【平成29年(行ケ)第10033号(知財高裁H29・6・8)】

【判旨】
 原告が,本件商標につき商標登録取消審決に対して行った取消訴訟であり、当該訴訟の請求が認められたものである。
【キーワード】
指定商品に関する商標使用の有無,使用された商標と登録商標との同一性の有無,商標法50条

本件商標

国際登録第1002196号商標(以下,「本件商標」という。)は,下記の構成からなり,第9類「Camera cases; computer carrying cases, mobile phone and cell phone cases and specialty holsters for carrying personal digital assistant; laser pointers; luminous pointers」(参考訳:カメラケース,コンピュータ用携帯用ケース,移動電話用及びセル式電話用ケース及び携帯情報端末持ち運び用の特殊ホルスター,レーザーポインタ,発光ポインター),第18類「All-purpose dry bags, luggage, backpacks, daypacks, duffel bags, utility bags, shoulder bags, casual bags,briefcases, non-motorized wheeled packs, cosmetic cases sold empty and toiletry cases sold empty, travel bags, small personal leather goods, namely, wallets, billfolds, credit card cases,neck, necklace wallets, and shaving bags sold empty; umbrellas and name and calling card cases, cosmetic cases sold empty, toiletry cases sold empty,luggage tags, waistpacks, bags worn on the body, business cases, travel bags, all-purpose personal care bags, small personal leather goods; shoe bags for travel; unfitted bags for handheld electronic devices; waistpacks for holding electronic devices.」(参考訳:汎用防水バッグ,旅行かばん,バックパック,デイパック(日帰りハイキング用などの小型ナップサック),ダッフルバッグ,多用途のかばん,肩掛けかばん,カジュアルバッグ,ブリーフケース,車輪の付いたパック(原動機付きのものを除く。),化粧品用ケース(中身が入っていないもの),旅行かばん,革製の小さな身の回りの物,すなわち財布,札入れ,クレジットカード入れ,首にぶら下げる財布・ネックレス付きの財布,シェービングバッグ(中身が入っていないもの),傘及び名刺用ケース,化粧品用ケース(中身なし),化粧品入れ(空のもの),旅行かばん用タグ,ウエストパック,身体に装着させるかばん,書類かばん,旅行かばん,汎用の身の回りの物を入れるかばん,革製の小さな身の回りの物,旅行用靴袋,手持ち式の電子式装置に不向きなバッグ,電子式装置保持用のウエストパック)の他,第8類,第11類,第12類,第14類,第16類,第20類,第22類,第25類,第34類に含まれる商品を指定商品とし,平成21年1月16日に国際登録され,平成22年11月5日に設定登録されたものである。

本件審決の理由の要点

 裁判所によれば,本件審決の理由の要点は,「商標法50条による商標登録の取消審判の請求があったときは,同条2項の規定により,被請求人(原告)において,その請求に係る指定商品のいずれかについての登録商標の使用をしていることを証明し,又は使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしない限り,その登録の取消しを免れない。
 ところが,審判の請求に対し,被請求人(原告)は,答弁していない。
したがって,本件商標の登録は,商標法50条の規定により指定商品中,第9類「全指定商品」及び第18類「全指定商品」についての登録を取り消すべきものである。」

争点

 争点は,指定商品に関する商標使用の有無,使用された商標と登録商標との同一性の有無である。

判旨抜粋

第5 当裁判所の判断
1 認定事実
(中略)
(2) ビクトリノックス日本支社は,平成25年(2013年)5月24日及び8月10日,同社のウェブサイトに,本件商品1~3を販売のため掲載した・・・。上記ウェブサイトの各ページのタイトル部分には,本件商標(ただし,色彩は赤)が記載され,その右側に「WENGER」の欧文字が黒で記載され,さらにその右肩に「®」が黒で記載されている。また,本件商品1~3は,それのみで価格が付されており,収納物とは別に購入することが可能である。
(3) ビクトリノックス日本支社は,平成26年(2014年)2月18日,東京都台東区所在の取引先に対し,本件商品1及び3を販売した。
(4) ビクトリノックス日本支社は,平成26年(2014年)3月11日,前記(3)記載の取引先に対し,本件商品1及び2を販売した。
(5) 本件商品1~3は,いずれも,革製で略直方体のケースである。蓋の表面には,本件商標が刻まれ,その右側に「WENGER」の欧文字が刻まれ,さらにその右肩に「®」が刻まれている。
本件商品1は,「エヴォグリップS54以外の85mmナイフに適合する革ケースです。」,本件商品2は,「130mmのスイスアーミーナイフに適合する革ケースです。」,本件商品3は,「ネイルクリップを含む全ての65mmナイフに適合する革ケースです。」と説明されている。上記「85mmナイフ」「65mmナイフ」は,ビクトリノックス日本支社において取り扱っている商品である,85mm,65mmの「スイスアーミーナイフ」を意味しており,上記「130mmのスイスアーミーナイフ」を含む「スイスアーミーナイフ」は,刃物であるナイフ及びその他のさまざまなツール(爪切り,爪ヤスリ,爪そうじ,ドライバー,栓抜き,穴あけ,つまようじ,ピンセットなど)をまとめて携帯することができるものである。
2 判断
(1) 使用商標について
前記1(5)のとおり,本件商品1~3には本件商標が付されていたところ,前記1(3),(4)のとおり,ビクトリノックス日本支社は,本件商品1~3を譲渡したものと認められる。また,前記1(2)のとおり,同社は,本件商品1~3を販売のため掲載したウェブサイトに本件商標を表示したから,本件商品1~3に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供したものと認められる。したがって,同社は,本件商標を使用したものと認められる。
(2) 使用商品について
前記1(5)のとおり,本件商品1~3は,革製のケースであって,スイスアーミーナイフに適合するものとして販売されているものの,その形状は略直方体であってスイスアーミーナイフ以外の物を収納することも可能であること,その販売形態は,収納物を伴うことなく本件商品1~3のみで購入することが可能であること,スイスアーミーナイフには,刃物であるナイフ等以外に,栓抜きやつまようじなど,他の物も組み込まれていることからすると,第18類「small personal leather goods」(革製の小さな身の回りの物)に該当するということができる。
(3) 使用時期について
前記1(2)~(4)のとおり,本件商標は,本件商品1~3に,本件要証期間内である,平成25年5月24日,同年8月10日,平成26年2月18日及び同年3月11日に使用されたことが認められる。
(中略)
(5) 小括
したがって,原告は,要証期間内に日本国内において,本件商標の通常使用権者が,商標登録取消請求に係る指定商品の一部に,本件商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)を使用していたことを証明したものと認められる。本件商標の登録は,その指定商品のうち,請求に係る指定商品について,商標法50条の規定により,取り消すことができない。

