【平成29年11月29日判決(知財高裁 平成29年(行ケ)第10071号)】

【ポイント】

 ウェブサイトにおける商標の表示が「登録商標の使用」(商標法50条1項)に該当すると判断した事案

【キーワード】

商標の不使用取消

商標法50条1項

第1 事案

 原告は以下の商標権を有していたところ、平成26年4月25日に、被告が特許庁に対して不使用の商標登録取消の審判請求をし、特許庁は不使用を理由として商標登録を取り消すべきと判断した。

   商標    COVERDERM
   登録出願日 平成9年2月5日
   設定登録日 平成10年7月10日
   指定商品  第3類 化粧品

 そこで、原告は、当該審決の取消しを求める取消訴訟を提起した。

 主な争点は、原告がアップしたウェブサイト(以下、「本件ウェブサイト」という。)における上記商標(以下、「本件商標」という。)の表示が「登録商標の使用」(商標法50条1項)に該当するか否かである。

第2 判旨(裁判所の判断)(*下線等は筆者)

1 認定事実

 前記第2の1記載の事実に後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 原告は、平成23年11月23日、冒頭に「Coverderm Product Order Form」と付した本件ウェブサイトにおいて、本件商標及び日本語でこれを仮名書きした「カバーダーム」という名称を表題に付して、「カバーダームは最先端のスキンケア化粧品の専門ブランドです。」、「輝かしい歴史を誇り、さらに成長を続ける製品ラインナップを、長年にわたり80ヶ国以上の国々にお届けしています。」、「顔や体の気になる箇所をカバーしてくれる、理想的なアイテムを多数揃えています!」、「世界中の皮膚科医やメイクアップアーティストにも長年支持されています!」という文章を掲載した。

 そして、原告は、その下に「下記の空欄に必要事項をご記入のうえ、ご注文ください。」という文章を掲載した上、名、姓、住所、製品名、数量、メールアドレス、コメントの記入欄と送信ボタンを設けるなどして、原告の商品をインターネットで注文できるように設定するとともに、その下に「弊社製品に関する詳しい説明はこちらをクリックしてください。」という文章を掲載し、COVERDERMの商品の紹介ページにリンクさせていた。

 なお、本件ウェブサイトの末尾には、「Copyright〈C〉Farmeco S.A. Dermocosmetics-All rights reserved.」と表記され、本件ウェブサイトの著作権者が原告であることが明記されている。(甲14の1)

(2) 原告の代表者は、平成20年10月30日から少なくとも本件口頭弁論終結時まで、本件ウェブサイトに係る「coverderm.jp」という日本のドメイン名を個人名で取得し、これを原告に使用させていた(甲14の2、甲20の1ないし3、甲44の1及び2)。

(3) 本件ウェブサイトは、本件商標が付された原告のCOVERDERMの商品につき、日本における販売促進及び日本の消費者から直接注文を受けることを目的として、平成20年に作成されたものである。また、原告のインターネット経由での売上げは、平成23年が7863.49ユーロ、平成24年が8129.44ユーロ、平成25年が7555.50ユーロ、平成26年上半期が4289.94ユーロであることがそれぞれ認められる(甲15)。

2 商標法50条1項該当性

 上記認定事実によれば、原告は、少なくとも本件要証期間内である平成23年11月23日に、本件ウェブサイトにおいて、日本の需要者に向けて原告の「COVERDERM」の商品に関する広告及び当該商品の注文フォームに本件商標を付して電磁的方法により提供していたことが認められる。

 したがって、原告は、本件商標について、少なくとも本件要証期間内に日本国内で商標法2条3項8号にいう使用をしたものといえるから、同法50条1項に該当するものとは認められず、原告の前記第3の3の取消事由は、理由がある。

3 被告の主張について

 被告は、本件ウェブサイトは日本語で作成されているものの、リンク先とされるCOVERDERMの商品の紹介ページは原告の英語ウェブサイトであり、商品の発送方法や代金の支払等について何ら記載がないのであるから、本件ウェブサイトが日本の需要者を対象とした注文サイトとして機能しているかどうかは疑わしく、仮に、本件ウェブサイトにおける本件商標が広告として機能されることがあるとしても、日本の需要者の目に触れることのない状況において、本件ウェブサイトは形式的にインターネット上にアップされているにすぎず、正当な商標の使用とはいえないなどと主張する。

