【平成29年5月11日判決(大阪地裁 平成28年(ワ)第6268号)】

【事案の概要】

 本件は、登録商標「Lockon」の商標権者である原告が、社名を「株式会社ロックオン」とする被告に対し、「株式会社ロックオン」、「LOCKON」などから成る別紙記載の1ないし6の各標章をインターネット上のホームページ等の広告に使用する行為が上記商標権を侵害すると主張して、被告に対し、商標権に基づき、商品又はサービスを提供するに当たり、広告に上記各標章を使用することの差止め及びホームページ等からの上記各標章の抹消を求めた事案である。

【判決文抜粋】(下線は筆者)

主文
1 被告は、「AD EBiS(アドエビス)」、「THREe(スリー)」、「SOLUTION(ソリューション)」及び「EC-CUBE(イーシーキューブ)」に係る役務を提供するに当たり、インターネット上のホームページ、パンフレット及び看板等の広告に別紙「標章目録」記載3ないし6の各標章を使用してはならない。
2 被告は、インターネット上のホームページ、パンフレット及び看板等から、別紙「標章目録」記載3ないし6の各標章を抹消せよ。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求の趣旨
 1 被告は、商品又はサービスを提供するに当たり、インターネット上のホームページ、パンフレット及び看板等の広告に別紙「標章目録」記載1ないし6の各標章を使用してはならない。
 2 被告は、インターネット上のホームページ、パンフレット及び看板等から、別紙「標章目録」記載1ないし6の各標章を抹消せよ。
 3 訴訟費用は被告の負担とする。
 4 第1項及び第3項につき仮執行宣言。

第2 事案の概要
  本件は、別紙「商標権目録」記載の商標権を有する原告が、被告が別紙「標章目録」記載の各標章をインターネット上のホームページ等の広告に使用する行為が同商標権を侵害すると主張して、被告に対し、同商標権に基づき、同広告に同標章を使用することの差止め及び同ホームページ等からの同標章の抹消を請求した事案である。
 1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
  (1) 当事者
  原告は、コンピュータ・システム及びソフトウェアの開発、販売、レンタル並びに保守、インターネットを利用した各種情報処理サービス及び情報提供サービスの提供等を目的とする株式会社である。
  被告は、コンピュータに関するシステム開発・販売、情報処理サービス業、情報提供サービス業等を目的とする株式会社である。
  (2) 原告の商標権
  原告は、別紙「商標権目録」記載1及び2の商標権(以下「本件商標権1」、「本件商標権2」といい、併せて「本件商標権」という。また、これらの商標権に係る登録商標を「本件商標」という。)を有している。
  (3) 本件商標権の役務区分
  本件商標権の各商標登録出願時点での商標法施行令1条別表に規定された第9類、第35類及び第42類の商品及び役務並びにこの商品及び役務に属するものとして、同時点での商標法施行規則6条別表に規定された商品及び役務の内容は、別紙「役務区分」のとおりである(以下、これら時点での上記政令及び省令の別表によるものを、単に「第9類」、「第35類」、「第42類」のようにいう。)。
