【令和2年3月11日判決(知財高裁 令元(行ケ)10119号 審決取消請求事件)】

【キーワード】

商標法3条1項6号、商標法3条2項、識別性のない商標、色彩のみからなる商標

【事案の概要】

 原告は、以下の色彩のみからなる標章(以下「本願商標」という。)について商標登録出願(商願2015-30535号。以下「本願」という。)を行ったが、拒絶査定を受けたため、拒絶査定不服審判(不服2018-3370号)を請求した。

・本願商標

・商標の詳細な説明:商標登録を受けようとする商標は、橙色(RGBの組合せ:R237、G97、B3)のみからなるものである。

・出願日:平成27年4月1日

・指定商品:第36類「インターネット上に設置された不動産に関するポータルサイトにおける建物又は土地の情報の提供」

 しかし、特許庁は、本願商標は商標法3条1項6号に該当するとして、「本件審判の請求は、成り立たない」と審決(以下「本件審決」という。)したため、原告は、本件審決の取消しを求め、本件訴訟を提起した。

【審決の理由の概要】

 特許庁は、以下の①~③の理由から、本願商標は、本願の指定役務に使用しても、これに接する需要者は、その役務の提供の用に供する物や広告等に通常使用される色彩又は使用され得る色彩を表したものと認識するにとどまり、本願商標を役務の出所を表示するものとして、又は自他役務を識別するための標識として認識することはないため、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標であって、商標法3条1項6号に該当すると判断した。

① 本願商標は、橙色の色彩のみからなる商標であるところ、本願の指定役務との関係においては、役務の魅力向上のために使用される色彩と認識されるものであること

② 本願商標と近似する色彩が、原告以外の者によって、ウェブサイトに使用されていることからすれば、何人もその使用を欲するといい得るものであり、これを一私人に独占させることは妥当ではないこと

③ 原告による本願商標の使用により識別力を獲得したものと認められないこと

【争点】

・商標法3条1項6号該当性、商標法3条2項該当性

【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)

第1~第3(省略)

第4 当裁判所の判断

1(省略)

2 本願商標の商標法3条1項6号該当性について

・・(省略)・・

⑴ 本願商標の本来的な識別力について

ア(ア) 本願の指定役務第36類「インターネット上に設置された不動産に関するポータルサイトにおける建物又は土地の情報の提供」の需要者は、住宅やマンションなどの不動産物件の購入、賃借等を検討している一般の消費者であるものと認められる。

 このような需要者は、ポータルサイトで、必要な情報に関する検索を行い、その検索結果に基づいて、不動産業者等に対し、掲載物件についての問合せをしたり、不動産業者等から紹介を受けるなどして、不動産取引を行うのが通常であるものと認められる。

 (イ) 本願商標は、別紙1のとおり、橙色(RGBの組合せ:R237、G97、B3)の単色の色彩のみからなる商標である。

 橙色は、「赤みを帯びた黄色。オレンジいろ。」(乙1)であり、JISの色彩規格にも例示されていること(乙2)からすると、特異な色彩であるとはいえない。

 そして、乙3(「3日でわかる!デザイン学校解体新書」のウェブサイト)には、「オレンジ色は、温かさ、熱、活力などをイメージ色として、「暖色」に分類される色です。」、「企業をアピールする企業広告や、ポートフォリオ、iPhoneのアプリ販売サイト等のデザインにも良く利用される色で、この色を使用することによって、前向きで活力のある印象を与えることができます。」との記載があることに照らすと、橙色は、広告やウェブサイトのデザインにおいて、前向きで活力のある印象を与える色彩として、一般に利用されているものと認められる。

 また、前記1⑷の認定事実によれば、不動産の売買、賃貸の仲介等の不動産業者のウェブサイトには、ロゴマーク、その他の文字、枠、アイコン等の図形、背景等を装飾する色彩として橙色が普通に使用されていることが認められる。

 しかるところ、前記1⑴イ認定のとおり、原告ウェブサイトのトップページ(甲20)においても、別紙2のとおり、最上部左に位置する図形と「LIFULL HOME’S」の文字によって構成されたロゴマーク、その他の文字、白抜きの文字及びクリックするボタンの背景や図形、キャラクターの絵、バナー等の色彩として、本願商標の橙色が使用されているが、これらの文字、図形等から分離して本願商標の橙色のみが使用されているとはいえない。

