【令和元年(行ケ)第10125号(知財高判R2・2・12)】

【キーワード】
石油ストーブ,商標法3条1項3号,商標法3条2項

【判旨】
 本願商標に係る特許庁の不服2018-7479号事件について商標法3条1項3号及び同条2項の判断は正当であるとして,請求を棄却した事案である。

【事案の概要】

(1) 原告は,平成28年1月29日に,下記の位置商標について,商標登録出願(商願2016-9831号)をした(以下,同出願を「本願」という。)ところ,平成30年2月27日付けで拒絶査定を受けた(甲28)ので,同年6月1日に,不服審判請求をした(。不服2018-7479号)。
原告は,平成30年7月17日付けの手続補正書により,本願の指定商品については,第11類「対流形石油ストーブ」と,「商標の詳細な説明」については,「商標登録を受けようとする商標(以下『商標』という。)は,商標を付する位置が特定された位置商標であり,石油ストーブの燃焼部が燃焼する時に,透明な燃焼筒内部の中心領域に上下方向に間隔をあけて浮いた状態で,反射によって現れる3つの略輪状の炎の立体的形状からなる。図に示す黒色で示された3つの略輪状の部分が,反射によって現れた炎の立体的形状を示しており,赤色で示された部分は石油ストーブの燃焼部が燃焼していることを示している。なお,青色及び赤色で示した部分は,石油ストーブの形状等の一例を示したものであり,商標を構成する要素ではない。」とそれぞれ補正した(以下,同補正後の指定商品を「本件指定商品」といい,同補正後の商標を「本願商標」という。)
(2) 特許庁は,前記(1)の不服審判請求について,令和元年8月20日に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,この審決の謄本は,同月30日に原告に送達された。

【本願商標】

(指定商品に関しては,事案の概要参照。)

