これを認めなかった。

(2)  建物の除去の必要性について
 原告による別紙被告製品目録1記載の建物の除去請求は,意匠法37条2項に基づき,「侵害の行為を組成した物品」の廃棄を請求するものと解される。
 この点,被告各建物を製造,販売等する行為は本件意匠権を侵害するものであるところ,そのうち,H建物及びI建物は既に顧客に販売されたから,それらの所有権は当該各顧客に移転したと認められる。
 また,J建物については,前記(1)のとおり,被告がその正面視の柱部に当たる構成部分を除去する工事を完了したことにより,J建物に係る意匠は,本件意匠と同一であるとも,類似であるともいえなくなったと認められる。
 そして,本件全証拠によっても,現時点において,被告が所有及び占有する被告製品1が存在することは認められない。
 以上によれば,被告製品1の除去に係る原告の請求は理由がないというべきである。

 

3 不正競争防止法に関する争点及び裁判所の判断

(1) 原告製品形態の「商品等表示」該当性について

 原告は、原告製品形態が原告の出所を示すものとして需要者の間で周知になっており、不正競争防止法2条1項1号における「商品等表示」該当すると主張した。この点について、裁判所は、従来の判断枠組みに従って、①特別顕著性、②周知性、の2要件が満たされる場合には、原告商品形態も商品等表示として保護され得ると判示した。

イ 原告製品の形態の商品等表示該当性
 (ア) 商品の形態と商品等表示性
 不競法2条1項1号は,他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用することをもって「不正競争」に該当すると定めたものであるところ,その趣旨は,周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,事業者間の公正な競争を確保することにある。
 同号にいう「商品等表示」とは,「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品または営業を表示するもの」をいうところ,商品の形態は,「商標」等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして,このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,不競法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に利用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性),需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要すると解するのが相当である。
 前記1(1)ウ(イ)bと同様に,ここでいう需要者についても,木造戸建て住宅の購入に関心がある一般消費者と認めるのが相当である。

 次に、被告は、原告の特定する商品形態が特定性を欠くものである旨の主張を行ったが、裁判所は、原告による商品形態の特定は、家屋の正面の形態について具体的に特定されていることを理由に、被告の主張を退けた。

(イ) 原告製品形態の特定性について
 被告は,原告製品形態の記載では,建物の正面の一部分のみが特定されているにすぎず,一般住宅の特定に必要な建物全体の形態や,屋根,柱等の建物の構成要素が具体的に明らかにされていないから,商品の形態が特定されていないと主張する。
 しかしながら,そもそも,原告は,建物全体の形態が「商品等表示」(不競法2条1項1号)に当たると主張するものではなく,原告製品形態①ないし⑤の構成を有する建物の正面の形態が「商品等表示」に当たると主張するものである。
 そして,原告製品形態の記載によって商品の形態が特定されているかを検討すると,まず,原告製品形態①ないし⑤によって,原告が「商品等表示」に当たるとする建物の形態が建物のうち正面の部分であると限定された上で,建物の正面の必須の構成要素をなす2階の天井部や左右の壁,正面側壁面等が存在することのみならず,上記天井部及び壁が矩形を形成するとともに,柱部(「田」の字の3画目の縦棒)及び梁部(同4画目の横棒)が配置され,これらの矩形並びに縦棒及び横棒により変形「田」の字を形成することが明らかにされている。加えて,原告製品形態②は,上記柱部が家屋の中央からやや外れた位置に,上記梁部が上記柱部の略中央の高さにそれぞれ形成されることが示され,これによって,上記変形「田」の字が具体的にいかなる形態をなすものであるかがより明確に表されている。以上のほか,原告製品形態③及び④によって上記柱部及び上記梁部と家屋の正面側壁面等との位置関係が,原告製品形態⑤によって家屋正面の構成要素の配色が,それぞれ明らかにされている。
 このように,原告製品形態は,正面側壁面のほか,家屋の正面を構成する左右の壁,正面の壁面,天井部,柱部及び梁部等の構成要素並びにそれらの配置等について記載されており,これによって,家屋の正面の形態は具体的に特定されているといえる。
 したがって,被告の上記主張は採用することができない。

 しかし、裁判所は、要件①の特別顕著性について、原告が周知性を獲得したと主張する以前の段階において、原告製品形態の一部ないし全てを備える建物が存在していたこと等を理由に、原告製品形態は客観的に他の同種製品とは異なる顕著な特徴を有しているとまでは認められないとして、要件充足性を否定した。

