【令和3年5月19日(知財高裁 令和2年(行ケ)第10119号)】

【判旨】
 原告の,本件商標につき商標法第50条第1項に基づく商標登録取消審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり,当該訴訟の請求が棄却されたものである。

【キーワード】
商標法第50条第1項,不使用取消し,野菜コロ

手続の概要

以下,本件の不使用取消しに関する部分のみを引用する。なお,証拠番号については,適宜省略する。
⑴ 被告は,以下のとおりの商標登録第5659903号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
商   標 野菜コロ(標準文字)
登録出願日 平成25年10月10日
設定登録日 平成26年3月28日
指定商品 第28類「スキーワックス,遊園地用機械器具,愛玩動物用おもちゃ,おもちゃ,人形,囲碁用具,将棋用具,歌がるた,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,遊戯用器具,ビリヤード用具,運動用具,釣り具,昆虫採集用具」
第30類「野菜を材料として用いた茶,野菜を材料として用いた菓子,野菜を材料として用いたパン,野菜を材料として用いたサンドイッチ,野菜を材料として用いた中華まんじゅう,野菜を材料として用いたハンバーガー,野菜を材料として用いたピザ,野菜を材料として用いたホットドッグ,野菜を材料として用いたミートパイ,野菜を材料として用いたぎょうざ,野菜を材料として用いたしゅうまい,野菜を材料として用いた弁当,野菜を材料として用いたラビオリ,野菜を材料として用いたパスタソース,野菜を材料として用いた穀物の加工品,野菜を材料として用いたすし,野菜を材料として用いたたこ焼き,野菜を材料として用いた即席菓子のもと,野菜を材料として用いたアイスクリームのもと,野菜を材料として用いたシャーベットのもと」
⑵ 原告は,平成30年6月21日,本件商標の指定商品中,「野菜を材料として用いた穀物の加工品」に係る商標登録について,商標法50条1項所定の商標登録取消審判(取消2018-300457号事件。以下「本件審判」という。)を請求し,同年7月4日,その登録がされた。
特許庁は,令和2年9月1日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月10日,原告に送達された。
⑶ 原告は,令和2年10月9日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

争点

争点は,本件商標の使用の有無(商標法第50条第1項)である。

判旨抜粋

1 認定事実
⑴ 前記第2の1の事実と証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア(ア) 被告は,昭和57年6月2日に設立された,パン,菓子,麺類,惣菜の製造,加工及び販売,農産物の生産,加工及び販売,農産物直売店の経営等を目的とする株式会社である。
(イ) ぽっくる農園社は,平成18年5月8日に設立された,畑作及び水田の経営,農産物の加工及び販売等を目的とする株式会社であり,農地法所定の農地所有適格法人(平成28年3月31日までは農業生産法人。)である。
イ(ア) 被告とぽっくる農園社は,平成18年5月31日,期間同年6月1日から10年間の約定で,被告がぽっくる農園社から農作物を買収する旨の取引契約を締結した後,平成21年1月31日,被告がぽっくる農園社に対し商品を販売する旨の本件取引契約を締結した。
被告は,上記取引契約及び本件取引契約に基づき,ぽっくる農園社から仕入れた農産物等を原材料として製造,加工した商品(農産加工品)をぽっくる農園社に販売するようになった。
その後,被告は,平成22年4月頃,さつまいもを原材料とするフライ菓子「いもっコロ」を開発し,ぽっくる農園社は,その頃から,被告製造の「いもっコロ」を販売するようになった。
(イ) 被告は,平成24年,宮崎市内において,「ぽっくる村」という名称の本件商業施設(平成26年に「ぽっくる農園」に名称変更)を開業した。本件商業施設内には,地域農産物及びその農産加工品を販売する本件直売所,休憩・飲食スペース,飲食店・レストラン,イベント広場等がある。
ぽっくる農園社は,被告が経営する本件直売所に出店し,自社で栽培,生産した農産物,被告から仕入れた農産加工品等を販売している。
ウ(ア) 被告は,平成25年10月10日,「野菜コロ」の標準文字からなる本件商標について,商標登録出願をし,平成26年3月28日,商標権の設定登録を受けた。
(イ) 被告は,平成27年頃,地域農産物のさといも,むらさき芋,にんじん及びほうれん草をそれぞれ原材料として練り込んだ生パスタ商品である「野菜コロさといもパスタ」(使用商品1),「野菜コロむらさき芋パスタ」(使用商品2),「野菜コロにんじんパスタ」(使用商品3)及び「野菜コロほうれん草パスタ」(使用商品4)を企画,開発し,同年7月頃,ぽっくる農園社に提案した。
(ウ) 被告は,平成27年7月頃までに,使用商品1ないし4の包装に付すタグとして,別紙1記載1ないし4の本件タグ1ないし4を作成した。


        別紙1

(エ) ぽっくる農園社は,平成27年7月29日,被告に対し,使用商品1ないし4を発注し,被告は,同年8月1日,ぽっくる農園社に対し,本件タグ1ないし4をそれぞれ包装袋に付した使用商品1ないし4(別紙2の上段左側が使用商品4,同右側が使用商品1,下段左側が使用商品2,同右側が使用商品3)(各20個合計80個・代金合計7400円)を販売し,これらを納品した。


