【令和7年10月27日(大阪地裁 令和6年(ワ)第4369号) 不正競争行為差止等請求事件】

【キーワード】

不正競争防止法5条2項、損害賠償請求、推定覆滅

 

【事案の概要】

 原告は、化粧品や医薬部外品の企画・製造・販売等を行うとともに美容関連商品の企画・販売等を行う会社である。
 被告は、美容及び保健機器等の企画・開発・製造・販売や輸出入等を行う会社である。
 原告は、平成30年5月頃から以下の商品(以下「原告商品」という。)について製造・販売等を行っている。なお、原告は、原告商品に関連してその立体的形状に関する登録商標も有している(商標登録第6798042号。以下、当該登録商標にかかる商標権を「原告商標権」という。)。

<原告商品>

 被告は、少なくとも令和5年8月頃から令和6年4月頃までの間、以下の商品(以下「被告商品」という。)を製造し、販売し又は被告のウェブサイトで販売のために展示していた

<被告商品>

 原告は、被告商品の販売等の行為は、原告の周知な商品等表示である原告商品の形態と同一又は類似する形態を備えた商品を製造し、販売し、販売のために展示するものであり、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号に該当するものであるとして、同法3条1項に基づく差止及び同法4条に基づく損害賠償を請求する本件訴訟を提起した。
 なお、原告は、被告商品の販売等の行為は原告商標権を侵害する行為であり、商標法36条1項に基づく差止請求についても主張したが、本稿では省略する。

原告商品及び被告商品の形態は、次の表に記載のとおりである(下線部が相違点)。

 

【争点】

・不競法5条2項に基づく損害額
※ 他の争点は省略する。

 

【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)

第1~3(省略)
第4 当裁判所の判断
1~5(省略)
6 争点7(原告の損害)について
(1) 不競法5条2項に基づく請求について
ア 令和5年8月から令和6年4月末までの間、被告が、被告商品を1個当たり1925円で4062個販売したこと及び値引き後の販売価額が591万0886円であったことには当事者間に争いがない。また、証拠(乙23、29ないし38)によれば、被告が広告費として348万1344円、手数料として57万7370円、販促費8万0231円、送料204万1380円の費用を支出したことが認められる。
 以下、限界利益を算定するにあたって控除すべき経費のうち、争いがあるものについて検討する。
イ 広告費について
 被告は、被告商品を販売していたECサイトとの契約に基づき、広告費が、限界利益を算出するにあたり控除すべき費用であると主張する。
 しかし、一般に、広告費は、これを支払ったからといって当然に売上に結び付くものではなく、売上と直接の関連を有するものとはいえない上、ECサイト毎に、その仕組みを考慮した上で個別具体的にみても、その費用と個々の売り上げとの関連性を見いだし難く、いずれもこれを被告商品の製造販売に直接関連して追加的に必要になったものとは認めることができない。
ウ 手数料について
 ECサイトにおいて出品したり、自社サイトにおいてクレジットカード決済サービスを利用したりするために、売上に連動する所定の手数料は、被告商品の製造販売に直接関連して追加的に必要になったものと認められるから、限界利益を求めるに際し、これを全額控除することが相当である。
エ 送料について
 被告は、被告商品を顧客に郵送するために、商品1個当たり約502円の送料を要したと主張する。被告商品の形状等からみて、商品1個当たり500円程度の送料は、格別不合理なものとは認められず、また、送料は、商品が販売できればその都度必要となるものであるから、被告商品の製造販売に直接関連して追加的に必要になるものと認められる。
 よって、送料204万1380円は、限界利益を求めるに際し、これを控除することが相当である。
オ 小括
 以上の結果を踏まえると、別紙9「損害額計算書」の「裁判所の認定」欄記載のとおり、原告には、321万1905円の損害が発生したものと推定される(不競法5条2項)。

(2) (省略)

(3) 推定覆滅事由について
ア 原告商品の形状について
 被告は、原告商品の形態には顧客誘引力がなく、この点が推定覆滅事由に該当すると主張する。しかし、上記3のとおり、原告商品の形態には特別顕著性が認められ、これによって原告商品の出所を明らかにしているのであるから、被告の主張は前提を欠く。
イ 競合品の存在
 被告は、原告商品と競合する商品が多数存在している点を推定覆滅事由として主張する。しかし、上記4のとおり、原告は原告商品の類似品が出品されたときには直ちにこれを排除するために行動している。そして、上記3のとおり原告商品の形態には特別顕著性が認められることも踏まえると、推定が覆滅されるような具体的な競合品が存在するものとは認められない。
ウ 被告の営業努力
 被告は、自己の営業努力を指摘し、この点が推定覆滅事由に該当すると主張する。しかし、自己の商品を販売するために営業努力を行うことは通常の業務の一環であるというべきである。また、上記4のとおり、原告も原告商品を販売するために種々のメディアでの露出を行っているところ、被告が主張する被告の営業努力が、かかる原告の営業努力に比して特に顕著なものであるとはいえない。
 そうすると、被告の営業努力を以て推定が覆滅されるとの被告の主張は採用できない。
エ まとめ
 以上の通り、被告が主張する推定覆滅事由はいずれも採用できない。なお、推定覆滅事由が認められない結果、当該部分について不競法5条3項を重畳適用すべきとの原告の主張は、判断を要さない。

(4) (省略)

(5) 結論
 以上を踏まえ、相当な弁護士・弁理士費用を認めた結果、原告には、別紙9「損害額計算書」のとおり、353万3095円の損害が発生したものと認められる。
(以下、省略)

 

【検討】

 不正競争行為により被侵害者が被る損害は、通常、立証が困難である。そのため、不競法では、損害の立証責任を軽減するための規定が設けられており、不競法5条2項では、「その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、その営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定する」と定めている。これにより、被侵害者は、侵害者が不正競争行為により得られた利益を立証することで損害額を立証したこととなる。
 としても、侵害者は、不正競争行為だけでなく、独自の営業努力等により商品の売り上げに貢献している場合もある。この場合、独自の営業努力等の事情は、推定された損害を覆滅する事由(推定覆滅事由)として作用するものであり、侵害者はこれらの事情を主張立証することで、損害額を減額することができる。
 本件において、被告は、推定覆滅事由として、原告商品の形態に顧客吸引力がないこと、競合品の存在、被告の営業努力を主張した。これらの事由は、いずれも、実務において推定覆滅事由としてよく主張されるものである。しかし、本件では、被告の推定覆滅事由はいずれも認められず、被告が得た利益がそのまま損害として認定された。
 推定の覆滅が一切認められないとの判断は酷なようにもみえるが、本件はデッドコピーに近い事案であることを踏まえた判断であるように思われる。

弁護士 市橋景子