【令和3年10月25日判決(知財高裁 平成31年(ワ)第3273号)】

【事案の概要】
 本件は,控訴人が,控訴人の製造販売する製品(原告製品)は被控訴人の有する特許第4085311号の特許権(本件特許権)に係る請求項1の特許発明(本件発明)の技術的範囲に属しないとして,被控訴人に対し,被控訴人が控訴人に対し本件特許権に基づく原告製品の生産等の差止請求権(特許法100条1項)を有しないことの確認を求める事案である。

【キーワード】
 特許法第70条,「からなる」,特許請求の範囲の記載,明細書,出願の経過

【本件発明】

A コンピューターを備え,対応する語句が存在する原画の形態を該語句と結びつけて憶えるための学習用具であり,

B 前記コンピューターが,

B1 前記原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画,から成る組画の画像データが,複数個記録された組画記録媒体と,

B2 前記組画記録媒体に記録された複数個の組画の画像データから,一の組画の画像データを選択する画像選択手段と,

B3 前記選択された組画の画像データにより,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に表示する画像表示手段と,

B4 前記関連画及び原画に対応する語句の音声データが記録された音声記録媒体と,

B5 前記音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択する音声選択手段と,

B6 前記選択された語句の音声データを再生する音声再生手段と,を含み,

C 前記画像表示手段が,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画を,対応する語句の再生と同期して表示する

D 学習用具。

【争点】

 争点は,構成要件充足性,均等侵害の成否,間接侵害の成否などがあるが,本稿においては,構成要件B1の解釈についてのみ紹介する。

 具体的には,本件発明は,「原画」,「第一の関連画」及び「第二の関連画」の各1画(合計3画)から成る「組画」のみを記録,表示する構成に限定されるか,それ以外の画像等を更に付加する構成を排除しない趣旨であるかの問題となり,後者の解釈を採る場合には,原告製品は,構成要件B1を充足することになる。

1.裁判所の判断(以下,下線部等の強調は筆者による。)

⑴ 争点1(原告製品が充足する本件発明の構成要件)について

ア 控訴人は,前記第2の3⑴のとおり,本件明細書には,2つの関連画の実施例が記載されているのみであり,また,請求項には全体がそれによって構成されることを意味する「~から成る」という文言が用いられているし,原告製品における都道府県位置画は,漫画から段階的に原画に近づけて原画の輪郭と語句を記憶させる機能はなく,当該地方における都道府県の位置を合わせて記憶するという本件特許とは別の設計思想に基づいて組み込まれた画であること等から,都道府県位置画は,構成要件B1における関連画(第一の関連画,第二の関連画)の概念には当てはまらず,構成要件B1は充足しない旨主張する。

イ しかし,構成要件B1に用いられている「から成る」の文言が,当然に「第一の関連画」及び「第二の関連画」以外の付加画を更に付加する構成を排除すると解するのは相当でない。

引用に係る原判決の第4の1⑶における説示のとおり,特許請求の範囲及び本件明細書において,本件発明における「組画」を構成する画が原画1画と関連画2画のみに限定されることを前提とした記載は見当たらない。ある記憶対象に関する漫画,抽象画及び原画から成る組画は,原画及び原画に関連する関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の関連画から構成されるとされ(【0035】,【0036】),組画を構成する関連画の数は,必ずしも2つに限定されておらず,かえって,漫画,抽象画及び原画のほか,原画に関連するキーワードの文字からなる文字画を加えることも想定されており(【0039】),都道府県位置画は,原画に関連する関連事項又は関連像を表現するものということができる。このような本件発明の趣旨に照らせば,本件発明が「第一の関連画」及び「第二の関連画」以外の付加画を更に付加する構成を排除するものとは認められず,都道府県位置画のような関連画を付加することも,その構成に含むものと解するのが相当である。

また,原告製品における都道府県位置画は,原告製品に,漫画から段階的に原画に近づけて原画の輪郭と語句を記憶させる機能を備えた上で,当該地方における都道府県の位置を合わせて記憶するという追加機能を備えさせるものであるから,都道府県形状画についての追加情報を学習者に提供するための付加的な画ということができ,原告製品が本件発明と別個の設計思想に基づくものということもできない。

ウ よって,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の構成要件B1を充足するものというべきである。

2.検討

 構成要件B1は「前記原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画,から成る組画の画像データが,複数個記録された組画記録媒体と」というものである。

 本判決は,「から成る」の文言に関して,「当然に『第一の関連画』及び『第二の関連画』以外の付加画を更に付加する構成を排除すると解するのは相当でない。」と判断する。そして,特許請求の範囲及び明細書の記載を確認し,「このような本件発明の趣旨に照らせば」として,「本件発明が『第一の関連画』及び『第二の関連画』以外の付加画を更に付加する構成を排除するものとは認められず,都道府県位置画のような関連画を付加することも,その構成に含むものと解するのが相当である。」と判断した。本判決の判断は,原審(大阪地判令和3年3月25日(平成31年(ワ)第3273号))と概ね同じであるが,特許請求の範囲の記載及び明細書の記載からすれば,いずれの判断も妥当だと考える。

 ところで,「から成る」との用語は,控訴人が主張するように,「請求項には全体がそれによって構成されることを意味する『~から成る』という文言が用いられている」と解される余地もあるため,それ以外の画像等を更に付加する構成を排除しないのであれば,特許請求の範囲の記載として,「から成る組画」といった表現とせず,「を含む組画」といった表現にすればよかったと考える。不要な争点を生じさせないためにも,「を含む組画」といった表現にすべきであったと考える。

 本判決は,特許請求の範囲の解釈及び特許請求の範囲の記載の表現として参考になる事例であるため,紹介した。

 なお,原審に関しては,以下を参照されたい。

≪「から成る」についての解釈を示した事例≫ | 知財弁護士.COM|知的財産紛争・企業法務のご相談なら弁護士法人内田・鮫島法律事務所 (ip-bengoshi.com)

以上
(文責)弁護士・弁理士 梶井 啓順