【平成29年12月7日(大阪高裁平成28年(ネ)第3103号)】

【要旨】
原告が被告に対し不正競争防止法2条1項1号に基づく差止めおよび損害賠償金の支払いを求めたことについて,原告が,それに関する事項を自社のウェブサイトでプレスリリースしたことが不正競争防止法2条1項15号の不正競争に該当すると判断された。

【キーワード】
不正競争防止法2条1項15号

1 事案の概要

(本訴請求事件)
本件本訴請求事件は,原告(一審原告)が,被告(一審被告)に対し,原告の販売するインクジェットプリンタ用のリサイクルインクカートリッジの包装の表示が原告の商品等表示として周知になっており,被告が当該原告の表示に類似する表示を使用するリサイクルインクカートリッジを販売などする行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当するとして,①同法3条1項に基づく差止請求,②同法4条に基づく損害賠償請求等を求めた事案である。
(反訴請求事件)
本件反訴請求事件は,被告が,原告に対し,本訴請求事件に関して原告が行った本件掲載文を原告のホームページに掲載する行為が不正競争防止法2条1項15号の不正競争に該当するとして,①同法14条に基づく本件掲載文の削除請求,②同法4条に基づく信用毀損による損害賠償請求等を求めた事案である。
(第一審の結論)
 第一審は,原告の請求をすべて棄却し,被告の反訴請求のうち②の損害賠償請求について30万円及びこれに対する遅延損害金の限度で認め,その余の請求をいずれも棄却した。そこで,原告及び被告の双方が控訴したのが本件である。

【本件の結論】
 本件各控訴をいずれも棄却した。

2 争点(他の争点もあるが,本稿は下記争点に絞る)

 反訴請求事件について,本件掲載文をホームページに掲載する行為が不正競争防止法2条1項15号の不正競争に該当するか。

3 判旨(一審判決の引用箇所については一審判決の本文を掲載した)

裁判所の判断
原告による不正競争防止法2条1項1号に基づく請求について
 原告の表示は,原告の商品表示として周知性を獲得していたとは認められない。よって,原告の表示と被告の表示が類似し,混同のおそれがあるか否かについて判断する必要までもなく,原告の不正競争防止法2条1項1号に基づく請求は理由がない。

被告による不正競争防止法2条1項15号に基づく請求について
(1) 本件掲載文は,表題を「スカイホースジャパン株式会社に対する提訴について」とし,第1文で挨拶文を,第2文に本件被告を被告として不正競争防止法に基づく訴訟を提起した事実報告を,第3文から第6文にかけて訴訟提起に至る事実関係を記載し,また第3文と第4文の間に,周知営業表示であると主張する「エコリカ製品の画像」として,別紙原告表示目録記載1,2のアに相当する正面部分の写真を,第4文と第5文の間に「スカイホース製品の画像」として,別紙被告表示目録記載1,2のアに相当する正面部分の写真を掲げ,末尾の第7文で,また定型的な結びの挨拶文を掲載したものである。
(2) 本件掲載文の記載内容をみると,確かに原告が被告に対し不正競争防止法に基づく訴訟を提起したという事実報告が前提になっており,読み手がその留保を前提に読むことが期待される体裁になっていることは認められる。
 しかし,その一方で,本件掲載文は,不正競争防止法2条1項1号の要件を充足する事実については,原告の商品の「パッケージのデザインは,エコリカ製品を表示するものとして,周知になっていました」(第3文)と,訴訟で問題にされる余地のない確定した事実であるかのように記載し,また原告の商品と被告の商品のパッケージデザインが「極めて似た」(第4文),「酷似」(第6文)であるとして「類似」より強い表現を用い,さらに「ユーザーが取り違えて購入するおそれがあることから」,原告が「日々受けている損害」(第6文)があると,ここでも断定した表現を用いている。また,上記(1)のとおり,本件掲載文中には「エコリカ製品の画像」と「スカイホース製品の画像」とが対比して観察できる状態で掲載されており,かつ,その画像は,いずれも本件訴訟で特定したパッケージデザインのうち正面部分の写真である。
 このような文書における表現及び写真の掲載は,その事柄の性質上,原告の主張が正当なものであること,すなわち,被告各商品のパッケージデザインが,周知性を獲得した商品表示である原告各商品のパッケージデザインと類似し,購入者が取り違えるおそれがあることが明確に認識されるようにして,読み手がそのことを理解し感得できるものでなければならない。本件掲載文における断定的な表現や正面部分の写真の使用はその表れであるといえる。
 その結果,本件掲載文の読み手は,その第1文及び第2文で,訴訟が提起されたばかりであるから,記載内容の事実が公的判断として確定された事実ではなく,原告がそのように主張している報告であることを理解するであろうが,周知性,類似性及び損害発生に関する第3文ないし第5文が,原告の主張であることについて,文言上何ら留保もなく,前記のとおり読み手に明確に認識されるような記載となっていることにより,周知性,類似性及び損害発生が確実であるか又は裁判において容易に認められ得る事柄であるとの印象を受け,被告の商品の販売行為が不正競争防止法違反の行為であるとの認識,理解に誘導される可能性が高いと認められる。
(3) 以上認定した本件掲載文についての読み手の通常の理解を前提とすると,本件掲載文を何人もアクセス可能な原告のホームページに掲載する行為は,訴訟提起の事実とともに,被告の商品の販売行為が不正競争防止法に違反するという事実を流布するものと認めるのが相当である。
(4) そして,被告各商品の販売行為が,不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当しないことは既に検討し判断したとおりであるから,被告各商品の販売行為が同号の不正競争に該当する趣旨をいう本件掲載文の記載内容は「虚偽の事実」であり,これをホームページに掲載した原告の行為は,原告と競争関係にある被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布する行為といわざるを得ず,同法2条1項15号に該当する不正競争であるということになる。