【争点】

本願商標が,商標法3条1項3号,同条2項に該当するか否か。

【判旨抜粋】

下線は筆者が付した。証拠番号等は,適宜省略する。
1 取消事由1について
(1) 商標法3条1項3号は,その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状(包装の形状を含む。・・・),生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,態様,提供の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は,商標登録を受けることができない旨を規定しているが,これは,同号掲記の標章は,商品の産地,販売地その他の特性を表示,記述する標章であって,取引に際し必要な表示として誰もがその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないことから,登録を許さないとしたものである。
同号掲記の標章のうち商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえるのであり,需要者としても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。また,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないといえる。
 したがって,商品等の形状は,同種の商品が,その機能又は美感上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するのが相当である。
(2) 本願商標は,前記第2の2(1)に記載の商標であり,「三つの略輪状の炎の立体的形状」(本願形状)を付する位置が特定された位置商標である。
 そして,本願形状を採用することにより,対流形石油ストーブの燃焼筒内の輪状の炎が四つあるように見え,これにより対流形石油ストーブの美感が向上するから,本願形状は,美感を向上するために採用された形状であると認められる。また,原告特許は,特許請求の範囲を「1 燃焼室や赤熱体を囲繞する様に位置せしめ,かつ燃焼室の外殻を構成する燃焼筒をリング状の表面凸凹部を形成するとともに耐熱性の透明もしくは半透明物質で造製し,この燃焼筒の表面にTi,Zr,Fe等の金属もしくは金属化合物被膜を付着きせてなる暖房器。2 燃焼炎や赤熱体から発する光が,金属被膜による干渉と屈折特性により多重かつ虹状に見ることが出来る特許請求範囲第1項記載の暖房器。」とするものであって,「また燃焼筒をリング状の表面凸凹部を形成せしめたから,前記発熱・発熱部が多段に見えるのを,凸凹部がレンズ状に拡大して観者に対して大きな炎の輪を多段に確実に詔めさせる効果がある。この様にこの発明は透明もしくは半透明燃焼筒に金属被膜もしくは金属化合物被膜を形成する簡単な構造によって暖房に最も適する波長の熱線を良好に透過せしめると共に,該被膜によって燃焼炎より発生する光を干渉させて各色に色付いた沢山の燃焼炎や赤熱体の像を形成して燃焼炎や赤熱体から発生する熱線が多方向から届く様になり,見せると共にリング状の凹凸部によるレンズ効果により,暖房効果を高めるものであり,更に各色に色付いた沢山の燃焼炎や赤熱体の像は非常に美しく,視覚的な暖房効果を高め,光の交差による優れたデザイン効果を生むものである。」(4段落の8行~24行)との効果を生じさせるものであり,特許公報には別紙図面が第1図として付けられているから,本願形状は,暖房効果を高めるという機能を有するものと認められる
 そうすると,本願形状は,その機能又は美感上の理由から採用すると予測される範囲を超えているものということはできず,本願形状からなる位置商標である本願商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標であると認められる。
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するというべきである。
(中略)
2 取消事由2について
(1) 前記1のとおり,本願形状は,その機能又は美感上の理由から採用すると予想される範囲を超えるものではないから,本願商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標というべきであるが,このような商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合は,商標法3条2項により,商標登録を受けることができる。
そして,本願商標のように立体的形状からなる位置商標が使用により自他商品識別力を獲得したといえるかどうかは,当該商標の形状,その使用期間及び使用地域,当該商標が付された商品の販売数量やその広告の期間及び規模並びに当該商標の形状に類似した形状を有する他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。
(2) そこで,本願商標が使用により自他商品識別力を獲得したか否かについて,以下検討する。
ア 前記第2の2の前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認められる。なお,本件において判断の基準時は,本件審決時であるので,その時点までの事実を認定した。
(中略)
イ 前記アの認定を前提に以下検討する。
(ア) まず,開放式石油ストーブは持ち運びが可能であるのに対し,半密閉式及び密閉式石油ストーブは持ち運びが不可能であること,開放式石油ストーブのうち,自然通気形石油ストーブと強制通気形石油ストーブとでは,送風機が内蔵されているか否か,電源が必要か否かという点で異なることからすると,開放式石油ストーブと半密閉式及び密閉式石油ストーブとの間,自然通気形石油ストーブと強制通気形石油ストーブとの間で需要者は必ずしも同一であるということはできない。もっとも,それらは,いずれもストーブに変わりはないのであるから,需要者が全く異なるとまではいい難い。東日本大震災の発生直後の平成23年度は,自然通気形石油ストーブの出荷台数は前年度の約2倍となったことからすると,自然通気形石油ストーブと強制通気形石油ストーブとは,同一の需要者による需要がある場合もあり得ると認められる。
 そして,自然通気形石油ストーブにおいては,対流形石油ストーブは,周囲全体を温めるのに対して,反射形石油ストーブは機器正面を中心に暖めることから,対流形石油ストーブは,比較的狭い部屋に適しているのに対し,反射形石油ストーブは,比較的広い部屋に適しており,キャンプや災害時にも適しているということができるから,これらの点で,両者には違いがあるということができる。しかし,いずれもストーブであることには変わりがなく,対流形石油ストーブの中にも,比較的狭い部屋に対応する型もあり,両ストーブは,対応する部屋の広さにおいて重なる部分もある。また,原告カタログでは,対流形石油ストーブと反射形石油ストーブの機能等を比較できる一覧表が掲載され,ポータブル石油ストーブというカテゴリーの中に対流形石油ストーブ及び反射形石油ストーブが記載されているなど,対流形石油ストーブ及び反射形石油ストーブが同一のカテゴリーとして扱われている。さらに,他社の暖房機器のカタログにおいても,対流形石油ストーブ及び反射形石油ストーブを一緒にした仕様一覧表とファンヒーター(強制通気形開放式石油ストーブ)の仕様一覧表を別の一覧表として掲載したり,「石油ストーブ(反射型)・石油ストーブ(対流型)・石油こんろ」との表題を付して,反射形石油ストーブ,対流形石油ストーブ及び石油こんろを記載するなど,対流形石油ストーブと反射形石油ストーブとが同一のカテゴリーとして扱われている。
 以上からすると,対流形石油ストーブと反射形石油ストーブの需要者は全く同一ではないものの,かなりの程度重なり合うものと認められる
(イ) そこで,自然通気形開放式ストーブ(対流形石油ストーブと反射形石油ストーブ)に占める原告使用商品の販売シェアを見るに,平成23年度以降の平均シェアは2%程度であり,石油ストーブ全体から見ると,そのシェアはさらに低いものとなる。また,原告使用商品の出荷台数も,平成24年度以降の平均は約2万9000台と決して多いとはいえない。
本願形状は,原告使用商品を使用していないときは現れないのであるから,店頭で石油ストーブを選び,購入しようとして来店した者は,展示されている原告使用商品を見ただけでは本願形状を認識することはできず,このような本願商標の特殊な事情から,需要者が本願商標を認識する機会は限定されるということができる。
 また,前記1で判示したことからすると,本願形状は,美感や機能の観点から採用されたと認識され,そのような点に着目されるものといえる
(ウ) 原告使用商品のテレビでの広告は,平成24年10月~12月までの間に三つの番組で広告されたのみであって,極めて少なく,原告使用商品がテレビ番組で取り上げられたのも5回だけであり,・・・多いとはいい難い
 また,平成27年12月1日には,原告使用商品の広告がヤフートップページに掲載されたが,同広告が継続的にされたと認めるに足りる証拠はない。
さらに,原告カタログの頒布方法,頒布地域及び頒布枚数は不明であり,原告ウェブサイトにおける原告使用商品の広告も,他の石油ストーブの同種広告に比較して規模が大きかったり,注目を集めるような特別な工夫がされているなどの事情は認められないから,同広告に大きな効果があるということもできない。
(エ) 原告使用商品は,楽天サイト,Amazonサイト及び価格サイトの各種ランキングにおいて上位にランクインしており,また,同ページの原告使用商品の欄の商品名等は,原告使用商品の使用時の写真や原告使用商品についてのレビューが掲載されているページに移ることができるリンクボタンとなっていることから,同ランキングページで商品を検索した者には,本願形状の詳細や高評価のレビューを認識する機会があったといえるが,同ランキングページを閲覧したとしても,原告使用商品に興味を持たなければ,リンクボタンを押して本願形状の詳細や高評価のレビューを認識することはない。そして,リンクボタンを押してそれらを認識した者の数は不明である。
 また,原告使用商品は,インターネットの記事で取り上げられ,その際,使用時の写真も掲載されているが,それらの数は前記ア(サ)のとおりであり,多いとはいえない。
 さらに,原告使用商品の使用時の写真が石油連盟の広告に使用され,同広告は,新聞や雑誌に掲載され,また,地下鉄の駅のホーム等で掲示されていたが,同広告には,同写真の商品が原告使用商品であることの説明はないから,同写真を見た者が同写真に写っている本願形状の出所を認識することはできない。そうすると,同広告が本願商標の自他商品識別力の獲得に格別寄与するということはできない。
 なお,YouTubeサイトにおいて,「トヨトミ レインボー」という文字で検索した結果,原告使用商品が使用されている状態の映像が多数検索されたことから,同サイトには,原告使用商品の使用状況の動画が多数掲載されていることが認められるが,「トヨトミ レインボー」という文字以外で検索した場合にどの程度上記各動画を閲覧することができたかは明らかでないから,上記各動画は,原告使用商品を知らない者に対して本願商標を認識させる効果が高かったということはできないし,また,それらの動画の再生回数が多数回に及んでいるとしても,それらの再生が,その動画の商品が原告の商品として識別されることにどの程度結び付いているかは明らかでない
(オ) 以上の事情からすると,本願形状を有する商品である原告使用商品が約30年もの長期間販売されており,OEM商品を除いて本願形状を有する他の商品は存在しないこと,本願形状は,比較的特徴的であるといえること,原告使用商品は,グッドデザイン賞を受賞したことを考慮しても,本願商標について原告の事業に係る商品であることを認識することができるとまで認めることはできないというべきである。
(3) 以上のとおり,商標法3条2項該当性についての本件審決の判断に誤りはないから,原告の取消事由2についての主張は理由がない。

