【平成29年(行ケ)第10214号(知財高裁H30・6・12)】

【判旨】
 原告が,本件商標につき商標登録無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり,当該訴訟の請求が認容されたものである。

【キーワード】
商標の類否判断,GUZZILLA,GODZILLA,商標法4条1項15号(混同のおそれ)

手続の概要

以下,本件の商標の混同のおそれに関する部分のみを引用する。なお,証拠番号については,適宜省略する。
⑴ 被告は,平成23年11月21日,別紙商標目録記載の商標(以下「本件商標」という。)につき,指定商品を第7類「鉱山機械器具,土木機械器具,荷役機械器具,農業用機械器具,廃棄物圧縮装置,廃棄物破砕装置」(以下「本件指定商品」という。)として,商標登録出願をし,本件商標は,平成24年4月27日,登録された(登録第5490432号)。
⑵ 原告は,平成29年2月22日,本件商標について,商標登録無効審判を請求した。なお,原告は,商標法4条1項15号及び19号に関し,「GODZILLA」との文字から成る商標(以下「引用商標」という。)を引用した。
⑶ 特許庁は,原告の請求を無効2017-890010号事件として審理し,平成29年10月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」とする別紙審決書(写し)記載の審決をし(以下「本件審決」という。),その謄本は,同月26日,原告に送達された。
⑷ 原告は,平成29年11月22日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

【本件商標】

【引用商標】
GODZILLA

争点

争点は,①商標法4条1項15号該当性(混同のおそれ),②同項19号該当性(商標の類否,不正の目的),③同項7号該当性(公序良俗違反)である。
裁判所は,①についてのみ判断をおこなっているため,①のみ取り上げる。

