【令和5年12月21日(知財高裁 令和5年(行ケ)第10083号)】

【キーワード】
商標法、商標権、商標法3条1項3号、立体商標、平面商標、図形商標、審決取消訴訟

【事案の概要】

原告は、以下の構成からなる商標(以下「本願商標」という。)について、第9類「電気スイッチ」の商品を指定商品とする商標登録出願を行ったところ、当該商標登録出願について拒絶査定を受け、当該拒絶査定に対し拒絶査定不服審判を請求したもののこれについても不成立審決(以下「本件審決」という。)を受けた。本件は、原告が本件審決の取消しを求めて提起した審決取消訴訟である。

本願商標

【争点】

本願商標につき商標法3条1項3号の拒絶事由の有無

【判決(一部抜粋)】(下線は筆者が付した。以下同じ。)

第1・第2・第3省略

第4 当裁判所の判断

1 取消事由(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について

(1) 商標法3条1項3号は、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。・・・)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は、商標登録を受けることができない旨を規定しているが、これは、同号掲記の標章は、商品の産地、販売地、形状その他の特性を表示、記述する標章であって、取引に際し必要な表示として誰もがその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合、自他商品・役務識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないことから、登録を許さないとしたものである。そして、商品の形状は、本来、商品の機能をより効果的に発揮させたり、美観を向上させるために選択されるものであるから、商品の形状からなる商標は、その形状が、需要者において、その機能又は美観上の理由から選択されると予測し得る範囲を超えたものである等の特段の事情のない限り、商品等の形状そのものの範囲を出るものでなく、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものとして、商標法3条1項3号に該当するものと解される

(2) 本願商標は、白色の長方形を縦長に描き、その内側の中央に、辺の長さが外側長方形部分の約半分程度の、影様の黒色の線で縁取りされた白色の縦長の長方形を配し、内側長方形部分の右側長辺に影様の薄い灰色の直線を配し、その左に上端から下端までの長さよりやや短く、縦に緑色の直線を描いてなるものである。そして、本願商標同様の形状を有する原告製造に係る「電気スイッチ」に係るカタログ(甲3の1)には、「シンプルで、明瞭な要素で構成されること。ミニマルで、偏りのない美しさを持つこと。ひとつの空間を超えて、建築が持つ思想へと向かう存在になること。」との記載があり、JIS大角連用形スイッチとの取付互換性の確保も強調されている。

一方、メーカー、施工会社、ユーザ等のウェブサイト(乙1~8、10~ 13)によれば、本願商標の指定商品である「電気スイッチ」を取り扱う業 界において、外側の縦長の略長方形の内側に、表示灯を施した縦長の長方形 の押しスイッチを配した構成の電気スイッチは、広く使用されていること、 表示灯の形状、位置、点灯した際の色彩は様々なものが採用されていること が認められる。そして、これらの電気スイッチの形状は、「もっと美しく、使いやすく。/これからのくらしのスタンダード」(乙2)、「インテリア と響きあう/住まいに必要なものだから“美しさ”にこだわりたい。みんな が使うものだから“使いやすさ”を求めたい。」(乙6)といった謳い文句 からも理解されるとおり、商品の機能や美観を発揮させるために選択されているものと解される。

上記のような実情に鑑みると、本願商標の形状は、指定商品である「電気スイッチ」の用途、機能、美観から予測できないようなものということはできず、需要者は、本願商標から、「電気スイッチ」において採用し得る機能又は美感の範囲内のものであると感得し、「電気スイッチ」の形状そのものを認識するにすぎないというべきである。

原告は、前記第3の1(1)のとおり、アイコン等としての使用が予定される図形商標(平面商標)について、立体商標と同様の厳格な基準を適用するべきではない旨主張するが、前記(1)に説示したところは立体商標か図形商標かによって左右されるものではなく、採用できない。なお、本願商標が指定商品の形状を表すのでなく、アイコン等としてのみ使用されるものと認識されると認めるに足りる証拠もない

