平成25年5月17日判決(東京地裁 平成25年(ワ)第1918号)(判例タイムズ1395号319頁)2
【キーワード】
 準拠法、ニコニコ動画、サーバ、著作権
【判旨】
 著作権侵害を理由とする損害賠償請求の法的性質は不法行為であり、法の適用に関する通則法17条により準拠法を決定するべきであるところ、本件(筆者注:ニコニコ動画に第三者の著作権を侵害する動画がアップロードされたという事案)において、同条にいう「加害行為の結果が発生した地」は日本国内であると認められるから、我が国の法律がその準拠法となる。」


1 はじめに
 (1)本判決のポイント
  本判決は、米国法人が著作権を有する格闘技の試合に関する映像(以下、「本件各作品」という。)が、被告によりウェブサイト「ニコニコ動画」に無許諾でアップロードされたという事案において、本件各作品がアップロードされたサーバの所在地を特に認定することなく、日本法を適用して著作権侵害に基づく損害賠償請求の可否を判断した。
  本判決は、インターネット上のサービスで著作権侵害がなされた場合の準拠法を決めるにあたり、サーバ所在地は重視されないことを確認する判決といえる。

 (2)本稿で取り上げる論点とその背景事情 -サーバ所在国と適用される法律の関係-
  日本の著作権法には、著作物の公正な利用を許容するための一般的な権利制限規定(フェア・ユース規定)が存在しない。Aの場合は適法、Bの場合は適法、などとする個別の権利制限規定があるのみである。他方、たとえばアメリカには、著作物の公正な利用(フェア・ユース)について著作権侵害を否定するためのフェア・ユース規定がある。
  このような法制度の違いから、インターネット関連ビジネスに関しては、日本法では違法になる可能性が高いものの、米国法では適法になり得るものが多々ある。たとえば、米ニューヨーク州南地区連邦地方裁判所は、2013年11月14日、公共図書館や大学図書館の蔵書をデジタル化し、インターネットで検索・閲覧可能にしたサービス「Google Books」について、フェア・ユースの範囲内にあるとして著作権侵害を否定する判決を下したが、日本で同様のサービスを提供した場合、著作権侵害となる可能性が高い3
  それでは、日本国内で「Google Books」のようなサービスを提供することにして、そのサービスに用いるサーバをアメリカにおいたらどうなるか。アメリカ法の適用により、著作権侵害が否定されるのであろうか。本稿では、本判決を紹介するとともに、この論点を検討する。

2 事案と判旨
 (1)事案
   本件は、総合格闘技競技である「Ultimate Fighting Championship」の大会及び試合を撮影・編集した本件各作品の著作権を有する原告が、被告は、本件各作品をウェブサイト「ニコニコ動画」にアップロードし、原告の公衆送信権を侵害したと主張し、上記著作権侵害の不法行為により原告が被った損害の一部である1000万円の支払い等を求めた事案である。
   本件では、被告が「ニコニコ動画」に本件各作品をアップロードした場所は争い無い事実として認定されているのに対し、ニコニコ動画のサーバ所在地や主たる受信者層などは認定されていない。
 (2)判旨 -請求認容。準拠法は日本法-
   本判決は、以下のとおり判示し、本件では日本の著作権法が適用されるとし、結論として原告の請求を認容した。
   「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)5条(2)によれば、著作物の保護の範囲は、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによるとされるから、我が国における著作権の有無等については、我が国の著作権法を準拠法として判断すべきである。我が国とアメリカ合衆国(以下「米国」という。)は、ベルヌ条約の同盟国であるところ、本件各作品の著作者は、米国法人である原告であると認められるから(証拠略)、我が国において著作権法による保護を受ける(著作権法6条3号、ベルヌ条約5条(1)、2条(1))。なお、著作権侵害を理由とする損害賠償請求の法的性質は不法行為であり、法の適用に関する通則法17条により準拠法を決定するべきであるところ、本件において、同条にいう「加害行為の結果が発生した地」は日本国内であると認められるから、我が国の法律がその準拠法となる。」

