【平成29年1月31日判決(平成28年(ワ)第37954号)】

【ポイント】
出願時に将来製品を十分にカバーした特許明細書が作成されなかったために、特許侵害訴訟で敗訴となってしまった事例

【キーワード】
特許法70条1項、特許法70条2項、製品のバリエーション、将来製品のカバー

1 事案

 本件は、発明の名称を「デジタル格納部を備えた電子番組ガイド」とする特許権を有する原告が、液晶テレビの販売等をする脱退被告の地位を承継した参加人に対し、これらの行為が上記特許権を侵害する旨主張して、同液晶テレビ製品の製造等の差止等を求めるとともに、損害賠償請求として6億5880万円等の支払を求めた事案である。

 本件では、原告の特許権の特許請求の範囲には、「・・・該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納デバイス(31)」と規定されていたが、被告製品のテレビは、内臓の記憶装置を有しておらず、外付けのハードディスク等の記憶装置を接続して使用する態様であった。

2 東京地裁の判断

 東京地裁は、上記「デジタル格納デバイス」の文言を被告製品が充足するかの判断について、以下のとおり判示して、非侵害と判断し、原告の請求を棄却した。
「・・・本件発明は,デジタル格納部を含むユーザテレビ機器を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに係る発明であるから,被告物件(液晶テレビ製品)が本件発明の技術的範囲に属するというためには,被告物件が「番組をデジタル的に格納可能な部分」を含むことが必要であるところ,被告物件は,それ自体にテレビ番組をデジタル録画可能なメモリー部分を有していないから,この点において,構成要件Cを充足しないというべきである。」 

3 検討

 特許権は、出願→審査→査定の過程を経て権利が発生するところ、特許権発生後は、原則、権利内容を修正することはできない1。したがって、出願時に、ビジネス類型、製品態様、仕様変更、及び新サービスを想定して特許出願書類を記載する必要がある。
 本件では、裁判所は、原告の特許権は「デジタル格納デバイス」(ハードディスク等)がテレビに内蔵される形でのみ権利が付与されていたので、外付け型のハードディスクタイプのテレビには権利行使できないと判断した。
 せっかく創出したアイディアを適切な権利に仕立てるためには、特許出願時に、発明の精選という作業を経ると、発明がブラッシュアップされ、権利範囲が限定されることが少なくなる。すなわち、その出願に必須の本質的構成は何か?という点に着目すれば、出願に必須の本質的構成以外の構成は、特許請求の範囲において不要な記載ということが炙り出される。たとえば、本件は、テレビ番組表を用いた特定の機能が出願に必須の本質的構成であるとした場合、記憶手段は、内臓でも外付けでも、どちらでもよいわけで、「デジタル格納部を含むユーザテレビ機器」という構成は特許請求の範囲において不要な構成ということがわかったはずである。
 本件は、特許出願時の、将来製品等を想定した上での発明の精選作業の重要性について、大いに示唆を与えてくれる案件である。

以上
(文責)弁護士・弁理士 高橋正憲


1 一部訂正審判等のより、権利内容の修正をする手段は例外的に存在する。