              別紙2

その後,被告は,同月5日,ぽっくる農園社から発注を受けて,同月8日,ぽっくる農園社に対し,本件タグ1ないし4をそれぞれ包装袋に付した使用商品1ないし4(各20個合計80個・代金合計7400円)を販売し,これらを納品し,さらに,同月12日,ぽっくる農園社から発注を受けて,同月15日,ぽっくる農園社に対し,本件タグ1ないし4をそれぞれ包装袋に付した使用商品1ないし4(各20個合計80個・代金合計7400円)を販売し,これらを納品した。
エ(ア) ぽっくる農園社は,平成27年8月,本件直売所において,単価184円で,使用商品1を52個,使用商品2を57個,使用商品3を49個及び使用商品4を55個(合計213個)販売した。
(イ) ぽっくる農園社は,平成27年11月5日,本件取引契約に基づき,前記ウ(エ)の使用商品1ないし4(合計240個分)の代金を含む商品代金等992万7908円を被告に振込送金した。
その後,ぽっくる農園社は,使用商品1ないし4が生麺でその管理が難しかったことなどから,被告に対し,使用商品1ないし4の追加発注を行わなかった。
(中略)
2 被告による本件商標の「使用」について
⑴ 被告及びぽっくる農園社による本件タグ1ないし4を包装袋に付した使用商品1ないし4の販売の有無について前記1⑴の認定事実によれば,被告は,平成27年8月1日,8日及び15日の3回にわたり,ぽっくる農園社に対し,「野菜コロシリーズ生パスタ」として,本件タグ1ないし4をそれぞれ包装袋に付した野菜を練り込んだ生パスタである「野菜コロさといもパスタ」(使用商品1),「野菜コロむらさき芋パスタ」(使用商品2),「野菜コロにんじんパスタ」(使用商品3)及び「野菜コロほうれん草パスタ」(使用商品4)を合計240個販売したこと,ぽっくる農園社は,同月,被告が運営する本件商業施設内の本件直売所において,上記240個のうち,合計213個を一般消費者に販売したことが認められる。
(中略)
⑵ 使用商標1ないし4と本件商標の社会通念上の同一性について
本件タグ1には,別紙1記載1のとおり,「野菜コロ」,「さといも」及び「パスタ」の白抜きの丸ゴシック体風の文字を3段に表した構成からなる使用商標1が,本件タグ2には,別紙1記載2のとおり,「野菜コロ」,「むらさき芋」及び「パスタ」の白抜きの丸ゴシック体風の文字を3段に表した構成からなる使用商標2が,本件タグ3には,別紙1記載3のとおり,「野菜コロ」,「にんじん」及び「パスタ」の白抜きの丸ゴシック体風の文字を3段に表した構成からなる使用商標3が,本件タグ4には,別紙1記載4のとおり,「野菜コロ」,「ほうれん草」及び「パスタ」の白抜きの丸ゴシック体風の文字を3段に表した構成からなる使用商標4が付されている。
しかるところ,使用商標1の構成中の中段の「さといも」の文字部分は,使用商品1の原材料である野菜の種類を,下段の「パスタ」の文字部分は使用商品1の商品の種類を表したものと認識されるため,いずれも商品の識別標識としての機能を有するものと認められないのに対し,上段の「野菜コロ」の文字部分は,その文字部分から商品の識別標識としての機能を有するものと認められるから,使用商標1の要部に相当するものと認められる。同様に,使用商品2ないし4の構成中の上段の「野菜コロ」の文字部分は,要部に相当するものと認められる。
そして,本件商標は,「野菜コロ」の標準文字を表してなるところ,使用商標1ないし4の要部は,本件商標の構成文字を共通にする書体のみに変更を加えた文字からなることからすると,使用商標1ないし4は,いずれも本件商標と社会通念上同一の商標と認められる。
(3) 被告による本件タグ1ないし4を包装袋に付した使用商品1ないし4の販売の商標法2条3項2号該当性についてア 前記⑴認定の被告が平成27年8月1日,8日及び15日にぽっくる農園社に対し本件タグ1ないし4を包装袋に付した使用商品1ないし4を販売した行為は,使用商品1ないし4の包装に使用商標1ないし4を付したものを譲渡した行為に当たり,商標法2条3項2号の「使用」に該当するものと認められる。
そして,前記(2)のとおり,使用商標1ないし4は,本件商標と社会通念上同一の商標と認められるから,被告によるぽっくる農園社への使用商品1ないし4の上記販売は,本件審判の請求に係る指定商品「野菜を材料として用いた穀物の加工品」に含まれる「野菜を練り込んだ生パスタ」である使用商品1ないし4についての,本件商標と社会通念上同一の商標の使用に該当するものと認められる。

解説

 本件は,商標登録取消審判請求を不成立とした審決に対する取消訴訟である。
 商標法第50条第1項の使用の有無が問題となった事案である。
 裁判所は,「使用商標1の構成中の中段の「さといも」の文字部分は,使用商品1の原材料である野菜の種類を,下段の「パスタ」の文字部分は使用商品1の商品の種類を表したものと認識されるため,いずれも商品の識別標識としての機能を有するものと認められないのに対し,上段の「野菜コロ」の文字部分は,その文字部分から商品の識別標識としての機能を有するものと認められるから,使用商標1の要部に相当するものと認められる」と認定し,「野菜コロ」の使用は,社会通念上同一の商標の使用であるとして,商標法第50条第1項の使用があったと判断したものである。
 本件では,裁判所の認定にあるように,使用商標1ないし4は,いずれも,材料の野菜の種類と「ぱすた」という商品の種類とともに,本件商標(標準文字ではなく,字体を変化させている。)を用いているのであるから,裁判所の判断は妥当であると思われる。
 本件は,事例判断ではあるが,本件商標が単独では使用されていない事例であり,実務上参考になると思われる。

以上
(筆者)弁護士 宅間仁志


(商標登録の取消しの審判)
第五十条 継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
2 前項の審判の請求があつた場合においては、その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。ただし、その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。
3 第一項の審判の請求前三月からその審判の請求の登録の日までの間に、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をした場合であつて、その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知つた後であることを請求人が証明したときは、その登録商標の使用は第一項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。ただし、その登録商標の使用をしたことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。