3 考察
 (1)サーバ所在地と準拠法に関する先例 -サーバ所在地のみでは準拠法は決まらない-
   サービスに用いるサーバを外国に置けば日本法の適用を免れるのか。この点を考える際の先例としては、中央サーバを介したP2Pファイル交換サービス提供者の著作権侵害責任の成否が争われた東京高等裁判所平成17年3月31日(平成16年(ネ)第405号)[ファイルローグ著作権控訴審終局判決]がある。
   この事件では、同サービスのために提供されていた中央サーバはカナダに置かれていたものの、裁判所は、①サービス提供者が日本法人であること、②サービスに供されているウェブサイトは日本語で記述されていること等からファイルの送受信の大部分は日本国内で行われていると認められること、③サーバがカナダにあるとしてもサービスの稼働や停止は日本法人が決められることなどを考慮して、日本の著作権法を適用して著作権侵害責任の有無を判断した(結論として、サービス提供者の著作権侵害責任を肯定している)。
   同判決は、インターネット上のサービスを構築するにあたり、サーバを外国におくことにしても、それだけでは日本法の適用を回避できるわけではないことを明らかにしたものといえる 4
 (2)本判決 -受信地を重視して判断?-
   既述のとおり、本判決は、ニコニコ動画に関するサーバの所在地を認定することなく、日本法が適用されるとしたことから、インターネット上で行われる著作権侵害に関する準拠法を決めるにあたり、サーバ所在地(発信地)は決定的な基準にならないことを明らかにするものといえる。
   他方、本判決は、被告により(無許諾で)アップロードされた本件各作品の受信地を認定していない。もっとも、損害額を算定する際、専ら、日本国内のライセンシーが本件各作品を配信していたならば原告が得られたであろう利益を基準としており、主たる受信者層は日本国内の利用者であることを前提にしているとも考え得る 5
   このような理解によれば、本判決は、インターネット上の著作権侵害行為については、発信地ではなく受信地を重視して準拠法を決めるべきとの立場を採用したものとも位置付け得る。
 (3)終わりに -余談-
   本判決や前掲[ファイルローグ著作権控訴審終局判決]から明らかなとおり、サービスに用いるサーバをアメリカにおいたのみでは、アメリカ法の適用を受けることはできない。この場合でも、日本法の適用があるものとしてサービスの適法性を検討しておくべきである。
   ところが、先に述べたとおり、日本には著作物の公正な利用を許容する一般的な権利制限規定がない。日本の著作権法は、個別的に、Aの場合は適法、Bの場合は適法、などとするのみである。そのため、企業家から、「こんなサービスを考えているんですが、法的に大丈夫でしょうか?」などと問われた場合、それがどんなに革新的であり、有益なものであったとしても、「残念ながらそのサービスはAでもBでもないので、日本の著作権法では違法になる可能性が高いです。」などとアドバイスせざるを得ないことが多い。
   このようなときには、いつも、「日本にもフェア・ユース規定があればなぁ」と嘆息してしまう。フェア・ユース規定があれば、「AでもBでもないけれど、この受け皿規定で適法になる可能性も十分にあります。リスクをとってでもやってみる価値はあります。」などといったアドバイスができるようになる。
   日本の著作権法にもフェア・ユース規定が盛り込まれることが望まれる。


1準拠法とは、ある問題を解決する際に適用されることになる法律をいう。
2判例評釈として、佐藤豊「判批」TKCローライブラリー 新・判例解説Watch国際私法No.12がある。
3実際、Googleは、日本では「Google Books」と同様のサービスは提供していない。また、Googleは、アメリカではコンテンツロッカーサービス「Google Play Music」を提供しているが、日本では同サービスの正式な提供は開始されていない。
4田村善之「検索サイトを巡る著作権法上の諸問題(3・完)」知的財産法政策学研究18号(2007年)55頁。
5この点を指摘するものとして、佐藤・前掲注1)3頁。

(文責)弁護士 高瀬亜富