【大阪地裁令和2年12月3日(令和元年(ワ)第5462号 損害賠償等請求事件)】

【キーワード】

不正競争防止法2条1項3号,模倣品販売,請求主体,ファッション

【事案の概要】

 原告及び被告は,いずれも,婦人服等の販売を行う会社である。
原告は,自身が管理運営するウェブサイト及び店舗において,次の①~⑨の特徴を有する商品(以下「原告商品」という)を販売していた。
① 後身頃のみにプリーツ加工が施された透けるポリエステル製の生地が用いられたトレンチコート様のコートであり,その背中の中ほどから下部分は,当該ポリエステル製の生地が見えるようになっている。
② 前身頃の胸の下辺りに2つのボタンが横に並んで縫い付けられている。
③ 襟の形状がV字の切れ込みが入った形状(いわゆるノッチドラペル)であり,その大きさも同じである。
④ 後身頃の背中の中ほどに,横向きのベルトが縫い付けられている。
⑤ 左右の袖に一つずつベルトがある。
⑥ 左肩部分にのみ,その生地が胸部分に重なるように縫い付けられている(いわゆるガンフラップがある)。
⑦ 袖が襟ぐりまで切れ目なく続く,ラグランスリーブといわれる形状になっている。
⑧ 袖が,肩口から袖口にかけて次第に細くすぼまるデザインとなっている。
⑨ 前身頃の腰部分にポケットが2つある。

被告は,自身が管理運営するウェブサイト及び他社が運営するECサイトにおいて,原告の上記特徴①~⑨を備えている商品(以下「被告商品」という)を販売していたため,原告は,被告に対し,被告商品の販売等の行為は不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当するとして,不正競争防止法3条に基づく被告商品の販売等の差止,並びに,不正競争防止法第4条に基づき損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

【被告の主張】

被告は,原告が原告商品の形態を完成させるより前に,中国において中国メーカーが頒布したカタログに掲載された商品(以下「本件カタログ商品」という)が,原告商品の上記特徴①~⑨を備えているため,原告は,「自ら開発・商品化して市場においた者」に該当せず,不正競争防止法2条1項3号の請求主体となり得ないと主張した。

【争点】

・原告の請求主体としての要保護性の有無

【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)

第1・第2 省略
第3 当裁判所の判断
 1  原告の請求主体としての要保護性の有無(争点1-1)について
(1) 不競法2条1項3号が,他人の商品形態を模倣した商品の販売行為等を不正競争とする趣旨は,先行者の商品形態を模倣した後行者は,先行者が商品開発に要した時間,費用及び労力等を節約できる上,商品開発に伴うリスクを回避ないし軽減することができる一方で,先行者の市場先行のメリットが著しく損なわれることにより,後行者と先行者との間に競業上著しい不公平が生じると共に,個性的な商品開発や市場開拓への意欲が阻害されることになるため,このような行為を競争上不正な行為として位置付け,先行者の開発利益を模倣者から保護することにあると解される。
そうすると,同号所定の不正競争につき差止ないし損害賠償を請求することができる者は,模倣されたとされる形態に係る商品を先行的に自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるというべきである。
また,原告商品及び被告商品のような女性向け衣類は,欧米での新作商品や流行等の影響を受けると共に,中国及び韓国の製造業者ないし仲介業者と日本の販売業者等との間で多くの取引が行われていると認められる(甲18,19,弁論の全趣旨)。これらの事情に鑑みると,上記「市場」は,本件の場合,日本国内に限定されず,少なくとも欧米,中国及び韓国の市場を含むものと解される。
(2) 検討
ア 本件カタログ商品は,原告商品と同様の特徴(原告商品特徴)を有する(当事者間に争いのない事実)。
また,本件カタログ(乙12)は,表裏の各表紙のほか21頁からなる商品カタログとして製本されたものであるところ,その表紙右下部に「2015年春季新品」との記載があるとともに,本件カタログ商品がその14頁に掲載されている。さらに,本件カタログ1頁には,その作成者である「广州琼林服饰」(本件中国メーカー)が例年韓国,日本,欧米等に輸出していることも記載されている。これらの記載によれば,本件カタログは,本件中国メーカーが,遅くとも平成27年春頃までに,韓国,日本,欧米等を市場とする2015年(平成27年)春季向けの新製品として,本件カタログ商品を含む本件カタログ掲載商品を紹介する趣旨で作成され,頒布されたものであることがうかがわれる。
そうすると,原告商品と同様に原告商品特徴の全てを備えるものである本件カタログ商品は,平成27年春頃,本件中国メーカーにより市場に置かれたものといえるから,原告は,模倣されたとされる形態に係る商品を先行的に自ら開発・商品化して市場に置いた者ということはできない。
したがって,原告は,不競法2条1項3号所定の不正競争につき差止及び損害賠償を請求することはできない。
・・・省略・・・
第4  結論
  よって,原告の請求はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとする。

【検討】

1 不正競争行為2条1項3号の請求主体
 不正競争法防止法では,2条1項3号において,「他人の商品の形態」を「模倣した商品」を販売等する行為を不正競争として定めている。これは,商品化のために資金・労力を投下した者を当該商品の形態をデッドコピーするという不正な競争行為から保護する趣旨である。
ここで,不正競争防止法では差止請求(同法3条)及び損害賠償請求(同法4条)を行うことができる主体について明文上明らかにしていないため,上記の同法2条1項3号に基づく請求の主体が誰かという点が問題となりうる。
裁判例や学説においては,同号の上記趣旨から,請求の主体となりうるのは,形態模倣の対象とされた商品を「自ら開発・商品化して市場においた者」に限られると解されている(大阪高判平成13年2月27日等)。

2 本件の検討
 本件は,請求主体についてこれまでの裁判例と同様の規範を立てつつ,原告商品及び被告商品が「女性向け衣類」であり,「欧米での新作商品や流行等の影響を受けると共に,中国及び韓国の製造業者ないし仲介業者と日本の販売業者等との間で多くの取引が行われている」という取引の性質を有することから,「市場」の範囲を「日本国内に限定されず,少なくとも欧米,中国及び韓国の市場を含む」として広く解している。そのうえで,原告による原告商品の形態の完成より前に,中国において中国メーカーが原告商品の特徴①~⑨を備えた商品をカタログに掲載し,販売していたことをもって,原告は,形態模倣の対象とされた商品を「自ら開発・商品化して市場に置いた者」ではないと判示した。
 上記の「市場」の解釈について,本件判示はあくまで本件に限定しての判断としているが,「女性向け衣類」全般に上記の取引の性質は妥当すると考えられることから,今後「女性向け衣類」に関して不正競争防止法2条1項3号の請求を行う際には,同様の解釈が行われる可能性が高いと考える。

以上
(筆者)弁護士 市橋景子