平成25年3月27日判決(東京地裁 平成23年(ワ)第30566号)
【判旨】
商品形態の商品等表示性は、特別顕著性及び周知性を充足するか否かにより判断されるところ、原告商品(業務用加湿器)の商品形態は、いずれも充足しないから、「商品等表示」には当たらない。
【キーワード】
商品形態 商品等表示 不正競争防止法2条1項1号


1 事案の概要
 原告は、平成5年以降、「クリーンウェッター」という商品名で業務用(主に印刷工場向け)の空気清浄加湿機を製造販売しており、平成16年11月からは、その改良版である「クリーンウェッターα」という商品名の空気清浄加湿機(原告商品)を併せて製造販売している。
下写真は、クリーンウェッターαである。

 
被告は、平成22年12月以降、「エコシャワー」という商品名で業務用(主に印刷工場向け)の空気清浄加湿機(被告商品)を製造販売している。下写真は、エコシャワーである。

 本件は、原告が、被告に対し、原告商品の商品形態が周知な商品等表示にあたるが故に、被告商品を販売する行為は、不正競争防止法2条1項1号に該当することを主張し、差止め等を求めた事案である。

2 争点
原告商品の商品形態は、不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当するか。

3 判決抜粋
(1)商品の形態と商品等表示性
 不競法2条1項1号にいう「商品等表示」とは、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいい、商品の形態は、商品等と異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないから、商品の形態自体が不競法2条1項1号に「商品等表示」に該当するためには、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要するものと解するのが相当である。
(2)原告商品の形態の特別顕著性
 原告商品における空気吹出口、空気吸込口、エリミネーター点検口及び水槽部点検口等の位置関係、配置、構造は、業務用の空気清浄加湿機という商品の機能上ないし技術上の制約からくる不可欠の形態ないしは通常選択されるべき形態であって、業務用の空気清浄加湿機の形態として通常ありふれた形態というべきであり、また、原告が主張するその他の原告商品の形態の特徴に関しても、主位的主張及び予備的主張のいずれについても採用することができないから、原告商品の形態に特別顕著性を認めることはできないというべきである。
(3)原告商品の形態の周知性
 原告商品の宣伝広告及び販売状況は前記…に認定のとおりであるが、前記…のとおり、原告商品には「クリーンウェッター」シリーズと「クリーンウェッターα」シリーズとがあり、両者は、空気吹出口、空気吸込口、エリミネーター点検口、水槽部点検口等の位置関係、配置、構造が異なっていることから、形態が異なる商品といわざるを得ないところ、原告が原告商品の形態であると主張するのは「クリーンウェッターα」シリーズの形態であるから、上記原告商品の宣伝広告及び販売状況のうち、「クリーンウェッター」シリーズに関するものは、原告商品の形態の周知性を基礎付ける事実と認めることはできない。そうすると、「クリーンウェッターα」シリーズの宣伝広告は平成17年11月以降であって、その質及び量とも僅かであること、「クリーンウェッター」及び「クリーンウェッターα」シリーズの全体を通じた販売台数約2200台のうち「クリーンウェッターα」シリーズの販売台数は僅か323台にすぎないという「クリーンウェッターα」シリーズの販売状況からすれば、原告商品の形態が原告によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていると認めることも困難というべきである。
(4)小括
 以上のとおり、原告商品の形態は、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているということはできず、かつ、その形態が原告によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっているということもできないから、不競法2条1項1号所定の商品等表示に該当すると認めることはできない。

4 考察
 本件は、商品形態が不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」に該当するか否かが争われ否定された事例である。
 かかる争点につき、裁判所は、めがねルーペ事件(知財高裁平成25年2月6日判決平成24年(ネ)10069号)で示された①特別顕著性、②周知性という2つの要件からなる規範を用いて判断している。もっとも、裁判所はめがねルーペ事件以前からこの規範を用いており、実務的にはこの2つの要件を用いて判断することが定着しているといってよい。
 ちなみに、この2つの要件は、「かつ」で結ばれているから、AND関係にあるといえ、どちらも充足する必要がある。とはいえ、高度に周知であるという事実は、特別に顕著であることを推認させるから、両要件は密接に関連しているといえよう。
 裁判所は、かかる規範にあてはめ、原告商品の商品形態の特別顕著性及び周知性ともに認めなかった。かかる判断は妥当だと考えるが、規範的には、特別顕著性又は周知性のいずれかの要件を充足しないことの判断で足りるにもかかわらず、両要件につき判断していることが興味深い。おそらく、先に述べたように、両要件が密接に関係していることが関係していると思われる。

 個別の論点について、実務上ポイントとなる点は以下のとおりである。
 社会通念上、業務用(BtoB)商品においては、機能上の特徴やコスト面が顧客誘引力に関係するから、デザイン等の形態上の独自性は顧客誘引力と関係せず、ひいては出所表示機能とも関係しないことが多い。
本件でも、裁判所は、原告商品が業務用加湿器であるが故、「原告商品における空気吹出口、空気吸込口、エリミネーター点検口及び水槽部点検口等の位置関係、配置、構造は、業務用の空気清浄加湿機という商品の機能上ないし技術上の制約からくる不可欠の形態ないしは通常選択されるべき形態であって、業務用の空気清浄加湿機の形態として通常ありふれた形態というべきであり、」と判断しており、デザイン等の形態上の独自性を認めていない。
 かかる社会通念、裁判所の判断から明らかなように、原告側・被告側の戦い方(あるいは訴訟に当たっての準備的検討事項)のポイントとしては、対象商品が機能上の特徴が故に、顧客誘引力を有するものなのか、それとも形態上の特徴が故に顧客誘引力を有するものなのかという点を詰めることだと考える。

 また、周知性に関する裁判所の判断も興味深い。
 すなわち、裁判所は、周知性に関し、原告商品として掲げた新型の「クリーンウェッターα」のみ販売実績の証拠力を認め、旧型の「クリーンウェッター」の販売実績の証拠力を認めなかった。しかし、両者は下図に示すように商品形態が非常に類似するから、原告の工夫次第で、「クリーンウェッター」シリーズ全体の販売実績が証拠力を有したと考えられる。

以上
 (文責)弁護士・弁理士 溝田 宗司