【平成29年2月22日(知財高裁平28(ネ)10082号)
原審:平成28年6月30日(東京地裁平27(ワ)12480号)】

【判旨】
特許法102条2項に基づき損害額と推定される利益に消費税が含まれるとした事例

【キーワード】
特許法102条2項,消費税

事案の概要

 発明の名称を「生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置」とする発明についての特許権を有する原告が,被告ら4名に対し,生海苔異物除去機(本件装置)等の譲渡,貸渡し等が原告の特許権を侵害するなどと主張し,これらの行為の各差止め,本件装置等の廃棄,損害賠償等を求めた。原審では,被告2名の行為に対する本件特許権侵害を認めて差止め及び廃棄並びに損害賠償を認め,原告の請求を一部認容した。本件は,原審の敗訴部分に不服のある原告が控訴し(併せて,請求の拡張等し),かつ,原審の敗訴部分に不服ある被告が控訴した事案である。

争点

 特許法102条2項に基づき損害額と推定される「利益」に消費税が含まれるか。
 ※本件は,侵害論(無効論),被告ら4名についての共同不法行為の成否,損害論(消滅時効)等も争点になっているが,本稿では上記争点に絞って解説する。

判旨抜粋

第3  当裁判所の判断(下線は筆者が付した。)
1~6  略
(※1審被告西部機販,1審被告ワンマンによる本件装置2,3の販売行為が本件特許権侵害に該当するとされた。)
7  争点5(損害額又は不当利得額(消滅時効の成否を含む。))について
(1) 略
(2) 1審被告西部機販による本件装置2及び本件各部品の販売について
 ア 1審被告西部機販による本件装置2及び本件各部品の販売に係る利益額以下の事実については,当事者間に争いがない。
 (ア) 1審被告西部機販は,本件装置2を合計3425万7000円(税抜)で仕入れ,これを合計3890万円(税抜)で販売した。したがって,本件装置2の売上から仕入代金を控除した額は,464万3000円(税抜)となる。
 (イ) 1審被告西部機販は,本件各部品を合計58万1800円(本件固定リングにつき55万円,本件板状部材につき3万1800円。各税抜)で仕入れ,これを合計70万4600円(本件固定リングにつき66万円,本件板状部材につき4万4600円。各税抜)で販売した。したがって,本件各部品の売上から仕入代金を控除した額は,合計12万2800円(税抜)となる。
 イ 以上より,本件装置2及び本件各部品の販売によって1審被告西部機販が得た利益(税込。なお,消費税率については(1)イと同じく5%とする。)は500万4090円(=(464万3000円+12万2800円)×1.05)と認められる。
  そうすると,上記利益の額が,本件装置2及び本件各部品の販売という本件特許権侵害の不法行為によって1審原告が受けた損害の額と推定されるところ(法102条2項),これを覆すに足りる具体的事情の存在はうかがわれない。
  したがって,1審原告は,1審被告西部機販の本件装置2及び本件各部品の販売により500万4090円の損害を受けたものと認められる。
  また,上記不法行為と因果関係のある弁護士費用相当額の損害としては,50万円を認めるのが相当である。
(3) 1審被告ワンマンによる本件装置3の販売について
 ア 1審被告ワンマンによる本件装置3の販売に係る利益額
   1審被告ワンマンが,本件装置3を合計1989万円(税抜)で仕入れ,これを合計2458万5000円(税抜)で販売したことは,当事者間に争いがない。
  したがって,本件装置1の売上から仕入代金を控除した額は,469万5000円(税抜)となる。
 イ 以上より,本件装置3の販売によって1審被告ワンマンが得た利益(税込。ただし,消費税率は8%)は507万0600円(=469万5000円×1.08)と認められる。
  そうすると,上記利益の額が,本件装置3の販売という本件特許権侵害の不法行為によって1審原告が受けた損害の額と推定されるところ(法102条2項),これを覆すに足りる具体的事情の存在はうかがわれない。
  したがって,1審原告は,1審被告ワンマンの本件装置3の販売により507万0600円の損害を受けたものと認められる。
  また,上記不法行為と因果関係のある弁護士費用相当額の損害としては,50万円を認めるのが相当である。
(4) 1審被告西部機販による本件装置3の販売について
 ア 1審被告西部機販による本件装置3の販売に係る利益額
 (ア) 1審被告西部機販による本件装置3の1審被告ワンマンからの仕入金額が,合計2458万5000円(1台当たり409万7500円。税抜)であることは,当事者間に争いがない。
 (イ) 略
 (ウ) これを前提とすると,1審被告西部機販は,本件装置3を合計2485万5000円(税抜)で仕入れ,これを合計2544万円(税抜)で販売したことが認められる。したがって,本件装置3の売上から仕入代金を控除した額は,58万5000円(税抜)となる。
 イ 以上より,本件装置3の販売によって1審被告西部機販が得た利益(税込。ただし,消費税率は8%とする。)は63万1800円(=58万5000円×1.08)と認められる。
 そうすると,上記利益の額が,本件装置3及び本件各部品の販売という本件特許権侵害の不法行為によって1審原告が受けた損害の額と推定されるところ(法102条2項),これを覆すに足りる具体的事情の存在はうかがわれない。
 したがって,1審原告は,1審被告西部機販の本件装置3の販売により63万1800円の損害を受けたものと認められる。
 また,上記不法行為と因果関係のある弁護士費用相当額の損害としては,6万円を認めるのが相当である。
(5),(6) 略
(7) 1審被告ワンマン及び同西部機販は,法102条2項に基づき損害額と推定される「利益」につき消費税は含まれない旨主張する。
 しかし,消費税は,国内において事業者が行った資産の譲渡等に課されるものであるところ(消費税法4条1項),「例えば,次に掲げる損害賠償金のように,その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当することに留意する。…(2) 無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金」(消費税法基本通達5-2-5)とされていることに鑑みると,特許権を侵害された者が特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金を侵害者から受領した場合,その損害賠償金も消費税の課税対象となるものと推察される。そうすると,特許権者が特許権侵害による損害のてん補を受けるためには,課税されるであろう消費税額相当分についても損害として受領し得る必要があるというべきである。すなわち,「利益」には消費税額相当分も含まれ得ると解される。

