【平成29年3月16日(大阪地判平成27年(ワ)11133号 不正競争行為差止等請求事件)】

【キーワード】

不正競争防止法2条1項20号、品質誤認表示、人名

 

【事案の概要】

 本件の原告は、兵庫県高砂市の魅力を発信するため、歴史的文化の発掘や復元をもとにした地域ブランド品の研究開発、アンテナショップの運営等の事業を行う特定非営利活動法人(NPO法人)であり、被告は、兵庫県姫路市において、組合員の事業の用に供する販売店等の共同施設の設置等の事業を行う組合である。

 被告は、トートバッグ、ショルダーバッグ、リュックサック等のかばん及び小物入れ(ポーチ)などの被告商品に、次の表示(以下「被告表示1」、「被告表示2」などといい、あわせて「被告各表示」という。)を付して、店舗や通販サイトで販売し、また、宣伝広告していた。

<被告表示1>

 工楽松右衛門

<被告表示2>

 帆工楽松右衛門

<被告表示3>

 工楽松右衛門帆布

<被告表示4>

 工楽松右衛門帆布本店

 原告は、被告各表示について、需要者へ被告商品が「帆布の祖」として名高い工楽松右衛門が創製した帆布と同様の品質を有した商品であると誤信させるおそれがある表示であり、当該表示を付して被告商品を販売等する行為は、不正競争防止法2条1項13号(現:不正競争防止法2条1項20号)に定める不正競争に該当するとして、被告に対し、差止請求、謝罪広告の掲載請求及び損害賠償請求を行った。

 

【争点】

・被告各表示が、商品の「品質、内容・・・について誤認させるような表示」(不正競争防止法2条1項20号)に該当するか。

 

【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)

第1~第3(省略)

第4 当裁判所の判断

1 (省略)

2 争点1(被告各表示は、商品の「品質、内容・・・について誤認させるような表示」といえるか)について

(1) ある表示が商品の「品質、内容・・・について誤認させるような表示」といえるためには、その前提として、需要者の間において、当該表示が商品の品質や内容を示す表示であると一般に認識されることが必要であると解される。そして、本件において、被告各表示は、被告商品に用いられている帆布の種類や内容を示すものであることを明示して使用されているわけではないところ、原告は、「松右衛門帆」ないし「松右衛門」が、工楽松右衛門が創製した帆布の品質ないし内容を示す普通名詞として世間一般に広く通用していると主張することから、まずこの点を検討する。

(2) 「松右衛門帆」の意義について

 上記1(2)の文献の記載によれば、江戸時代の天明5年、高砂の工楽松右衛門が帆船の帆としてそれまでの「刺帆」と異なる厚くて丈夫な帆布を創製し、その帆布は廻船に用いられて急速に普及し、「松右衛門帆」ないし「松右衛門」と呼ばれたことが認められる。

 しかし、前記文献によれば、「松右衛門帆」と呼ばれる帆布も様々なものがあり、その品質にも上下があるとされ、実際、現存する「松右衛門帆」もその規格は様々で、縦糸及び横糸に使用する糸の太さ、すなわち、撚り合わせる糸の太さや本数は明確でなく、また、単位当たりの重さもまちまちであったとされており、多くの「松右衛門帆」の記載に共通して述べられている内容としては、縦糸及び横糸に木綿の細糸を撚り合わせた太い糸を使用し、縦糸横糸ともに二筋の平織りで、巾が約2尺5寸程度の広幅の帆布であるというにとどまる。この点について、原告は、「松右衛門帆」の内容として、より詳細な規格を主張するが、前記の文献からすると、そこまで明確な規格を有するものであると認めることはできない。

 以上からすれば、上記のような内容の帆布が、江戸時代において、「松右衛門帆」ないし「松右衛門」と呼ばれたと認められる。

(3) 「松右衛門帆」、「松右衛門」に対する需要者の認識

ア ・・・被告商品は、トートバッグ、ショルダーバッグ、リュックサック等のかばん及び小物入れ(ポーチ)であり、被告は、これらを、兵庫県姫路市及び岡山県倉敷市所在の店舗のほか、インターネット通販により販売している。したがって、被告商品の需要者は、全国の一般消費者であると認められる。

イ そこで、このような需要者の認識を検討するに、上記のとおり、工楽松右衛門が、江戸時代に、それまでの帆より丈夫な、太く撚った糸を使用して織った帆布を創製し、それが「松右衛門帆」ないし「松右衛門」と呼ばれたことは、上記1(2)のとおり、多数の文献に記載されている。しかし、それらは、(a) 主として船舶関係の学術書の類のもの・・・、(b) 高砂市等の郷土史の類のもの・・・、(c) 帆布等の業界関係の類のもの・・・、(d) 原告の商品や被告商品を紹介する新聞記事や広報誌・・・が多く、これらの文献により「松右衛門帆」等が全国の一般消費者の間に周知となったとは認め難く、また、これらの文献の記載が全国の一般消費者の認識を表しているとも認め難い。

