【東京地裁平成29年8月31日・平成28年(ワ)第25472号】

【キーワード】
 不正競争防止法2条1項1号,形態,商品等表示,特別顕著性,周知性,無印良品,カインズ

第1 事案の概要

本件は,2本の棒材を結合して構成された支柱などからなる形態を有する組立て式の棚であるユニットシェルフを販売する原告が,被告に対し,上記形態が周知の商品等表示であり,被告が上記形態と同一又は類似の形態のユニットシェルフを販売することが不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たると主張して,被告に対し,同法3条1項,2項に基づき同ユニットシェルフの譲渡等の差止め及び廃棄を求める事案である。


原告商品1               被告商品1
最高裁判所HPより引用

第2 判旨(下線及び傍点は筆者による)

1 争点⑴(原告商品形態についての周知の商品等表示該当性の有無)について
 「商品において,形態は必ずしも商品の出所を表示する目的で選択されるものではない。もっとも,商品の形態が客観的に明らかに他の同種の商品と識別し得る顕著な特徴を有し,かつ,その形態が特定の事業者により長期間独占的に使用されるなどした結果,需要者においてその形態が特定の事業者の出所を表示するものとして周知されるに至れば,商品の当該形態自体が「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)になり得るといえる。
 「原告商品は,外観が別紙原告商品目録記載の各図のとおりのものであり,原告商品形態①~⑥を有する。すなわち,原告商品は,組立て式の棚として,側面の帆立(原告商品形態①),棚板の配置(原告商品形態③),背側のクロスバー(原告商品形態④)が特定の形態を有するほか,帆立の支柱が直径の細い棒材を2本束ねたものであるという特徴的な形態(原告商品形態②)を有し,また直径の細い棒材からなる帆立の横桟及びクロスバー(原告商品形態⑤)も特定の形態を有するもので,それらを全て組合せ,かつ,全体として,上記の要素のみから構成される骨組み様の外観を有するもの(原告商品形態⑥)である。このような原告商品形態は原告商品全体にわたり,商品を見た際に原告商品形態①~⑥の全てが視覚的に認識されるものであるところ,原告は,原告商品の形態的特徴として原告商品形態①~⑥が組み合わされた原告商品形態を主張するので,以下,上記原告商品形態が他の同種商品と識別し得る顕著な特徴を有するか否かを検討する。
 ここで,原告商品及び同種の棚の構成要素として,帆立,棚板,クロスバー,支柱等があるところ,これらの要素について,それぞれ複数の構成があり得て(前記⑴ケ),また,それらの組合せも様々なものがあり,さらに,上記要素以外にどのような要素を付加するかについても選択の余地がある。原告商品は,原告商品と同種の棚を構成する各要素について,上記のとおりそれぞれ内容が特定された形態(原告商品形態①~⑤)が組み合わされ,かつ,これに付加する要素がない(原告商品形態⑥)ものであるから,原告商品形態は多くの選択肢から選択された形態である。そして,原告商品形態を有する原告商品は,帆立の支柱が直径の細い棒材を2本束ねたという特徴的な形態に加えクロスバーも特定の形態を有し細い棒材を構成要素に用いる一方で棚板を平滑なものとし,他の要素を排したことにより骨組み様の外観を有する。原告商品は,このような形態であることにより特にシンプルですっきりしたという印象を与える外観を有するとの特徴を有するもので,全体的なまとまり感があると評されることもあったものであり(同キ),原告商品全体として,原告商品形態を有することによって需要者に強い印象を与えるものといえる。このことに平成20年頃まで原告商品形態を有する同種の製品があったとは認められないこと(同ク)を併せ考えると,平成16年頃の時点において,原告商品形態は客観的に明らかに他の同種商品と識別し得る顕著な特徴を有していたと認めることが相当である。」
 「被告は,原告商品形態①~⑥のうちの各個別の形態を取り上げ,それらがありふれた形態であり,原告商品が他の同種の商品と識別し得る特徴を有しない旨主張する。
 しかし,前記アに述べたところに照らし・・・・・・・・・・・・・・,原告商品形態が他の同種の商品と識別し得る特徴を有するといえるか否かを検討する際は,原告商品形態①~⑥のうちの個別の各形態がありふれている形態であるか否かではなく,原告商品形態①~⑥の形態を組み合わせた原告商品形態がありふれた形態であるかを検討すべきである。したがって,原告商品形態①~⑥のうちの各個別の形態にありふれたものがあることを理由として原告商品形態が商品等表示とならなくなるものではない。
 また,被告は,原告商品形態①~⑥のうちの各個別の形態について,特有の機能等を得るために不可避的に採用せざるを得ない形態である旨主張する。しかし,上記各個別の形態について,原告商品形態とは異なる構成を採ることができ(前記⑴ケ),かつ,原告商品形態が上記各個別の形態の組合せからなることに照らせば,原告商品形態が特定の機能等を得るために不可避的に採用せざるを得ない構成であるとの被告の主張は採用することができない。
 「被告は,原告商品のほかにも原告商品形態を有する商品が販売されていると主張して,原告商品形態には,識別力がない旨主張する。
しかし,上記で被告が主張する商品について認められる事実は前記⑴クのとおりであり,その商品の販売が開始された時期は早くても平成20年頃である。したがって,平成20年より前に原告商品形態がありふれたものであったことを認めるに足りない。そして,後記⑷のとおり,原告商品形態は,平成16年頃には,原告の商品であることを示す識別力を有したと認められる。また,被告が指摘する商品は,年間の売上高も原告商品と比べて多くなく,製造販売期間も長いとはいえず,現在では販売を終了したものもある。そうすると,原告商品形態が平成16年頃に原告の商品を示すものとしての識別力を有した後,上記商品によって,原告商品形態がありふれたものになり,他の商品と識別し得る特徴を有することがなくなったとはいえない。」
 「被告は,前記カタログ等においては他の商品と組み合わせて様々な展開を行うことができる点を需要者に訴求し,店舗において原告商品は原告が扱う多数の商品の一つとして展示されているにすぎないことや需要者は原告商品につき一般的なメタルラックやスチールラックとしての抽象的な印象を抱いているにすぎないことを主張する。
 しかし,カタログ等において原告商品が他の商品と組み合わせて様々な展開を行うことができる点が記載され,店舗において原告商品以外の商品が展示されているとしても,原告商品形態は原告商品全体の特徴を示すものでカタログを見たり店舗を訪れたりする需要者は原告商品形態を当然に認識すること,原告商品形態が強い特徴を有するといえるものであること,いずれも原告商品形態を有する複数の種類の原告製品が「スチール棚セット」などとして宣伝,販売されてきたこと,原告商品形態が原告により5年以上独占され,宣伝広告活動及び販売実績の規模が大きいことを踏まえると,被告が主張する事実は前記認定を左右する事情とは評価し難い。また,被告は本件訴訟提起に関する報道に伴う感想が記載された証拠(乙21,22)を提出して原告商品形態が原告商品の識別力を持つ部分として認識されていないと主張する。そこには本件訴訟提起の報道に伴う感想が記載されてはいるが,原告商品形態及び被告商品形態を具体的に認識した上でそれが広く認識されているか否か,類似であるか否かに関する認識を述べたものとは認め難く,原告商品形態についての上記の判断を左右するものとはいえない。」