第4【解説】

 本件は,商標権に係る審決取消訴訟である。特許庁は,本願商標について,商標法3条1項3号及び同条2項[1]にもとづいて拒絶査定(及び審決)をおこなったものであるが,裁判所は当該判断を追認した。
 裁判所は,まず,商標法3条1項3号について,ワイキキ事件(最判昭和54年4月10日)において述べた,公益上の観点から適切でないことと,多くの場合,自他商品識別力を欠くことを理由とするものであり,本願商標が,原告特許(特許登録第1508319号の特許)明細書等の記載によれば,「本願形状は,暖房効果を高めるという機能を有するもの」であるため,「機能又は美感上の理由から採用すると予測される範囲を超えているものということはできず,本願形状からなる位置商標である本願商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標であると認められる」として,商標法3条1項3号の商標に該当すると認定した。
 つぎに,裁判所は,同法第2項についても「当該商標の形状,その使用期間及び使用地域,当該商標が付された商品の販売数量やその広告の期間及び規模並びに当該商標の形状に類似した形状を有する他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断」するとして,本願商標の形状,使用地域,広告の期間及び規模,その他の商品の不存在等を認定して,原告の事業に係る商品であることを認識するに至っていないと判断した。
 本件は,特許権で保護されていた物品が,当該特許権が満了したことから,別の手段で当該物品の保護を図ろうとしたものであり,裁判所の判断は妥当であると思われる。

以上
(文責)弁護士 宅間 仁志


[1] 第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
(中略) 三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
(中略)
2 前項第三号から第五号までに該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。