 したがって,この点に関する1審被告ワンマン及び同西部機販の主張は採用し得ない。

解説

 本件で裁判所は,特許法102条2項に基づき損害額と推定される利益に,消費税相当分を含めることを認めた。
 要するに,特許法102条2項に基づく請求として,
 「特許法102条2項に基づく利益(被告の売上(税抜)×利益率)×消費税相当額」
の請求を認めた。
 その理由について,本件では,「『無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金』を消費税の課税対象とする旨の消費税法基本通達5-2-5の存在を理由に,特許権を侵害された者が特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金を侵害者から受領した場合,その損害賠償金も消費税の課税対象となるものと推察される」とし,特許権者が特許権侵害による損害のてん補を受けるためには,課税されるであろう消費税額相当分についても損害として受領し得る必要がある,とした。
 確かに,訴訟において獲得した損害賠償金に消費税が課税されるのであれば,それにもかかわらず,特許法102条2項に基づく利益に対して「消費税相当額」を含めなければ,当該消費税相当額だけ権利者に皺寄せが来てしまい,特許権侵害による損害のてん補としては十分と言い難いと考えられる。判示は正当と考える。
 本件以前にも(あまり明確に理由を述べることなく)「消費税相当額」を損害額に含める判決が散見される(平成25年9月26日(東京地裁平19(ワ)2525号 ・ 平19(ワ)6312号),平成24年5月23日(東京地裁平22(ワ)26341号))が,本件は,理由とともに「消費税相当額」を損害額に含めることを明示的に認めたものと言える。
 なお,消費税法は,消費税が国内において事業者が行った資産の譲渡等に課されるものとし(同法4条1項),この「資産の譲渡等」について,事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)と定義している(同法2条1項8号)。その上で,消費税法基本通達5-2-5により,「その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるもの」として,無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金を含めている。特許法102条2項の枠組みであれば,特許法102条2項の利益は,侵害者の利益をもって,権利者(が自己の製品を販売することにより得られたはず)の利益と推定するものであるから,実質が「資産の譲渡等」であるとすることには違和感はない。
 今後の実務においては,原則的には,消費税相当額を含めた形で損害額を請求するのが望ましいと思われる。

以上
(文責)弁護士 髙野芳徳