【平成25年2月21日(大阪地判平成20年(ワ)第10819号)裁判所ウェブサイト】

【ポイント】
被告の製造販売する流動ホッパーについて,特許法101条5号に規定する「その発明による課題の解決に不可欠なもの」との要件(以下,「不可欠要件」という。)の該当性が争われた事例において,流動ホッパーである被告製品は,課題解決のために本件特許発明が新たに開示する特徴的技術手段を直接形成するものに当たるというべきであり,本件特許発明による課題の解決に不可欠なものであると認めることができるとし,不可欠要件の該当性を肯定し,間接侵害の成立を認めた例
【キーワード】
間接侵害,技術的範囲の属否,不可欠要件

【事案の概要】
  原告は,微粉除去方法にかかる特許権者である。原告は,被告の製造販売する流動ホッパーが「その発明による課題の解決に不可欠なもの」(特許法101条5号)に当たると主張して,被告に対し,100条1項及び2項に基づき,被告製品の製造・販売等の差止め及び廃棄を請求するとともに,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金として,2億2000万円等の支払を求めた事案である。

 【争点】
  被告の製造販売する流動ホッパーが,不可欠要件(特許法101条5号)に該当するか。

 【結論】
  被告の製造販売する流動ホッパーはいずれも,本件各発明の課題の解決に不可欠なものであるとは認められる。したがって,本件流動ホッパー剤を製造・販売等する行為は,原告の特許権を侵害するものとみなされる(特許法101条5号)。

 【判旨抜粋】
 本判決は,「「発明による課題の解決に不可欠なもの」とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成要素(発明特定事項)とは異なる概念であり,当該発明の構成要素以外の物であっても,物の生産や方法の使用に用いられる道具,原料なども含まれ得る。他方において,特許請求の範囲に記載された発明の構成要素であっても,その発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものは,「発明による課題の解決に不可欠なもの」には当たらない。すなわち,それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決されるような部品,道具,原料等が「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するものというべきである。換言すれば,従来技術の問題点を解決するための方法として,当該発明が新たに開示する,従来技術に見られない特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらす,特徴的な部材,原料,道具等が,これに該当するものと解される。したがって,特許請求の範囲に記載された部材,成分等であっても,課題解決のために当該発明が新たに開示する特徴的技術手段を直接形成するものに当たらないものは,「発明による課題の解決に不可欠なもの」には当たらない。」と述べた上で,明細書の記載から技術分野,従来技術,課題,解決手段,発明の効果を詳細に認定し「これらの記載によれば,従来技術の問題点を解決するための方法として,本件各特許発明が新たに開示する,従来技術に見られない特徴的技術手段は,「流動ホッパーへの材料の輸送は,前回輸送の混合済み材料が流動ホッパーから一時貯留ホッパーへと降下する際に,前記混合済み材料の充填レベルが供給管の横向き管における最下面の延長線の近傍または該延長線よりも下方に降下する前に開始するようにすること」であり,これを実施する具体的な構成(装置)は,「前記供給管の横向き管における最下面の延長線の近傍位置または該延長線より上方位置に,材料の充填レベルを検出するためのレベル計を設け」るというものである。別紙イ号製品目録記載のとおり,イ号製品の構成eは,「横向き管(4B)より上側に,縦向き管(4A)内の樹脂材料のレベルを,該吸引空気源を停止している場合に計測するレベル計(70)が設けられている。」というものである。これは,本件特許発明2に係る上記「従来技術に見られない特徴的技術手段」と同一であるから,イ号製品は課題解決のために本件特許発明2が新たに開示する特徴的技術手段を直接形成するものに当たるというべきである。したがって,イ号製品は,本件特許発明2による課題の解決に不可欠なものであると認めることができる。」と判示し,間接侵害の成立を認めた。

 【解説】
  特許法101条5号では「その発明による課題の解決に不可欠なもの」(不可欠要件)であることを要件する。不可欠要件については,東京地判平成16・4・23判例時報1892号89頁[プリント基板用治具に用いるクリップ]の示した基準が,裁判例では繰り返し採用されており,学説上も多くの支持を集めており多数説といえる。つまり,前掲[プリント基板用治具に用いるクリップ]は,「それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決されるような部品,道具,原料等が「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するというべきである。これを言い換えれば,従来技術の問題点を解決するための方法として,当該発明が新たに開示する,従来技術に見られない特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらす特徴的な部材,原料,道具等が,これに該当すると解するのが相当である。したがって,特許請求の範囲に記載された部材,成分等であっても,課題解決のために当該発明が新たに開示する特徴的技術手段を直接形成するものに当たらないものは,「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するものではない。」との基準を判示した。
  しかし,上記基準に対しては,知財高判平成17・9・30判時1904号47頁[一太郎(2審)]大合議判決が,上記基準とは異なる条件関係説を採用したと評価されている。
 このような裁判例の状況の中で,本件は,「「発明による課題の解決に不可欠なもの」とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成要素(発明特定事項)とは異なる概念であり,当該発明の構成要素以外の物であっても,物の生産や方法の使用に用いられる道具,原料なども含まれ得る。他方において,特許請求の範囲に記載された発明の構成要素であっても,その発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものは,「発明による課題の解決に不可欠なもの」には当たらない。すなわち,それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決されるような部品,道具,原料等が「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するものというべきである。換言すれば,従来技術の問題点を解決するための方法として,当該発明が新たに開示する,従来技術に見られない特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらす,特徴的な部材,原料,道具等が,これに該当するものと解される。したがって,特許請求の範囲に記載された部材,成分等であっても,課題解決のために当該発明が新たに開示する特徴的技術手段を直接形成するものに当たらないものは,「発明による課題の解決に不可欠なもの」には当たらない。」と説示した上で,不可欠要件の該当性を肯定した。つまり,条件関係説を採用せず,前掲[プリント基板用治具に用いるクリップ]に沿った判断をなしたものと評価できる。
 本件は,上記のように裁判例に2つの流れが存在する中で,多数説を採用した点に意義を有するものである。不可欠要件については,多数的見解を採用する裁判例が多いものの,前掲[一太郎(2審)]は大合議判決であり,かつ一部これに続く下級審判例も存在することから,今後の裁判例の動向に注意を払う必要があろう。

以上

 (文責)弁護士 高橋正憲

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