【令和5年5月18日判決(東京地裁 令和3年(ワ)第20472号)】

【ポイント】

会社が著作権侵害したことについて、役員個人(代表取締役)の会社法第429条の個人責任を認めた事例

【キーワード】

著作権、会社法第429条、個人責任

第1 事案

 被告会社(デザインの企画・制作等を目的とする株式会社)は、他社より依頼された冊子を製作するために、原告(写真家)から本件写真の利用許諾を受けた。その後、被告は、原告の許諾を得ずに、7年程度、被告会社のホームページに本件写真を掲載した。
 原告は、被告会社及び、被告会社の代表取締役(以下、「被告Bという。」)に対して、当該掲載行為が原告の有する著作権侵害であると主張し、損害賠償請求を求めた。
 本稿では、被告Bの個人責任の争点について述べる。

第2 当該争点に関する判旨(裁判所の判断)(*下線や注釈は筆者)

4 争点4(取締役の責任の有無)について
 前記前提事実及び前記認定事実によれば、被告会社は、デザインの企画・制作等を目的とする株式会社であり、日本たばこ産業株式会社から受託された「さくら」の小冊子を作成するために、原告から、本件各写真の利用許諾を受けたのであるから、その代表取締役である被告Bは、その職務上、原告に対し、前記認定に係る態様で本件各写真を本件ウェブページに掲載することができるかどうかを確認すべき注意義務があったものといえる
 しかるに、被告Bは、原告に容易に確認できるにもかかわらずこれを怠り、本件各写真のデジタルデータに複製防止措置を何ら執ることなく、漫然と約7年間も本件ウェブページに継続して違法に掲載し、その結果、本件各写真のデジタルデータがインターネット上に原告名が付されることなく相当広く複製等されたことが認められる
 これらの事情を踏まえると、被告Bに少なくとも重過失があったことは明らかであり、著作権の重要性を看過するものとして、その責任は重大である
 これに対し、被告Bは、本件各写真を本件ウェブページに掲載した平成19年当時、知的財産権を保護する体制の構築を主たる職務としていなかったし、当時から現在に至るまで、知的財産権の侵害を防止するための社内体制を講じてきたことなどからすれば、被告Bの職務遂行に悪意又は重過失はないと主張する。
 しかしながら、被告Bが、本件ウェブページ掲載当時に知的財産権保護体制の構築を主たる職務としていなかったとしても、デザイン制作等を目的とする株式会社において、デザイン制作等に当たり著作権、肖像権その他の知的財産権を侵害しないようにする措置を十分に執ることは、取締役の基本的な任務であるといえるから、被告Bの主張を十分に踏まえても、被告Bの責任は免れない。また、原告に何ら確認することなく、本件各写真のデジタルデータが複製防止措置を何ら執られることなく本件ウェブページに7年以上も漫然と掲載されていた事情等を踏まえると、被告Bの主張立証(乙10)等を十分に斟酌しても、知的財産権の侵害を防止するための社内体制が不十分であったとの誹りを、免れることはできない
 したがって、被告Bの主張は、採用することができない。

第3 検討

 本件は、会社が著作権者の許諾を得ずに、会社のホームページに当該著作権者の写真を掲載したことについて、当該会社の代表取締役の個人責任が認められた事案である。
 前提として、会社法第429条第1項の要件(役員等の個人責任が生じる要件)に、①任務懈怠、②任務懈怠について役員等の重過失がある。なお、②について、重過失の対象は任務懈怠なのか、又は第三者の損害なのかという学説の争いがあるが、最高裁(最大判昭和44年11月26日)は重過失の対象は任務懈怠であるという立場を採っている(法定責任説)。
 まず、本判決は、①任務懈怠の前提となる任務として、被告Bには「前記認定に係る態様で本件各写真を本件ウェブページに掲載することができるかどうかを確認すべき注意義務」があると判断した。そして、当該注意義務の発生根拠としては、被告会社が「デザインの企画・制作等を目的とする株式会社」であること、被告会社が原告から本件写真の利用許諾を受けたことの事情が挙げられている。これらの事情が被告Bの当該注意義務があるという方向に向かう事情であることは理解できるが、判決文に、被告Bの被告会社におけて分掌する業務の内容や他の取締役との役割分担等が事情として出てきていない中で、被告B個人に当該注意義務があると判断したことはやや疑問に残る。
 次に、本判決は、②任務懈怠について役員等の重過失の具体的事情として、⑴原告に容易に確認できたこと、⑵被告会社のウェブページにアップした本写真に複製防止措置を何らとらず、漫然と約7年間も本件ウェブページに継続して掲載したこと、⑶その結果、インターネット上に原告名が付されることなく相当広く複製等されたことを挙げている。この点については、上記のとおり、判例上、重過失の対象は任務懈怠であるところ、上記⑶の事情(任務懈怠による結果)は任務懈怠に対する重過失の具体的事情とはいえず、本判決が当該判例上の立場とは異なる立場(不法行為責任説)を採っているかのように読める。
 なお、昨今の裁判例において、会社が特許権侵害したことにつき、会社役員の個人責任(会社法第429条第1項)が認められた事例がある(大阪地判令和3年9月28日・令和元年(ワ)第5444号)。
 以上のように、本判決は、判断過程にやや疑問が残るものではあるが、知的財産権侵害について会社役員の個人責任が認められた事案であり、上記の特許権侵害に関する裁判例も含めて、特に会社役員の方は念のために注視しておくべき事案である。

以上

弁護士 山崎臨在