4 解説

 不正競争防止法2条1項15号は「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為」を不正競争行為とする。
 まず,本判決では,本件掲載文を何人もアクセス可能な原告のホームページに掲載する行為を,同号の「流布」に当たるとした。
 その上で,本判決は,本件掲載文中の,原告の商品の「パッケージのデザインは,エコリカ製品を表示するものとして,周知になっていました」との表現(第3文),原告の商品と被告の商品のパッケージデザインが「極めて似た」(第4文),「酷似」(第6文)であるとした表現,「ユーザーが取り違えて購入するおそれがあることから」,原告が「日々受けている損害」(第6文)があるとした表現について,「本件掲載文の読み手は,周知性,類似性及び損害発生に関する第3文ないし第5文が,原告の主張であることについて文言上何ら留保もなく読み手に明確に認識されるような記載となっていることにより,周知性,類似性及び損害発生が確実であるか又は裁判において容易に認められ得る事柄であるとの印象を受け,被告の商品の販売行為が不正競争防止法違反の行為であるとの認識,理解に誘導される可能性が高い」として,各表現が「意見の表明」であるとする原告の主張を排斥して,不正競争防止法2条1項15号の不正競争に当たるとした。
 この点,訴訟提起に関連して,当事者の一方がその経緯・主張内容等を説明することは,単なる「意見の表明」に過ぎないが,その説明が訴訟における自己の請求の内容や事実上・法律上の主張内容を説明するという限度を超えて,当該相手方を根拠なく誹謗中傷するときは信用棄損行為に当たる。その判断は読み手基準で判断する,というのが一般的な判断枠組みと言える(小野昌延・新注解不正競争防止法第3版(上巻)・青林書院・764~766頁)。
 本判決は,上記第3文ないし第6文の表現について「本件掲載文の読み手」を基準に「周知性,類似性及び損害発生が確実であるか又は裁判において容易に認められ得る事柄であるとの印象を受け,被告の商品の販売行為が不正競争防止法違反の行為であるとの認識,理解に誘導される可能性が高い」と判断している。また,「限度を超え」た行為と言えるかについては,「過失」の判断(損害賠償請求の中の過失の判断)の中ではあるが実質的な判断を行っており,「原告が,本件掲載文によって訴訟提起をした経緯を報告する目的であったのなら,訴訟で審理されることになる事実関係については,その時点では原告の主張ないし意見であることを留保して表現するに留めるべきであって,またそのことは容易であるとともに,訴訟提起の経緯を説明する趣旨目的に反しないものであったはずである」と述べている。この「過失」の判断の中で述べられた事項は,要するに,訴訟の経緯報告を目的とするだけであれば,そこまでの表現を用いなくても出来たのではないかということであり,「被告の商品の販売行為が不正競争防止法違反の行為であるとの認識,理解に誘導される可能性が高い」との判断の基礎に置かれている事情であると考えられる。よって,本判決は,おおむね,上記枠組みに沿った判断がなされたものと評価できる。
 実務上,訴訟提起の事実をプレスリリースすることは少なくないが,その際は,本判決でも述べられている「本件掲載文によって訴訟提起をした経緯を報告する目的であったのなら,訴訟で審理されることになる事実関係については,その時点では原告の主張ないし意見であることを留保して表現するに留めるべき」との点は留意したいところである。

以上
(文責)弁護士・弁理士 髙野芳徳