また、原告は、前記第3の1(1)のとおり、商品の形状のみからなる図形商標が、当該商品を指定商品に含めて商標登録されている事例は、多々存在する旨主張するが、登録出願に係る商標が商標法3条1項3号に該当するものであるか否かの判断は、個別具体的にされるべきものである上、原告引用に係る事例は、ゲームコントローラやタブレット端末であって(甲1、2)、需要者層や商品形状の有する意味合いに関し本願商標と大きく異なる点があると考えられるものであり、採用できない。

さらに、原告は、前記第3の1(2)のとおり、原告の電気スイッチは、幅広な操作スイッチを持たず、表示灯を操作スイッチの右端において上端から下端まで一直線に設けるという独自の構成を有し、数々の受賞歴を有し、こだわりのあるユーザに高い評価を得ている旨主張するが、視覚を通じて美観を起こさせる物品の形状等の創作を奨励、保護する意匠法による保護の対象とすべき根拠とはなっても、自他商品の識別標識としての商標を対象とする商標法の保護とは次元が異なる問題である。

(3) 以上のとおりであって、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした 本件審決の判断に誤りはない。

【若干の解説等】

1 総論

 商標法3条1項3号は、「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号)及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(いわゆる記述的表示のみからなる商標)を、商標登録を受けることができる商標から除外する。これは、このような商標は取引上一般的に使用されることが多いため、自他商品・役務識別力がなく、また取引上何人も使用する必要があるため特定人の独占を認めることが妥当でなないことに基づく。

そして、商標登録出願に係る商標が商標法3条1項3号の商標に該当することは、同法15条1号により商標登録の拒絶事由とされている。

 本件は、本願商標について商標法3条1項3号の商標該当性が肯定された事例であるが、本願商標が商品の形状に係る立体商標ではなく、商品の形状のみからなる平面商標(図形商標)である点に特徴がある。すなわち、立体商標については商標法3条1項3号の「普通に用いられる方法」を厳格に運用することが、工業所有権審議会の答申でも求められており、それが商品や包装の用に供する物であるとの認識を出ない立体的形状については登録されないと考えられてきた経緯が存在する[1]が、本判決ではこれを平面商標に再構成した場合にいかなる基準が用いられるかについて、一定の指針が示された。以下、本件の判断について述べた上で、若干の考察を加える。

2 本件の判断

⑴ 本願商標について

 本判決ではまず、商標法3条1項3号の趣旨が以下のとおり確認されている(下線は筆者が付した。以下同じ。)。

商標法3条1項3号は、「(略)」は、商標登録を受けることができない旨を規定しているが、これは、同号掲記の標章は、商品の産地、販売地、形状その他の特性を表示、記述する標章であって、取引に際し必要な表示として誰もがその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合、自他商品・役務識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないことから、登録を許さないとしたものである

そして、商品の形状についての判断方法も以下のとおり確認された[2]

(承前)そして、商品の形状は、本来、商品の機能をより効果的に発揮させたり、美観を向上させるために選択されるものであるから、商品の形状からなる商標は、その形状が、需要者において、その機能又は美観上の理由から選択されると予測し得る範囲を超えたものである等の特段の事情のない限り、商品等の形状そのものの範囲を出るものでなく、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものとして、商標法3条1項3号に該当するものと解される

⑵ 平面商標である点の考慮

 また、本件では以下のとおり、原告から、商品の形状に係る商標でもそれが平面商標であるか立体商標であるかによって、商標法3条1項3号該当性判断において適用する基準を変えるべきである旨の主張もされていた(以下、第3の1⑴から抜粋)。

 商標審査基準では、立体的形状が、商品等の機能又は美感に資する目的のために採用されたものと認められる場合は、特段の事情の無い限り、商品等の形状そのものの範囲を出ないものと判断するとしているが、これは、機能をより効果的に発揮させたり、美感をより優れたものとしたりするなどの目的で採用される商品の「形態」に関し、立体商標としての半永続的な保護を与えることは適切ではないとの価値判断によるものであり、立体商標の出願を対象にしたものである。
 ロゴマーク等として使用されることが想定され得る図形商標(平面商標)に関し、立体商標と同様の厳格な基準を適用することは妥当ではない。商品の形状のみからなる図形商標が、当該商品を指定商品に含めて商標登録されている事例は、多々存在する(甲1、2)。

