【平成29年4月20日判決(平成28年(ワ)第298号[ドラム式洗濯機使い捨てフィルタ事件])】

【キーワード】
新規性喪失の例外、複数の公知行為、30条

事案

 本件は、「ドラム式洗濯機使い捨てフィルタ」についての特許権を有する原告が、ドラム式洗濯機使い捨てフィルタを製造販売する被告に対し、同製品の製造販売の差止、損害賠償等を求めて特許権侵害訴訟を提起した事例である。
 本件では、出願日(2014.11.26)より以前に、原告により、特許権にかかる「ドラム式洗濯機使い捨てフィルタ」が、Q1生協(2014.6.2)と、Q2生協(2014.10.10)にて販売され公知となっていた
 したがって、原則、特許権にかかる発明は、「出願前に日本国内において公然実施された」ものであり、新規性が喪失しているとして、侵害が否定される事案である。
 ところが、本件では、原告により、Q1生協の販売行為を対象として、新規性喪失の例外手続(特許法30条)が取られていたために、Q1生協での販売行為に加えて、Q2生協での販売行為も、一連の行為として、新規性が喪失していないものと取り扱われるかが争点となった。

大阪地裁の判断

 大阪地裁は、「同項が,新規性喪失の例外を認める手続として特に定められたものであることからすると,権利者の行為に起因して公開された発明が複数存在するような場合には,本来,それぞれにつき同項の適用を受ける手続を行う必要があるが,手続を行った発明の公開行為と実質的に同一とみることができるような密接に関連する公開行為によって公開された場合については,別個の手続を要することなく同項の適用を受けることができるものと解するのが相当であるところ,これにより本件についてみると,証拠(乙16の1,2)によれば,Q2コープ連合及びQ1生活協同組合は,いずれも日本生活協同組合連合会の傘下にあるが,それぞれ別個の法人格を有し,販売地域が異なっているばかりでなく,それぞれが異なる商品を取り扱っていることが認められる。すなわち,上記証明書に記載された原告のQ1生活協同組合における販売行為とQ2コープ連合における販売行為とは,実質的に同一の販売行為とみることができるような密接に関連するものであるということはできず,そうであれば,同項により上記Q1生活協同組合における販売行為についての証明書に記載されたものとみることはできないことになる。」として、原告の特許は、Q2生協での販売行為を理由として、新規性を喪失しており、無効理由があるとして、特許権侵害は成立しないと判断した。

検討

 特許出願前に、発明の内容が公に知られる状態となっていた場合、原則、新規性が否定され、特許は拒絶理由・無効理由を有することになる。ところが、特許権者が出願前に展示会への出品を行ったり、技術の公開をする場合もあり、出願前に公知となってしまった一切の発明を保護しないことは、保護に欠けるものとなる。そこで、特許法は、新規性喪失の例外として、所定の公知行為について、新規性喪失の例外手続をした場合、当該公知行為によっては新規性が喪失していないものと取り扱うことにしている(特許法30条)。
 本件では、原告は新規性喪失の例外手続を行っていたものの、公知行為としてQ1生協での販売とQ2生協での販売という2つの行為をしたが、Q1生協での販売のみを対象として手続きを行っていたため、同制度の利用による救済が受けられなかった。Q1とQ2は別個の法人格を有し、販売地域が異なり、かつ異なる商品の販売行為であることからすると、両者が密接不可分の行為とは評価できず、本判決の判断は妥当であろう。
 このように、特許法では、新規性喪失を救済する制度が存在するものの、これが例外手続きであるので、その運用・解釈は厳格なものとならざるを得ない。いざ、事業が開始した場合の、営業活動、販売活動は、意図せぬ方向に拡散し、全社員の行動もコントロールすること容易ではない。本件のように新規性喪失の例外制度は、厳格に運用されることに鑑みると、「特許は販売前に出願すべし」との原則1を徹底されることが好ましい。

以上
(文責)弁護士・弁理士 高橋正憲


1 正確には、商品にかかる技術内容が、守秘義務を有しない第三者に知られる前に特許出願をする必要がある。