(ウ) 原告製品形態の特別顕著性について
  a 仮に,正面視が四角形をなす家屋がありふれたものであるとしても,前記ア(ア)の原告製品形態を有する原告製品は,原告製品形態①及び②のとおり,正面視が四角形をなすものであることに加え,矩形の天井部及び左右の壁並びに縦棒の柱部及び横棒の梁部が配置されることによって,四角形をなす家屋の正面に変形「田」の字が構成されている。そして,原告製品形態③及び④のとおり,柱部及び梁部が正面側壁面と離れて配置される結果,上記変形「田」の字が正面側壁面から浮き上がるように見える。さらに,原告製品形態⑤のとおり,上記変形「田」の字の部分は,背面に存在する壁面の色と異なる色が配されることとされる結果,上記変形「田」の字の部分と,正面側壁面の部分とが,色彩によっても区別できるようになる。
 原告製品のこうした形態が組み合わされることにより,原告製品の正面を見る者において,原告製品の正面に変形「田」の字が配置されていることが容易に把握できるといえるところ,一般的な家屋において,四角形をなす家屋の正面に上記のような変形「田」の字が配置されるとは限らないと考えられる。そうすると,原告製品の正面の形態は,上記のような変形「田」の字の部分によって特徴づけられているということができる。
  b しかしながら,他方,前記ア(ウ)のとおり,原告製品の正面の形態に見られる前記aの特徴の全部又は一部を備えた家屋は,原告以外の者によっても製造,販売等されていることが認められる。
 すなわち, 原告において原告製品形態が商品等表示性を獲得したと主張する平成29年3月までの時点において,Ⓐ原告製品形態全てを備える建物が少なくとも1棟(乙9),Ⓑ原告製品形態①,③,④,⑤を満たす建物が少なくとも2棟(乙8,乙10),Ⓒ原告製品形態②ないし④を満たす建物が少なくとも1棟(乙16),Ⓓ原告製品形態①,③,④を満たす建物が少なくとも1棟(乙11)存在する。
 この点,上記Ⓑについては,原告製品の柱部に相当する縦棒が家屋の中央に存在するために,原告製品形態②を満たさないものの,正面に「田」の字を形成しているという点において,家屋の正面を見る者に同種の印象を与えるといえるのであって,他の原告製品形態を全て備えていることを併せ考えれば,いずれの家屋の正面視も原告製品形態と類似するものといえる。
 また,上記Ⓒについては,右の壁が縦長の矩形を形成していないこと等から前記①を満たさないほか,左の壁及び天井部と,変形「田」の字を構成するその余の辺の色とが異なるため,原告製品形態⑤を満たさないものの,右辺に配置された柱と,天井部,左の壁,縦長及び横長の各矩形並びにこれらの配色により,需要者が正面視において変形「田」を感得することは比較的容易であって,その余の原告製品形態を全て備えることを併せ考えれば,原告製品形態と類似する正面視を有する家屋であるといえる。
 そして,上記Ⓓについては,原告製品形態②及び⑤を満たさないものではあるが,その余の原告製品形態により,原告製品と同様,正面に「田」の字を感得させ得る構造を有しているのであって,原告製品形態と比較的類似したものといえる。
  c このように,原告製品形態を有する建物を特徴づける構成,すなわち,その正面視の形態が「田」の字あるいは変形「田」の字を構成する建物は,従前,他にもみられたものであって,原告製品形態が商品等表示性を獲得したと主張する時点より前の時点において,原告製品と類似する建物が前記bの数存在したことが認められる。そして,家屋という性質上,その数は決して少数ではないというべきである。
 以上のような原告製品形態と同一又は類似の形態を有する建物が存在する状況に照らせば,原告製品形態は,その形態を個別にみても,これらの形態の組合せとしてみても,家屋の正面視に関する形態として,客観的に他の同種製品とは異なる顕著な特徴を有しているとまでは認められない。
   (2)  争点2についての小括
 以上の次第で,争点2に関するその余の点について判断するまでもなく,不競法に基づく原告の請求にはいずれも理由がない。

 

(2) 過去の訴訟との関係
 原告は、過去にも自らの製品形態について、不正競争防止法2条1項1号に基づく保護を求める訴訟を提起しており(平成26年10月17日判決(東京地裁平成25(ワ)第22468号))、その際は製品形態が特定性を欠くものであることを理由に請求が退けられていた(https://www.ip-bengoshi.com/archives/2266 )。本訴訟では、残念ながら特別顕著性は認められなかったものの、製品形態の特定性という点では問題なく、さらに建物の全てではなく正面部分の形態のみであっても商品等表示に該当し得ると判示された点においては、上記訴訟よりも一歩進んだ判断が示されたともいえる。

4 まとめ

 本事件は、住宅の形態について改正前意匠法に基づく法的保護を認めた画期的な判決であると同時に、不正競争防止法2条1項1号に基づく法的保護の判断枠組みを示したものであり、実務上参考になると思われる。


1ただし、既に顧客に販売された製品(家屋)の除却請求については、建物の所有権が顧客に移転していること等を理由に認められませんでした。

以上
(筆者)弁護士・弁理士 丸山真幸