【令和3年3月25日判決(大阪地方裁判所 平成31年(ワ)第3273号)】

【事案の概要】
 本件は,原告が,原告の製造販売する製品(以下「原告製品」という。)は被告の有する、発明の名称が「学習用具,学習用情報提示方法,及び学習用情報提示システム」であり、特許第4085311号の特許権(以下「本件特許権」といい,これに係る特許を「本件特許」,本件特許の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。また,本件特許に係る特許請求の範囲請求項1記載の発明を「本件発明」という。)に係る特許発明の技術的範囲に属しないとして,被告に対し,被告が原告に対し本件特許権に基づく原告製品の生産等の差止請求権(特許法100条1項)を有しないことの確認を求める事案である。

【キーワード】
 特許法第70条、「からなる」、特許請求の範囲の記載、明細書、出願の経過

【本件発明】
A コンピューターを備え,対応する語句が存在する原画の形態を該語句と結びつけて憶えるための学習用具であり,
B 前記コンピューターが,
B1 前記原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画,から成る組画の画像データが,複数個記録された組画記録媒体と,
B2 前記組画記録媒体に記録された複数個の組画の画像データから,一の組画の画像データを選択する画像選択手段と,
B3 前記選択された組画の画像データにより,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に表示する画像表示手段と,
B4 前記関連画及び原画に対応する語句の音声データが記録された音声記録媒体と,
B5 前記音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択する音声選択手段と,
B6 前記選択された語句の音声データを再生する音声再生手段と,を含み,
C 前記画像表示手段が,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画を,対応する語句の再生と同期して表示する
D 学習用具。

【争点】
 争点は,構成要件充足性、均等侵害の成否、間接侵害の成否などがあるが,本稿においては,構成要件B1の解釈についてのみ紹介する。

1.裁判所の判断(以下,下線部等の強調は筆者による。)

構成要件B1について

ア 「組画」の意義
(ア) 特許請求の範囲の記載によれば,本件発明の「組画」は,「対応する語句が存在」し,その「形態を該語句と結びつけて覚える」対象である「原画」,「原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画」並びに「原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画」から成る。すなわち,特許請求の範囲記載の「組画」は,「原画」,「第一の関連画」及び「第二の関連画」の各1画により構成されるものと理解される。もっとも,特許請求の範囲の記載には上記構成に限定される趣旨をうかがわせる文言はない。このため,本件発明は,「原画」,「第一の関連画」及び「第二の関連画」の各1画(合計3画)から成る「組画」のみを記録,表示する構成に限定されるか,それ以外の画像等を更に付加する構成を排除しない趣旨であるかは,その記載から明らかとは必ずしもいえない。
加えて,本件特許に係る請求項5の発明は,「前記関連画が複数であり,一の関連画が他の関連画の輪郭に似た若しくは該他の関連画を連想させる輪郭を有する請求項1~請求項4のいずれかに記載の学習用具」である。この記載からは,当該発明は,「第一の関連画」及び「第二の関連画」以外の「関連画」を含むものと理解する余地がある。これによれば,従属項である請求項5の発明の構成を含むものである本件発明は,「第一の関連画」及び「第二の関連画」以外の「他の関連画の輪郭に似た若しくは該他の関連画を連想させる輪郭を有する」関連画を含むものと理解する余地があることになる。
 (イ) 本件明細書の記載によれば,本件発明は,特定の国家や都道府県等の自治体等の地図上の形状等の学習に当たり,従来は,これらを繰り返し見ながら覚えることが一般に行われていたところ,このような学習方法には忍耐を必要とし,特に小学生等の若年者にとっては,興味が沸かず苦痛と感じられることが多く,学習効果が上がらないことが多かったという問題点に鑑み,楽しみを感じながら知らず知らずにこれを学習できるようにしたものである(【0003】,【0004】)。例えば,漫画は学習者にとって親しみやすく抵抗なく頭の中に受け入れられることから,記憶対象である地図上の形態と,その形態の輪郭に似た輪郭を有する漫画とを結び付け,漫画から抽象画,原画と順を追って示すことにより,変化する画像が容易に学習者に受け入れられ,学習者は,容易にこれを記憶することができる(【0027】,【0028】)。このような,ある記憶対象に関する漫画,抽象画及び原画から成る組画は,原画及び原画に関連する関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の関連画から構成される(【0035】,【0036】)。ここでは,組画を構成する関連画の数は,必ずしも2つに限定されていない。
また,「組画」は,漫画,抽象画及び原画の3画1組のユニット画から構成される方が好ましく,更に,原画に関連するキーワードの文字からなる文字画を加えて4画1組のユニット画から構成されてもよい(【0039】)。加えて,記憶対象に対応する漫画は,原画の輪郭や,輪郭に似た輪郭を有するもののほかに,原画の特徴を抽出して描かれたものであれば,原画の輪郭や,輪郭に似た輪郭を有しなくてもよい(【0044】)。本件の都道府県位置画のように都道府県の地図上の形状を複数組み合わせた画は,特定の都道府県の地図上の形状を「原画」とすると,全体としては原画の輪郭や,輪郭に似た輪郭を有するものではないものの,原画の輪郭をその一部に含むことから,原画の特徴を抽出して描かれたものということはできる。
さらに,本件発明は,その趣旨を逸脱しない範囲で,当業者の知識に基づき種々の改良,修正,変形等を加えた態様で実施し得る(【0058】)。本件明細書記載の解決すべき課題(【0004】)ないし本件発明の効果(【0059】)に鑑みると,「原画」,「第一の関連画」及び「第二の関連画」から成る構成に「原画に関連するキーワードの文字からなる文字画」や「他の関連画の輪郭に似た若しくは該他の関連画を連想させる輪郭を有する」関連画,「原画の特徴を抽出して描かれた」画が付加されたとしても(以下,このような原画,第一の関連画及び第二の関連画以外に付加された画を「付加画」という。),直ちに本件発明の趣旨を逸脱するものとはいえない。他方,本件発明における組画が原画1画と関連画2画のみで構成されなければならない理由等をうかがわせる記載は見当たらない。
これらの記載によれば,本件明細書において,「組画」は,原画,第一の関連画及び第二の関連画の合計3画から成る構成に限らず,原画に関連するキーワードの文字からなる文字画や,原画の特徴を抽出して描かれた画等の付加画を更に含むことを許容する概念であると解される。
(ウ) 以上より,本件発明の「組画」とは,原画,第一の関連画(「原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する」関連画)及び第二の関連画(「原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する」関連画)の合計3画から成ることを要するものの,そのような構成に限定されず,「第一の関連画」及び「第二の関連画」以外の付加画を更に付加する構成をも排除しないものと解される。
(エ) 原告の主張について
原告は,本件発明の関連画は「第一の関連画」と「第二の関連画」に限定されると主張する。
しかし,特許請求の範囲及び本件明細書の各記載を見ても,「組画」を構成する画が「原画」,「第一の関連画」及び「第二の関連画」各1画の合計3画に限定されることをうかがわせる具体的な記載はない。むしろ,前記(ア)~(ウ)のとおり,上記各記載からは,そのような構成に限定されるものではないと解される。本件特許に係る出願経過についても,本件意見書には,組画を構成する画の数を殊更限定する趣旨をうかがわせる記載は見当たらない。特許請求の範囲の記載の明確性という観点から見ても,本件発明に係る特許請求の範囲には,関連画につき「第一の関連画」及び「第二の関連画」が明示されるにとどまるものの,請求項5の記載,本件明細書の記載及び当業者の技術常識を考慮すれば,付加画が更に含まれ得ると解したとしても,なお発明の明確性は損なわれないと思われる。
その他原告が縷々指摘する点を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用できない。