 しかしながら、前記1の認定事実によれば、本件ウェブサイトは、日本語で本件商標に関するブランドの歴史、実績等を紹介するとともに、注文フォーム及び送信ボタンまで日本語で記載されているのであるから、リンク先の商品の紹介が英語で記載されているという事情を考慮しても、本件ウェブサイトが日本の需要者を対象とした注文サイトであることは明らかである。そうすると、審決が認定するとおり、本件商標を付した商品が日本の需要者に引き渡されたことまで認めるに足りないか否かはさておき、少なくとも、原告は、本件商標について本件要証期間内に日本国内で商標法2条3項8号にいう使用をしたものと認められる。

 また、証拠(甲63の1ないし3)によれば、グーグルで検索する場合において、検索キーワードを「カバーダーム」、「COVERDERM 化粧品」としたとき及び日本語のページを検索するように設定した上で検索キーワードを「COVERDERM」としたときは、本件ウェブサイトのリンク及び本件ウェブサイトの説明が表示されるものと認められるから、本件ウェブサイトは形式的にインターネット上にアップされているとはいえず、被告の主張は、その前提を欠くものである。

 したがって、被告の上記各主張は、いずれも採用することができない。

第3 検討

 本件は、ウェブサイトにおける商標の表示が「登録商標の使用」(商標法50条1項)に該当すると判断した事案である。

 本件において被告は、「本件ウェブサイトが日本の需要者を対象とした注文サイトとして機能しているかどうかは疑わし」いことや、「日本の需要者の目に触れることのない状況において、本件ウェブサイトは形式的にインターネット上にアップされているにすぎ」ない等を理由に、本件ウェブサイトにおける本件商標の使用は、「登録商標の使用」ではない旨を主張した。

 しかし、本判決は、①本件ウェブサイトには本件商標が表題に付されており、本件商標のブラントの歴史等説明がされていること、②本件ウェブサイトには、「下記の空欄に必要事項をご記入のうえ、ご注文ください。」という文章を掲載した上、名、姓、住所、製品名、数量、メールアドレス、コメントの記入欄と送信ボタンを設けるなどして、原告の商品をインターネットで注文できるように設定していたこと、③本件ウェブサイトに係る「coverderm.jp」という日本のドメイン名が使用されていたこと等から、日本国内で商標法2条3項8号にいう使用をしたものといえるから、同法50条1項に該当しないと判断した。

 本判決の当該判断の重要な要素として、本件ウェブサイトに日本のドメイン名が使用されていたこと(上記③)が挙げられている。これは、原告が海外法人であったところ、本件ウェブサイトは、海外法人が日本で商標を使用しているように見せるためにアップしたにすぎず、実態のないサイトではないかという点(被告も同趣旨の主張をしている)に対する反論であると考えられる。つまり、海外法人(本件ではその代表者)がわざわざ日本のドメイン名を取得して、本件ウェブサイトに供しているのだから、実態のないサイトではないということを言わんとするものであると考えられる。したがって、海外法人において、日本のドメイン名を取得しておくことは、「登録商標の使用」の判断において重要な要素の一つとなると考えられる。

 また、本件の審決は、不使用を理由として商標登録を取り消すべき旨を判断したが、その理由の一つに、原告が本件ウェブサイトを通して、日本の需要者に原告製品が引き渡されたことを証する証拠の提出がないことが挙げられた。しかし、本判決では、「審決が認定するとおり、本件商標を付した商品が日本の需要者に引き渡されたことまで認めるに足りないか否かはさておき」と述べられているように、「登録商標の使用」の判断において本件ウェブサイトを通して日本の需要者に原告製品が引き渡されたことは必ずしも必要ではない旨を述べている。本判決では、上記で述べた①②③の理由によって、本件ウェブサイトは実態があり「登録商標の使用」がある旨を判断したため、本件ウェブサイトにおける販売実績までは不要であったと考えられるが、ケースによっては、当該商標が表記されたサイトを通しての販売実績は「登録商標の使用」の立証の重要な要素になりえると考えられる。

 なお、本判決は、本件ウェブサイトにおける商標の使用が、商標法2条3項8号の使用に該当するので、商標法50条1項の「登録商標の使用」があったと判断したが、裁判例において、商標法50条1項の「登録商標の使用」の解釈として、「当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用(商標法2条3項各号)されていれば足り,出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないというべきである」、つまり、商標的使用は要しないと判断したものがある(知財高判平成28年9月14日・平成28年(行ケ)第10086号)。

 以上のように、本判決は、「登録商標の使用」(商標法50条1項)の判断において、考慮すべき事項等において、実務上参考になる。

以上
弁護士 山崎 臨在