2 争点⑵(原告商品と被告商品の類似性及び混同のおそれの有無)について
 「原告商品形態と被告商品形態の構成は,前記前提事実⑶のとおりである。
これによれば,原告商品形態と被告商品形態は,①側面の帆立が,地面から垂直に伸びた2つの支柱と,その支柱の間に地面と平行に設けられた支柱よりも短い横桟からなり,②帆立の支柱が,棒材を,間隙を備えて2本束ねた形となっており,③帆立の間に横桟より少ない数の平滑な棚板が配置されていて(棚板の配置されていない横桟が存在する),④X字状に交差するクロスバーが帆立の支柱のうち背側に位置する2つの支柱の間に掛け渡されており,⑤帆立の横桟及びクロスバーが上記支柱と同程度の直径の細い棒材からなり,⑥帆立,クロスバー及び棚板のみで構成された骨組み様の外観(スケルトン様の外観)を有しているという各点で共通する。
 他方,上記支柱,横桟及びクロスバーを構成する棒材の直径が,原告商品形態においては6~7mmであるのに対し,被告商品形態においては6mm程度である点で相違する。
 上記①~⑥の共通点は,正面から視た際に認識し得る左右の帆立の支柱,棚板及びクロスバーの特徴のみならず,側面又は斜めから見た際に認識し得る上記支柱等のほか支柱の間の横桟の特徴が同一である点にあり,原告商品及び被告商品の全体にわたる。これに対し,上記の相違点は,棒材の直径及び棚板の厚さが1mm程度異なるにすぎず,商品全体を見た際に直ちに判別し得る相違とはいい難い。そうすると,被告商品形態は原告商品形態とそのほぼ全部において同一であるといえるものである。」
 「被告は,被告商品は,原告商品と①全体の質感,棚板の取り付け部品,棚板の質感,寸法が異なる,②販売活動の形態が異なる,③需要者は原告商品と被告商品をそれぞれのブランドにおいて明確に区別していると主張する。
 上記①につき,前記前提事実⑶及び証拠(検証の結果〔写真1,2,7,8,15~20〕)によれば,原告商品及び被告商品の色のほか,寸法につき,原告商品1(タイプ1)及び被告商品1を対比すると少なくとも脚部の幅,支柱の高さ,棚板の幅,奥行き及び高さ,クロスバーの長さがいずれも最大で1cm程度異なり,他にも,一部の製品の幅,原告製品3及び被告製品3につき高さがそれぞれ異なると認められる。
 しかし,原告商品は,高さ,奥行きや棚板の材質が異なる複数の種類の商品について,いずれもユニットシェルフの基本セット等として宣伝,販売等された。高さや棚板の材質が異なるが,いずれも原告商品形態を有する複数の商品について,上記のとおり宣伝,販売されて,原告商品形態が原告の出所を表示するものとして周知になったことに照らせば,被告が主張する寸法の違いや色の違いによって,被告商品に接した需要者が被告商品形態について原告の出所を表示するものと直ちに認識しなくなるとはいえない。そして,原告商品形態と被告商品形態の類似性の程度が高くほぼ全部において同一であるといえるものであるところ,それらの形態が,商品全体の外観に関し,かつ,商品を構成する各要素であって,需要者に最も強い印象を与えるものであること,原告商品と被告商品が大きく異なるのが商品全体の幅及び高さであって他の部分の違いが僅かであることからすると,被告商品に接した需要者は被告商品の形態が原告の出所を表示すると認識するといえる。
 上記②及び③につき,被告商品形態が,前記のような原告商品形態と高い類似性を有することに照らせば,販売活動の形態やブランドが異なることから需要者が被告商品を原告商品と混同するおそれがないとはいえない。」
 「以上によれば,被告商品は,原告商品と混同を生じさせるものであると認めるのが相当である。」