 しかしこのような原告の主張は、以下のとおり端的に否定された。

原告は、前記第3の1(1)のとおり、アイコン等としての使用が予定される図形商標(平面商標)について、立体商標と同様の厳格な基準を適用するべきではない旨主張するが、前記(1)に説示したところは立体商標か図形商標かによって左右されるものではなく、採用できない。なお、本願商標が指定商品の形状を表すのでなく、アイコン等としてのみ使用されるものと認識されると認めるに足りる証拠もない。
また、原告は、前記第3の1(1)のとおり、商品の形状のみからなる図形商標が、当該商品を指定商品に含めて商標登録されている事例は、多々存在する旨主張するが、登録出願に係る商標が商標法3条1項3号に該当するものであるか否かの判断は、個別具体的にされるべきものである上、原告引用に係る事例は、ゲームコントローラやタブレット端末であって(甲1、2)、需要者層や商品形状の有する意味合いに関し本願商標と大きく異なる点があると考えられるものであり、採用できない。

⑶ 結論

以上を踏まえ裁判所は、本願商標に関しては、本願商標に表されるような電気スイッチ(「外側の縦長の略長方形の内側に、表示灯を施した縦長の長方形の押しスイッチを配した構成の電気スイッチ」)は広く使用されており、かつそれが商品の機能や美感を発揮させるために選択されていると解されるとし、このような事情に鑑み、需要者は本願商標から、「電気スイッチ」の形状そのものを認識するに過ぎないとして、本願商標の商標法3条1項3号該当性を認めた。

3 若干の検討

 以上のとおり、本件では立体商標であるか平面商標であるかを問わず、商品の形状に関する商標については「その形状が、需要者において、その機能又は美観上の理由から選択されると予測し得る範囲を超えたものである等の特段の事情のない限り、商品等の形状そのものの範囲を出るものでなく、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものとして、商標法3条1項3号に該当する」との基準が用いられることが示された。

 ただし、同じ商品の形状に係る商標でも、立体商標か平面商標かでは若干の相違があるように思われる。すなわち、商品の形状につき立体商標が登録された場合、第三者において商品自体をして当該形状に係る機能や美感を発揮させること自体が商標権の効力により制限されることになるのに対し、商品の形状に係る平面図形が登録された場合でも、当該平面図形さえ使用しなければ、商品自体において当該平面図形に係る形状による機能や美感を発揮させることは依然として可能である。したがって、立体商標と平面商標とでは、商標法3条1項3号の商標につき登録を認めない理由の一つである「取引に際し必要な表示として誰もがその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものである」という点において、若干の相違があると考えられる。

 もっとも、以上を前提としても、商品の形状に係る平面商標において特定人による独占使用を認めることに馴染まないという点が完全に否定されるわけではなく[3]、その度合いが立体商標と比較すると若干弱まる、と考える余地があるといえるに過ぎない。また、現在の裁判実務は立体商標と平面商標とが類似する場合もあり得ることを前提とするものであり[4]、この点に鑑みると、商品の形状に係る平面商標について当該商品の形状を有する商品(立体標章)との類似性が肯定されることが十分にあり得ると考えられることから、商品自体において平面商標に係る商品の形状による機能や美感を発揮させることが可能であるという上記の前提も確かなものとはいえない。

 以上の点を考慮すると、本件の判断は立体商標と平面商標との若干の相違を踏まえても、やはり妥当なものであるといえる。

以上
弁護士 稲垣紀穂

[1] ただし、商標法3条1項3号の商標に該当する立体的形状についても、使用の結果識別力が生じたときは、同3条2項により登録が認められる。

[2] なお、本件では後述のとおり立体商標と平面商標とで商標法3条1項3号該当性判断において適用する基準を変えるべきかが問題とされるが、判決ではここでも「商品の形状」一般について述べており、立体商標と平面商標とで区別をしていない。

[3] 例えば、商品の概要や取扱方法を示す趣旨で、商品自体又はその包装に商品の形状に係る平面図形を記載することが欲されるような場合が容易に想定できる。

[4] 東京高判平成13年1月31日(平成12年(行ケ)第234号)、東京高判平成26年5月21日(平成25年(ワ)第31446号)等