解説

本件は、商標登録取消審判1を成立とした審決に対する取消訴訟である。

 本件では,裁判所は,上記認定にあるように,本件商標が付された本件商品1~3について,譲渡及び広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供したと認定し,原告の請求を認めたものである。
 これに対して,被告は,以下の主張をしていた。
①商品を収納するために当該商品に適合させた容器は,当該商品と同じ類に分類すべきであり,刃物類は第8類に該当すること。
②本件商標は,第8類「knife holders, cutlery pouches sold empty, knife cases, knife holsters,knife covers」をも指定商品として登録されていることから,本件商品1~3は,第8類に該当し,第18類には該当しないこと。
 裁判所は,まず,①に対しては,本件商標の国際登録日当時の国際分類第9版の「ある商品を類別表,注釈及びアルファベット順の一覧表によって分類することができない場合には,次の(a)~(f)までに示すところの基準を適用して分類する。」「(f)商品を収納するために当該商品に適合させた容器は,原則として,当該商品と同じ類に分類する。」との記載や,国際分類第9版の類別表の第18類には,「革及び人工皮革並びにこれらを材料とする商品であって他の類に属しないもの 獣皮 トランク及び旅行用バッグ 傘,日傘及びつえ むち,馬具」と記載されており,その注釈には「第18類には,主として,革,模造の革,馬具及び他の類に属しない旅行用品を含む。この類には,特に,次の商品を含まない。被服,履物,帽子(商品のアルファベット順の一覧表参照)」との記載から,「第18類には広くかばん類を含むが,専ら他の類の商品を収納するためのケース類は,当該の他の類に含まれると解することができる」とし,その上で,「本件商品1~3は,前記2(2)のとおり,スイスアーミーナイフ以外の物も収納でき,収納物を伴うことなく販売されていること等からすると,専ら第8類に属する商品を収納するためのケース類ではなく,第18類の商品に該当するというべきである」と判断した。
 裁判所は,次に,②については,本件商標の第8類に属する指定商品は,専らナイフ等を 収納するためのケース類を指すと解すべきであるところ,本件商品1~3は,専ら第8類に属する商品を収納するためのケース類ではなく,第18類の商品に該当するというべきであると判断した。
 このほかに,被告は,ビクトリノックス日本支社が使用していた標章には,いずれも「WENGER」の文字の右上にRマークが付されているから,同標章は図形単体ではなく,図形と文字を組み合わせた一体の標章として使用していたものであり,本件商標と社会的同一性はないと主張したが,裁判所は,これに対して,本件商標と「WENGER」の欧文字とは左右に配されており分離可能であること,ビクトリノックス日本支社のウェブサイトに表示されたものは,本件商標が赤で「WENGER」の欧文字は黒であることからすると,本件商標と「WENGER」の欧文字とは分離して観察することができ,また,「®」(Rマーク)についても,登録商標を示すものとして分離して観察することができるとして主張を退けた。
 なお,本件の審判において,原告が,答弁を行わなかった理由は不明である。
 本件は、事例判断ではあるが、特許庁の判断が覆されたものであり、実務上参考になると思われる。

以上
(文責)弁護士 宅間仁志

1(商標登録の取消しの審判)
第五十条  継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。)の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
2  前項の審判の請求があつた場合においては、その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標 の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。ただし、その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。
3  第一項の審判の請求前三月からその審判の請求の登録の日までの間に、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をした場合であつて、その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知つた後であることを請求人が証明したときは、その登録商標の使用は第一項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。ただし、その登録商標の使用をしたことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。