2.検討

 構成要件B1は「前記原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画,から成る組画の画像データが,複数個記録された組画記録媒体と」というものである。

 本判決は、まず、「特許請求の範囲記載の『組画』は,『原画』,『第一の関連画』及び『第二の関連画』の各1画により構成されるものと理解される」とした上で、「特許請求の範囲の記載には上記構成に限定される趣旨をうかがわせる文言はない」点を確認し、本件発明は,①「原画」,「第一の関連画」及び「第二の関連画」の各1画(合計3画)から成る「組画」のみを記録,表示する構成に限定されるか,②それ以外の画像等を更に付加する構成を排除しない趣旨であるかは,その記載から明らかとは必ずしもいえないと判示する。
 当該判示内容からは、①の解釈の根拠がやや不明確だと思われる。
 ところで、「なる」には、「組み立てられている。成立する。」といった意味もあり、これの例としては、「三つの段落からなる文章」というものが挙げられる(広辞苑第7版)。
 この意味での「なる」の場合、「三つの段落からなる文章」は、三つの段落のみからなる文章を意味するから、構成要件B1の「から成る」に関して、上記①のような解釈をすることができると思われる。

 本判決は、上記のとおり、2つの解釈の可能性があることを指摘した上で、他の請求項(請求項5)の記載及び本件明細書の記載を根拠として、本件発明の「組画」とは,原画,第一の関連画(「原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する」関連画)及び第二の関連画(「原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する」関連画)の合計3画から成ることを要するものの,そのような構成に限定されず,「第一の関連画」及び「第二の関連画」以外の付加画を更に付加する構成をも排除しないものと解されると判示した。当該判示内容は妥当だと考える。
 
 本判決の同様の争点が生じた事件としては、知財高判平成29年1月20日・平成28年(ネ)第10046号が挙げられる。当該裁判例は、製剤の組成に関する発明の特許請求の範囲の記載の解釈について、本件発明の特許請求の範囲の記載の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」との構成要件Cは,①オキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であるのか,②オキサリプラティヌムと水からなる水溶液であれば足り,他の添加剤等の成分が含まれる場合も包含されるのかについて,特許請求の範囲の記載自体からは,いずれの解釈も可能であると判示した上で、明細書の記載及び出願の経過を参酌の上、本件発明の特許請求の範囲の記載の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」(構成要件C)との文言は,本件発明がオキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であって,他の添加剤等の成分を含まないことを意味するものと解さざるを得ないと判示した。

 これらの裁判例からすれば、「からなる」との表現を用いたとしても、明細書や出願経過において、「のみからなる」の意味で用いていなければ、限定解釈されない可能性はあると思われる。
 一方で、本判決の例でいえば、②それ以外の画像等を更に付加する構成を排除しない趣旨とするのであれば、特許請求の範囲の記載として、「から成る組画」といった表現とせず、「を含む組画」といった表現にすればよかったと考える。不要な争点を生じさせないためにも、「を含む組画」といった表現にすべきであったと考える。
 本判決は,特許請求の範囲の解釈及び特許請求の範囲の記載の表現として参考になる事例であるため,紹介した。

以上
(筆者)弁護士・弁理士 梶井 啓順