【令和2年(行ケ)第10091号(知財高裁R2・2・3)】

【判旨】
 原告の,本件商標につき商標法第50条第1項に基づく商標登録取消審判請求を成立とした審決の取消訴訟であり,当該訴訟の請求が認容されたものである。

【キーワード】
商標法第50条第1項,不使用取消し,ベガス

【手続の概要】

 以下,本件の不使用取消しに関する部分のみを引用する。なお,証拠番号については,適宜省略する。
⑴ 原告は,以下のとおりの登録第5334030号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
商 標    
登録出願日 平成21年8月18日
設定登録日 平成22年7月2日
指定役務 第41類「セミナーの企画・運営又は開催,運動施設の提供,娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,遊戯用器具の貸与」
⑵ア 被告は,平成28年3月9日,本件商標の指定役務中「娯楽施設の提供」に係る商標登録について,商標法50条1項所定の商標登録取消審判(以下「本件審判」という。)を請求し,同月23日,その登録がされた。
特許庁は,本件審判の請求を取消2016-300169号事件として審理し,平成29年5月9日,本件審判の請求は,成り立たない旨の審決(以下「第1次審決」という。)をした。
 被告は,第1次審決の取消しを求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成29年(行ケ)第10126号)を提起し,同裁判所は,同年12月25日,第1次審決を取り消す旨の判決(以下「前訴判決」という。甲12)をした。
その後,原告は,前訴判決を不服として上告受理の申立て(最高裁判所平成30年(行ヒ)第90号)をしたが,平成30年9月25日に上告不受理決定がされ,前訴判決は確定した。
イ 前訴判決の理由の要旨は,①第1次審決は,原告の2015年(平成27年)7月22日の発寒店の折込チラシ(以下「本件折込チラシ1」という。甲11・審判乙55)記載の「ベガス発寒店ファンのお客様へ」の部分に使用された「ベガス」の文字部分が出所識別機能を果たし得るものと認定した上,本件折込チラシ1に本件商標と社会通念上同一と認められる商標が付されていると認定したが,上記文字部分は,店内改装のため一時休業する店舗の名称を一部省略した略称を表示したものにすぎず,本件折込チラシ1に係る娯楽施設の提供という役務の出所自体を示すものではないと理解するのが自然であるから,本件折込チラシ1に上記文字部分を付する行為は,本件商標について商標法2条3項にいう「使用」をするものであると認めることはできない,②原告の同年1月5日の苫小牧店の折込チラシ(以下「本件折込チラシ2」という。)に本件商標と社会通念上同一と認められる商標が付されていると認定した第1次審決の判断には誤りがある,③したがって,その余の点を判断するまでもなく,原告が本件審判の請求の登録前3年以内の期間(以下「要証期間」という。)内に本件審判の請求に係る指定役務について本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用していることを証明したものと認められるとした第1次審決の判断に誤りがあるというものである。
⑶ 特許庁は,前訴判決の確定を受けて,取消2016-300169号事件の審理を再開し,令和2年6月26日,「本件商標の指定役務中,第41類「娯楽施設の提供」についての商標登録を取り消す。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年7月4日,原告に送達された。
⑷ 原告は,令和2年7月31日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

【争点】

争点は,本件商標の使用の有無(商標法第50条第1項)である。

【判旨抜粋】

1 本件折込チラシ3及4における本件商標の使用の有無について
⑴ 本件折込チラシ3及び4の配布について
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(中略)

イ 原告は,平成26年6月頃,株式会社東急エージェンシー(以下「東急エージェンシー」という。)及び株式会社永井印刷(以下「永井印刷」という。)に発注して,別紙2の本件折込チラシ3を制作及び印刷し,同月6日,仙台市内において,山新折込センターを介して,本件折込チラシ3を「河北新報」に折り込んで2万9000枚配布した。
 また,原告は,同年7月頃,東急エージェンシー及び永井印刷に発注して,別紙3の本件折込チラシ4(甲17)を制作及び印刷させ,同月27日,本件折込チラシ4を「河北新報」に折り込んで3万4300枚配布した。
⑵ 本件折込チラシ3について
ア 本件折込チラシ3は,両面印刷の1枚のチラシである。