  (4) 被告の行為
  ア 被告は、ASPサービスを営む業者として、「AD EBiS(アドエビス)」、「THREe(スリー)」及び「SOLUTION(ソリューション)」(以下「被告3サービス」という。)という役務を提供している(これらの役務と本件商標権の指定商品・指定役務との同一・類似性には争いがある。)。
  また、被告は、ダウンロード可能なソフトウェアである「EC-CUBE(イーシーキューブ)」(以下、被告3サービスと「EC-CUBE」を併せて「被告4サービス」という。)をインターネット等のネットワークを介して、需要者に提供している。「EC-CUBE」による役務は第42類の「電子計算機用プログラムの提供」に該当し、同役務によって提供されるソフトウェアは第9類の「電子応用機械器具及びその部品」に該当し、本件商標権の指定商品・役務と同一である。
  イ 被告は、ホームページのトップ画面(甲7の1頁)並びにトップ画面の「企業情報」、「事業内容」、「採用情報」、「ブログ」、「ニュース」及び「IR情報」の項目をそれぞれ選択して表示される画面(甲8、22ないし27の各1頁)において、左上に別紙「標章目録」記載6の標章(以下「被告標章6」といい、同目録記載の他の各標章も同様に呼称する。また、被告標章1ないし同6を併せて「被告各標章」という。)を使用し、被告標章6の表示の中に被告標章1が含まれている。
  また、被告は、ホームページの「プレスリリース」の画面であり、EC-CUBEを広告宣伝するページ(甲28の1頁)及びホームページの「採用情報」の画面に表示されるYouTubeにアップロードされた動画(甲10の1、10の2)において、被告標章1を、その上に「L」字様の図形を、その下に「Impact On The World」との文字を配する態様で使用している。
  さらに、被告は、パンフレット(甲15)の表紙に、被告標章6を使用している。
  ウ 被告は、フェイスブックの公式ページ(甲11)において、被告標章2を使用している。
  エ 被告は、「SOLUTION」を紹介するホームページ(甲9の4)の上部に、被告標章3を使用している。
  オ 被告は、被告標章4を、事務所の正面玄関口(甲12、13)に表示し、看板として利用している。また、被告は、被告のサービスに関する説明会(甲14の2頁)において、同標章を使用した。
  カ 被告は、ホームページのトップ画面の下部の「OFFICIAL BLOG」という項目及び「ブログ」のページで掲載した写真(甲7の4頁、甲25の2頁、3頁、甲30の1頁ないし3頁)において、被告標章5を使用している。
  (5) 本件商標と被告各標章の対比
  被告各標章は、本件商標と類似する。
 2 争点
  (1) 被告3サービスの役務は、本件商標権の指定役務と同一又は類似するか(争点1)
  (2) 被告は、被告4サービスについて被告各標章を使用しているか(争点2)
  (3) 商標法26条1項1号により、本件商標権の効力が被告各標章に及ばないか(争点3)

