【知財高判令和5年12月26日(令5(行ケ)10079号 審決取消請求事件)】

【キーワード】

商標法4条1項10号、他人の周知商標、菓子、SNS

【事案の概要】

本件は、以下の登録商標(以下「本件商標」といい、本件商標に係る商標登録を「本件商標登録」という。)についての審決取消請求事件である。原告は、本件商標登録を無効にすることついて審判(商標登録無効審判)を請求したところ、不成立審決がなされたため、当該審決についての取消訴訟を提起した。

<本件商標登録>
登録番号:商標登録第6525426号
出願日:令和3年12月16日(以下「本件出願日」という。)
登録査定日:令和4年2月22日(以下「本件査定日」という。)
登録日:令和4年3月9日
商標の構成:「地球グミ」(標準文字)
商品及び役務の区分並びに指定商品:第30類「グミキャンディ」

原告は、自身が販売するグミキャンディ(商品名を「Trolli Planet Gummi」などとするもの。以下「原告商品」という。)の俗称である「地球グミ」(以下「引用標章1」という。)が、本件出願日及び本件査定日において、原告商品を表示するものとして周知性を獲得しており、「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」といえるため、引用標章1と同一である本件商標は無効であると主張した。

【争点】

・本件商標は商標法4条1項10号に掲げる商標に該当するか。

【判決一部抜粋(下線は筆者による。)】

第1~第4(省略)
第5 当裁判所の判断
1 (省略)
2 取消事由1(商標法4条1項10号該当性についての判断の誤り)について
(1) 引用標章1の周知性について
ア 前記1において認定した事実によると、引用標章1の周知性に関し、次の事情が認められるというべきである。
すなわち、原告商品は、外国の会社が製造する菓子であり、その名称を「Trolli Planet Gummi」、「Planet Gummi」などとするものであって、原告商品又はその包装若しくは個包装には、日本語からなる「地球グミ」との文字は記載されていない。しかしながら、原告商品は、平成30年頃、動画投稿者及びその閲覧者を中心に韓国において大流行したところ、この流行が日本にも飛び火し、原告商品は、令和2年頃からは、日本においても、動画投稿者及びその閲覧者を中心に大流行し、遅くとも原告が原告商品の輸入販売を開始した同年10月までには、全国に店舗を展開する小売業者の中に、原告商品を「地球グミ」と称してこれを宣伝する者が現れるようになった。原告が原告商品の輸入販売を開始した後についてみても、原告商品は、大人気を誇り、小売業者の店舗における販売開始後すぐに完売となるという事態が相次ぎ、その入手が極めて困難な商品となった。原告が原告商品の輸入販売を開始して以来、全国に店舗を展開する小売業者らは、原告商品を「地球グミ」と称してこれを繰り返し宣伝し、また、原告商品は、動画投稿サイトにおいても、「地球グミ」と称する商品として大人気を博していた。そのような原告商品は、令和3年6月、「地球グミ」と称する大人気商品として、全国紙による新聞報道及び在阪の準キー局によるテレビ報道がされるまでに至り、同テレビ報道においては、同年上半期にはやった飲食物としてZ世代が選ぶランキングにランクインした。原告商品は、翌7月、同様の人気商品として、在京のキー局によるテレビ報道がされるに至り、20代前半の若者が皆知っていることとして紹介された(なお、原告は、遅くとも同年6月には、テレビ番組において、原告商品を「地球グミ」と称しており、また、遅くとも同年9月には、原告商品を「地球グミ」と称する宣伝をするようになった)。さらに、「地球グミ」と称する原告商品は、同年11月、動画投稿サイトへの投稿がきっかけで人気となった作品又は商品の例として、著名作家の小説、有名シンガーソングライターの楽曲等と並べて紹介されるとともに、渋谷区にある著名な商業施設の運営会社による調査(15歳から24歳までの女性545名を対象としたもの)の結果である「SHIBUYA109lab.トレンド大賞2021」なる賞においても、その「カフェ・グルメ部門」の2位に入賞した。このような「地球グミ」と称する原告商品の令和3年までの動向を踏まえ、令和4年1月に発行された「現代用語の基礎知識2022」においては、令和3年中に注目された物(食に係るヒット商品)として、原告商品の俗称たる「地球グミ」の語が取り上げられるに至った
以上の事情に照らすと、「地球グミ」の語(引用標章1)は、遅くとも本件査定日(令和4年2月22日)までには、原告又は原告商品の製造業者の業務に係る商品(原告商品)を表示するものとして、需要者(引用標章1が使用される商品の内容及び性質並びに前記1の事実に照らすと、若者を始めとするグミキャンディの消費者であると認められる。)の間に広く認識されている商標に該当していたものと認めるのが相当である。
イ (省略)
(2) 本件商標と引用標章1の類否
・・・本件商標は、「地球グミ」の文字を標準文字で表してなるものである。これに対し、・・・引用標章1は、「地球グミ」の文字を書してなるものである。
このように、本件商標と引用標章1は、その外観において、極めて相紛らわしいものである。
また、本件商標及び引用標章1からは、いずれも「チキュウグミ」の称呼が生じるから、両者は、称呼を同じくする。
さらに、・・・「地球グミ」は、需要者の間において原告商品を指す語であると認識されるといえるから、本件商標及び引用標章1からは、いずれも、「地球のグミキャンディ」などの観念のほか、「原告商品」(商品名を「Trolli Planet Gummi」、「Planet Gummi」などとするグミキャンディ)の観念が生じるといえ、両者は、観念を同じくする。
以上によると、本件商標は、引用標章1と称呼及び観念を同じくし、外観において極めて相紛らわしいから、引用標章1に類似する商標であると認めるのが相当である。
(3) 商品の類否
・・・本件商標に係る指定商品と引用標章1に係る使用商品は、いずれも「グミキャンディ」であるから、本件商標に係る指定商品は、引用標章1に係る使用商品と同一である。
(4) 小括
以上のとおり、本件商標は、商標法4条1項10号に掲げる商標に該当するところ(なお、本件出願日において本件商標が同号に掲げる商標に該当しなかった旨の主張立証(商標法4条3項)はない。)、これと異なる本件審決の判断は誤りであり、取消事由1は理由がある。
・・(以下、省略)・・