 本件折込チラシ3の表面には,別紙2のとおり,上部において,「ベガスベガス北仙台店」との見出しが付され,中央部において,大きな文字で「本日6日FRI金午前11時開店予定」と記載され,その下には,「開店時間が通常と異なりますので お間違えの無いよう,ご案内申し上げます。」,「新台情報は裏面をチェック!」と記載され,下部において,赤色を背景とする白抜き文字で「ベガスベガスⓇ」の文字が大きく記載され,さらに,その下には,「VEGAS VEGAS」,「北仙台店」,その住所等の記載があり,その右側には,「ベガスベガス北仙台店店舗マップ」が記載されている。
 次に,本件折込チラシ3の裏面には,別紙2のとおり,上部において,「ベガスベガス北仙台店」及び「新台入替しました」との2段書きの金色の大きな文字の見出しが付され,その左下側において,外側の線が太く,内側の線が細い二重の円の中に,3段書きで上から順に「ベガス北仙台店」の黒色の文字,「パチンコ・スロット」の赤色の文字及び「11機種導入」の赤色の文字が記載され,さらに,中央部から下部において,パチンコ台及びスロットマシンの図形が,3段にわたり,1段目は3台,2段目及び3段目は各4台掲載されている。
イ(ア) 前記ア認定のとおり,本件折込チラシ3の裏面に記載された二重の円の中には,3段書きで上から順に「ベガス北仙台店」の黒色の文字,「パチンコ・スロット」の赤色の文字及び「11機種導入」の赤色の文字が記載されている。
 二重の円の記載部分における最上段の「ベガス北仙台店」の文字は,色彩が異なる2段目及び3段目の各文字と分離して観察することができ,「ベガス」の片仮名の文字部分と「北仙台店」の漢字の文字部分からなる独立した標章として認識できる。
 そして,二重の円の記載部分全体から,「ベガス北仙台店」の標章は,「パチンコ・スロット」が「11機種導入」された店舗の名称を表示する標章であり,「ベガス北仙台店」において「パチンコ・スロット」の遊技機が設置され,その遊技機を提供する役務が受けられることを理解できることからすると,本件折込チラシ3は,「パチンコ・スロット」の遊技機の提供の役務に係るチラシであって,本件折込チラシ3に記載された「ベガス北仙台店」の標章は,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様で使用されているものと認められる。
 次に,「ベガス北仙台店」の標章の構成中,「ベガス」の文字部分は,それ自体が「ラスベガス」を想起させる造語であるものと認められ,また,本件折込チラシ3の表面及び裏面に「ベガスベガス北仙台店」の文字が表示されていることからすると,本件折込チラシ3に接した需要者は,「ベガス」の文字部分は,「ベガスベガス」の略称としての意味合いも有するものと認識すると認められる。
一方で,「ベガス北仙台店」の標章の構成中の「北仙台店」の文字部分は,「北仙台」の地域にある店舗の意味合いを有し,単に,上記役務の提供の場所を表示するものと認識され,役務の出所識別標識としての機能があるものとはいえないことからすると,「ベガス北仙台店」の標章の構成中の「ベガス」の文字部分は,その文字部分のみから役務の出所識別標識としての機能を有するものと認められるから,要部に相当するものである。
 そこで,「ベガス北仙台店」の標章中の「ベガス」の文字部分と別紙1記載の「ベガス」の片仮名を横書きに書してなる本件商標とを対比すると,両者は,字体の違いはあるが,構成する文字が同一であり,「ベガス」という同一の称呼が生じること,「ラスベガス」を想起させる点において観念が共通することからすると,「ベガス北仙台店」の標章は,本件商標と社会通念上同一の商標であると認められる。
(イ) 以上によれば,原告が平成26年6月6日に山新折込センターを介して「ベガス北仙台店」の標章が記載された本件折込チラシ3を「河北新報」に折り込んで2万9000枚配布した行為は,「パチンコ・スロット」の遊技機の提供の役務に関する広告としてのチラシに本件商標と社会通念上同一の商標を付して頒布した行為(商標法2条3項8号)であると認められるから,本件商標の「使用」に該当するものと認められる。
⑶ 本件折込チラシ4について
ア 本件折込チラシ4(甲17)は,片面印刷の1枚のチラシである。