第3 争点に関する当事者の主張
(中略)

第4 当裁判所の判断
 1 争点1(被告3サービスの役務は、本件商標権の指定役務と同一又は類似するか)について
(中略)
 2 争点2(被告は、被告4サービスについて被告各標章を使用しているか)及び争点3(商標法26条1項1号により、本件商標権の効力が被告各標章に及ばないか)について
  (1) 認定事実
  前提事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告による被告各標章の使用態様について、以下の事実が認められる。
  ア ホームページでの使用態様
  (ア) 被告のホームページでは、トップ画面(甲7)から、下位の階層である「企業情報」(甲22、乙8)、「事業内容」(甲8、23)、「採用情報」(甲24)、「ブログ」(甲25、30)、「ニュース」(甲26)、「IR情報」(甲27)のページに移ることができる。これらのトップ画面及びページの各1頁の左上において、被告標章6が表示され、そのうち「株式会社ロックオン」の部分及び「L」字様の図形がえんじ色(濃い赤色)で着色されている(この着色部分のうちの「株式会社ロックオン」の部分が被告標章1である。)。なお、被告は、上記の「L」字様の図形の商標(商標登録第5450134号)及び「Impact On The World」との商標(商標登録第5450135号)を登録している(弁論の全趣旨)。
  (イ) 上記トップ画面の「NEWS」の項目においては、「アドエビス」、「EC-CUBE」の販売等の記載が見られ(甲7の1頁)、同「PICKUP」の項目においては、バナー上に「EC-CUBE」が広告宣伝されている(甲7の3頁)。
  また、上記トップ画面の下部の「OFFICIAL BLOG」という項目で掲載されている社員旅行の写真(甲7の4頁)には、上部の約4分の1ないし3分の1のスペースに、2行にわたって、被告標章5と「COMPANY TRIP 2016」とが表示されている。
  (ウ) トップ画面の下位の階層にある「企業情報」のうちの「代表挨拶」のページ(甲22)では、「株式会社ロックオンを設立した理由」に、「私たちのこうした願いを、企業理念である『Impact On The World』という言葉に込めました。」と記載され、「経営基本方針」に、「世の中へ何かを働きかけたいという強い想いを、企業理念である『Impact On The World』という言葉に込め、企業価値の最大化を図ります。」と記載されている。「2016年度年頭所感」では、「一つ目の『広告プラットフォーム事業の拡充』に関しては、広告効果測定のアドエビスから、マーケティングプラットフォームのアドエビスへとブランドも大きく刷新し、外部サービスとの連携も始まりました。」と記載されている。
  また、上記の「企業情報」のうちの「会社概要」のページ(乙8)では、「事業内容」の欄に、「マーケティングプラットフォーム」として「アドエビス」、「THREe」が、商流プラットフォームとして「EC-CUBE」、「SOLUTION」が列挙されている。
  (エ) トップ画面の下位の階層にある「事業内容」ページ(甲8、23)では、「マーケティングプラットフォーム」に属する「AD EBiS」及び「THREe」が広告宣伝され、「商流プラットフォーム」に属する「EC-CUBE」及び「SOLUTION」が宣伝広告されている。
  また、被告4サービスについて、個別にサービス又は商品の内容が説明され、広告宣伝されたページの閲覧が可能である(甲9の1ないし9の4、乙10ないし12)。
  このうち、「SOLUTION」の広告宣伝がされたページ(甲9の4)では、各頁の上部の位置において、「SOLUTION」との名称の右隣に、「デジタル戦略の総合支援パートナー」との記載の真下に被告標章3が表示されている。
  (オ) トップ画面の下位の階層にある「採用情報」のページでは、YouTube上にアップロードされた事業概要等を紹介する動画を閲覧することができる。被告標章1は、動画の冒頭場面及び終了場面に、その上にえんじ色(濃い赤色)で着色された「L」字様の図形を、その下に灰色で着色された「Impact On The World」の文字を配する態様で表示されている(甲10の1及び10の2の各1頁)。同ページのうち、「技術系職種」の「プロダクトマネジメント」では、「AD EBiS」及び「EC-CUBE」が主力製品であると紹介されている(甲10の1及び10の2の各4頁、甲24の2頁)。