他方、(e) 一般向けの文献・・・、また、(f) 辞典・・・これらのうち、「菜の花の沖」は、司馬遼太郎著の小説であり、512万部を売り上げていることから(甲29の2)、相当数の人に読まれていることが認められるが、同小説は数巻にわたるもので、「松右衛門」や「松右衛門帆」はその中のごく一部で取り上げられているにすぎないから(甲29の1)、同小説によって、直ちに同小説に記載されている、「松右衛門」の名や「松右衛門帆」を創製した功績、「松右衛門帆」がどのような品質、製造方法のものであり、「松右衛門」とも呼ばれるものであったことが一般に知られるものとなったとは認めるに足りない。そして、それ以外の一般向け文献も、広く読まれているものか不明である上、工楽松右衛門や「松右衛門帆」に関する記載はその中のごく一部で取り上げられているにすぎない。また、上記の辞典には、「松右衛門」の見出しと、「松右衛門帆」の内容、「松右衛門」が「松右衛門帆」を表す場合があることが記載されているが、語義の2番目として記載されているにすぎない上、同辞典は、少なくとも3巻にわたる非常に多数の語が収録されているものであることからすれば、その中に収録されている言葉とその意味の全てが一般に知られているとはいえないし、同辞典に掲載されることによって周知されるものでもないから、その記載から直ちに、「松右衛門帆」がどのようなものであるか、また、「松右衛門」の語が「松右衛門帆」を指す場合があることが、一般に知られているとは認められない。

以上からすると、現在の全国の一般消費者において、「工楽松右衛門」ないし「松右衛門」の名や事績が広く知られているとは認められず、また、「松右衛門帆」が、工楽松右衛門が創製した特定の品質ないし内容の帆布を意味するとの認識を有するとは認められない。

(4) 被告各表示について

上記のような需要者の認識を踏まえれば、「工楽松右衛門」等の被告各表示に接した需要者が、それが被告商品の品質や内容を示す表示であると認識するとは認められないから、それらが商品の「品質、内容・・・について誤認させるような表示」に当たるとはいえない。

確かに、「松右衛門」が人名であることは容易に認識できることから、「松右衛門帆」との表示は、「松右衛門」に「帆」を結合させたものと認識できる。そして、原告は、このことから、被告各表示が、「『松右衛門』なる人物に由来する、通常の帆布と異なる特殊な帆布で作られた商品である」という認識を需要者に与えるもので、商品の「内容」に誤認を生じさせる表示である旨主張する。しかし、工楽松右衛門がどのような人物かが需要者に周知でない以上、被告各表示における「松右衛門」との表示は、原告も主張するとおり、一種のブランドとして認識されることも十分あり得ることである。そして、その場合に、その古風な人物名から伝統ある高品質なイメージを生じさせ得るとしても、それは、出所表示に由来する抽象的なブランドイメージにすぎず、そのことをもって、被告商品が一定の内容を有する特殊な帆布で作られたとの認識や、被告商品が工楽松右衛門なる人物によって考案ないし製造された帆布で作られたとの認識を需要者に一般的に生じさせるということはできず、被告各表示が、商品の「内容」についての表示であるということもできない。

(5) 以上からすれば、「工楽松右衛門」という人物の名である被告表示1のみならず、これに「帆」、「帆布」又は「帆布本店」を結合させた被告表示2ないし4についても、商品の「品質、内容」を表示するものとはいえず、これらに接した需要者が、これを商品の「品質、内容」を表示するものと認識しない以上、被告各表示が品質、内容について「誤認させるような表示」であるともいえない。

・・(以下、省略)・・

 

【検討】

1 不正競争防止法2条1項20号(品質誤認表示)について

 不正競争防止法では「商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の・・・品質、内容・・・について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡・・・する行為」を不正競争として定めている(不正競争防止法2条1項20号)。

 同号の該当性の判断は、表示の内容や取引の実情を踏まえ、当該表示により取引者・需要者に商品の品質、内容等について誤認を生じさせるおそれがあるか否かを基準として行われるが、直接的に品質、内容等に誤認を生じさせる表示ではなくても、間接的に品質、内容等を誤認させる表示であれば、同号の表示に該当すると解されている。

2 本件について

 本件では、「工楽松右衛門」との人物(廻船業者)が、江戸時代に織帆(おりほ)を織り上げる技法を考案し、当該技法で作られた帆布を全国に普及させたことに争いはないところ、原告は、①「工楽松右衛門」は、江戸時代に帆布を全国に普及させた人物として需要者(全国の一般消費者)に周知であること、②需要者は「松右衛門帆」を工楽松右衛門が創製した特定の品質ないし内容の帆布を意味すると認識することから、被告各表示は被告商品の品質、内容等を表示するものであると主張した。

 しかし、「工楽松右衛門」ないし「松右衛門」が掲載された書籍の多くは、学術書の類のもの等であることから、裁判所は、そもそも、現在の一般消費者において「工楽松右衛門」ないし「松右衛門」の名や事績が広く知られているとは認められず(①の否定)、需要者において、「松右衛門帆」が、工楽松右衛門が創製した特定の品質ないし内容の帆布を意味するとの認識を有するとは認められない(②の否定)と判断した。

 一般消費者の認識について証拠提出を行う際は、専門性の高い書籍ではなく、一般向けの文献などを使用する方が良いといえる。

以上
弁護士 市橋 景子