本件折込チラシ4には,上部右側において,「ベガス北仙台店 今月の新台ラインナップ」との横書きの赤色の見出しが付され,その下に,パチンコ台・スロットマシンの図形が,4段にわたり,各段5台ずつ掲載され,上部左側において,「元B」,「Cさんが」及び「北仙台店に来店」との縦書きの3段の文字が記載され,下部において,大きな赤色の文字で「7月27日[日]朝8時オープン」と記載され,その下側において,赤色を背景とする白抜き文字で「ベガスベガスⓇ」の文字が大きく記載され,その右側には,「VEGAS VEGAS」,「北仙台店」の文字が,さらに,その右側には,「ベガスベガス北仙台店店舗マップ」が記載され,その下側には,住所等が記載されている。
イ(ア) 本件折込チラシ4に記載された「ベガス北仙台店 今月の新台ラインナップ」との横書きの赤色の見出し部分においては,別紙3のとおり,「ベガス北仙台店」の文字と「今月の新台ラインナップ」の文字との間に間隔があり,「ベガス北仙台店」の文字を分離して観察することができ,これを「ベガス」の片仮名の文字部分と「北仙台店」の漢字の文字部分からなる独立した標章として認識できる。
 そして,「ベガス北仙台店 今月の新台ラインナップ」との横書きの記載部分及びその記載部分の下にパチンコ台・スロットマシンの図形が,4段にわたり,各段5台ずつ掲載されていることから,「ベガス北仙台店」の標章は,パチンコ台・スロットマシンの「新台」が設置された店舗の名称を表示する標章であり,「ベガス北仙台店」において「パチンコ・スロット」の遊技機が設置され,その遊技機を提供する役務が受けられることを理解できることからすると,本件折込チラシ4は,「パチンコ・スロット」の遊技機の提供の役務に係るチラシであって,本件折込チラシ4に記載された「ベガス北仙台店」の標章は,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様で使用されているものと認められる。
 次に,「ベガス北仙台店」の標章の構成中,「ベガス」の文字部分は,それ自体が「ラスベガス」を想起させる造語であるものと認められ,また,本件折込チラシ4の下側において,「ベガスベガスⓇ」の文字が大きく記載され,その右側には,「VEGAS VEGAS」,「北仙台店」の文字が,さらに,その右側には,「ベガスベガス北仙台店店舗マップ」が記載されていることからすると,本件折込チラシ4に接した需要者は,「ベガス」の文字部分は,「ベガスベガス」の略称としての意味合いも有するものと認識すると認められる。
 一方で,前記-2 イ(ア)と同様の理由により,「ベガス北仙台店」の標章の構成中の「ベガス」の文字部分は,その文字部分のみから役務の出所識別標識としての機能を有するものと認められるから,要部に相当するものであり,「ベガス北仙台店」の標章は,本件商標と社会通念上同一の商標であると認められる。
(イ) 以上によれば,原告が平成26年7月27日に山新折込センターを介して「ベガス北仙台店」の標章が記載された本件折込チラシ4を「河北新報」に折り込んで3万4300枚配布した行為は,「パチンコ・スロット」の遊技機の提供の役務に関する広告としてのチラシに本件商標と社会通念上同一の商標を付して頒布した行為(商標法2条3項8号)であると認められるから,本件商標の「使用」に該当するものと認められる。

【解説】

 本件は,商標登録取消審判請求[1]を成立とした審決に対する取消訴訟である。
 商標法第50条第1項の使用の有無が問題となった事案である。
 本件において,裁判所は,本件折込チラシ3及び4において「ベガス北仙台店」との標章が使用されているところ,「ベガス」と「北仙台店」とは独立した標章であると認識できる(ベガスの文字部分が要部に相当する。)と判断し,本件商標の使用に該当すると判断した。
 確かに「ベガス」という本件商標が単独で記載されたものではないが,「ベガス」という標章と「北仙台店」との標章とでは,「『北仙台店』の文字部分は,『北仙台』の地域にある店舗の意味合いを有し,単に,上記役務の提供の場所を表示するものと認識され,役務の出所識別標識としての機能があるものとはいえない」との判断は妥当であろう。
 本件は,事例判断ではあるが,本件商標が単独では使用されていない事例であり,実務上参考になると思われる。

以上
(筆者)弁護士 宅間仁志


1 (商標登録の取消しの審判)
第五十条 継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。

2 前項の審判の請求があつた場合においては、その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。ただし、その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。

3 第一項の審判の請求前三月からその審判の請求の登録の日までの間に、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をした場合であつて、その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知つた後であることを請求人が証明したときは、その登録商標の使用は第一項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。ただし、その登録商標の使用をしたことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。