  (カ) トップ画面の下位の階層にある「ブログ」のページ(甲25)には、「ロックオンベトナムEC-CUBE開発チーム誕生」の記事があり、「EC|CUBE」との表示も付されている(甲25の1頁)。同ページには、「2016年社員旅行記」の記事が2件掲載され、いずれも、写真の上部の約4分の1ないし3分の1のスペースに、2行にわたって、被告標章5と「COMPANY TRIP 2016」とが表示されている(甲25の2頁、3頁、甲30の1頁ないし3頁)。
  (キ) トップ画面の下位の階層にある「ニュース」のページ(甲26)では、「プレスリリース」として、「EC-CUBE」、「AD EBiS」、「THREe」の項目があり、最新版のリリースやサポート期限延長が告知されている。
  また、「プレスリリース」中の平成28年8月23日の記事のページでは、「EC-CUBE」の導入等に関する無料セミナーの開催が発表されており、そのうちの四角囲いの箇所(甲28の1頁)には、左上の部分に、被告標章1が、その上に「L」字様の図形を、その下に「Impact On The World」との文字を配する態様で表示されている。このページの「『EC-CUBE』について」(甲28の5頁)には、「EC-CUBE」の説明が掲載され、「株式会社ロックオン概要」(甲28の5頁)には、「事業内容」の中で、「マーケティングプラットフォーム」として、「アドエビス」、「THREe」が、「商流プラットフォーム」として、「EC-CUBE」、「SOLUTION」が列挙され、「Category」の「プレスリリース」には、「AD EBiS」、「THREe」、「EC-CUBE」が列挙されている。また、「このカテゴリの新着記事」(甲28の6頁)には、「EC-CUBE」の最新版のリリース、サポート期限延長、「アドエビス」の新サービスのリリースが告知されている。
  (ク) トップ画面の下位の階層にある「IR情報」のページ(甲27)では、「IR情報」の「2016.05.25」に、「リリース」として、「『アドエビス』の一部サービスに関する料金改定のお知らせ」が告知されている。
  イ フェイスブックでの使用態様
  被告のフェイスブックの公式ページにおいては、投稿された各記事の冒頭に、投稿者名として、「L」字様の図形とともに「株式会社ロックオン(公式ページ)」と記載され、その中で被告標章2が表示されている。被告が同ページで紹介している記事には、「EC-CUBE」等のサービス又は商品を広告宣伝する内容も掲載されており、被告が「マーケティングメトリックス研究所」及び「EC-CUBE 公式ページ」の投稿をシェアした場合には、転載されたこれらの記事の冒頭の投稿者の表示も同じ青色のゴシック体で表示されている(甲11、29)。
  ウ 事務所及びセッションでの使用態様
  事務所の正面玄関口には、「L」字様の図形と被告標章4並べた看板が表示されており、それらはえんじ色(濃い赤色)又は金色で着色され、金色のものにはその下に「Impact On The World」の文字が配されており、「AD EBiS」及び「THREe」の広告物が陳列されている(甲12、13)。
  また、被告のセッションでは、壁面に、被告標章4がえんじ色(濃い赤色)に着色されて表示され、この壁面には、「AD EBiS」及び「THREe」が広告宣伝されている(甲14の2頁)。
  エ パンフレットでの使用態様
  被告4サービスの概要等の説明や広告宣伝が掲載されたパンフレットの表紙(甲15の1頁)の中央部には、被告標章6が、えんじ色(濃い赤色)を背景とした白抜き文字として表示されている。
  パンフレットの「Impact On The World」とのページ(甲15の2頁)では、「私たちも同じように、高い理想を胸に走り続けることで、世の中へ何かを働きかけられると信じています。その想いを企業理念である『Impact On The World』という言葉に込めました。」と説明されている。