第3 検討

 本件は,一見シンプルかつ機能的な形態に過ぎないユニットシェルフの形態について,不正競争防止法2条1項1号の商品等表示該当性,周知性,類似性及び混同のおそれが認められた点で注目すべき判決である。
 本判決については,「商品等表示」の特定の仕方,証拠提出する周知資料に記載されているべき情報等参考になる点が多々存在するが,本稿では「原告商品形態が他の同種の商品と識別し得る特徴を有するといえるか否かを検討する際は,原告商品形態①~⑥のうちの個別の各形態がありふれている形態であるか否かではなく,原告商品形態①~⑥の形態を組み合わせた原告商品形態がありふれた形態であるかを検討すべきである。」との判示に注目したい。かかる判示は不正競争防止法2条1項3号で保護されないありふれた形態1についての考え方と似た判示であるように思われる一方,「前記アに述べたところに照らし」との限定がついていることには留意が必要である。すなわち,本件で問題となったユニットシェルフについては,その全体的なまとまり等が重要な形態であったために,個別の要素がありふれていることをもってありふれた形態とはされなかったものである。そうだとすると,問題となる商品が全体的まとまりにおいて重要な形態でない場合には,かかる判示は妥当しないといえるだろう。

以上
(文責)弁護士 山本真祐子

1不正競争防止法2条1項3号で保護されないありふれた形態については,東京地裁平成16年9月29日・平成16年(ワ)第5830号[チェーン付カットソー],知財高裁平成17年12月5日・平成17年(ネ)第10083号[フリル型カットソー2審]等を参照。