【平成25年 2月21日(大阪地判 平成20年(ワ)第10819号)

【概要】
本件は,被告が製造販売する複数の製品に関し,原告の保有する特許権の侵害を理由とする差止請求及び損害賠償請求がなされた事案である。本判決は,イ号製品は,同一材料の微粉除去にのみ用いることが可能な構成のものであることから,本件特許発明2の構成要件F「粉粒体の混合及び微粉除去装置」を充足しないとして,直接侵害の成立を否定したが,特許法第101条第2号の間接侵害の成立が問題となった。
ここでは,特許法第101条第2号の汎用性要件に焦点を当てて検討する。

【キーワード】
特許法第101条第2号の間接侵害,多機能型間接侵害,汎用品要件

1.本件特許発明2(特許第3767993号の請求項2)

A   排気口にガス導管を介して吸引空気源を接続した流動ホッパーと,
B-1 該流動ホッパーの出入口と縦方向に連通した縦向き管と,
B-2 この縦向き管に横方向に連通され材料供給源からの材料が供給される横向き管とからなる供給管と,
C   該供給管に接続された一時貯留ホッパーとからなり,
D   前記流動ホッパーの出入口は,前記供給管のみと連通してあり,
E   前記供給管の横向き管における最下面の延長線の近傍位置または該延長線より上方位置に,前記吸引空気源を停止する前に混合された混合済み材料の充填レベルを,該吸引空気源を停止している場合に検出するためのレベル計を設けてなることを特徴とする
F   粉粒体の混合及び微粉除去装置

2.イ号製品の内容

【図1】

3.汎用品要件に関する判旨

「特許法101条2号所定の『日本国内において広く一般に流通しているもの』とは,典型的には,ねじ,釘,電球,トランジスター等のような,日本国内において広く普及している一般的な製品,すなわち,特注品ではなく,他の用途にも用いることができ,市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品を意味するものと解するのが相当である。
 本件では,イ号製品の構成(特に構成e)を備えたホッパーが,日本国内において広く普及している一般的な製品又は市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品であること(及びその裏付けとなる事実)を認めるに足りる主張立証はない。」

4.検討

 特許法第101条第2号の間接侵害の成立には,「日本国内において広く一般に流通しているもの」の要件(汎用品要件)を充足することが必要となる。汎用品要件に関し,知財高判平成17年9月30日〔一太郎事件・控訴審〕は,「『日本国内において広く一般に流通しているもの』とは,典型的には,ねじ,釘,電球,トランジスター等のような,日本国内において広く普及している一般的な製品,すなわち,特注品ではなく,他の用途にも用いることができ,市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品を意味するものと解するのが相当である。」と判示し,汎用品要件の解釈を示すが,「特注品」の意義が明確でないことや,「他の用途」は「規格品」といわれる程の他の用途がないといけないのか,また,「普及品」といえるための普及の程度はどの程度かが明らかでないことから,汎用品要件の規範は必ずしも明確とはいえない。また,一太郎事件・控訴審では,一太郎は,市場での流通量からすると一般入手可能であったことから,「普及品」に該当するものであるが,判決では,特に,被告製品が「普及品」であるかについては何ら触れられず,「控訴人製品は,本件第1,第2発明の構成を有する物の生産にのみ用いる部分を含むものでるから,同号にいう『日本国内において広く一般に流通しているもの』に当たらないというべきである。」と判示しており,製品自体の性質あるいは構成にのみ着目して,汎用品要件の該当性の判断がされており,判決で述べられた,汎用品要件の解釈とは必ずしも整合するものではない。
 そして,本判決では,一太郎事件・控訴審判決と同様の汎用品要件の解釈が示された上で,「イ号製品の構成(特に構成e)を備えたホッパーが,日本国内において広く普及している一般的な製品又は市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品であること(及びその裏付けとなる事実)を認めるに足りる主張立証はない。」として,イ号製品の構成には着目しているものの,市場における普及性・入手可能性を理由に汎用品であることを否定している。本判決の判断は,市場における普及性・入手可能性を理由に汎用品の該当性を否定した点で,一見すると,一太郎事件・控訴審判決と判断枠組みが異なるものとも考えられるが,イ号製品は,イ号製品の構成eは,「横向き管(4B)より上側に,縦向き管(4A)内の樹脂材料のレベルを,該吸引空気源を停止している場合に計測するレベル計(70)が設けられている。」とされているとおり,特異な構成を備えることから(不可欠性の要件の該当性の判断においてこの点が認定されている。),製品自体の性質あるいは構成にのみ着目して,汎用品要件の該当性の判断をすることも可能であったものと思われる。また,特異な構成を備える製品は,結果として,市場における普及性・入手可能性が否定されることから,本判決が,「市場における普及性・入手可能性」を否定した上で,汎用品の該当性を否定することは,その前提となる特異な構成を備える製品であることを理由に汎用品の該当性を否定することと実質的な差異はないものと考えられる。
 したがって,本判決は,汎用品要件の該当性に関し,一太郎事件・控訴審判決と矛盾するものではないと考えられる。

以上
(筆者)弁護士・弁理士 杉尾雄一