判旨抜粋

1 取消事由1(商標法4条1項15号該当性判断の誤り)について
 (1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。そして,上記の「混同を生じるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。
 (2) 商標の類似性の程度
 ア 外観
 本件商標は,「GUZZILLA」と,8文字の欧文字から成る。本件商標において,「G」と「A」の字体は,やや丸みを帯び,「U」と3文字目の「Z」の上端及び7文字目の「L」と「A」の下端は,それぞれ結合し,3文字目及び4文字目の「Z」は,両文字の左下が前下方に鋭く突尖しているほか,やや縦長の太文字で表されることによって,デザイン化されている。
 引用商標は,「GODZILLA」と,8文字の欧文字から成る。原告が引用した引用商標の文字は,標準文字であって,デザイン化されていないが,実際には,様々な書体で使用されている。
 本件商標と引用商標の外観とを対比すると,いずれも8文字の欧文字からなり,語頭の「G」と語尾の5文字「ZILLA」を共通にする。2文字目において,本件商標は「U」から成るのに対し,引用商標は「O」から成るが,本件商標において「U」と3文字目の「Z」の上端は結合し,やや縦長の太文字で表されているから,見誤るおそれがある。もっとも,本件商標と引用商標は,3文字目において相違するほか,本件商標は前記のとおりデザイン化され,全体的に外観上まとまりよく表されている。
 そうすると,本件商標と引用商標とは,外観において相紛らわしい点を含むものということができる。
 イ 称呼
 本件商標の語頭の2文字「GU」は,ローマ字の表記に従って発音すれば「グ」と称呼され,我が国において,なじみのある「GUM」などの英単語と同様に発音すれば「ガ」と称呼される。したがって,本件商標は,「グジラ」又は「ガジラ」と称呼され,語頭音は「グ」と「ガ」の中間音としても称呼されるものである。
 ・・・引用商標は,後記(3)イのとおり,怪獣映画に登場する怪獣の名称として著名な「ゴジラ」の欧文字表記として広く知られているから,「ゴジラ」と称呼されるものである。また,引用商標の語頭音は,英語の発音において,「ゴ」と「ガ」の中間音としても称呼され,現に大ヒットした映画「シン・ゴジラ」でも,「ゴ」と「ガ」の中間音として称呼されていたものである。そして,我が国において,本件商標の商標登録出願時,引用商標の英語の発音による称呼も一般化していたものであるから,引用商標の語頭音の「ゴ」は,「ゴ」と「ガ」の中間音としても称呼されるものである。
 本件商標と引用商標の称呼を対比すると,語頭音を除く称呼は「ジラ」と共通する。また,語頭音は,本件商標は「グ」と「ガ」の中間音として称呼され得るものであって,引用商標は「ゴ」と「ガ」の中間音として称呼され得るものであるところ,本件商標における「グ」と「ガ」の中間音と,引用商標における「ゴ」と「ガ」の中間音とは,いずれも子音を共通にし,母音も近似する。
 したがって,本件商標と引用商標とは,称呼において相紛らわしいものというべきである。
 ウ 観念
 本件商標からは特定の観念が生じず,引用商標からは怪獣映画に登場する怪獣「ゴジラ」との観念が生じる。
 エ 本件商標と引用商標の類似性
 以上のとおり,本件商標と引用商標とは,称呼において相紛らわしいものであって,外観においても相紛らわしい点を含むものということができる。
 (3) 引用商標の周知著名性及び独創性の程度
 ア 怪獣映画に登場する怪獣である「ゴジラ」は,原告によって創作されたものであり(甲4),「ゴジラ」が著名であることは当事者間に争いがない。
 イ 怪獣映画に登場する怪獣である「ゴジラ」には,昭和30年,欧文字表記として引用商標が当てられ,その後,引用商標が「ゴジラ」を示すものとして使用されるようになったものである。欧文字表記の引用商標は,我が国において,遅くとも昭和32年以降,映画の広告や当該映画中に頻繁に使用され,遅くとも昭和58年以降,怪獣である「ゴジラ」を紹介する書籍や,これを基にした物品に多数使用されていること,さらに,怪獣である「ゴジラ」の英語表記として多くの辞書にも掲載されていることからすれば,引用商標は著名であるということができる
 ウ 語頭が「G」で始まり,語尾が「ZILLA」で終わる登録商標は,引用商標の他には,本件商標を除き見当たらない。架空の怪獣の名称において,語頭が濁音で始まり,語尾が「ラ」で終わる3文字のものが多いとしても,これらは怪獣「ゴジラ」が著名であることの影響によるものと認められ,さらに,欧文字表記において,引用商標と類似するものも見当たらない
 エ 以上によれば,引用商標は周知著名であって,その独創性の程度も高いというべきである。
 (4) 商品の関連性の程度,取引者及び需要者の共通性
 ア 商品の関連性の程度
 本件指定商品は,第7類「鉱山機械器具,土木機械器具,荷役機械器具,農業用機械器具,廃棄物圧縮装置,廃棄物破砕装置」である。本件指定商品には,専門的・職業的な分野において使用される機械器具が含まれる。また,これに加えて,本件指定商品のうち,「荷役機械器具」には,油圧式ジャッキ,電動ジャッキ,チェーンブロック,ウインチが,「農業用機械器具」には,刈払機,電動式高枝ハサミ,ヘッジトリマ,草刈機が,含まれる
 これに対し,原告の主な業務は,映画の制作・配給,演劇の制作・興行,不動産経営等のほか,キャラクター商品等の企画・制作・販売・賃貸,著作権・商品化権・商標権その他の知的財産権の取得・使用・利用許諾その他の管理であり,多角化している。原告は,百社近くの企業に対し,引用商標の使用を許諾しているところ,その対象商品は,人形やぬいぐるみなどの玩具,文房具,衣料品,食料品,雑貨等であるなど,多岐にわたる
 (中略)
 一方,本件指定商品に含まれる油圧式ジャッキ,電動ジャッキ,チェーンブロック,ウインチ,刈払機,電動式高枝ハサミ,ヘッジトリマ,草刈機等の商品は,ホームセンター等の店舗やオンラインショッピング,テレビショッピングにおいて,一般消費者に比較的安価で販売され得るものである。そうすると,これらの商品は,日常生活で,一般消費者によって使用される物であって,同種製品との差別化が難しいものということができる。・・・本件指定商品に含まれる油圧式ジャッキ,電動ジャッキ,チェーンブロック,ウインチ,刈払機,電動式高枝ハサミ,ヘッジトリマ,草刈機等と,原告が引用商標の使用を許諾した玩具,雑貨等とは,ホームセンター等の店舗やオンラインショッピング,テレビショッピングにおいて,一般消費者に比較的安価で販売され得るものであり,日常生活で,一般消費者によって使用されるなど,性質,用途又は目的において一定の関連性を有しているといわざるを得ない
 よって,本件指定商品に含まれる商品の中には,原告の業務に係る商品と比較した場合,性質,用途又は目的において一定の関連性を有するものが含まれているというべきである。
 イ 取引者及び需要者の共通性
 本件指定商品に含まれる前記油圧式ジャッキ等の,比較的小型で,操作方法も比較的単純な荷役機械器具及び農業用機械器具の需要者は一般消費者であり,その取引者は,これらの器具の製造販売や小売り等を行う者である。また,原告が引用商標の使用を許諾した玩具,雑貨等の需要者は一般消費者であり,その取引者は,これらの商品の製造販売や小売り等を行う者である。本件指定商品の取引者及び需要者の中には,原告の業務に係る商品の取引者及び需要者と共通する者が含まれる。
 そして,商品の性質,用途又は目的からすれば,これら共通する取引者及び需要者は,商品の性能や品質のみを重視するということはできず,商品に付された商標に表れる業務上の信用をも考慮して取引を行うというべきである。
 (5) 出所混同のおそれ
 以上のとおり,「混同を生じるおそれ」の有無を判断するに当たっての各事情について,取引の実情などに照らして考慮すれば,本件指定商品に含まれる専門的・職業的な分野において使用される機械器具と,原告の業務にかかる商品との関連性の程度は高くない。
 しかし,本件商標と引用商標とは,称呼において相紛らわしいものであって,外観においても相紛らわしい点を含む。また,引用商標は周知著名であって,その独創性の程度も高い。さらに,原告の業務は多角化しており,本件指定商品に含まれる商品の中には,原告の業務に係る商品と比較した場合,性質,用途又は目的において一定の関連性を有するものが含まれる。加えて,これらの商品の取引者及び需要者と,原告の業務に係る商品の取引者及び需要者とは共通し,これらの取引者及び需要者は,取引の際に,商品の性能や品質のみではなく,商品に付された商標に表れる業務上の信用をも考慮して取引を行うものということができる
 そうすると,本件指定商品に含まれる商品の中には,本件商標を使用したときに,当該商品が原告又は原告との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるものが含まれるといわざるを得ない。
 (中略)
(7) 小括
以上によれば,本件商標は商標法4条1項15号に該当する。取消事由1は理由がある。