  (2) 以上に基づき判断する。
  ア 被告標章6について
  (ア) 前記のとおり、被告標章6は、ホームページ及びパンフレットにおいて表示されているところ、それらホームページ及びパンフレットでは、被告4サービスの項目、説明又は広告宣伝が掲載されている。そうすると、それらにおいて、被告標章6は、被告4サービスの出所表示として機能していると認められるから、被告は、ホームページ及びパンフレットにおいて、被告標章6を被告4サービスの広告に使用しているといえる。(争点2)
  この点について、被告は、〈1〉被告のホームページの「企業情報」、「採用情報」、「IR情報」、「プレスリリース」のページには、被告標章6が被告4サービスの出所を示すためには用いられておらず、また、〈2〉その他の箇所では「株式会社ロックオン」と出所を明記しているから被告各標章の表示によって原告との間で出所の誤認が生じることはない旨主張する。
  しかし、〈1〉については、確かに、被告のホームページ内の「企業情報」等のページは、会社としての被告自身の広告を行うことを主たる目的とするページであるとは認められるが、同じホームページ内の「事業内容」等のページでは、被告4サービスの広告がなされている上、被告が指摘するページでも、前記認定のとおり被告4サービスのいずれかに言及されている。そして、被告のホームページは、トップ画面から下位の階層の各ページまでの全体がひとまとまりの広告媒体を構成し、各ページ間を自由に移動できるものであるから、ホームページ内で提供役務の広告が行われているときには、ホームページの他の箇所で表示された被告標章6であっても、被告4サービスの出所を表示するものとして機能していると認めるのが相当である。
  また、〈2〉については、前提事実のとおり被告各標章が本件商標と類似しており、被告が原告と異なる「株式会社ロックオン」であることが需要者の間で周知となっていると認めるに足りる証拠もないことからすると、被告各標章の表示によって出所の誤認混同が生じるおそれはあると認められる。
  したがって、被告の上記主張は、採用できない。
  (イ) そして、被告標章6は、ゴシック体の「株式会社ロックオン」との文字に、被告の登録商標であり企業ロゴと思われる「L」字様の図形と、被告の登録商標であり、かつ、企業理念ないし企業スローガンである「Impact On The World」との文字がバランスよく組み合わされており、外観上ひとまとまりに把握されるものである。そして、このような企業ロゴ及び企業スローガンと組み合わせられることにより、「株式会社ロックオン」との文字は、それが単体で使用される場合に比べて、特に需要者の注意を惹く態様となっている。したがって、被告標章6の使用は、殊更にその部分に需要者の注意を惹きつけることにより、役務の出所を表示させる機能を発揮させる態様での使用というべきであって、自己の名称を「普通に用いられる方法で表示する」場合に当たるものとはいえない。(争点3)
  この点について、被告は、被告標章6は、冒頭部等の一般的な位置に、目立たないようにして表示され、被告の会社名が「L」字様の図形や企業理念とは独立して読み取れるから、被告の会社名の表示は、自己の名称を「普通に用いられる方法」で表示したものである旨主張するが、被告標章6は、「L」字様の図形や企業理念と外観上ひとまとまりに把握されるものであるから、被告の同主張は採用できない。
  イ 被告標章1について
  被告標章1は、被告標章6の中に含まれる態様のほかに、「採用情報」のページの動画や「プレスリリース」のページにおいて、上側に「L」字様の図形を、下側に「Impact On The World」の文字を組み合わされる態様で表示されている。
  しかし、本件において、被告標章1が他の図形や文字と組み合わされずに単独で使用されている実例は見当たらないから、被告が被告標章1を単体で使用するおそれがあるとはいえない。また、仮に上記の使用態様において被告標章1を単体で把握するとしても、被告標章1は被告の商号を赤色のゴシック体で表記したものであり、自己の商号を自社のホームページ等で着色して表示することは一般的に行われるものである。また、被告標章1のうち被告標章6に含まれる態様のものは、被告のホームページの左上に小さく標記されているにすぎず、それ以外の態様のうち、セミナーの開催告知中で表示されているもの(甲28の1頁)はさほど大きな表示ではなく、被告のホームページ内の「採用情報」のページでYOU TUBEの動画に表示されるもの(甲10の1及び2)は画面中央に目立つ態様で表示されるものの、この動画は需要者というよりは主に求職者を対象とするものであり、求職者に対して社名をアピールすることは通常行われるものである。したがって、被告標章1は、自己の名称を「普通に用いられる方法」により表示したものというべきである。(争点3)