 (ウ) 前記(ア)及び(イ)認定のとおり、①本願商標は、橙色の単色の色彩のみからなる商標であり、本願商標の橙色が特異な色彩であるとはいえないこと、②橙色は、広告やウェブサイトのデザインにおいて、前向きで活力のある印象を与える色彩として一般に利用されており、不動産の売買、賃貸の仲介等の不動産業者のウェブサイトにおいても、ロゴマーク、その他の文字、枠、アイコン等の図形、背景等を装飾する色彩として普通に使用されていること、③原告ウェブサイトのトップページにおいても、別紙2のとおり、最上部左に位置する図形と「LIFULL HOME’S」の文字によって構成されたロゴマーク、その他の文字、白抜きの文字及びクリックするボタンの背景や図形、キャラクターの絵、バナー等の色彩として、本願商標の橙色が使用されているが、これらの文字、図形等から分離して本願商標の橙色のみが使用されているとはいえないことを総合すると、原告ウェブサイトに接した需要者においては、本願商標の橙色は、ウェブサイトの文字、アイコンの図形、背景等を装飾する色彩として使用されているものと認識するにとどまり、本願商標の橙色のみが独立して、原告の業務に係る「ポータルサイトにおける建物又は土地の情報の提供」の役務を表示するものとして認識するものと認めることはできない。

 したがって、本願商標は、本願の指定役務との関係において、本来的に自他役務の識別機能ないし自他役務識別力を有しているものと認めることはできない。

イ(省略)

⑵ 使用による識別力の獲得について

 ア 原告ウェブサイトにおける使用について

 前記1⑴の認定事実によれば、原告は、平成18年から13年間にわたり、原告ウェブサイトにおいて継続して本願商標の橙色を使用してきたことが認められる。

 しかしながら、・・・原告による原告ウェブサイトにおける本願商標の使用の結果、本件審決時(審決日令和元年7月31日)において、本願商標の橙色のみが独立して、原告の業務に係る「ポータルサイトにおける建物又は土地の情報の提供」の役務を表示するものとして、日本国内における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。

 イ 原告のテレビCMにおける使用について

 前記1⑵のとおり、原告のテレビCMが、平成26年5月から同年10月までの間、平成27年1月から9月までの間、平成30年4月及び5月に、全国各地の放送局で放送されたことが認められるが、一方で、甲27に係るテレビCM以外には、それらの各放送において本願商標の橙色が具体的にどのような態様で使用されていたのかを認めるに足りる証拠はない。

 また、甲27に係るテレビCMは、キャラクターの絵、「LIFULLHOME’S」の文字や図柄等に橙色が使用されているものであって、原告ウェブサイトのトップページの画像自体が映し出されたものではないから、上記テレビCMを視聴者が本願商標の橙色と原告ウェブサイトに係る役務とを関連付けて理解するものとは認めることはできない。

 ウ 原告の売上高について

 原告は、本願商標の橙色と原告が展開する不動産情報の提供に関する事業との間には密接かつ直接的な関係が存在するものといえるから、本願商標の橙色の存在が原告の事業の売上げに多大な貢献をしている旨主張する。

 しかしながら、本願商標の橙色と原告の事業との間には密接かつ直接的な関係が存在することを認めるに足りる証拠はなく、原告の事業の売上高が高額であるからいって、本願商標の橙色のみが独立して、原告の業務に係る役務を表示するものとして、日本国内における需要者の間に広く認識されていたことの根拠になるものではない。

 したがって、原告の上記主張は採用することができない。

 エ (省略)

 オ まとめ

 以上によれば、原告は、平成18年から13年間にわたり、原告ウェブサイトにおいて継続して本願商標の橙色を使用してきたこと、原告のテレビCMの実績及び原告の売上実績を勘案しても、本件審決時(審決日令和元年7月31日)において、本願商標の橙色のみが独立して、原告の業務に係る「ポータルサイトにおける建物又は土地の情報の提供」の役務を表示するものとして、日本国内における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないから、本願商標は、その使用により自他役務の識別機能ないし自他役務識別力を獲得したものと認めることできない。

 これに反する原告の主張は理由がない。

・・(以下、省略)・・

【検討】

1 色彩のみからなる商標

商標法は、平成26年改正により、第5条2項3号において「色彩のみからなる商標」について商標登録出願を行うことができる旨を定めた。「色彩のみからなる商標」とは、輪郭がなく、単色又は複数色の色彩のみからなる商標をいう。

例えば、株式会社トンボ鉛筆が保有する以下の商標(商標登録第5930334号。指定商品第16類「消しゴム」)がある。

2 本件

本件において、裁判所は、橙色のみからなる本願商標について、①橙色は特殊な色彩ではないこと、②橙色は、広告やウェブサイトのデザインにおいて、前向きで活力のある印象を与える色彩として、一般に利用され、不動産業界のウェブサイトにおいても、普通に使用されていること、③原告ウェブサイトではロゴマーク等の文字、図形等から分離して本願商標の橙色のみが使用されているとはいえないことを主な理由として、本願商標は商標法3条1項6号に該当すると判断し、また、商標法3条2項の適用も否定した。

3 検討

上記の株式会社トンボ鉛筆の登録商標と異なり、本件のように単色のみからなる商標については、識別力の判断基準は厳しく解する必要があると考えるが、本件判示を参考にすると、少なくとも、商標を構成する色彩が特殊な色彩であること、一般的に利用されない色彩であることは、識別力の肯定要素として働くものと考える。

以上
弁護士 市橋景子