平成25年6月20日判決(大阪地裁 平成23年(ワ)第15245号)
【キーワード】
 動画,リンク,公衆送信権
【判旨】
 「埋め込み」形式で第三社の著作権を侵害する動画にリンクを貼っても,著作権者から抗議を受けた後に直ちに当該リンクを削除した場合には,著作権侵害責任は生じない。

第1 事案
1 事案の概要
 本件は,原告が,被告に対し,原告が著作者である動画を,自社の運営する「ロケットニュース24」と称するウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)に無断で掲載したことが,原告の著作権(公衆送信権)を侵害するものであるなどとして,不法行為に基づく損害賠償の一部として30万円及びこれに対する損害発生日である平成23年6月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金などの支払いを求めた事案である。なお,本件では,上記の他,名誉権侵害,肖像権侵害の有無等が争われているが,ここでは公衆送信権侵害に関する判示のみを取り上げる。
2 当事者
 原告は,平成23年6月当時,株式会社ニワンゴ(以下「ニワンゴ」という。)が提供するインターネット上の動画共有などのサービス(平成24年5月以降「niconico」と総称されるが,当時は「ニコニコ動画」と総称されていた。)のニコニコプレミアム会員として,後記「ニコニコ生放送」による動画のライブストリーミング配信(テレビ番組におけるいわゆる生放送と同様,即時的な動画配信のことである。)等を行っていた。
 被告は,情報提供サービスなどを目的とする株式会社であり,様々なニュース等をとりまとめ,これに見出しと記事を加え、読者がコメントを投稿することのできるサービスとして,本件ウェブサイトを運営管理している。
 ニワンゴが「niconico」において提供するサービスには,ウェブサイト上で動画を共有してこれにコメントを付すことのできる「ニコニコ動画」,ライブストリーミング配信される動画を視聴することができる「ニコニコ生放送」などがある。「ニコニコ生放送」に配信される動画は,「niconico(平成23年6月当時はニコニコ動画)」の会員のみ視聴することができ,有料のニコニコプレミアム会員は,自ら「ニコニコ生放送」でライブストリーミング配信をすることもできる。また,「niconico」では,「タイムシフト機能」と称して,前記ライブストリーミング配信終了後も,一定期間,「ニコニコ生放送」の内容を視聴し得るサービスを提供している。 
3 被告による本件ウェブサイトへの本件記事の掲載等
 原告は,平成23年6月5日,カメラ等を持参し,自身が上半身に着衣をせず(頭に猫耳状の飾りと首に首輪状の飾りのみ。),大阪市内のマクドナルド店に入店する模様や,原告自身が店員や警察官と対応する様子等を撮影し,これを動画として,「ニコニコ生放送」にライブストリーミング配信した(以下「本件生放送」という。)。原告以外の第三者(特定されていない。)は,本件生放送のうち,原告がマクドナルドに入店する直前から,駆けつけた警察官と共に交番へ赴き,注意を受けるまでの約15分間の部分(以下「本件動画」という。)を,動画共有サイト「ニコニコ動画」にアップロードし(本件生放送又は前記タイムシフト機能によって配信された内容を第三者が録画した上,「ニコニコ動画」にアップロードしたものと推測される。),同サイトへアクセスした者であれば,いつでも視聴し得るようにした。本件動画内での原告などの発言内容は,別紙本件動画内発言記載のとおりである(発言者の明示がないものは原告の発言)。
 被告は,本件動画に着目し,同月9日,本件ウェブサイト内に別紙記事記載の記事(以下「本件記事」という。)を掲載するとともに,「ニコニコ動画」上の本件動画に付されていた引用タグ又はURLを本件ウェブサイトの編集画面に入力して,本件記事の上部にある動画再生ボタンをクリックすると,本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態にし,本件記事の末尾に,「参照元:ニコニコ動画」と記載した。
4 その後の経過
 本件記事の下部には,パソコン等の端末から誰でもコメントを書き込むことができるコメント欄があり,平成23年6月9日から同年8月1日まで,本件動画又は本件記事に対し,本件コメント欄記載の書き込みがあった。
 平成23年6月27日,原告が,被告に対し,本件動画を本件ウェブサイト上で視聴できる状態にしたことは,原告の著作権及び肖像権を侵害するとして抗議したところ,被告は,同日,本件ウェブサイトの編集画面から本件動画に付されていた引用タグ又はURLを削除して,本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できないようにした。