  したがって、争点2について判断するまでもなく、被告標章1に係る原告の差止請求は理由がない
  ウ 被告標章2について
  (ア) 被告標章2は、被告のフェイスブックの投稿記事において、投稿者名として、「L」字様の図形とともに表示されているものである。
  しかし、本件において、被告標章2が他の図形や文字と組み合わされずに単独で使用されている実例は見当たらないから、被告が被告標章2を単体で使用するおそれがあるとはいえない。また、仮に上記の使用態様において被告標章2を単体で把握するとしても、被告標章2は、被告の商号をゴシック体で表記し、かつ、記事の投稿者であることを示すために他の投稿者と同じく青色で着色したにすぎないから、自己の名称を「普通に用いられる方法」により表示したものというべきである。(争点3)
  したがって、争点2について判断するまでもなく、被告標章2に係る原告の差止請求は理由がない。
  エ 被告標章3について
  (ア) 被告標章3は、被告のホームページ中の「SOLUTION」の広告ページにおいて使用されており、「デジタル戦略の総合支援パートナー」との標語の真下に表示されているものである。
  このように、当該ページにおいて「SOLUTION」について広告宣伝されていることに加え、被告標章3の表示態様に鑑みると、被告は、「SOLUTION」について被告標章3を使用していると認められる(争点2)。
  (イ) また、被告標章3は、「株式会社ロックオン」の文字に被告の登録商標である「L」字様の図形を組み合わされて表示されており、当該ページに接した需要者の注意を特に惹くような態様で表示されているから、自己の名称を「普通に用いられる方法で表示する」場合に当たるものとはいえない。(争点3)
  オ 被告標章4について
  (ア) 被告標章4は、まず、被告の事務所の正面玄関口の看板として表示されているところ、通常、企業の事務所においては当該企業の商品又は役務に関する需要者向けの業務が、あるいは、そのための広告宣伝がなされるのであり、現に「ADEBiS」と「EC-CUBE」の広告物が陳列されている。そうすると、被告の事務所の正面玄関口における被告標章4の使用は、少なくとも「AD EBiS」と「EC-CUBE」についての使用であると認められる。
  また、被告標章4は、セッションの壁面においても表示されているところ、そこには同時に、「AD EBiS」及び「THREe」の広告の表示があるから、被告は、セッションにおいて、「AD EBiS」及び「THREe」について被告標章4を表示して使用していると認められる。(争点2)
  また、これらからすると、被告4サービス中の他のものについても被告標章4を使用するおそれがあるというべきである。
  (イ) そして、被告の商号の英訳は「LOCKON CO.、LTD.」であり(甲32の1頁、乙2の1頁、乙8)、「LOCKON」との被告標章4はその略称であるから、被告標章4が「自己の名称」を表示するものとはいえない。なお、この略称が著名であることを認めるに足りる証拠はないから、被告標章4が「著名な略称」を普通に用いられる方法で表示する場合に当たるものともいえない。(争点3)
  カ 被告標章5について
  (ア) 被告標章5は、被告のホームページのトップ画面とブログのページで掲載された社員旅行の写真に表示されているものであり、この写真自体には被告4サービスに関連する表示はされていない。しかし、上記トップ画面では、他の項目において、「アドエビス」及び「EC-CUBE」について広告宣伝がされており、「ブログ」のページには「EC-CUBE」に関する記事が掲載されているから、先に被告標章6について述べたのと同様に、被告は、被告4サービスについて被告標章5を使用していると認めるのが相当である。(争点2)
  (イ) そして、被告標章5は、被告の商号をそのまま英訳したものではあるが、トップ画面やブログに掲載された写真の上部の4分の1ないし3分の1のスペースにおいて、2行のうちの1行を占める大きさにより、需要者の目に留まりやすい位置大きさによって表示され、丸みを帯びたデザイン文字から成り、特に「K」の文字には、右下部分が通常よりも長く伸びているという特徴があって、被告のホームページのトップ画面やブログに接した需要者の注意を特に惹くような態様で表示されている。したがって、被告標章5の使用は、殊更にその部分に需要者の注意を惹きつけることにより、役務の出所を表示させる機能を発揮させる態様での使用というべきであって、自己の名称を「普通に用いられる方法で表示する」場合に当たるものとはいえない。(争点3)
  キ 小括
  したがって、被告標章3ないし6は被告が被告4サービスについて使用していると認められ、かつ、その使用について商標法26条1項1号により本件商標権の効力が及ばないものということはできない。