【検討】

1 商標法4条1項10号について
日本の商標制度は、先使用主義ではなく、先願主義・登録主義を採用している。すなわち、同一の商標について、先に使用した者が商標権を取得するのではなく、先に商標登録出願を行い、商標登録を受けた者が商標権を取得する。
しかし、ある商標について、特定の事業者が使用した結果、需要者・取引者の間で当該事業者を表示するものとして広く認識されている場合でも、後から商標登録出願を行った者が商標権を取得するとなると、出所の混同が生じるおそれがあるし、先の事業者の保護に欠けるといえる。
そのため、商標法4条1項10号では「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」については、商標登録を認めない旨を定めている。

2 「需要者の間に広く認識されている」(周知性)との要件
商標法4条1項10号の「需要者の間に広く認識されている」との要件(周知性)について、当該要件を満たす商標とは、特許庁の審査基準によると、「最終消費者まで広く認識されている商標のみならず、取引者の間に広く認識されている商標を含み、また、全国的に認識されている商標のみならず、ある一地方で広く認識されている商標をも含む」とされている。また、裁判例では、商品・役務の性質を踏まえて、需要者が一定分野の関係者に限定されている場合には、その需要者に広く認識されていれば周知性を肯定するものもある(東京高判平成4年2月26日知財集24巻1号182頁〔コンピューターワールド事件〕)。

3 本件について
本件は、「地球グミ」との標章(引用標章1)について、周知性が争われた事案である。
「地球グミ」との語は、原告商品の正式な名称ではなく、さらに、原告商品又はその包装にも記載されていなかった。それにもかかわらず、①本件出願日より前の令和2年頃からSNSで原告商品が話題になり、小売業者が「地球グミ」と称して原告商品を宣伝するようになったこと、②本件出願日より前の令和3年6月には、テレビ番組で「地球グミ」と称して原告商品が報道されており、その際、原告も「地球グミ」と称していたこと、③Z世代ランキングやトレンド大賞等において「地球グミ」と称する原告商品がランクインしたことなどから、「地球グミ」の標章(引用標章1)は、本件査定日までに周知性を獲得していたと判断された。すなわち、引用標章1は、原告による積極的な宣伝広告活動ではなく、SNSでの話題(いわゆるバズり)、小売事業者やテレビ番組等による紹介などにより、非常に短期間で周知性を獲得したと判断されたのである。
商標の周知性獲得において、SNSが非常に大きな影響力を持つことを示した事案であるといえよう。

以上

弁護士 市橋 景子