解説

 本件は,商標登録無効審判請求 を不成立とした審決に対する取消訴訟である。
 商標法第4条第1項第15号 等が問題となった事案である。
 裁判所は,商標法第4条第1項第15号該当性を認め,本件審決を取り消した。
 裁判所は,本件商標と引用商標とについて,「称呼において相紛らわしいものであって,外観においても相紛らわしい点を含む。また,引用商標は周知著名であって,その独創性の程度も高い。さらに,原告の業務は多角化しており,本件指定商品に含まれる商品の中には,原告の業務に係る商品と比較した場合,性質,用途又は目的において一定の関連性を有するものが含まれる。加えて,これらの商品の取引者及び需要者と,原告の業務に係る商品の取引者及び需要者とは共通し,これらの取引者及び需要者は,取引の際に,商品の性能や品質のみではなく,商品に付された商標に表れる業務上の信用をも考慮して取引を行うものということができる」と判断し,広義の混同が生じうるとした。
 被告は,これに対して,「本件商標は引用商標にただ乗りするものではないし,本件商標を使用しても引用商標の希釈化は生じない」と主張したが,裁判所は,被告が本件商標以外にも,「本件商標の商標登録日以降ではあるものの,我が国における周知著名な商標と相紛らわしい『ガリガリ君』や『STUDIO GABULLI』との文字から成る商標につき商標登録出願もしている」と認定し,「引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗りやその希釈化を招く結果を生じかねなかったことを間接的に裏付けるものといえる」と判断して,原告の主張を排斥した。
 本件は,事例判断ではあるが,特許庁と裁判所との判断が分かれた事案であり,実務上参考になると思われる。


(商標登録の無効の審判)
¹第四十六条  商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは,その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において,商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては,指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。
一  その商標登録が第三条,第四条第一項,第七条の二第一項,第八条第一項,第二項若しくは第五項,第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。),第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条 の規定に違反してされたとき。
(下線は,筆者が付した。)
²(商標登録を受けることができない商標)
第四条  次に掲げる商標については,前条の規定にかかわらず,商標登録を受けることができない。
十五  他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)

以上
(文責)弁護士 宅間仁志