第5 結論
  以上によれば、被告による被告標章3ないし6の使用に関し、被告4サービスについての使用の限りで、本件商標権の侵害及び使用のおそれが認められるから、原告の差止請求はその限度で理由があり、また、被告各標章のホームページ等からの抹消請求は、被告標章3ないし6についての限度で理由がある。なお、原告は、被告4サービスとの関連の有無に関係なく、被告が商品又はサービスを提供するに当たっての被告各標章の使用の差止めを請求するが、被告が現に提供しているのが被告4サービスである以上、その提供の限度を超えて原告の請求を認めることは相当でない。また、仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととする。
  よって、主文のとおり判決する。

【解説】

 判決文抜粋と解説では、争点2(被告は、被告4サービス(被告が提供していた「AD EBiS(アドエビス)」、「THREe(スリー)」及び「SOLUTION(ソリューション)」という役務及びダウンロード可能なソフトウェアである「EC-CUBE(イーシーキューブ)」を意味する。)について被告各標章を使用しているか)及び争点3(商標法26条1項1号により、本件商標権の効力が被告各標章に及ばないか)について取り上げる。
 裁判所は、争点2及び3について一括で判断し、被告標章1及び被告標章2については、他の図形や文字と組み合わされずに単独で使用されておらず、単体で把握するとしても、自己の名称を「普通に用いられる方法」により表示したものであるから、商標法26条1項1号により、本件商標権の効力が及ばないと判断した。
 これに対して、被告標章6については、企被告の登録商標であり企業ロゴの「L」字様の図形と、被告の登録商標かつ企業スローガンとひとまとまりに把握されるので、役務の出所を表示させる機能を発揮させる態様での使用というべきであり、また、被告標章3については、被告の登録商標である「L」字様の図形を組み合わされて表示されており、当該ページに接した需要者の注意を特に惹くような態様で表示されているから、それぞれ、自己の名称を「普通に用いられる方法で表示する」場合に当たるものとはいえない、と判断された。
 さらに、被告標章4については、被告の略称であるから、この略称が著名であることを示す証拠はないから、「著名な略称」を普通に用いられる方法で表示する場合に当たるものともいえない、と判断された。
 これらの判断は、いずれも妥当なものであると考えられる。
 特に、被告標章1及び2は、単体で把握したとしても、自己の名称を「普通に用いられる方法」により表示したものと判断されたのに対して、被告標章6及び3は、被告標章1ないし2を含むものであるが、外観上ひとまとまりに把握されるものであり、それぞれ役務の出所を表示させる機能を発揮させる態様や、需要者の注意を特に惹くような態様の表示と判断され、自己の名称を「普通に用いられる方法で表示する」場合に当たるものとはいえない、と判断された。これらの違いは、「普通に用いられる方法で表示する」の範囲を把握するために参考となる。
 なお、本件の控訴審(大阪高裁平成29年11月30日判決)においては、被告標章1及び2については、独立して使用されていないため、被告4サービスについて使用されていない、との理由で、商標権侵害が否定された(商標法26条1項1号該当性については判断されず。)。
 また、被告標章5については、本件では、被告4サービスについて使用されたものと判断されたが、控訴審では、被告4サービスについて使用されたものではないと、判断が分かれた。被告標章5は、被告のホームページのトップ画面とブログのページで掲載された社員旅行の写真に表示されているものであるから、トップ画面において被告4サービスの記事が掲載されているとはいっても、被告標章5自体は被告4サービスについて使用されたものでないとした控訴審の判断が妥当であると考える。
 商標法26条1項1号は、自己の氏名・名称、著名な雅号・略称等を普通に用いられる方法により表示する商標については、商標権の効力が及ばないと規定するものであり、その趣旨は、人の人格的利益の保護や円滑な取引の確保等の観点から、事業者による商標の自由な使用を保証することであると解されている。本件は、事例判決ではあるが、同号が適用された標章と適用されなかった標章が示されているため、特に、同号の、「普通に用いられる方法で表示する」の範囲を把握するために参考となると考え、紹介させていただいた。

以上
弁護士 石橋茂

(別紙)




本件商標権1

本件商標権2

被告標章1

被告標章2

被告標章3

被告標章4

被告標章5

被告標章6