第2 争点(公衆送信権侵害の有無)に関する当事者の主張
1 原告の主張
 被告が,本件ウェブサイトにおいて,本件記事の上部にある動画再生ボタンをクリックすると,本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態にしたことは,「送信可能化」(法2条1項9号の5)に当たり,原告の公衆送信権(法23条1項)を故意又は過失により侵害するものである。
 この点,被告は,本件動画を自身の管理する本件ウェブサイトのサーバに記録したわけではなく,「ニコニコ動画」で公開されていた本件動画にリンクを貼ったに過ぎない旨主張するが,本件動画を本件記事と一体のものとして視聴できる状態とし,これを商用目的で利用していたのであるから,損害賠償責任を免れるものではない。
2 被告の主張
 被告が本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態にしたことは認める。しかし,被告は,「ニコニコ動画」で公開されていた本件動画に付されていた引用タグ又はURLを本件ウェブサイトの編集画面に入力した,すなわち,リンクを貼って本件動画の所在を示したに過ぎない。本件動画そのものは,被告の管理するサーバに記録されたわけではなく,本件ウェブサイトの閲覧者が再生ボタンをクリックした場合も,本件動画のデータは,被告のサーバを経ることなく,「ニコニコ動画」のサーバから,閲覧者の端末へ送信されていた。
 したがって,被告は,本件動画を「公衆送信」しておらず,リンクを貼ったことは「送信可能化」にも当たらない。

第3 判旨
 裁判所は,本件動画が映画の著作物にあたることを認めつつ,以下のように述べて被告による公衆送信権侵害を否定した。
1 被告は本件動画を送信可能化したか
 「原告は,被告において,本件記事の上部にある動画再生ボタンをクリックすると,本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態にしたことが,本件動画の「送信可能化」(法2条1項9号の5)に当たり,公衆送信権侵害による不法行為が成立する旨主張する。
 しかし,前記判断の基礎となる事実記載のとおり,被告は,「ニコニコ動画」にアップロードされていた本件動画の引用タグ又はURLを本件ウェブサイトの編集画面に入力することで,本件動画へのリンクを貼ったにとどまる。
 この場合,本件動画のデータは,本件ウェブサイトのサーバに保存されたわけではなく,本件ウェブサイトの閲覧者が,本件記事の上部にある動画再生ボタンをクリックした場合も,本件ウェブサイトのサーバを経ずに,「ニコニコ動画」のサーバから,直接閲覧者へ送信されたものといえる。
 すなわち,閲覧者の端末上では,リンク元である本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態に置かれていたとはいえ,本件動画のデータを端末に送信する主体はあくまで「ニコニコ動画」の管理者であり,被告がこれを送信していたわけではない。したがって,本件ウェブサイトを運営管理する被告が,本件動画を「自動公衆送信」をした(法2条1項9号の4),あるいはその準備段階の行為である「送信可能化」(法2条1項9号の5)をしたとは認められない。
2 幇助による不法行為の成否
 「原告の主張は,被告の行為が「送信可能化」そのものに当たらないとしても,「ニコニコ動画」にアップロードされていた本件動画にリンクを貼ることで,公衆送信権侵害の幇助による不法行為が成立する旨の主張と見る余地もある。
 しかし,「ニコニコ動画」にアップロードされていた本件動画は,著作権者の明示又は黙示の許諾なしにアップロードされていることが,その内容や体裁上明らかではない著作物であり,少なくとも,このような著作物にリンクを貼ることが直ちに違法になるとは言い難い。そして,被告は,前記判断の基礎となる事実記載のとおり,本件ウェブサイト上で本件動画を視聴可能としたことにつき,原告から抗議を受けた時点,すなわち,「ニコニコ動画」への本件動画のアップロードが著作権者である原告の許諾なしに行われたことを認識し得た時点で直ちに本件動画へのリンクを削除している。
 このような事情に照らせば,被告が本件ウェブサイト上で本件動画へリンクを貼ったことは,原告の著作権を侵害するものとはいえないし,第三者による著作権侵害につき,これを違法に幇助したものでもなく,故意又は過失があったともいえないから,不法行為は成立しない。

第4 若干のコメント
 本件で,被告は,被告が運営するウェブサイト上で,本件動画に「埋め込み」形式でリンクを貼り,見かけ上は被告のサイト上で本件動画が再生されるようにしていました。このような被告の行為について,裁判所は,①本件動画はあくまでリンク先である「ニコニコ動画」のサーバから公衆送信されるものであって,被告が公衆送信の主体であるとはいえない,②被告が原告から抗議を受けた時点で本件動画へのリンクを削除している以上,幇助による不法行為も成立しないとしています。
 上記①については,仮に本件でリンクが貼られたのが動画ではなく,写真であった場合,被告のウェブサイト上で当該写真が複製されていることは否定しがたいように思われます。その意味で,本判決の射程は動画にリンクを貼る行為に限定されるものといえそうです。
 また,上記②については,被告が原告から抗議を受けた後も本件動画へのリンクを削除しなかった場合,著作権侵害責任が生じた余地を残す判示になっていることに注意が必要です。

以上
(文責)弁護士 高瀬 亜富